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聖女誕生
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「どうも慣れないわねー」
翌日。
指定された時間に屋敷まえに迎えに来た馬車に乗り、シェリルは王都の中心部にある女神フィオナの神殿へと送り届けられた。案内されるがままに衣裳部屋に行き、他の二人の侍女約の令嬢たちと数度のリハーサルを行う。
「こんなぶっつけ本番でいいいのかしら?」
そう心配そうに言うシェリルに、他の二人も不安の声を漏らしていた。
「もし、何か粗相があれば家に迷惑をかけると思うと不安で不安で」
まあ、そうだよね。
わたしには関係ないけど。
心ではそう言いながら、
「そうですわよね、わたくしなど昨夜遅くに。
男爵閣下からの栄誉あるお召しの声をいただきまして」
などと外面だけはよくしておくシェリルだった。
不安だの、心配だの、家柄だの。
そんなことよりも、女神は本当に王女を認定するのか。
誰もそこに不安を抱いていないのが、シェリルには気になった。
「あの皆様方。
わたくし不勉強なものですから。
この聖女様の認定とは、そのーー数十年に一度ほどで行われるのですか?」
そんなことを聞いてみた。
二人の侍女役の令嬢は面白そうに笑い、
「いいえ、シェリル様。
このような認定はここ百年ほどありませんでしたわ」
「そうですよ、シェリル様。
聖女様は魔王がよみがえるたびに、選ばれるのです」
はあ、魔王ですか?
うちには妖魔がたむろして、家族ぐるみでもう二世代以上の付き合いですけど。
魔王様はもう疲れたから、あと数世紀は魔界から出たくない。
なんてぼやいてるって聞いてるんですけど!!?
なんか怪しいなあ、この儀式。
誰が得をするんだろう? 嫌な予感しかしない。
「終わったら、先に父上様が行っているリグウッドの森。
妖精界に逃げよう」
この時は、そう心にかたく誓っていた。
王女ミレイアは真紅の聖女の異名の通り、真っ赤な髪に緑の瞳。
聖女に望まれるだけあって、その美しさは見た者の視線を釘付けにする。
男性ならば、一度みればその虜になるだろう。
優雅であり、美麗であり、知性のある。
そんな雰囲気を漂わせていた。
ただ一つ。この王国の人間は黒髪に黒い目、白い肌が一般的だ。
三人の侍女役の令嬢のうち、二人まではそうだった。
しかし、シェリルは緑の髪に、紅い瞳だ。
王女ミレイアは彼女を見た瞬間に、一瞬だけ浮かべた瞳の色。
それは、侮蔑、軽蔑、異端者を見る目つき。
シェリルはうまれてこのかた、その視線には慣れていたから、ああ、なるほどね。
そう思わざるを得なかった。
所詮、聖女も人の子かと。
参列した人間たちのうち、最前列にあの男爵閣下とそれに続いて内政、外交を行う文官。
武官に、国内外の来賓たちがずらりと並び。
一際目立つ、青く染め抜いた軍服に身を包んだ将校が、この国の王族の隣にいる。
ああ、あれが例の帝国の皇太子か。
シェリルは儀式の終盤、王女が階段を上がり、女神が降臨する祭壇に行く間に彼を盗み見た。
「金髪碧眼。
ふうん、そこそこいい男。
土地も変われば外観も変わるのね」
あのたまご男爵の後ろに立つ騎士にも視線がいく。
二人はあまり変わらない身長だったからだ。
こちらは銀髪にシェリルはと同じ紅い瞳。
「エルフの血でも混じってる?
まあ、いいか。
さて、うちの大地母神アミュエラ様と仲の悪い女神フィオナ様。
どんなものか見せて貰おうじゃない」
翌日。
指定された時間に屋敷まえに迎えに来た馬車に乗り、シェリルは王都の中心部にある女神フィオナの神殿へと送り届けられた。案内されるがままに衣裳部屋に行き、他の二人の侍女約の令嬢たちと数度のリハーサルを行う。
「こんなぶっつけ本番でいいいのかしら?」
そう心配そうに言うシェリルに、他の二人も不安の声を漏らしていた。
「もし、何か粗相があれば家に迷惑をかけると思うと不安で不安で」
まあ、そうだよね。
わたしには関係ないけど。
心ではそう言いながら、
「そうですわよね、わたくしなど昨夜遅くに。
男爵閣下からの栄誉あるお召しの声をいただきまして」
などと外面だけはよくしておくシェリルだった。
不安だの、心配だの、家柄だの。
そんなことよりも、女神は本当に王女を認定するのか。
誰もそこに不安を抱いていないのが、シェリルには気になった。
「あの皆様方。
わたくし不勉強なものですから。
この聖女様の認定とは、そのーー数十年に一度ほどで行われるのですか?」
そんなことを聞いてみた。
二人の侍女役の令嬢は面白そうに笑い、
「いいえ、シェリル様。
このような認定はここ百年ほどありませんでしたわ」
「そうですよ、シェリル様。
聖女様は魔王がよみがえるたびに、選ばれるのです」
はあ、魔王ですか?
うちには妖魔がたむろして、家族ぐるみでもう二世代以上の付き合いですけど。
魔王様はもう疲れたから、あと数世紀は魔界から出たくない。
なんてぼやいてるって聞いてるんですけど!!?
なんか怪しいなあ、この儀式。
誰が得をするんだろう? 嫌な予感しかしない。
「終わったら、先に父上様が行っているリグウッドの森。
妖精界に逃げよう」
この時は、そう心にかたく誓っていた。
王女ミレイアは真紅の聖女の異名の通り、真っ赤な髪に緑の瞳。
聖女に望まれるだけあって、その美しさは見た者の視線を釘付けにする。
男性ならば、一度みればその虜になるだろう。
優雅であり、美麗であり、知性のある。
そんな雰囲気を漂わせていた。
ただ一つ。この王国の人間は黒髪に黒い目、白い肌が一般的だ。
三人の侍女役の令嬢のうち、二人まではそうだった。
しかし、シェリルは緑の髪に、紅い瞳だ。
王女ミレイアは彼女を見た瞬間に、一瞬だけ浮かべた瞳の色。
それは、侮蔑、軽蔑、異端者を見る目つき。
シェリルはうまれてこのかた、その視線には慣れていたから、ああ、なるほどね。
そう思わざるを得なかった。
所詮、聖女も人の子かと。
参列した人間たちのうち、最前列にあの男爵閣下とそれに続いて内政、外交を行う文官。
武官に、国内外の来賓たちがずらりと並び。
一際目立つ、青く染め抜いた軍服に身を包んだ将校が、この国の王族の隣にいる。
ああ、あれが例の帝国の皇太子か。
シェリルは儀式の終盤、王女が階段を上がり、女神が降臨する祭壇に行く間に彼を盗み見た。
「金髪碧眼。
ふうん、そこそこいい男。
土地も変われば外観も変わるのね」
あのたまご男爵の後ろに立つ騎士にも視線がいく。
二人はあまり変わらない身長だったからだ。
こちらは銀髪にシェリルはと同じ紅い瞳。
「エルフの血でも混じってる?
まあ、いいか。
さて、うちの大地母神アミュエラ様と仲の悪い女神フィオナ様。
どんなものか見せて貰おうじゃない」
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