放逐された間違われ聖女は世界平和に貢献する

星ふくろう

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聖女誕生

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 女神の降臨というものはなかなかに賑やかなものらしい。
 シェリルはもっと厳かな、慎み深いものだと思っていた。
 さて、この女神フィオナ様は何の神様だったかな?
   大枠は月の女神様。
 ということは、神獣に狼を従えて狩りと知性?
 そうなると狩人だから、戦いの女神にもなるんだろうか?
 勇者を選ぶのは誰がするのだろう?
 魔王を討伐するのは勇者の役目と相場は決まっている。
 あれ?
 でも、英雄なんてのもいるよね。
 神話には勇者じゃない王様なんかが魔王討伐を果たして英雄と呼ばれた。
 そんな伝説もある。
 神剣も聖剣も出てくるなあ。
 めんどくさい、どうでもいいや。
 この神殿には騎士団だの近衛騎士だの、海軍や陸軍。
 その他にも魔導士に賢者、精霊使いに吟遊詩人。
 各国の偉いさんもたくさんいる。 
 侍女の視線で見ることを許される範囲で、色男を見ておこう。
 こんな光景、そうそう見れるものじゃないんだから。
 シェリルはそう思い、王女がゆったりゆったりと勿体ぶって階段を上がるのをみていらいらしていた。
 二時間で済みますから、なんて言われた時間はとうのむかしに過ぎ去っている。
 来賓の方々も座りたいだろうな。
 そう思いだした頃だ、ようやく、王女がが祭壇に辿り着いた。
 女神が自身で鳴らしているのか、それとも天使なんかが奏でているのかはわからないけれど。
 聞くだけで心の闇が晴れていく、そんな音楽に合わせて王女が舞いを舞う。
「あれ?
 こんな流れ合ったかな?」
 どうも打ち合わせと違ってない?
 他の二人に目をやると、二人もこれからどうすればいいか迷っているように見えた。
 あのたまご男爵はと言うと、これも女神の思し召しと思っているらしい。
 しかし、すでに四時間以上たちっぱなしなのはどうにかならないものか?
 そろそろ、来賓の御老人方が倒れてくれたら終わるのになー。
 そんなことをシェリルが考えていた時だ。神殿内にどよめきが起こった。
 祭壇の中途半端な空間にいきなり穴が開いた。まばゆいばかりの月光が差し込み神殿内を照らした。
 薄暗さに目が慣れてた観衆が片手で目を覆った時。
 そこに、ほぼ数世紀は前だろ、その衣装。
 そう突っ込みたくなるような女神が祭壇に降臨していた。
 王女ミレイアは踊ることをやめ、うやうやしくその場に膝をつく。
 神殿内にいたすべての存在が、女神の前に伏せていた。
 女神がその頭にかぶる宝冠を授けられた者が、次なる聖女になる。
 神殿内にいた衆目の視線が、女神の一挙手一投足に注がれていた。
 空間を泳ぐようにして王女ミレイアの前に女神は降り立ち、その祭壇より下にいる緑色の髪の侍女に視線をやる。
 王女にご苦労でした、そう一声かけた女神はゆっくりと階段を降り始めた。
 これはなんだ?
 王女に聖女の証を渡すのではないのか!?
 女神フィオナは先にここに集まった群衆にねぎらいの言葉をかけるのではないのか?
 誰もがその予測を成し得なかった時。
 女神は、シェリルの眼前で足を止めた。
 
 --何?
   私の神は大地母神なんだけど!?
   何で女神フィオナ様が来るわけ!?
   まさか‥‥‥月の女神は冥府への魂の送り神。
   殺される?

 シェリルのそんな思いとは裏腹に、女神は宝冠をはずすと床に伏せるシェリルの頭上にそれをかざした。
「汝を新たな聖女と認めます。
 わたくし、月の女神フィオナと大地母神アミュエラの代理として。
 アンダーソン侯爵家第一令嬢シェリル。
 いまより、聖女となり魔王を討ちなさい」

 その一言を言い終えると、唖然とする王女ミレイアに女神フィオナは向き直る。
「そこな王女。
 わたくしをこの地上に降臨させる儀式の任、大儀であった。
 これよりはこの聖女シェリルに尽くすように。
 みなも良いな?」
 神殿にいたすべての参列者は己の意思に関係なくそれに従ってしまう。
 一種の集団催眠のようなものがそこで行われていた。
 ただ二人。
 それだけを告げて消え去った女神フィオナに認められなかった王女はシェリルに憎しみの視線を向けた。
 そして、気づく。
「聖女はどこに消えた!?」
 誰もが女神に視線をやっていたから、シェリルに向いていた視線は少なかった。
 宝冠を授けられた瞬間。
「冗談じゃないわよ!!!
 こんな役割できるわけないでしょ!?」
 シェリルは宝冠を受け取る仕草をしたのちーー
 女神が消え去るのを確認するとそれをその場に放り出して、神殿を脱兎のごとく逃げ出していた。

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