放逐された間違われ聖女は世界平和に貢献する

星ふくろう

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二人の聖女

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「あ‥‥‥」
 祭壇の上から全速力で神殿入り口に遁走するシェリルの姿がミレイアの目に入る。
 その場に居合わせた各国からの来賓や国内の貴族・関係者たちはみんな女神の威厳に伏せていたからたいした障害にもならない。
 シェリルは祖父譲りの運動神経と、人間を越えた感覚と能力を持つエルフの血を生かして全速力でその脇を駆け抜けていた。
「ちょっ!?
 あなた、ちょっと!!!
 そこの衛兵!!!
 その侍女を止めなさいーーーー!!!」
 王女が叫んでもあとの祭りだ。
 たった十数秒で、王女にとってはたいして気にもとめていなかった。
 そんな正体不明の聖女に選ばれた侍女が姿をくらましたのだから。
「なによそれ‥‥‥。
 聖女になるのはわたしではなかったの???」
 王女ミレイアはへなへなと力尽きてその場にへたりこんでしまう。
 何よりも、宝冠を投げ捨てて逃げ出す不名誉な貴族がいるなんてーー

 宝冠?

 ふと、ミレイアは気づいた。
 宝冠は‥‥‥そこにある、と。
 観衆の目は逃げ去った侍女に向けられている。
 もし、あれを手にすることが出来れば?
 いやいや、そんな邪念を持つのは良くない。
 宝冠を正当なる継承者に手渡すまで、自分がその代理人に。
 聖女を補佐せよ、そう女神もいわれたではないか。
 ならば、自分がその宝冠を大事に管理するのは当然の行為だ。
 
 もし、それを後程。
 誰も見ていない場所でこの頭上に掲げたとしても。

 もし、それが可能ならば。
 宝冠を掲げ、その力に拒否されなければ。

「わたしは聖女になれる‥‥‥」
 王女はゆっくりと階段を降りていく。
 二人の侍女がどうしていいか訳が分からないまま伏せているその後ろにあるモノを目指して。
 あと数歩、それが自分の手に入る。
 あと少しでーー

 その時だ。
「お待ちをーー王女様。
 それに触れてはなりませぬ」
 低く威厳のある声が神殿内に響いた。
 誰?
 わたしの栄光を、輝く未来を止めようとする不埒者は?
 ミレイアはその真っ赤な髪を振り払うようにして後方を振り返った。
 そこにいたのは壮年の男性。
 この女神フィオナの月の神殿の管理者。
 大神官。
 その人だった。
「あ‥‥‥あなたは、この。
 女神様より、聖女様を補佐するように言い使ったミレイアに指図をするのですか?
 王族たる、このわたしに?」
 このような場で権威や家柄を持ちだすとは‥‥‥
 大神官はやれやれと首をふった。
 彼は祭壇の奥で控えていたが、階段まで歩み出るとそこから王女を見下ろしている。
「不遜ではありませんか、大神官様。
 王族よりも上位に立たれるとは」
 ミレイアが嘲笑するように言い放つ。
 しかし、この言葉は来賓席からの失笑をかった。
「王女様。
 殿下とお呼びしてもよろしいが、あなた様は王位継承権を持てません。
 理由はご存知かな?」
 これには帝国側の来賓席からどよめきの声が上がった。
 誰もが王女=王位継承権の候補者の一人であると思っていたからだ。
「な、なにを愚かなことを!?
 わたしはこのグレイシア王国の国王の正妃の娘。
 第一王女であれば‥‥‥その権利はありませんが」
 王室内の恥をばら撒きたくないのだろう。
 ミレイアの声が小さくか細くなった。


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