放逐された間違われ聖女は世界平和に貢献する

星ふくろう

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放逐された聖女

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 なんともなあ‥‥‥
 どうする?
 古着屋でそれなりにこの土地に似合った衣装に着替えた二人は、ついでに売り払った衣類のおかげで数か月はこの地方で暮らせるだけの対価を得た。
「どうすよ、姫さん?」
 クロウが気が抜けた顔をする。
「クロウ様、ミレイア、と。
 そう呼んでください。
 もうここからは姫などとつけるだけでも異様に思われてしまいます」
 ふん、それもそうか。
「なら、ミレイア。
 あんたもおいらを、クロウって呼んでくんなきゃなあ」
「それはーー嫌です」
 真紅の髪を可愛らしい青の髪飾りでまとめた王女はそっぽを向く。
「なんでいやなんでぇ?」
「クロウ様には、様をつけないと。
 わたしだけの騎士様なのですから‥‥‥」
 照れていうことかそれ?
 まあ、いいけどな。
 クロウは騎士なんて大したもんじゃないんだがなあ、おいらは。
 そうぼやいてしまう。
「なぜですか?
 侯爵様なら騎士以上では?」
「ふん、まあ爵位で言うならな?
 だが、おいらはそのなあ。
 今回は国を代表してきたが。相方もまだ来ねえし、ハイフに戻れば‥‥‥」
「戻れば?」
「家柄がよくて格式が古いだけさ。
 王様の剣術指南役なんてのはやってるがー」
「歯切れが悪い言い方をなさいますのね?」
 あまり、まともな生き方はしてねえんだ、実は。
 そう、彼は言う。
「貧乏貴族だとなあ、いろいろと小遣い稼ぎをしたりだな。
 剣の腕だけは国でも三本の腕だろうけどな。
 悪い顔でも、国で五本には入るわなあ‥‥‥」
「悪い顔?
 犯罪者なのですか、クロウ様は?」
 それを言われると答えにくい。
 クロウは左頬の刀傷を歪めて困った顔をする。
「あそこにさー」
 彼が指差すのは、あの古着屋の店主が言っていた歓楽街だ。
「あるだろ?
 ああ言うとこのな。
 女を買ったり、酒を飲んだりな。
 まあ、やくざまがいなことの元締めだよ。
 それの王都の元締めをしてるのさ。他にも盗賊ギルドの頭目とか、な。
 綺麗な身体じゃあ、ねぇんだよなあ」
 軽蔑するか?
 自分の胸程の背丈しかない王女はまるで見知らぬ世界に生きる人間を見るような目でクロウを見上げていた。
「それで、泣いている人がいれば軽蔑いたしますが。
 いまはミレイアはそうな思えません。
 助けて頂いた感謝もありますが‥‥‥。
 王女ではない、そう言われた時の心境はまるで周り全てに騙されていた感じでした」
「それは・・・・・・辛かったな。
 あれは、あそこで言うべきじゃねえよ。
 資格がないなら、最初からそう言えばいいだけの話だ。
 それを持ちあげ、要ら無くなりゃ放りだす。
 あの騎士にしてもそうだ。聖騎士か?
 あっさりと殺そうとしやがった、あの、転送された部屋は血の匂いしかしなかった。
 神殿じゃねえよ、ありゃ。
 処刑場だ‥‥‥ああ、すまねえな。
 悪く言うつもりはなかったんだが」
 いえ、とミレイアは首を振る。
「そんなに血の匂いがしてましたか?」
 あの部屋は?
 月の女神の神殿なのに。
 その聖女に選ばれた身としてはそう言われれば悲しくなっても当然だ。
 怒り出さない方が珍しいかもしれない。
「でも、黒い噂はずっとありましたから‥‥‥。
 それはそうなのかもしれません。
 大地母神を信じる者たちを殺して来たと、そう噂はありました」
 ふうん、どこの国もそうなのかねえ?
 クロウはさて、相方が来ないな。
 そうぼやいていた。
「相方?」
「ああ、同じハイフから来た文官がな?
 剣だけならおいらと変わらないほど強い。
 来ない気かもしれんがね」
「文官なのに、剣術指南役のクロウ様と同じほどにお強いのですか!?」
 クロウはあれともう一人いる。
 そう答える。
「調べ物で残ってるのかもな。
 あの国にはいろいろと裏もある。
 それを、な」
 裏の顔‥‥‥思いつく名前はーー
「ダル・エール‥‥‥」
 その名を聞いてクロウはかたまる。
「何か?」
「その名をここでも聞くとはなあ。
 おいらたちのハイフでもいたのさ、それがな。
 まあ、元は同じだろ」
「つまり今回の来訪はーー」
「裏組織潰し。
 まあ、そんなとこもある。
 で、ミレイアは支援は来ねぇのか?
 聖女、一人で魔族討伐もあるめぇよ?」
 勇者がー‥‥‥そう、ミレイアは言おうとした時だ。
 盛大な爆音と業火が二人がやってきた辺りの街角から挙がった。
「なんだ?
 あんなとこで上がるようなもんでもないだろ、あの魔法は‥‥‥」
 誰かドジな魔法使いが間違いでも起こしたか?
 クロウがそう言った時だ。
「いいえ、多分ーーわたしを支援にきた勇者たちです。
 ただしー‥‥‥」
「あいつらはここの状況を知らない、か」
「はい、クロウ様」
 なら、のんびりはしてらんねえな。
 ミレイアを抱き上げると、クロウは大地を蹴った。

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