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放逐された聖女
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クロウがその現場を見ようと、ミレイアを抱き上げて建物の上階。
数回建ての建物の屋上から見降ろした時。
その場はー‥‥‥まともではなかった。
何かの爆薬の倉庫でも爆散したかのような深い穴が空き、その周囲には燃えつくされて消し炭となった家屋や建材、路面の舗装されたレンガは溶け、そしてーー
「ムゴイもんだな、おい」
クロウの一言がすべてを言い表していた。
ミレイア王女を追いかけてきたという勇者一行。
その行ったことはーー虐殺。
いや、殲滅戦。
敵を一人残らず消してしまうような、圧倒的な火力と暴力がその場を支配し、終焉を迎えたのだろう。
人間や亜人が燃え尽きると、こんなにも黒く、嫌な臭いをさせて残るものなのか。
その路面に黒く残っている人型は、どれほどの熱量で焼かれたのだろう。
陰だけを残して彼らはこの世から去っていったに違いない。
「せめて、一思いに死んでくれれば良かったんだが。
まだ救いがあったなーー」
見て取れるのは瞬時に終わった惨劇ではないということ。
「誰もが‥‥‥苦悶の顔をーー
なぜ、このようなことをーー‥‥‥」
見るのかい?
心に残る傷がつくぜ?
そうクロウはミレイアの視界を袖口で遮ろうとするが、聖女となった身ではそれも逃れるわけにはいかない。
「いいえ、クロウ様。
あれはわたしの従者です。
供の者の躾がなっていないのは、主の不徳‥‥‥」
せめて、迷えることなくあの世へと行けるように。
心からそう思い、願いを捧げるその姿は、
「いい顔してんな、姫さん。
聖女らしくなってきた」
そうクロウに呟かせるほどに、神聖さを身にまとっていた。
多くの使者の鎮魂と葬礼が行われた時、勇者一行もミレイアに気づいたらしい。
六人組の彼らは、黒髪の勇者だろう若者を筆頭にのっしのっしと自信満々に近付いてきた。
いや、虐殺の限りを尽くした穴の縁を伝い、こちらに歩いてきた。
その合間に、逃げ出そうとする誰かがいれば弓矢を持ったエルフの娘がそれを狙い、矢が数本放たれる。
「くそったれが!!
主の許可なく殺すバカがどこにいるんでぇ!!!」
クロウはそれを見て叫び、その場から彼は自身の持つ力を行使する。
「静謐の風の牙、いけ!!」
その言葉に従うかのように、風の研がれた刃が、時空を巻き戻して矢を切断する。
「なんだと!?
放たれた矢がまるでー‥‥‥戻り止まるようにして切断されるとは!?」
その弓矢の主のエルフの娘が驚嘆の声を上げた。
それは同時にミレイアにも驚きを与える。
矢を切断するだけでなく‥‥‥時間すら巻き戻して行うとは。
「クロウ様、あなた様は一体‥‥‥!?」
別に大したことじゃねえよ。
クロウは勇者一行を睥睨し、そしてミレイアに問う。
「時間の風を操っただけだ。
なあ、姫さん。
いや、聖女ミレイア様。
お伺いするぜ?
あれの始末、どうつけるんでぇ???」
あれとは、つまり。
勇者一行の行った蛮行のことだ。
「下に連れて行って頂けますか、クロウ」
ああ、その呼び方でいいんだよ。
おいらは助っ人だからな。
そう言い、時空の風使いは姫を抱き上げて地上に降りた。
数回建ての建物の屋上から見降ろした時。
その場はー‥‥‥まともではなかった。
何かの爆薬の倉庫でも爆散したかのような深い穴が空き、その周囲には燃えつくされて消し炭となった家屋や建材、路面の舗装されたレンガは溶け、そしてーー
「ムゴイもんだな、おい」
クロウの一言がすべてを言い表していた。
ミレイア王女を追いかけてきたという勇者一行。
その行ったことはーー虐殺。
いや、殲滅戦。
敵を一人残らず消してしまうような、圧倒的な火力と暴力がその場を支配し、終焉を迎えたのだろう。
人間や亜人が燃え尽きると、こんなにも黒く、嫌な臭いをさせて残るものなのか。
その路面に黒く残っている人型は、どれほどの熱量で焼かれたのだろう。
陰だけを残して彼らはこの世から去っていったに違いない。
「せめて、一思いに死んでくれれば良かったんだが。
まだ救いがあったなーー」
見て取れるのは瞬時に終わった惨劇ではないということ。
「誰もが‥‥‥苦悶の顔をーー
なぜ、このようなことをーー‥‥‥」
見るのかい?
心に残る傷がつくぜ?
そうクロウはミレイアの視界を袖口で遮ろうとするが、聖女となった身ではそれも逃れるわけにはいかない。
「いいえ、クロウ様。
あれはわたしの従者です。
供の者の躾がなっていないのは、主の不徳‥‥‥」
せめて、迷えることなくあの世へと行けるように。
心からそう思い、願いを捧げるその姿は、
「いい顔してんな、姫さん。
聖女らしくなってきた」
そうクロウに呟かせるほどに、神聖さを身にまとっていた。
多くの使者の鎮魂と葬礼が行われた時、勇者一行もミレイアに気づいたらしい。
六人組の彼らは、黒髪の勇者だろう若者を筆頭にのっしのっしと自信満々に近付いてきた。
いや、虐殺の限りを尽くした穴の縁を伝い、こちらに歩いてきた。
その合間に、逃げ出そうとする誰かがいれば弓矢を持ったエルフの娘がそれを狙い、矢が数本放たれる。
「くそったれが!!
主の許可なく殺すバカがどこにいるんでぇ!!!」
クロウはそれを見て叫び、その場から彼は自身の持つ力を行使する。
「静謐の風の牙、いけ!!」
その言葉に従うかのように、風の研がれた刃が、時空を巻き戻して矢を切断する。
「なんだと!?
放たれた矢がまるでー‥‥‥戻り止まるようにして切断されるとは!?」
その弓矢の主のエルフの娘が驚嘆の声を上げた。
それは同時にミレイアにも驚きを与える。
矢を切断するだけでなく‥‥‥時間すら巻き戻して行うとは。
「クロウ様、あなた様は一体‥‥‥!?」
別に大したことじゃねえよ。
クロウは勇者一行を睥睨し、そしてミレイアに問う。
「時間の風を操っただけだ。
なあ、姫さん。
いや、聖女ミレイア様。
お伺いするぜ?
あれの始末、どうつけるんでぇ???」
あれとは、つまり。
勇者一行の行った蛮行のことだ。
「下に連れて行って頂けますか、クロウ」
ああ、その呼び方でいいんだよ。
おいらは助っ人だからな。
そう言い、時空の風使いは姫を抱き上げて地上に降りた。
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