放逐された間違われ聖女は世界平和に貢献する

星ふくろう

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放逐された聖女

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 ミレイアを軽々と抱き上げてクロウは音もなく地上に舞い降りる。
 その身軽さに、勇者一行の数名はほう、などの声で彼を迎えた。
 その実力を片鱗にでも見て取れるだけの資質が、かれらにもあった。 
 そういうことだろう。
 聖女の身に心を戻したミレイアは、故郷から自身を追ってやって来た勇者一行の主に声高に詰問する。
「我はミレイア。
 月の女神の聖女と選ばれし者。
 誰がこのような蛮行に及べと命じたか!!!??」
 いい聖女っぷりだ。
 隣でクロウは先程まで自分に泣き言を言っていたのが嘘のようだ。
 そう彼女を見て思った。
 主であるはずの聖女の目のまえまで、勇者一行は歩みを進めると、たぶんこの黒髪の男がその主だろう。
 そうクロウが目星をつけた若いまだ少年といってもいい男性が口を開いた。
「これは聖女様。
 放逐された犯罪者についていけとグレイシア国、国王様より命じられた我等の労をねぎらう程度のお言葉は欲しいものですな」
 ニヤけた面をした彼は他の仲間を見て、なあそう思うだろう?
 などと同意を求める仕草をする。
 家臣の取るべき態度じゃねえな‥‥‥、クロウは己の契約する精霊にミレイアの周囲に薄く防壁を張り巡らせるように、心で命じた。
「風を‥‥‥?」
 先程のエルフの娘がそんな呟きをする。
 分かるやつもいるのか、めんどくせえなぁ。
 クロウはその呟きを無視する素振りを見せたが、エルフやその他の者は興味を示したようだった。
「蛮行と言われますが、これはれっきとした聖戦。
 国王様からの、月の女神様からも裁可を頂いております」
 勇者は、聖女の許可など要りませんよ。
 そんなことを言いたげにしていた。
「女神様の御裁可など、お前に下るはずがないでしょう‥‥‥勇者と名乗るのもおこがましい!!!
 ‥‥‥グレイス。
 あなたはいつから殺人鬼になったのですか!?」
 グレイス、それが勇者の名か。
 女みてぇな名前だな?
 クロウはそう思った。
「殺人鬼?
 そうは言われますが、この転送された場より向こう側は魔族の地。 
 魔王討伐のためにいかなる魔族であろうとも滅すること。
 それは月の女神フィオナ様の神託ではないですか。
 我等はそれに従ったまで。
 このように、盾の騎士、弓のエルフ、魔法使い、女賢者、バトルシスターまで揃えて駆け付けて参った次第。
 それをそのように言われるとは‥‥‥やはり、大神官様の命を無視して宝冠を被ったことといい。
 悪魔に心を奪われましたかな?」
 大した言い様だ。
 まるで、自分たちは被害者だ、そう言い張るつもりか。
 これだけの虐殺をしておいて。
 ミレイアは真紅の髪をかき上げて悩まし気に頭を振る。
「いいですか、グレイス。
 ここはアルタイル公国の都市の一つ、レグルです。
 もう……魔族などここ二世紀ほどいないと、先行したわたしとこのハイフ国のアルドフェーゼン侯爵閣下と共に確認をしております。
 これはーー公国と我が王国の国際問題に発展しかねない事案だと。 
 あなたにはまだ分からないのですか!!?」
 やれやれ、これだから聖女様は‥‥‥勇者グレイスは面白そうに肩をすくめる。
「いるではありませんか、そこかしこに。
 亜人もオークもゴブリンも。
 あれが魔族でなくてなんなのですか?」
 ミレイアはたまらず叫んでいた。
「この痴れ者が!!!
 彼らがお前たちに何か牙をむいたか!?
 武器を突き付けたか!!??
 女神の神託とてすべてが許されると思うのはどの愚か者だ!!!」
 いいぜ、姫さん。
 こっから先は、殺し合いかな?
 おいらの出番だ。
 クロウはミレイアを守るようにそっと歩を進めた。

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