華の剣士

小夜時雨

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暗躍する者嫌う者

気配り

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「これからしばらく、あなたがここに戻るまで、私はあの子たちが何もしないように食堂にできるだけいるようにするわ。あた、湯殿も夜の戌時21時までお湯を抜かないように徹底させる。」

  もともとの規則で、湯殿は戌時までお湯を抜かないこととなっていた。しかし大抵の女官はそれまでに終えてしまうので、ハヨン以外には支障がなかったのだ。

「ありがとうございます。助かります。」
「…あと、あなたなぜこんなことが起きているかわかる?」
「多分私がリョンヘ様の専属護衛となったことで不興を買ったのだとは思うのですが、そもそも私は兵士の身です。妃になることはありません。ですので見当違いなのでは…とは思うのですが…。」
「あの子達は王族の方達に認めてもらえるように必死なのよ。それぞれ考えが全く違うから受け入れ難いのだと思うわ。」

私も全然そんなのに興味なかったから、最初は変人扱いされたわ、と彼女は付け加える。

「でもね、今回の件で、あなたはこの場にいる下女の誰よりも王族に近い距離にいる女になったのよ。そりゃあ部屋の掃除やお食事を運ぶ女官もいるわよ?でもあなたはずっと側に立って警護する。彼女達の何倍もの長い時間を殿下とともにするもの。彼女たちはしてやられた、と思ったでしょうね。」

私は妃になることなど小指ほども考えていないのに、女は難しい。と自分のことは棚にあげて考えるハヨンだった。




「へぇ!じゃあハヨンは今のところ、後宮のある女官に助けて貰ってるんだな?」
「そういうとこ。」

  剣をあらゆる型の通りに振るいながら、息も乱さずハヨンは返事した。竪琴を抱えながら木の枝に腰かけているリョンは、その返事を聞いて、地上に飛び降りた。武道でも身につけているのかとでも思うような軽い身のこなしで、着地したときに音も立てない。

「それを聞いて安心した。俺が宴に呼ばれた時も、後宮でも下女が結構あんたのことを話してるし。」

   女官にも位があるが、多分ハヨンは新兵といえど専属護衛なので、彼女と同じくらいの地位だろう。

(彼女達も必死なんだ…。)

  例えやり方が違っても、女性としての地位を上げていく。それは決して容易なことではない。

(もしなにか言われて、反論したくなっても、努力しない自分が悪いとかは言わないようにしよう。)

   ハヨンの稽古の時間は彼女の化粧や芸事の練習の時間だ。ハヨンの警護の時間は彼女達の料理を運んだり、裁縫する時間なのだ。
  ハヨンが稽古を頑張ったから早く昇進したのではない。きっと運が良かったのが一番大きいのだから。

「それにしてもやりにくい世の中だな。」
「そりゃあそうだろ。だってここは王が住まう城なんだから。」

  どうやらハヨンは無意識に口に出ていたようだ。リョンが少し呆れたように返事をする

「その上ハヨンは珍しい女の兵士なんだから、余計目立つものだろう?波乱の渦中に巻き込まれるのは目に見えてる。」
「それもそうだね。」

ハヨンはふっと笑った。

「まぁ、なんか危ないことがあったら遠慮なく言ってくれ。俺が女官達にそれとなく止めるようにいっておくから。」
「ありがとう…?」

  なぜ芸人のリョンが自分をこんなにも気にかけてくれるのか、ハヨンはさっぱりわからないので、怪訝な顔をしてしまう。

「なんだ?そのなんか俺が変なこと言ったみたいな顔。」
「いや、ありがたいんだけど、なんでここまでしてくれるんだろうって。前も上官のことで何かあったら助けるって言ってくれたし。」

  リョンはえ、と言って少し固まる。そして呆れたようにため息をついた。

「あのな、友達なら言うだろ普通。俺、友達が困ってるのをほうっておけるような奴ではないんだけど。」

ハヨンの驚いた顔を見て、リョンはますます呆れた顔になった。 

「あのね。俺のことなんだと思ってるわけ?」
「…弱味を見せても大丈夫な人?」

  二人の間にしばしの沈黙が降りた。

「それ、友達って言わない⁉」

リョンが鋭く突っ込み返す。

「ええっと、そうなの?」
「というか、あんた友達の認識ってどうなの?」
「うーん、リョンの第一印象が、侵入者だったから、それがそのまま続いてきて…。友達というか…。共犯者?」

  本当に女官と恋人だったなら、その女官は最悪打ち首である。それはなんだか忍びないのでハヨンは何も言わなかったが、それが主な原因で、どうしても共犯者のようにリョンを考えてしまうのだ。リョンは察したように吹き出す。

「じゃあ共犯者から友達に昇格してよ。」
「うん。」

  ハヨンはリョンが差し出した手を握る。あの宰相のイルウォンの手を握ったときのような寒気はなく、むしろ温かで安心した。










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