41 / 221
暗躍する者嫌う者
気配り
しおりを挟む
「これからしばらく、あなたがここに戻るまで、私はあの子たちが何もしないように食堂にできるだけいるようにするわ。あた、湯殿も夜の戌時までお湯を抜かないように徹底させる。」
もともとの規則で、湯殿は戌時までお湯を抜かないこととなっていた。しかし大抵の女官はそれまでに終えてしまうので、ハヨン以外には支障がなかったのだ。
「ありがとうございます。助かります。」
「…あと、あなたなぜこんなことが起きているかわかる?」
「多分私がリョンヘ様の専属護衛となったことで不興を買ったのだとは思うのですが、そもそも私は兵士の身です。妃になることはありません。ですので見当違いなのでは…とは思うのですが…。」
「あの子達は王族の方達に認めてもらえるように必死なのよ。それぞれ考えが全く違うから受け入れ難いのだと思うわ。」
私も全然そんなのに興味なかったから、最初は変人扱いされたわ、と彼女は付け加える。
「でもね、今回の件で、あなたはこの場にいる下女の誰よりも王族に近い距離にいる女になったのよ。そりゃあ部屋の掃除やお食事を運ぶ女官もいるわよ?でもあなたはずっと側に立って警護する。彼女達の何倍もの長い時間を殿下とともにするもの。彼女たちはしてやられた、と思ったでしょうね。」
私は妃になることなど小指ほども考えていないのに、女は難しい。と自分のことは棚にあげて考えるハヨンだった。
「へぇ!じゃあハヨンは今のところ、後宮のある女官に助けて貰ってるんだな?」
「そういうとこ。」
剣をあらゆる型の通りに振るいながら、息も乱さずハヨンは返事した。竪琴を抱えながら木の枝に腰かけているリョンは、その返事を聞いて、地上に飛び降りた。武道でも身につけているのかとでも思うような軽い身のこなしで、着地したときに音も立てない。
「それを聞いて安心した。俺が宴に呼ばれた時も、後宮でも下女が結構あんたのことを話してるし。」
女官にも位があるが、多分ハヨンは新兵といえど専属護衛なので、彼女と同じくらいの地位だろう。
(彼女達も必死なんだ…。)
例えやり方が違っても、女性としての地位を上げていく。それは決して容易なことではない。
(もしなにか言われて、反論したくなっても、努力しない自分が悪いとかは言わないようにしよう。)
ハヨンの稽古の時間は彼女の化粧や芸事の練習の時間だ。ハヨンの警護の時間は彼女達の料理を運んだり、裁縫する時間なのだ。
ハヨンが稽古を頑張ったから早く昇進したのではない。きっと運が良かったのが一番大きいのだから。
「それにしてもやりにくい世の中だな。」
「そりゃあそうだろ。だってここは王が住まう城なんだから。」
どうやらハヨンは無意識に口に出ていたようだ。リョンが少し呆れたように返事をする
「その上ハヨンは珍しい女の兵士なんだから、余計目立つものだろう?波乱の渦中に巻き込まれるのは目に見えてる。」
「それもそうだね。」
ハヨンはふっと笑った。
「まぁ、なんか危ないことがあったら遠慮なく言ってくれ。俺が女官達にそれとなく止めるようにいっておくから。」
「ありがとう…?」
なぜ芸人のリョンが自分をこんなにも気にかけてくれるのか、ハヨンはさっぱりわからないので、怪訝な顔をしてしまう。
「なんだ?そのなんか俺が変なこと言ったみたいな顔。」
「いや、ありがたいんだけど、なんでここまでしてくれるんだろうって。前も上官のことで何かあったら助けるって言ってくれたし。」
リョンはえ、と言って少し固まる。そして呆れたようにため息をついた。
「あのな、友達なら言うだろ普通。俺、友達が困ってるのをほうっておけるような奴ではないんだけど。」
ハヨンの驚いた顔を見て、リョンはますます呆れた顔になった。
「あのね。俺のことなんだと思ってるわけ?」
「…弱味を見せても大丈夫な人?」
二人の間にしばしの沈黙が降りた。
「それ、友達って言わない⁉」
リョンが鋭く突っ込み返す。
「ええっと、そうなの?」
「というか、あんた友達の認識ってどうなの?」
「うーん、リョンの第一印象が、侵入者だったから、それがそのまま続いてきて…。友達というか…。共犯者?」
本当に女官と恋人だったなら、その女官は最悪打ち首である。それはなんだか忍びないのでハヨンは何も言わなかったが、それが主な原因で、どうしても共犯者のようにリョンを考えてしまうのだ。リョンは察したように吹き出す。
「じゃあ共犯者から友達に昇格してよ。」
「うん。」
ハヨンはリョンが差し出した手を握る。あの宰相のイルウォンの手を握ったときのような寒気はなく、むしろ温かで安心した。
もともとの規則で、湯殿は戌時までお湯を抜かないこととなっていた。しかし大抵の女官はそれまでに終えてしまうので、ハヨン以外には支障がなかったのだ。
「ありがとうございます。助かります。」
「…あと、あなたなぜこんなことが起きているかわかる?」
「多分私がリョンヘ様の専属護衛となったことで不興を買ったのだとは思うのですが、そもそも私は兵士の身です。妃になることはありません。ですので見当違いなのでは…とは思うのですが…。」
「あの子達は王族の方達に認めてもらえるように必死なのよ。それぞれ考えが全く違うから受け入れ難いのだと思うわ。」
私も全然そんなのに興味なかったから、最初は変人扱いされたわ、と彼女は付け加える。
「でもね、今回の件で、あなたはこの場にいる下女の誰よりも王族に近い距離にいる女になったのよ。そりゃあ部屋の掃除やお食事を運ぶ女官もいるわよ?でもあなたはずっと側に立って警護する。彼女達の何倍もの長い時間を殿下とともにするもの。彼女たちはしてやられた、と思ったでしょうね。」
私は妃になることなど小指ほども考えていないのに、女は難しい。と自分のことは棚にあげて考えるハヨンだった。
「へぇ!じゃあハヨンは今のところ、後宮のある女官に助けて貰ってるんだな?」
「そういうとこ。」
剣をあらゆる型の通りに振るいながら、息も乱さずハヨンは返事した。竪琴を抱えながら木の枝に腰かけているリョンは、その返事を聞いて、地上に飛び降りた。武道でも身につけているのかとでも思うような軽い身のこなしで、着地したときに音も立てない。
「それを聞いて安心した。俺が宴に呼ばれた時も、後宮でも下女が結構あんたのことを話してるし。」
女官にも位があるが、多分ハヨンは新兵といえど専属護衛なので、彼女と同じくらいの地位だろう。
(彼女達も必死なんだ…。)
例えやり方が違っても、女性としての地位を上げていく。それは決して容易なことではない。
(もしなにか言われて、反論したくなっても、努力しない自分が悪いとかは言わないようにしよう。)
ハヨンの稽古の時間は彼女の化粧や芸事の練習の時間だ。ハヨンの警護の時間は彼女達の料理を運んだり、裁縫する時間なのだ。
ハヨンが稽古を頑張ったから早く昇進したのではない。きっと運が良かったのが一番大きいのだから。
「それにしてもやりにくい世の中だな。」
「そりゃあそうだろ。だってここは王が住まう城なんだから。」
どうやらハヨンは無意識に口に出ていたようだ。リョンが少し呆れたように返事をする
「その上ハヨンは珍しい女の兵士なんだから、余計目立つものだろう?波乱の渦中に巻き込まれるのは目に見えてる。」
「それもそうだね。」
ハヨンはふっと笑った。
「まぁ、なんか危ないことがあったら遠慮なく言ってくれ。俺が女官達にそれとなく止めるようにいっておくから。」
「ありがとう…?」
なぜ芸人のリョンが自分をこんなにも気にかけてくれるのか、ハヨンはさっぱりわからないので、怪訝な顔をしてしまう。
「なんだ?そのなんか俺が変なこと言ったみたいな顔。」
「いや、ありがたいんだけど、なんでここまでしてくれるんだろうって。前も上官のことで何かあったら助けるって言ってくれたし。」
リョンはえ、と言って少し固まる。そして呆れたようにため息をついた。
「あのな、友達なら言うだろ普通。俺、友達が困ってるのをほうっておけるような奴ではないんだけど。」
ハヨンの驚いた顔を見て、リョンはますます呆れた顔になった。
「あのね。俺のことなんだと思ってるわけ?」
「…弱味を見せても大丈夫な人?」
二人の間にしばしの沈黙が降りた。
「それ、友達って言わない⁉」
リョンが鋭く突っ込み返す。
「ええっと、そうなの?」
「というか、あんた友達の認識ってどうなの?」
「うーん、リョンの第一印象が、侵入者だったから、それがそのまま続いてきて…。友達というか…。共犯者?」
本当に女官と恋人だったなら、その女官は最悪打ち首である。それはなんだか忍びないのでハヨンは何も言わなかったが、それが主な原因で、どうしても共犯者のようにリョンを考えてしまうのだ。リョンは察したように吹き出す。
「じゃあ共犯者から友達に昇格してよ。」
「うん。」
ハヨンはリョンが差し出した手を握る。あの宰相のイルウォンの手を握ったときのような寒気はなく、むしろ温かで安心した。
0
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる