華の剣士

小夜時雨

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孟の地へ

あるがままの心で 弐

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「わ、わかりません…」

 いつもは気安く話しているのに、どうしてなのか、言葉遣いが敬語に戻ってしまった。
 心の臓が鷲掴みにされたように息が苦しいのに、好敵手との手合わせの折のような、心地よい緊張感がある。今までに体験したことのない心情に混乱し、ハヨンは口をきくことが出来なかった。

「俺はやはり、ハヨンをどこかで特別扱いしているらしい。王族と言う身分に関係なく、気兼ねなく話せるからな。だからリョンヤンの命や、俺への気遣いで無理をしてここにいたりはしないかと気になってしまったんだ。」

 リョンヘがそう言って笑んだ。ハヨンにとっても、それは嬉しいことだが、今、私もそう思いますと返すことは、恥ずかしくて憚られた。
 ハヨンたちがいるこの部屋は、本当は広いはずなのに、とても窮屈に思える。緊張で息苦しく思える。しかし、心地が悪いわけではなく、むしろ離れがたく感じていた。

(何でこんなに緊張してるんだ、私…)
「私は本当に臣下としても、友達としてもリョンヘ様の力になりたいと思っているから…。心配しなくて大丈夫ですよ…」

 ハヨンは己の頬が熱を帯びているように感じた。そして彼に握られたままの手が汗ばんではいないかととても気になってしまう。

(もし、手汗がひどかったら恥ずかしい。)

かと言って離してしまうのもリョンヘを傷つけそうで何だか嫌だ。

「…そうか、俺はもっとあんたに甘えて良いと言う事を頭に置いておくよ。」
「はい、お願いします…」

 その時、部屋の戸を叩く乾いた音が響いた。ハヨンは驚き、反射的に手をほどく。意外にも手は簡単に、するりと抜けていった。

「何だ。」

 リョンヘがそう戸に向かって声をかけた。

「警備のことで相談したい案件がございます。」
「わかった、しばし待て。」

 どうやら城の入り口の警備を任されている兵士の一人のようだ。再びリョンヘはハヨンへと視線を向ける。

「悪いな、これ以上時間はとれなさそうだ。」
「い、いえ。貴重なお時間ありがとうございました」

 混乱を深めていたハヨンは、これ幸いにとリョンヘの部屋から飛び出したのだった。



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