エイムの魔法植物学

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亡霊の家編

魔法植物に関する仮説

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次の村への道中、エイムとシラセは黙々と歩みを進めていた。森の小道には木漏れ日が揺れ、遠くで鳥のさえずりが響く。やがて、シラセがふとつぶやいた。

「ところでさ、魔法植物ってなんで生まれたんだろうな…
最初は普通の植物だったのかな?」

「おおー!いいところに気づいたね!」

エイムの目がキラキラと輝いている。研究熱心な彼女にとって、これは最高の話題だった。

「…随分と解説したそうだな…どうぞ。」

シラセは呆れたように肩をすくめる。

「えへへ。魔法植物って、実は最近発見されたものなんだよ!」

「へえ、そうなのか?」

「うん!最近って言っても、200年前くらいなんだけど…
それでも、長い歴史から見ればずいぶん最近だよね!」

「そこまで歴史が古いものじゃないんだな。意外だよ。」

「うん。言い伝えなんかをまとめると、200年前くらいから、急に増え始めたみたい。
でね、この200年前っていうのが、人々が魔法を失い始めた時期とちょうど重なるんだよ!」

「え、それって、何か関係があるってことか?」

シラセが訝しげに眉をひそめる。

「うん。お父さんは、『植物たちが、人間の魔法の力を吸い取っていったんじゃないか』って仮説を立ててたの!」

「ええ!?そんなことがあり得るのかよ!?」

「私も、真相はわからない。でも、可能性はあると思ってるの!
普通、生物は進化の過程で自分たちがより有利になるように進化していくでしょ?」

「まあ、そうだろうな。」

「でも魔法植物の中には、自分たちが有利になるとは思えないような、さらに言えば植物たちにとって全く役に立たなそうな特徴を持ったものもあるの!」

「へえ、それは不思議だな…。」

「ね!だから私も、お父さんの仮説はあってるんじゃないかって思ってる!
でも、その理由がわからないの。
なんでわざわざそんな、人から魔法を吸い取ってまで、自分たちにとって意味の無いような進化をしたのか…
だから私は、その謎も突き止めたいんだ!」

「そうだな、俺もそれにはすごい興味があるよ!
不思議な存在だな、魔法植物ってのは…」

「そうでしょ?だから私も、こんなに夢中になって追いかけられるの。」

エイムの瞳には、夜空に輝く星のような尽きることのない好奇心が宿っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その夜。エイムたちは森の中で野営をすることにした。

焚火の炎がパチパチと音を立て、エイムの頬を淡く照らしている。肩にとまったピーちゃんも、心地よさそうに丸くなっていた。

一方のシラセは、魔法と武術の鍛錬に励んでいた。具現化した武器を振るいながら、戦いの動きを確認している。

「毎日頑張るね、すごい。」

エイムが微笑みながらつぶやく。

「…俺はまだまだ弱い。こないだのガルム戦なんてほとんど動けなかった。
だから、これくらいやるのは当然だ。」

「…うん。」

「それにさ、少しずつだけど、魔法の持続時間が伸びてきてるみたいなんだ。
ちゃんと鍛えれば、成長できる。これは俺にとって、大きな希望だ。」

「うん、そうだね…応援してるよ、心から。」

シラセには、優しく微笑むエイムの顔がまるで聖母のように見えた。急に顔が熱くなり、慌てて話題を変える。

「あ、あのさ!俺らが目指してる魔法都市フィオルナの名前の由来、知ってるか!?」

「え?ううん、知らないけど…」

「そ、そうか!じゃあ教えてやるよ!」

シラセは少し声を弾ませた。

「フィオルナってのは、昔実在した魔法使いの名前なんだぜ!」

「え、そうだったの!?」

「ああ、それも、その魔法使いは守護英雄様に同行していた一人なんだ!」

「…え!?!?守護英雄って一人で旅してたんじゃないの!?」

エイムは目を丸くした。

「お前、そっからかよ!」

シラセは苦笑しながら続ける。

「まあ、最初は確かに一人で旅してたみたいだ。
でも途中から、武闘家と魔法使いが合流して、最終的には3人で旅をしてたんだぜ。」

「へえ、そうだったんだ!」

「ああ。その偉大なる魔法使いフィオルナが、魔獣討伐後に魔法の研鑽をするための村を作ったんだ。
それが発展して、今じゃ全魔法使いがあこがれる魔法都市フィオルナになったってわけさ。」

「へぇ、知らなかった!
いやあ私、魔法植物以外のことはからきしで…」

エイムは困ったように笑いながら話す。

「まあ、俺も守護英雄様のことばっか考えてたから、それ以外は全然だ。」
「…なんだか似てるのかもな、俺たち。」

シラセは消え入るような声で、ぽつりとつぶやいた。

「え、何か言った?」

「い、いや!なんでもねえよ!」

焚火の炎が揺らめき、シラセの頬を赤く染めている。その温もりに紛れて、自分の顔の熱さが隠れていることに、シラセは密かに安堵していた。
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