公爵令嬢は逃げ出した!

百目鬼笑太

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第二章 冒険する公爵令嬢

残念!お前もハーレム要員!

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 軽い気持ちでハーレム一行と行動することを決めて、一日が経つ。
 当初の目的地グラナット公国にたどり着いた。

 しかし私は早くも嫌になっていた。
 なんせこのハーレム一行は毎時間毎時間、ラブコメを見せつけてくる。

 何故だか馬車にありえない数の魔物が突進してくるのだ。
 まるでそれが主人公の宿命であるのだとでも言いたげに、カツラギの活躍の場を作る。
 ときには火球(なおファイアボール)、ときには剣技で華麗に撃退していくカツラギを馬車の乗客たちは感謝をし続ける。
 数時間前の自分の選択を後悔している。

「さすがです。マサキ様、魔術だけでなく剣技も秀でていらっしゃるなんて。私、どうにかなってしまいそう……」
「フンッ。バカマサキの割に中々やるじゃない。褒めてあげてもいいわ」
「へえへえ、ありがとよ、アイリス。それとプリムラ、顔が赤いけど熱でもあるのか?」
「ッ……ま、マサキ様! 顔が近いですっ!」
「あ、ごめんこめん」

 魔術を使わずに平民の使う乗合馬車に乗ったのは今まで見ることのなかった多くのものを目で見て触れたかったからなのだ。
 それが今目の前では撃退→乗客の感謝→ラブコメを繰り返していて正直飽きてきた。

 小説を読んでいた頃は主人公とヒロインのイチャつきをイライラしながら読み進めたものだけど、いざ目の前でイチャイチャされると色々通り越してうんざりしてくるらしい。
 本日の学びだ。

 私、早まっちゃったんだなあ……。

「じゃあ借りるのはジョー、僕とプリムラ、アイリスの男女別に2部屋でいいよね?」
「あ、オレ1人部屋がいいわ。部屋に他の奴の気配があると寝れなくてよ」
「えぇ……」
「ちょっと! 贅沢言うんじゃんないわよ! 部屋代だってバカにならないんだからね!?」
「あ、それじゃあ私とマサキ様が同部屋でアイリスとジョーさんが同じ部屋にしたらどうでしょう」
「プリムラ! 何の解決にもなってないわよ! それ!」

 揉め始めるとプリムラが欲望丸出しの提案をして火に油を注いだ。
 私としてはカツラギとさえ同じ部屋にならなきゃいいわけで頷く。

「あ~~、アイリスと一緒ならそれでもいいぜ。だってオレとお前が同室なら寝ることねえだろうし」
「サイッテーーーッ!! 何言ってんのあんた!!」

 いい声で囀るなあ……。
 目を釣り上げて叫ぶアイリスに耳を塞ぎながら遠い目になる。
 するとアイリスと私の間にカツラギが割って入った。
 アイリスを背に私を睨んでいる。

「僕たち3人で同部屋に泊まるよ。余計に増えるキミの分の宿代は自分で払えるんだろうね?」
「そりゃまあ。旅するって奴が一文無しのわけないだろ」
「うん。それじゃ、部屋に行くので僕らは一旦解散。出発する時間は夕食のときに話し合おう」
「おっけ~。じゃ、エル・デルスターまでよろしくな。カツラギ」
「……わかった」

 ちょっとドキドキしながらハーレム一行と別れて宿屋の女将について部屋へと向かった。
 自分でハーレム一行の提案を受け入れてしまったので、あと私に出来るのは最悪男を演じてあっちからやっぱ無しを期待することくらいだ。

 ハーレムで一番の禁忌は他の男にヒロインを奪われてしまうことなのではなかろうか。

「そうだ、お嬢ちゃん。ウチの自慢はなんて言っても天元山脈の地熱を利用した温泉でね。よかったら入っていってちょうだいね。大丈夫、他の客のいない時間を教えてあげるからさ」
「え、今、オレのこと……」
「あっはっは! 女の子の旅なら警戒して損することないからねぇ。アンタみたいに男の子みたいな服装の旅人が何人もいたもんさ」

 豪快に笑いながら、宿屋の女将は私にウインクをした。

「さっきの嬢ちゃんたちは、あのよくわからない格好の坊やにホの字なんだろうけどさ、アンタは違うんだろ? 何年も宿屋してると人を見る目が鍛えられるのさ!
 でも男装するなら、もうちょっと頑張ったほうがいいね。アンタ、良い家のお嬢様だったんだろ。仕草にお淑やかさが出ちまってるよ」

 見透かされて、さっきの最悪男の演技も見抜かれていたと知り顔が熱くなる。
 ま、まじで?
 そんなに私ってわかりやすい?
 急に恥ずかしくなってきた。
 なんでか知らないけど男だと間違われてもしかして私ってイケてんじゃん!? なんて気持ちになっていたのが恥ずかしい。

 恥ずかしい、恥ずかしい……。

 穴があったら入りたい……。


 穴はなくとも温泉はあった。
 先ほどの出来事を引きずった険悪な空気で夕食を摂り、他の客が寝静まった真夜中に女将が今なら温泉に誰もいないよと教えてくれた。

 説明通りに宿屋の中を進んでいくと、そこには完全に和風の露天風呂があった。
 世界観と合っていない……。

 石で囲まれた温泉は夜空の下、真っ白な湯気を漂わせている。
 場違いな世界観は置いておいて、元日本人としてはありがたい。

 お湯を体にかけてから、露天風呂に浸かった。
 全身が解きほぐされていくような心地よさにため息を漏らす。

 あぁ~……気持ちい~~。

 温泉はいいね。リリンの生み出した文化の極みだね。

 その時である。

「おっ、誰もいない貸切じゃん。この時間に来て正解だったな」

 露天風呂の扉が開く音と、カツラギの呑気な声が湯気の向こうからした。
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