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第二章 冒険する公爵令嬢
奴隷商人
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怪しい男からの誘いを断ったはいいものの、その後、良案が浮かぶということもなかった。
「やっぱりあの商人の提案を受けていた方が良かったのでしょうか……」
「いや、多分だけどやめて正解だったと思う。それに……もしかしたら世界地図、僕が書けるかもしれない」
そこまで自信はないけど、とカツラギが眉を下げる。
「どういうこと?」
「うん……、僕もちょっと驚いたんだけどさ」
鞄を漁り、紙を取り出す。それをテーブルに広げて杖をかざした。
くしゃくしゃの紙の上にじんわりとインクが広がっていく。恐らく記憶を転写しているのだろうけど、紙に浮かび上がった図形に私も思わず声が出そうになった。
「これ、は? さきほどのガイウスさんの地図ですね」
「あの一瞬で覚えちゃったわけ? マサキのくせにやるじゃない!」
「ここがゼノ帝国で、エル・デルスター王国……あら、でも所々さきほどのとも違っているような気もしますねぇ……、ここの島はガイウスさんの地図には載っていませんでしたよね」
「アヴァル島だね。元々別の種族の国があった地域で、皇帝の計らいで特別に自治の許された地方なんだ」
「まあ! 別の?」
プリムラの指が帝国北西部にある島を指した。
それを見て、確かにガイウスの地図にはアヴァル島は載っていなかったと思い出す。
ガイウスはこの島を意図的に隠したのだろうか。
とはいえ帝国の領地くらいであれば全て頭に入ってるため、なんてことのない違いだ。
アヴァル島は別名で妖精国とも呼ばれている。立場としては東方のジウロン国に少し似ていて魔力の高い別の民族が暮らしている。
数代前の皇帝と数年に渡って戦争を繰り広げていたらしい。
元は別の国であっただけに帝国への忠誠心は欠片もないわけで、今では自治権を明け渡す代わりに帝国の属領として存在している。
帝国は基本的にノータッチなので、私も詳しいことは知らない。
妖精国というだけあって、花や果物が咲き乱れる楽園のような場所であるらしいけど。一度くらいは行ってみたいものだ。
「帝国の領地は、ここからここ?」
「ううん、ここの半島も帝国領だよ。見にくいけれど、一応陸続きなんだ」
「じゃ、帝国領はこの範囲……やっぱり間違いないな……」
「うん?」
「僕の前いた世界の大陸と、この世界の大陸はほとんど同じ形みたいだ」
思わずカツラギの書いた地図を食い入るように見つめてしまう。
……、なるほど?
ユーラシア大陸のアジアの部分をカットしてしまっているため分かりづらいが、確かにこのイタリアのブーツの形は見覚えがある。
この世界には当然、イタリアなんて国はなくこのブーツの場所にあるのは教会の自治する教区だ。
……もしやバチカン市国的なイメージなのか?
「……ということはカツラギ。お前は他の大陸の位置や形も分かるのか?」
「いや、さっきガイウスの地図を見て気付けたくらいだから、そこまでの自信はない。……僕の記憶頼りでいいのなら世界地図でも書いてみよう」
「お待ちください、マサキ様」
予防線をいれながら、カツラギがもう少し大きな紙を取り出し新たに転写を始めようとした。
それに待ったをかけたのはプリムラだった。
「ここは人が多すぎます。場所を変えましょう」
この世界で地図は非常に重要なものなのだ。
慎重になるプリムラの気持ちも理解できた。意識を周囲に向けてみれば、どこからか視線を感じる。
大きな声で大陸やら世界地図やらの話をしたのだ。当然といえば当然の流れである。
「……ねえジョー。買い物に行きましょう」
「ああ、そうだね」
「アタシ、エル・デルスター王国の市場にいってみたかったの」
「いいね。実はオレも魔術道具が気になっていてさ」
アイリスと立ち上がりながら自分たちに魔術をかけた。
『虚像』
視線だけでカツラギとプリムラに合図を送り、4人で店を出た。
店からある程度進んだところで私とアイリス、カツラギとプリムラの二手に分かれた。
未だにチクチクと視線を感じるので、尾けられているのは間違いない。
周囲には私とアイリス、それから虚像の2人の4人のままで行動しているように見えているはず。
「ここら辺でいいかしらね」
「じゃ、解散」
人気の少ない路地へとあえて進み、2人同時に魔術を展開させた。
アイリスは目眩しに粉塵を立てて、私はアイリスの手を掴んで浮遊魔術を行使した。
「クソッ、どこに行きやがったアイツら!」
「近くにまだいるはずだ! 探せ!」
海洋商業国家であるだけあって、この王国には一定数のならずものもいるようだ。
いくら有能な為政者といえど、国の全てを支配するのは難しいということだ。
「このまま宿に戻りましょう。もうプリムラとマサキも戻っているはずよ」
「了解~」
「それにしても……あははっ、見た? アイツらの間抜けな顔! 魔術師相手に何の計画もなく尾行だなんて舐められたものよね!」
「アタシ、スカッとしちゃった!」とアイリスは珍しく満面の笑みで言った。
気位が高くてツンツンしているところがあるけれど、アイリスはそれだけ魔術師の自分に誇りを持っているようだった。
うん、私もそういうの嫌いじゃないよ。
アイリスを抱えたまま宿へと戻る。
借りている部屋の窓から直接、部屋に入った。
まだカツラギたちは戻っていないらしい。
「遅いわね……道もそんな入り組んでたわけじゃないのに、もしかして捕まってんじゃないでしょうね……」
いつまでも戻ってこないカツラギたちにアイリスが不安そうにする。
カツラギがいるなら、早々捕まることはないと思うのだけどな。
あまりに音沙汰がないので何かあったのかと不安になる気持ちも理解できる。
もしくは主人公特有の次々襲うハプニングというやつだろうか。
あんまり連続して魔術を使いたくないのだけど、そうなっては仕方ない。
布を小さく切って、その一片ずつに魔力を行き渡らせる。
それぞれ動き出した布片は窓辺から風に乗って、街中に広がっていく。
布に視界を移せば、市場に目立つ桃色の髪が茶髪と並んでいて察した。
「いた?」
「……デートしてるね」
「何よそれ! もうっ!」
眉を釣り上げ、アイリスが唇を尖らせた。
気持ちは非常に理解できる。
状況が状況なだけに心配していたのに、2人は呑気にデートなどしてるのだから。
「カツラギの魔術で目立たないようにはしてるのかもね、顔の判別が難しいや」
「さっきの今なんだから、そのくらいしといてもらわないと困るわよ! ねえ、ジョー。アタシたちも市場に行きましょ。行きたかったのはホントなんだから」
「そうだね。ただし目隠しの魔術はしっかりと、ね」
「フンだ、もうプリムラなんて知らないんだから」
アイリスは完全に拗ねてしまっているようだ。
親友と想い人にハブられたら、そうもなる。
気を取り直して扉に手をかけ、私たちは再び市場に向かおうとした。
その時である。
かしゃん。
魔術のために開けていた窓から小さなボトルが投げ込まれた。
ボトルの口が開き中からガスが勢いよく吹き出して、手のひらで口を押さえて息を止める。
「アイリス! 吸うな!」
「あっ……」
アイリスにも叫んだ。
しかし遅く、何かのガスを吸ってしまったアイリスは意識を失い床に倒れるところだった。
叫ぶときに私も吸ってしまったらしい。意識が混濁し始めて、体の力が抜けていく。
その場にしゃがみ込んで床に手をついた。
窓、窓から新鮮な空気を……。
重たい体を引きずりながら、どうにか窓へと移動しようと、
「よお、坊っちゃん。また会ったなぁ」
窓から顔を出したのは金髪に褐色肌をした派手な身なりの──ガイウスだった。
分厚い手のひらに首を掴まれ、空気を思い切り吸い込んでしまう。
「いやはやお前さんらが悪いんだぜえ? オレの言う通り自分から船に乗ってくれてりゃ、こんな手荒な方法を使わないでも済んだのにヨォ」
「船長、2人足りませんが」
「おーおーかまいやしねぇよ、用があったのはこっちの魔術師2人だからヨォ。なぁ坊っちゃん、知ってっか? 魔術師っつーのはビラーディじゃ高く売れんだぜぇ?」
にやにやと嫌らしく笑いながらガイウスが言う。
売れる、と言う言葉でガイウスの目的が分かった。
悲しいことに、この世界ではまだ奴隷が存在しているのだ。
「……奴隷、売買は大陸法で禁止されてる筈だ……!!」
今から15年ほど前に、帝国を中心にラビ大陸全体で奴隷の売買は全面的に禁止された。
違反すれば奴隷を売るものも買うものも厳しく処罰すると帝国は大陸中に宣言したのだ。
ヘラヘラと笑うガイウスを睨みつける。
「おお、知ってる知ってる。だがな、アフラじゃ奴隷も合法なんだよ!」
屁理屈を……!
一体さっきのは何のガスだったのか。次第にキツく効き始めたのかガイウスの顔がぼやけ始める。
混濁する意識の端で、ガイウスの高笑いが聞こえた気がした。
私の意識はそこで途絶える。
「やっぱりあの商人の提案を受けていた方が良かったのでしょうか……」
「いや、多分だけどやめて正解だったと思う。それに……もしかしたら世界地図、僕が書けるかもしれない」
そこまで自信はないけど、とカツラギが眉を下げる。
「どういうこと?」
「うん……、僕もちょっと驚いたんだけどさ」
鞄を漁り、紙を取り出す。それをテーブルに広げて杖をかざした。
くしゃくしゃの紙の上にじんわりとインクが広がっていく。恐らく記憶を転写しているのだろうけど、紙に浮かび上がった図形に私も思わず声が出そうになった。
「これ、は? さきほどのガイウスさんの地図ですね」
「あの一瞬で覚えちゃったわけ? マサキのくせにやるじゃない!」
「ここがゼノ帝国で、エル・デルスター王国……あら、でも所々さきほどのとも違っているような気もしますねぇ……、ここの島はガイウスさんの地図には載っていませんでしたよね」
「アヴァル島だね。元々別の種族の国があった地域で、皇帝の計らいで特別に自治の許された地方なんだ」
「まあ! 別の?」
プリムラの指が帝国北西部にある島を指した。
それを見て、確かにガイウスの地図にはアヴァル島は載っていなかったと思い出す。
ガイウスはこの島を意図的に隠したのだろうか。
とはいえ帝国の領地くらいであれば全て頭に入ってるため、なんてことのない違いだ。
アヴァル島は別名で妖精国とも呼ばれている。立場としては東方のジウロン国に少し似ていて魔力の高い別の民族が暮らしている。
数代前の皇帝と数年に渡って戦争を繰り広げていたらしい。
元は別の国であっただけに帝国への忠誠心は欠片もないわけで、今では自治権を明け渡す代わりに帝国の属領として存在している。
帝国は基本的にノータッチなので、私も詳しいことは知らない。
妖精国というだけあって、花や果物が咲き乱れる楽園のような場所であるらしいけど。一度くらいは行ってみたいものだ。
「帝国の領地は、ここからここ?」
「ううん、ここの半島も帝国領だよ。見にくいけれど、一応陸続きなんだ」
「じゃ、帝国領はこの範囲……やっぱり間違いないな……」
「うん?」
「僕の前いた世界の大陸と、この世界の大陸はほとんど同じ形みたいだ」
思わずカツラギの書いた地図を食い入るように見つめてしまう。
……、なるほど?
ユーラシア大陸のアジアの部分をカットしてしまっているため分かりづらいが、確かにこのイタリアのブーツの形は見覚えがある。
この世界には当然、イタリアなんて国はなくこのブーツの場所にあるのは教会の自治する教区だ。
……もしやバチカン市国的なイメージなのか?
「……ということはカツラギ。お前は他の大陸の位置や形も分かるのか?」
「いや、さっきガイウスの地図を見て気付けたくらいだから、そこまでの自信はない。……僕の記憶頼りでいいのなら世界地図でも書いてみよう」
「お待ちください、マサキ様」
予防線をいれながら、カツラギがもう少し大きな紙を取り出し新たに転写を始めようとした。
それに待ったをかけたのはプリムラだった。
「ここは人が多すぎます。場所を変えましょう」
この世界で地図は非常に重要なものなのだ。
慎重になるプリムラの気持ちも理解できた。意識を周囲に向けてみれば、どこからか視線を感じる。
大きな声で大陸やら世界地図やらの話をしたのだ。当然といえば当然の流れである。
「……ねえジョー。買い物に行きましょう」
「ああ、そうだね」
「アタシ、エル・デルスター王国の市場にいってみたかったの」
「いいね。実はオレも魔術道具が気になっていてさ」
アイリスと立ち上がりながら自分たちに魔術をかけた。
『虚像』
視線だけでカツラギとプリムラに合図を送り、4人で店を出た。
店からある程度進んだところで私とアイリス、カツラギとプリムラの二手に分かれた。
未だにチクチクと視線を感じるので、尾けられているのは間違いない。
周囲には私とアイリス、それから虚像の2人の4人のままで行動しているように見えているはず。
「ここら辺でいいかしらね」
「じゃ、解散」
人気の少ない路地へとあえて進み、2人同時に魔術を展開させた。
アイリスは目眩しに粉塵を立てて、私はアイリスの手を掴んで浮遊魔術を行使した。
「クソッ、どこに行きやがったアイツら!」
「近くにまだいるはずだ! 探せ!」
海洋商業国家であるだけあって、この王国には一定数のならずものもいるようだ。
いくら有能な為政者といえど、国の全てを支配するのは難しいということだ。
「このまま宿に戻りましょう。もうプリムラとマサキも戻っているはずよ」
「了解~」
「それにしても……あははっ、見た? アイツらの間抜けな顔! 魔術師相手に何の計画もなく尾行だなんて舐められたものよね!」
「アタシ、スカッとしちゃった!」とアイリスは珍しく満面の笑みで言った。
気位が高くてツンツンしているところがあるけれど、アイリスはそれだけ魔術師の自分に誇りを持っているようだった。
うん、私もそういうの嫌いじゃないよ。
アイリスを抱えたまま宿へと戻る。
借りている部屋の窓から直接、部屋に入った。
まだカツラギたちは戻っていないらしい。
「遅いわね……道もそんな入り組んでたわけじゃないのに、もしかして捕まってんじゃないでしょうね……」
いつまでも戻ってこないカツラギたちにアイリスが不安そうにする。
カツラギがいるなら、早々捕まることはないと思うのだけどな。
あまりに音沙汰がないので何かあったのかと不安になる気持ちも理解できる。
もしくは主人公特有の次々襲うハプニングというやつだろうか。
あんまり連続して魔術を使いたくないのだけど、そうなっては仕方ない。
布を小さく切って、その一片ずつに魔力を行き渡らせる。
それぞれ動き出した布片は窓辺から風に乗って、街中に広がっていく。
布に視界を移せば、市場に目立つ桃色の髪が茶髪と並んでいて察した。
「いた?」
「……デートしてるね」
「何よそれ! もうっ!」
眉を釣り上げ、アイリスが唇を尖らせた。
気持ちは非常に理解できる。
状況が状況なだけに心配していたのに、2人は呑気にデートなどしてるのだから。
「カツラギの魔術で目立たないようにはしてるのかもね、顔の判別が難しいや」
「さっきの今なんだから、そのくらいしといてもらわないと困るわよ! ねえ、ジョー。アタシたちも市場に行きましょ。行きたかったのはホントなんだから」
「そうだね。ただし目隠しの魔術はしっかりと、ね」
「フンだ、もうプリムラなんて知らないんだから」
アイリスは完全に拗ねてしまっているようだ。
親友と想い人にハブられたら、そうもなる。
気を取り直して扉に手をかけ、私たちは再び市場に向かおうとした。
その時である。
かしゃん。
魔術のために開けていた窓から小さなボトルが投げ込まれた。
ボトルの口が開き中からガスが勢いよく吹き出して、手のひらで口を押さえて息を止める。
「アイリス! 吸うな!」
「あっ……」
アイリスにも叫んだ。
しかし遅く、何かのガスを吸ってしまったアイリスは意識を失い床に倒れるところだった。
叫ぶときに私も吸ってしまったらしい。意識が混濁し始めて、体の力が抜けていく。
その場にしゃがみ込んで床に手をついた。
窓、窓から新鮮な空気を……。
重たい体を引きずりながら、どうにか窓へと移動しようと、
「よお、坊っちゃん。また会ったなぁ」
窓から顔を出したのは金髪に褐色肌をした派手な身なりの──ガイウスだった。
分厚い手のひらに首を掴まれ、空気を思い切り吸い込んでしまう。
「いやはやお前さんらが悪いんだぜえ? オレの言う通り自分から船に乗ってくれてりゃ、こんな手荒な方法を使わないでも済んだのにヨォ」
「船長、2人足りませんが」
「おーおーかまいやしねぇよ、用があったのはこっちの魔術師2人だからヨォ。なぁ坊っちゃん、知ってっか? 魔術師っつーのはビラーディじゃ高く売れんだぜぇ?」
にやにやと嫌らしく笑いながらガイウスが言う。
売れる、と言う言葉でガイウスの目的が分かった。
悲しいことに、この世界ではまだ奴隷が存在しているのだ。
「……奴隷、売買は大陸法で禁止されてる筈だ……!!」
今から15年ほど前に、帝国を中心にラビ大陸全体で奴隷の売買は全面的に禁止された。
違反すれば奴隷を売るものも買うものも厳しく処罰すると帝国は大陸中に宣言したのだ。
ヘラヘラと笑うガイウスを睨みつける。
「おお、知ってる知ってる。だがな、アフラじゃ奴隷も合法なんだよ!」
屁理屈を……!
一体さっきのは何のガスだったのか。次第にキツく効き始めたのかガイウスの顔がぼやけ始める。
混濁する意識の端で、ガイウスの高笑いが聞こえた気がした。
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