公爵令嬢は逃げ出した!

百目鬼笑太

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第三章 海を渡る公爵令嬢

新たな出会い

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 海賊たちは航海の準備で忙しそうだった。
 本当に海賊たちがオズへ向かうのなら、いくら海賊船とはいえ船を降りる理由がなくなってしまう。
 明後日に──もう明日だけど──ビラーディを出港する予定は変わらないらしい。

「ねえ、何か手伝おうか」
「って言われてもよぉ、船のことはオレらの仕事だもんよぉ。ジョーちゃんはゆっくりお茶でもしててくれ」
「そうそう。魔術師の出番はここじゃあねえからなぁ……勝手にこき使ったってなりゃオレらが船長にドヤされちまうぜ」
「でもずっと何もしないのも居心地が悪いんだ。何でもいいから私にも出来る仕事をくれない?」

 帆の点検をしたり、砲弾を並べたりと忙しそうにししていた海賊へ声をかけた。
 海賊は顔を見合わせて困った表情を浮かべて頭を掻く。
 そんなに困らせることを言っただろうか。

 急いで降りる理由がなくなって、この船に乗り続けるつもりならその分、仕事を見つけなければとなるのは普通だと思うのだけど。

「おお! そうだ、そんじゃあよぉ。ジョーちゃん、食料品の買い出しを頼むぜ!」
「ジョーちゃんの髪色ならビラーディの奴らも何だって用意してくれんだろ!」
「えぇ……、うん、まあ、いいけど……」

 海賊の言い方に少し手伝いをする気が萎んだ。
 とりあえず船の料理番から買い出しリストを受け取って再びビラーディの港町へ降りたったのだった。

 リストに記されているのは、大半がワインなど酒類にビネガー、塩の調味料に加えてジャムや肉の塩漬けの分かりやすい保存食などである。
 それを全員分、数ヶ月の量を用意するのだからとにかく大量に必要になる。
 陸があるなら、ある程度は現地調達も可能だけど、航海ルートは船長のディヴィスと航海士たちが決めていて未定なのだ。

 どう転ぶか分からないからこそ、この量という訳なんだろうな。
 とはいえ、私にこれだけの買い出しを頼むのはやっぱり私が魔術師だからだろう。
 私が魔術師で収納魔術を使えなければ、1人で運ぶのは絶対に不可能な量だから。


 いくら魔術があるとはいえこの量を1人でか、と多少思わないでもない。


 ビラーディの市場を歩き回り、買ったばかりの食料品を『収納』していく。
 荷物が増えることこそないけれど、歩き回ったおかげで足が疲れて来た。

「ヘイ、そこのお兄さん。ちゃっとウチらと遊ばない? 休憩できるいいお店知ってるよー?」
「……客引き?」

 ベンチに腰掛けていると、ビラーディの民が声をかけて来た。
 銀髪に濃い肌色、金色のピアスをぶら下げた青年だ。

「ちょっと違う。その髪色ってことはお兄さん、帝国人だろ? っつーことは魔術も使えるっしょ? 頼みてーことあるんだわ」
「内容による」
「魔物退治してくんない?」


 連れて行かれたのはビラーディに面する海から続く川だ。
 たぶんナイル川に位置する川。
 非常に大きな川でアフラ大陸の内陸地までの物流をになっているらしい。

 タリクと名乗ったビラーディの彼の話だと、その川には度々魔物が現れて物流が滞ってしまい困っているのだとか。
 そこでベンチでボーっと暇そうにしていた魔術師に声をかけたのだそうだ。
 暇そうで悪かったな、休憩中だっただけだし?

「魔物の強さがいまいち分からないんだけど、他の魔術師は? 1人でできることなんてたかが知れてるよ」
「何言ってんの? ビラーディに魔術師はいないよ」
「うん? なんて?」

「ビラーディには帝国と違って、魔術師は産まれない。まじない師とか、占い師ならいるけどね」

 何故?
 魔術師って、この世界に当たり前に存在してるわけじゃないのか。
 これは帝国を出なければ知ることの出来なかったことだ。

「ダイジョブダイジョブ。軍の奴らもいるし、アンタ1人じゃないよ」
「本当かよ」
「ホントホント、ビラーディ人ウソつかない」
「……まあ、いっか。引き受けてやるよ」
「マ!? よっしゃ! 労働者ゲ~ット!」
「言い方よ」

 どうしてわざと怪しませるような言い方をするのか。
 頷いた瞬間に大きくガッツポーズをしたタリクに少し呆れた。

 さらに報酬は商人であるタリクの持ち物から好きなものを現物支給するという。
 そんな要因もあって、ついついタリクに着いて行くことに決めてしまった。
 甘言で惑わそうとしてくる商人は信用に置けないけれど、タリクのケチ臭さが逆に信用できるように感じたのだ。
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