二人のゆうじ。

庵慈莉仁

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二人のゆうじ。

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 ………、別れようと思う。



 「なぁ旅行、行かね?」

 「……、えッ?」

 仕事帰り、飯屋の前で待ち合わせして一緒に飯を食った後、俺の家で前から見ようと言っていた映画を見ながら俺が呟くと、ワンテンポ遅れてユウがこちらに顔を向ける。

 「何、突然……」

 俺もチラリと隣のユウに視線を向ければ、戸惑う言葉とは裏腹に、表情はどこか嬉しそうに俺を見ていて

 「あ~~……、まぁ、別に……」

 「別にって……」

 俺の返答が気に入らないのか、少し眉間に皺を寄せながら呟くユウに

 「……、丁度良くね?十年……」

 照れ臭くてまともに顔が見れない俺は、画面に視線を戻して呟くと

 「お前……、そんなの覚えてんのかよ……」

 意外だと言わんばかりの声音でユウが俺に言うので、俺は居たたまれなくなってテーブルの上に置いている酒の缶に手を伸ばし、グイッと酒を煽る。そうしてカンッ、とテーブルに酒を置いて

 「まぁ……、覚えてるな……」

 ボソリと呟いて視線はそのままの俺に、ユウは微かに笑うと

 「明日は、槍が降るかも?」

 そう呟きながら俺の肩に頭を乗せてきたから

 「ウルセッ……」

 俺はそのまま拗ねるようにユウの頭に自分の頭を乗せた。

 俺、小島悠二と俺に頭を乗せられている久山祐司は恋人だ。

 出会ったのは高校の時。一年の時に同じクラスになって、入学当初の席は出席番号順で必然的に、ユウが俺の前の席。

 ニコニコと明るい笑顔に一目惚れして、一年間ユウを口説き落として、二年の時から付き合っている。
 字は違うが同じ名前だから、俺は『ユウ』呼びで、あっちは『悠二』呼び。

 今月でもう付き合って十年になる。

 だから今回俺から旅行に行こうと提案してみたのだ。

 お互いに社会人。最近まで忙しく会えない時間が多かったが、それも終わりしばらくはゆっくり出来そうな時間が作れる事も知っているから、良い機会だと思ったのだ。

 「お前、有給取れる?」

 ユウの頭に頭を乗っけたまま聞いた俺に

 「俺は取れるけど、お前は?難しいんじゃ無いのか?」

 俺の姿勢に何も言わずに、ユウが返事を返すので

 「あ~~……、いい加減有給消化しろってこの前上司に言われたから、大丈夫だと思う」

 社会人になって四年。気付けば一度も有給消化をしていない俺に、見かねた上司が先日そう言ってきたのだ。

 「ふ~ん、じゃぁいつ行くか決めようぜ」

 「そうだな」

 クライマックスを迎える映画を見ながら、俺は緊張を解いて少し安堵し、気付かれないように細く溜め息を吐き出していた。



         ◇



 「お部屋、こちらになります」

 「ありがとうございます」

 仲居さんに案内された部屋に着くと、荷物を畳に置いてユウが部屋を見渡す。

 「めちゃめちゃ良い部屋だな」

 「そうだな」

 俺も荷物を置いて、テーブルの近くに座ると、すかさずお茶が出てくる。

 「お夕飯は何時になさいますか?」

 「オイ、夕飯十九時で良いか?」

 テーブルから右奥にはベッドが二つあり、ユウは自分が寝ようと思っている方に座ると

 「ン、良いよ」

 「では、十九時にご用意させて頂きますね。良かったら当館自慢の温泉へどうぞ色々と回ってみて下さい」

 「何種類かのお風呂があるやつですよね?」

 ベッドの方からユウが少し興奮したように仲居さんへ声をかけると

 「そうです。大浴場や露天風呂、その他にも貸し切りで四種類ほど温泉が楽しめますし、眺めも良いので是非。貸し切り風呂は内線でご予約出来ますので、お知らせ下さいませ」

 「ありがとうございます」

 会釈をして立ち上がった仲居さんに、俺も会釈しながらそう呟くと、ニコリと笑顔で返されて仲居さんは部屋を出ていく。

 俺はテーブルに置かれたお茶を飲みながら、側に置いてあるお茶請けに手を伸ばそうとして

 「なぁ、ここ高かったんじゃ無いのか?」

 ベッドから腰を上げて、俺の側にくるとユウはそう尋ねながら腰を下ろし、俺同様にテーブルに置かれたお茶を一口飲む。

 「まぁ、そうだな」

 行楽シーズンを外しているといっても、内風呂付きの離れの部屋は、まぁまぁな良い値段だ。それを隠してもしょうが無いので素直に答えた俺に対して

 「え?……じゃぁやっぱり俺も半分払うケド?」

 と、ユウが首を少し傾げて言ってくるので

 「イヤ、それだと意味無いだろ?今回は俺から誘ってるし」

 お茶請けの饅頭を口に放り込みながら答えた俺に、少し苦笑いの表情を向けるユウは

 「そうだけどさ……」

 「気にすんなって。で、風呂入りに行くんだろ?」

 そう言って強引に話を終わらせ、楽しみの一つでもある温泉の提案をすると、ユウは微かに微笑んで

 「じゃぁ、予約しなくていいやつ入りに行こうぜ?」

 言い終わるとお茶請けの饅頭を食べながら、傍らに置いてある荷物の中をゴソゴソし始める。

 テーブルの上に置かれた旅館のパンフレットを手に、離れの部屋から本館へと移動して、先ずは大浴場の方へと向かってみる。

 シーズンオフのため人もまばらで、ゆっくり温泉に浸かれそうだなと歩いていると

 「なぁ、なんで今回は旅行に行こうと思ったんだ?」

 隣で歩いているユウが、俺の方には向かずに尋ねるので

 「あ?まぁ節目だから……、良いかと思ってって言ったよな?」

 「聞いたけど……、ずっとこういうの拒否ってたからさ……」

 ……………。そうだ。今まで俺はユウと旅行に行った事は一度も無かった。

 基本的にインドアな俺は、仕事と家の往復が通常で、ユウとどこかに行くってなっても飯を食いに行くか、デートでも映画を見に行くかってところで……。そんな俺にいつもユウはブツブツと文句を言っていた。

 大学の卒業旅行でさえ、俺はユウと旅行に行っていない。

 ユウの方は結構アクティブで、友達と旅行に頻繁に行っていたし、遊園地とかのテーマパーク系も友達や友達カップルに混じって行ってくると度々聞いた事がある。

 最初の方は俺にお土産とかも買ってきてくれてたけど、俺がそういうの食べないって解るといつの間にか買わなくなったっけ?

 「お、ここだな」

 ユウの質問にうまく答える事が出来ない俺は、遠目にある大浴場の看板の文字に反応すると

 「まぁ、癒やされようぜ?」

 ポンとユウの肩を叩いて、スタスタと歩き出す。

 後ろから小さい溜め息が聞こえたが、俺は聞こえない振りをした。

 大浴場の脱衣所には人影は無く、サッサと服を脱いでタオルだけ掴むと、引き戸になっている木の扉を開けて中へと入る。

 「ラッキー、貸し切りじゃん」

 先ずはシャワーで全身を洗って、濡れたタオルを絞ると、湯船の縁にタオルを置いて温泉へと入る。

 「ッ……、おぁ~~~……ッ」

 湯船に浸かって声を出すと、体を洗い終わって入ろうとしているユウが

 「おっさんかよ」

 と、笑いながら脚を湯船へと入れていて……、久し振りに見る恋人の裸に、俺は一瞬目を奪われるが、フイと逸らすと

 「イヤ……、おっさんだろ?」

 ニヤニヤと笑いながら俺の隣に腰を落ち着けたユウも

 「ッ、あ゛~~~……」

 と、気持ち良さそうな声をあげるので、俺はブハッと吹き出して

 「イヤ、お前も言ってんじゃん」

 笑いながら突っ込む俺に

 「イヤ、これは言っちゃうなッ」

 と、二人顔を突き合わせて笑い合う。

 「はぁ~、マジで気持ち良いな」

 「そうだな」

 二人並んで、ゆったりと温泉に浸かっていれば、他愛もない会話が弾む。

 もう一つの露天風呂へも行こうと思っているユウは、こっちで長居するつもりも無く

 「そろそろ露天風呂の方も行ってみるか?」

 と、誘ってくるので

 「……、そうだな」

 少しのぼせそうな体を俺は起して、俺達は大浴場を後にする。

 露天風呂の方も仲居さんが言っていたように、眺めが凄く良かった。

 目の前が海なのでは?と思うような湖で、景色の良さにテンションが二人とも上がってしまいそれこそ長風呂してしまったくらいだ。俺は何度か足だけ湯船に浸かって、上半身は風呂から出て木の縁に座っていたが、ユウは結構長風呂も平気みたいで、部屋に帰る頃には指先がシワシワになっていておかしかった。

 風呂から出て部屋でゴロゴロしていたら、夕飯が到着。

 普段とは違う豪華な料理に酒で、二人とも気分が上がって普段の仕事の愚痴や共通の友達の話で盛り上がって、もう一度酒が抜けた頃に今度は部屋の内風呂に入って明日はその辺を散策しようとベッドに入った。

 今日一日、俺はここまで車を運転して来たし、風呂に入るのも結構体力を使う。

 ベッドに入ると、直ぐに心地良い疲労感とベッドの肌触りやスプリングのクッションにウトウトしていると、ギシリッとベッドが軋んで沈む。

 「……ン……?」

 沈んだ方に顔を向けて、薄っすらと目を開けると、ユウが俺を覗き込む感じで見ていて

 「どうした……?」

 少し掠れた声で俺が呟くと

 「………ッ、しないのか?」

 戸惑い気味にユウが呟き、俺は目を見開く。

 ……………、こうやってユウから誘われるのは、いつ振りだろうか?

 だけど俺は布団の中にある手をギュッと握って、ヘラッと笑うと

 「明日、早いだろ?それに……、色々見て周るじゃん……」

 明日の事を考えて……と、出来るだけ遠回しに断わると、ユウは一瞬グッと口元を引き結んで布団の中に手を伸ばしてくる。

 「チョッ、オイッ……」

 「勃ってる……」

 「ッ……」

 パンツの上からユウの指が確かめるように俺のモノをスリッと撫でて呟くから、俺は一瞬息を飲み込んでどう言おうかと考えていると、ユウの指は明確な意思を持って俺のモノをギュッと握ると、上下に指を動かし始める。

 「オイ………ッ、待てって」

 握った拳を緩めて、ユウの手首を掴んで止めると

 「……ッ、何で?」

 「だから、明日……」

 「そうじゃ無くて……ッ」

 最後までは言葉に出来ない感じでユウが口を閉じる。たが、目は俺を見ていて……。その表情に俺に何が言いたいのか解る。

 その表情に俺も一度唇に力を入れ、掴んでいるユウの手首をグイッと更に自分の方に引き寄せ、バランスを崩したユウが俺に覆い被さるような形で倒れてくるようにしてから、一度ユウを抱き締めると反対にクルリと態勢を返して、俺が上へと覆い被さる。

 「しても良いのか?」

 上からユウを見詰めて言った俺に、少し眉間に皺を寄せながら

 「俺から仕掛けたのに、それを聞くのか?」

 と返され、俺はユウの唇を奪う。

 「ンゥ……ッ」

 本当はいつだって、ユウを抱きたいと思っている。

 ゆるく合わさった歯列を自分の舌で押し開いて、口腔内へと舌を押し込み上顎の波打っている皮膚を舌先で愛撫すれば、無意識に回されたユウの腕が俺の首にかかると力が入った。

 久し振りのユウの体温を近くに感じて、俺は興奮してしまう。

 お互いに社会人になって仕事が忙しかった事もあるが、大学を卒業してから挿入込みのセックスの回数は劇的に減った。

 興奮しながらユウが着ている寝間着を下から巻くし上げるように手を滑らすと

 「ふ、ぁ……ッ、悠二……」

 合わさった唇をずらし、堪らずと言った感じでユウが喘ぐ。

 その声音にゾクと腰に重い感覚が広がり、俺は脇腹から伸ばした手を健気に立ち上がっている乳首へと移動させ人差し指の腹でスリと撫でる。

 たったそれだけの事で、ユウは息を詰めて顔を枕の方へと押し付けるように向ける。

 自分の愛撫で相手が気持ち良さそうになっているさまを見ると、もっと乱れさせたい衝動に駆られ、俺はユウの体の中心にもう片方の手を伸ばすと

 「アッ……」

 俺同様に勃ち上がったモノは、俺が触れるとビクンッと反応する。それと同時にユウの口から上擦った吐息が漏れ、俺はもう一度ユウの口を塞いだ。

 このまま滅茶苦茶にユウを抱き潰したい。

 俺はパンツの中に手を差し込み、下着の中で勃起しているモノを直接触ると、先端は既に先走りで濡れていて、それだけで脳が焼き切れそうなほど興奮してしまう。

 「ンゥッ……、悠二……ッ」

 口付けの合間に唇を離して、ユウが甘く俺の名前を呼ぶから、それに反応してまた深く唇を奪う。

 パンツの中で扱くのも窮屈で、俺は一度ユウのモノから手を離すと、下着ごとパンツを膝あたりまでずらし、露わになったモノを再度手の中に握り込むと先端の先走りを指先で擦り付け上下に扱き始める。

 「アッ……、フゥ……ッン」

 よりダイレクトに気持ち良い感覚がユウを包むのか、喉を仰け反らしてギュッとシーツを掴む痴態に、俺は獰猛な感情が湧き上がると、仰け反った喉に歯をあててしまうが

 「ヒ、ン……ッ、悠、二ッ……、止めッ」

 そのままガブリと興奮で噛んでしまいそうな衝動を、ユウの台詞が引き戻す。

 「……ッ、ゴメン……」

 はぁ~……。と一つ溜め息を吐き出して、喉にキスを落とし俺は顔を下へとずらして、扱いているモノへと舌を伸ばす。

 「えッ?……ッ、悠二ッ」

 俺が何をするのか解ったのか、ユウは少し慌てながら上半身を起き上がらせるが、それよりも早く俺がユウのモノに舌を這わせた事で息を呑む。

 視線をユウに向けると、バチリと視線が絡み途端にユウの顔が赤くなる。

 「ハッ……、可愛いな、ユウ」

 裏筋を舐めながら呟いた俺に

 「何を……ッ」

 恥ずかしさに上体を起して、俺の顔を離そうと頭に手を置いてくるユウより早く、俺は口を開けモノを口腔内へと含むと、ビクリッと頭に置かれた指先が跳ね

 「ンウゥ……ッ、ア……」

 と、切なそうにユウが喘ぐ。

 俺は唇でユウのモノを扱きながら、膝までずり落ちているパンツと下着を更にずらし脚から落とすと、閉じて俺の体の下にある脚を上体を少し浮かせて両サイドへと開き、その中に自分の体を入れ込む。

 舐めやすくなったモノに手を添えてカリ首に輪っかを作った指で扱きながら、鈴口を舌でチロチロと刺激すると、堪らないのか上半身を起き上がらせていたユウは、再びベッドへと沈んだ。

 「ゆう、じ……ッ、持ち、良い……ッ」

 「ん?気持ち良いか?」

 伸ばした舌をしまって聞くと、もっとして欲しそうに腰が浮いてくる。

 俺は少し笑い、もう一度ユウが気持ち良くなるように舌を伸ばす。

 久し振りに咥えた恋人の感触を刻みつけるように、執拗に愛撫を続ける。

 匂い、味、感触、俺を呼ぶ声に、俺によって乱れるユウの姿……全てを。

 俺はこの旅行を最後に、ユウと別れようと決めている。それは俺の感情だけではどうしようも無い事だからだ。

 多分、ユウも薄々は気付いている。

 楽しく旅行はしているが、ふと俺に見せる表情や、俺に何か言いたそうにしている雰囲気に、言わないが全身でそうだろう?と訴えかけているのは解るから。俺はその度に話を逸らそうとしたり聞こえなかった振りをする。出来るだけ最後までこの時間を引き延ばしたいから……。

 恋人で居られる時間を……。

 ジュブ、ジュポと音を立てながらユウのモノをフェラしていると、口の中でビクビクと痙攣し始めている。きっと絶頂が近い。

 俺は空いている方の手を再びユウの乳首へ伸ばすと、立ち上がっている果実を抓み引っ張る。

 「ヒゥッ……、悠、二ッ……もぅ……ッ」

 浮いた腰が上下に揺れているユウに興奮して、俺も自分の下着の中で先走りが射精のように溢れ気持ちが悪い。

 乳首を愛撫していた手を堪らずに自分のモノへと伸ばすと、パンツと下着をずらし勃ち上がったをキツく握りユウのをしゃぶりながら扱く。

 ユウの内壁を反芻し、扱く手に圧を加えながら上下に動かすと直ぐに達してしまいそうになる。

 「アッ、アァ……、ゆう……もぅッ、も……ッ」

 ビクビクとユウの内腿が痙攣している。俺は亀頭をツルリと唇で覆うと、ジュウゥッと舌を絡ませて吸う。

 「ンアッ……、出るッ……イ……ッ!」

 一度ビクリッと腰を跳ねさせ、次いでビクビクと震えながら何度かに分けて俺の口の中でユウが達する。

 口の中に広がった青臭い液体を嚥下しながら、俺もまた自分の手の中に射精してしまった。

 チュルリと尿道にある精液も吸い取るようにしユックリと口からモノを離すと、直ぐにユウから離れて、テーブルの上にあるティッシュを取りに行く。

 「悠二……?」

 俺の後ろからユウが声をかけるので、俺はティッシュを何枚か取って自分の手を拭いながら後ろを振り返る。

 するとユウは戸惑い気味に

 「……ッ、最後まで……しないのか?」

 呟いたユウに俺は苦笑いしながら

 「だから……、明日早いだろ……?」

 拭ったティッシュをテーブルに放り投げて、俺はベッドの上で固まっているユウに近付くと隣に寝転がり

 「ホラ、布団かけて」

 サイドに丸まっている布団を引き寄せると、ユウと自分にかけてユウを抱き締める。

 「本当に、しないのか?」

 眉間に皺を寄せて再度俺に確認のように呟く恋人の唇にチュッと音を立てて軽くキスをし

 「もぅ寝よう。するなら明日な……」

 自分の胸にユウの額を押し付けるようにして抱き締めると、俺は天井に顔を向けて目を閉じる。

 しばらくするとユウは諦めたのか一つ溜め息を吐き出して、そのまま眠りにつく。

 規則正しい寝息が聞こえてくると、俺は目を開きユウの方へと顔を向け、額にかかった前髪を指先で梳いて寝顔を見詰める。

 この旅行が終わったら、ユウと別れようと決めた理由をふと振り返る。

 高校時代はお互いに初めてできた恋人で、しかもユウはノーマルだった。人前で普通に手を繋ぐ事も、キスする事も出来ない俺を当時のユウが選んでくれた事自体俺にとっては奇跡で、できるだけ寂しい思いや嫌な気持ちにさせまいと、言える時には自分の気持ちを伝えていた。その時はそれで良かった。お互いに高校生だし、焦って直ぐに体も繋げたく無かった俺は、ままごとみたいな付き合いで十分に満足していたし、時間はこれから幾らでもあると思っていたから。

 初めて体を繋げたのは大学に入って、一緒に暮らすようになってからだ。

 それまではお互い実家暮らしだったし、親の目があるから抜き合いはしても、最後までする事はしなかった。同じ大学を受験して二人とも受かって、ルームシェアという名目で親を説得して暮らすようになった。

 一番蜜月だった時期は、大学の時だ。

 誰の目も気にせず、好きな事ができていたから。だがそれも卒業間近になって、突然二人暮しをしている部屋にユウの母親が訪ねてきて、言われた一言で終わってしまう。

 『卒業後は勿論別々で暮らすわよね?』

 ……………。おばさんはきっと何か思うところがあったのだと思う。

 その日、ユウは一限から講義で部屋に居らず、俺しか居なかった。今となってはどうしてそのタイミングで……とは思っていない。きっと解った上で俺に言いに来たんだと思っている。

 ユウのところは母親と二人で、ユウは一人っ子だ。いつまで経っても彼女を作らないユウを度々心配していたのも知っているし、俺に誰か紹介できる女の子はいないかと言ってきた事もある。

 それを言う時は決まってユウがいない時だった。

 俺はそれをおばさんから言われてもユウに言った事は無い。

 ………、ユウに言えば良かったのか、今でも解らない。けど、言えば悲しむか、怒るかの想像しか出来なかったから、隠すようで申し訳無かったが言えなかった。

 お互いに就職先が決まって大学卒業間近に、俺からルームシェアの解消を申し出た。

 ユウは最後まで嫌がったけど、職場の場所を言い訳にしてそれぞれ一人暮らしを始めて……、それから俺がユウをあまり抱かなくなった。

 俺の中でおばさんに言われた事はショックだったし、牽制されてるんだろうなって……感じたが、それ以上におばさんの気持ちも理解できる自分がいたから……。

 「う……ん……」

 抱き締めているユウが少し吐息を吐きながら寝返りをうつので、俺は腕を解いて楽な態勢になるようにする。

 俺から背中を向けるような形で再び寝息をかき始めたユウを横目に、俺は体ごと天井を仰ぐ。

 働きだして、学生の時とは違って会う時間も少なくなった。会ったらユウは俺に抱かれたがったけど、最後まで抱いて良いのか俺に迷いが生じて……、抜き合いの方が多くなった。

 手放した方が、ユウの為。

 その頃からその事が頭の中をグルグル、グルグル回って……。けれど、出来ずに今日まできてしまった。

 俺の気持ちは、昔のままだ。出来れば別れたくない。

 「……………。ケド、ユウは戻れるだろ?」

 天井に向かって呟いた言葉に、俺は苦笑いを吐き出す。

 働きだして何年目かに、久し振りにユウの部屋へと泊まりに行った事がある。宅飲みして、それぞれ風呂に入るってなって、ユウが先に入っている時に仕事の後輩から電話があって、少し調べ物でユウのパソコンを開いた。その時に本当に魔が差したっていうか……、検索履歴を見てしまったのだ。

 そこにはまぁ……、成人男子ならではの履歴があって……。けれど、俺にとってはそれは結構な衝撃で……。

 いわゆるAVっていわれる画像だったのだが、男女モノで……。その時に、ユウはまだ女で抜けるんだな。と確信した時のショックは俺にとって結構大きく……。

 元々ノーマルだし、変では無い。けれど大学の時から俺に抱かれていたわけだし……。そりゃぁ、社会人になってからそういう行為自体俺がユウに遠慮して、劇的に減ったけど……、抜く時は女で抜くんだと突き付けられた現実に、俺は叩きのめされた。

 それを見てからは、益々ユウとの行為は減った。かといって他の奴に目移りするわけでも無くて……。

 徐々に、考えたくないけれど、これから先の事を考えるようになった。

 歳を重ねる度、一緒にいれる理由が無くなっていく。俺達の周りでも早い奴はもう結婚していくし、子供が出来てくる。

 それは世間一般に普通の事。俺は元々がゲイだし、家族にはカミングアウトはしていないにしろ兄弟がいる為、そこまで自分に結婚や孫の事を親から言われた事が無い。

 けどユウは違う。

 おばさんと二人家族で、ユウも元々ノーマル。しようと思えば結婚や子供は望めば手が届くのだ。それを俺が邪魔している。

 二人の気持ちが一番だってのは理解しているが、学生の時みたいにその気持ちのままに押し通す我儘を、優しいユウが出来るのか……。

 俺は目を閉じて、重い溜め息を一つ吐き出すと、考えている思考を止めた。



          ◇



 「悠二、ソロソロ起きろよ」

 「う゛……ん」

 薄っすらと目を開くと、上から俺の顔を覗き込むユウがいて

 「おはよ……」

 一言そう呟いて、俺はゴソゴソと起き上がる。

 「風呂、入るのか?」

 「イヤ……大丈夫」

 低血圧の俺はベッドの上でボーっとしていると

 「だろうな、俺は入って来たけど」

 そういうユウの顔を見ると、ドヤっとキメ顔で俺を見詰めているので、俺はフッと笑うと

 「そこの内風呂入ったのか?」

 と、尋ねる。すると

 「イヤ、昨日悠二が風呂に入ってる隙にフロントに電話して予約してたから」

 「……、そか」

 ファッと欠伸して、両手を上へと突き出し伸びをすると、俺はベッドから出て顔を洗いに行こうとテーブルに視線を向ける。と、昨日俺が出して拭ったティッシュが無くなっていて、?と思う。そうして、隣のベッドへと視線を投げると、昨日ユウと一緒に寝たはずなのにユウ側のベッドが少し乱れている。

 俺は、あぁ……。と納得して、洗面所に足を向けた。
 ユウは人の目を気にする。

 きっとベッドが一つしか乱れてないのは不自然だと思って、俺が寝ている隙に乱したのだと思う。多分、昨日のティッシュも部屋のゴミ箱には入って無いだろう。きっとユウが隠し持っているはずだ。

 「……………、いけない事は、してないはずなのにな……」

 バシャバシャと洗って上げた顔が鏡に映り、自分の顔にそう呟いて一つ溜め息を吐く。

 ユウにとって、今回の旅行は楽しいのだろうか?誘って良かったのか?迷いが出てくる。けれど俺は頭を左右に振って、その考えを打ち消すと手近にあったタオルを掴んで、顔を拭う。

 身支度を整えた後に、タイミング良く朝食が運ばれてくる。

 ユウは仲居さんに温泉が良かったと二、三挨拶を交わしていて、俺はそれを微笑ましく見ていてだけ。
 朝食が終わり、少し部屋でゆっくりしてから散策に出た。

 取り敢えずユウが仲居さんに教えてもらっていたオススメのところを何ヶ所か周って、途中、途中で何かをつまみながら歩き、職場の人へのお土産を見て回っていた。

 「ちょっとトイレ行ってくるわ」

 俺は、真剣にお土産を選んでいるユウに一言声をかけて、トイレへと向かう。

 久し振りにユウと出掛けて、気分が良い。

 何が一番かって、誰も俺達の事を知らないのが良い。地元だとどこで誰に会うかもと思わないといけないし、何となくお互い気を張っているのが解る。

 「……、色々、旅行とか行っとけば良かったな……」

 手を洗いながらそう呟く。

 ユウが行きたいと言っていた所に、色々と一緒に行っていれば、こういう楽しい事が増えたのかも知れない。

 傍から見れば友人同士で、ホテルとか旅館では気を使わないといけないが、こうして楽しい事の方が多いと解っていれば、旅行も悪くなかった。

 「まぁ……、今更、だよな……」

 手を乾かしてトイレから出ると、ユウの姿が無い。
 外に出てるのか?と、店から出るとユウが女の人達に絡まれていた。

 ドクッ。

 写真でも撮ってと頼まれていたのだろうか?和やかに話をするユウに、一人の女の人がユウの腕にソッと触れている。

 俺はその情景を見て、何週間か前の光景が蘇る。

 その日俺は久し振りに連勤と残業が終わり、知り合いの飲み屋に顔を出した。疲れていた事もあって直ぐに酔っ払った俺は、いつもより早目に飲み屋を後にして自分の家へと帰っていた。

 知り合いの飲み屋は繁華街にあり、その近くにはラブホ街がある。いつもはそのラブホ街は通らないのだが、道をショートカットするにはそこを通れば早い事を俺は知っていた。

 結構酒が足にキていたし、早く大通りに出てタクシーを捕まえたかった俺は、フラリとラブホ街へと足を踏み入れて、そこでユウと女の人がラブホから出てくるのを目撃してしまったのだ。

 最初は見間違いだと思って、足を止めて目を両手で擦った。その後にもう一度、確認するように見詰めると見間違いなくそれはユウで……。

 女の人と仲良さげに腕を組んで歩いていく後ろ姿を見送って、そこから俺はどうやって家まで帰ったのか記憶が曖昧だ。

 ……………、それで今回の旅行を思い付いた。

 最後くらい良い思い出で終わろうと考えた末に出した答えが旅行だったから……。

 ユウは、女の人も愛する事が出来る。

 今も目の前で女の人と和やかに会話をしているユウを見ると、これが普通だと突き付けられているようで胸が痛む。

 俺には決して与えられないモノをユウに与えられる人達。

 「悠二」

 ユウが俺に気が付いて、女の人達からこちらに向かってくる。

 「大丈夫だったのか?」

 一言呟いて、何が大丈夫なのかと心の中で自分に突っ込みを入れるが

 「何がだよ?ただ写真撮ってくれって頼まれてただけだし」

 「そうか……」

 ユウにも突っ込まれ、俺は苦笑いを浮かべて歩き出す。

 それから直ぐに宿に戻って、朝ユウがフロントで予約をしていた温泉に二人で浸かりに行って、ユウはこれで温泉はコンプリートしたと嬉しそうに笑っていて……。

 上がって部屋ヘ戻り、夕飯までのんびり過ごしていると

 「なぁ」

 ベッドの上でウトウトしていた俺に、テーブルでテレビを見ていたユウが声をかける。

 「んぁ?」

 呼ばれた俺は顔だけ少し起して一瞬ユウを見詰めて、枕にまた顔を沈めると

 「今日は最後まで、してくれんだろ?」

 テレビの雑音に混じって聞こえた台詞に、俺は閉じていた目を開け

 「ん~~……、まぁ、ユウが良ければ?」

 と、曖昧な返事を返す。

 俺の返事にユウはテレビを消して、ベッドへと近付くと

 「イヤ、昨日も俺から誘ってんだけど?」

 少しムッとしたような言い方に、俺は鼻から溜め息を吐き出し上半身を起こして、近くまで来ていたユウをおいでと呼ぶ。

 ユウはムッとした表情を崩さずに俺のベッドの端へと腰を落ち着けると

 「悠二さ……、何考えてる?」

 ズバリと聞いてきたユウの台詞に、俺は苦笑いを向けて

 「何、どうした?」

 今、その質問の答えを言えない俺は、逆にユウに聞き返してしまう。

 明日までは、ユウと恋人関係でいたい。

 俺の返答が不服なのだろう。俺の返しにユウは一度グッと唇に力を入れて

 「お前……、最近変だよ……」

 言いにくそうに呟くユウの言葉に、俺は肩を竦めて

 「まぁ……、柄じゃ無い事ばっかしてるからな……」

 と躱すと、ギッとユウが俺を睨んで

 「そういう事を言ってるんじゃ……ッ」

 「失礼します。お食事お持ち致しましたが、ご用意しても宜しいでしょうか?」

 「あ、お願いします」

 タイミング良く料理を持ってきてくれた仲居さんに、寝転がっていたベッドから俺は起き上がると、テーブルの方へと移動する。チラリと後ろにいるユウを盗み見れば、バツの悪そうな表情でこちらを見ていて……。

 俺はそれを無視した。

 カチャカチャと箸と食器があたる音しか部屋に響かない。

 俺もユウも無言のまま、向かい合ってただ食事をしている。

 ユウはきっと俺から何らかしらの確信めいた言葉が欲しいんだと思う。

 ………、きっと別れ話だと勘づいていて、その後にユウがどうしたいのかは解らないが、俺と話をしたいんだと思う。けど、俺は別れるっていう以外の選択肢を、今回は無くしたから……。

 今までだって何度か別れ話はしてきていた。

 それはいつもユウからで、一番最初は大学卒業後の同居を解消した時。俺から解消しようと話を持ち出して、不安になったユウが別れたいと俺に言ってきた。

 その時俺は、まだユウと別れるという選択肢は無かったから、同居は解消してもユウとの関係は解消しないと言ったと思う。それでユウも落ち着いてくれて……。おばさんの希望には最終的には沿えない形になったけど、別々に暮らすっていうところは俺にとっても結構苦痛で……、それは実行したから許して欲しい……と、我儘だけどその時はそれが俺に出来る精一杯だったから……。

 でもそれから俺はユウとセックスをあまりしなくなって、遊びに行くことも減った。

 正直、どうして良いのか解らなかったって言うのが本音だ。

 おばさんやユウの事を考えれば、早く別れた方が良いのは理解していたが、それでも俺の欲を優先させれば、別れたく無かった。

 それが徐々にユウに対して態度に出るようになった結果がセックスレスとかというか……最後まではしない結果で……。

 ユウも不安だったと思う。

 俺から別れたくないと言われているのに、今までのように抱かれないし、どこにも行ってくれない恋人に……。だから衝突することも増えて、何度か別れたい。とも言われた。

 けれど、ユウの事を好きだという気持ちは俺自身変わらなかったから……。手放せなかった。

 でも、今回のユウが女の人とラブホから出てくるのを目撃した事で、俺の中でケジメがついたというか……。

 もうこれ以上俺がユウを引き留めるモノが無いと突き付けられたというか……。

 「………、なぁ……」

 夕飯を食べ終えた俺が、箸をお盆に置いてユウに声をかける。

 ユウは一瞬俺にチラリと視線を寄越したが、不機嫌なまま無言で聞き流している。俺はフッと口元を歪めて何も言わないユウに

 「今日、抱いて良いんだよな?」

 俺は真っ直ぐにユウを見詰めてそう呟くと、ユウは意外そうな表情を俺に向けて

 「……ッ、え、でも……」

 戸惑いながら口ごもるユウに、俺は席を立ちながら
 「お前が昨日抱いても良いって言ったんだぞ?良いんだろ?」

 テーブルの近くに置いてある自分のバッグの中から、風呂に入る為の下着や寝間着を取り出しながら言う俺に

 「………、嫌じゃないのかよ?」

 「俺が?そんなワケ無いだろ?……、先に風呂入ってる」

 部屋の外に出て、中庭みたいになっている所にある内風呂に一人で浸かっていると、食事を下げにきた仲居さんとユウが少し会話していて、俺はバシャバシャとお湯を自分の顔にかけて足を伸ばす。

 俺が風呂から上がると、部屋の中は綺麗になっていて、食事は下げられていた。ユウとは結局入れ違いで風呂に入る感じになってしまい、ユウが出て来る前に俺はバスタオルを何枚かベッドの上に敷いて、バッグの中に入れていたゴムとローションを枕の下に突っ込んでから、スマホでユーチューブを見ながら暇を潰していた。

 風呂から上がったユウは洗面所でドライヤーをかけて、部屋へと戻ってくると自分の方のベッドへと腰を落とす。

 「オイ、何やってる?」

 「何が?」

 「何が?じゃ無いだろ?ヤラねーのかよ?」

 「ッ……」

 直接的な俺の台詞に、ユウは少し戸惑い気味に俺を見返すと

 「昨日は、乗り気じゃ無かったクセに……」

 と、ブツブツ言いながら俺の方のベッドへと移動してくる。

 「だから、昨日は今日が早いからって言っただろ?」

 ベッドへと腰を下ろしたユウの後ろから俺は腕を伸ばして抱き締めると、項に鼻筋を押し付けて匂いを嗅ぐ。

 「チョッ……悠二」

 「風呂上がりだから、いい匂いだな」

 そのままチュッ、チュッと音を立てて項に何度かキスを落とすと、ユウはヒクリと肩を震わせる。

 抱き締めている片手をユウの顎に伸ばしてこちらに顔を振り向かせると、そのまま唇を奪う。

 「ンウゥッ……、ンッ、ンッ……」

 頬の内側をくすぐるように舌先でなぞると、ユウは眉間に皺を寄せてむずがるように体を捩る。

 その反応に俺もゾクリと煽られ、着ている服の裾からもう片方の手をスルリと中へと入れると、肌触りを楽しむようにゆっくりと指先を上へ移動させる。

 「ンッ……、フウゥ……ッ」

 指先を滑らすとあたった乳首を指の腹で何度か擦るように上下に愛撫すると、その度にユウがピクピクと体を震わせる。俺は、滑らせていた指をクッと折り曲げて、今度は引っ掻くように乳首を掻くと

 「ン、ンッ、フゥン……ッ」

 鼻から抜ける甘い吐息に俺は唇を離して、後ろから捻るようにユウを半回転させると、ベッドへと縫い付け俺が上ヘ覆い被さる態勢をとる。

 もう一度上からユウの唇を奪いながら、今度は服を捲し上げ露わになったユウの乳首ヘ指を這わせ、今度は抓り少し引っ張るとビクンッと反応して、胸を突き上げるように背中がしなるので、俺は唇を離して

 「ん?気持ち良いか?」

 聞きながらユウの頭を空いたもう片方の手で撫でると

 「ンゥ……ッ、気持ち……良い……」

 撫でている手にスリと頭を押し付けるように少し顔を傾けながら素直にユウが呟く。

 薄っすらと俺の顔を盗み見るように開いたユウの目と視線が絡めば、ゾクリと腹の奥に重い熱がこもる。

 俺はグッと奥歯を噛み締め、頭から手を退けてユウが穿いているパンツと下着を一緒くたに掴みそのまま下へとずりおろす。

 「アッ……」

 俺がそうするなんて思って無かったのか、ユウは小さく喘いで手を伸ばしてくるが、その時にはもう半分勃ち上がっているモノが俺の目の前に晒されていて……。

 ゴクリッ。

 恋人の痴態を見て、あからさまに喉が鳴る。

 俺は一度軽くユウにキスするために、上半身を伸ばしてチュッと音を立ててキスをすると、そのまま唇を滑らせて顎、首筋と……唇を這わせていく。

 鎖骨で強く吸い付きたい衝動に駆られるが、グッと堪えて先程まで指先で愛撫していた乳首へと辿り着き、ユウに見せ付けるように舌を伸ばして先端をチラチラと微かに触れる感じで舌を掠めると

 「ンゥ……ッ、ゆう、じ……」

 それが焦れったいのか、俺の方へと視線を向けながらもっと直接的に舐めて欲しそうに、ユウが胸を付き出す。

 俺は舌先をもう少し乳首にあてて先端で転がすように動かすと

 「アッ……、ン、気持ち、良い……ッ」

 素直にユウが俺の愛撫に喘ぐから……

 ジュゥッと舐めていた先端を吸いながら、指先でもう片方の乳首を爪先でカリカリと弾くようにすれば、ユウの腰が浮いて微かに上下に動いている。

 その振動を自分の腹に感じながら、吸っていた乳首を優しく歯で挟むように咥えると、キュッと甘く力を加える。

 「アッ!……ッンンゥ……、ゆう、じ……ッ」

 少し強い刺激が堪らなかったのか、ユウは俺の頭に指を差し入れ軽く髪を掻き混ぜるようにクシャリと遊ぶと

 「……ッ、もっと……して……」

 呟いた台詞にどんな顔でと……、視線を上にあげると、眉間に深く皺が寄り眉尻が下がって、目が潤んでいる。

 そんな気持ち良さそうな顔をさせているのが自分なのだと思うと堪らなくなって、指先で乳首を弄っていた片方の手をユウの中心へと伸ばすと、半勃ちだったモノは期待でガチガチになっていて……、俺はカリ首を締めるように手で輪っかを作り、ユックリと上下に擦り上げた。

 「ハァ……ッ、ゆ、じ……止め……ッ」

 「あ?止めて欲しいのか?」

 扱くと途端に鈴口からはプクリと透明な先走りが出てきて、俺はそれを指に絡ませながら指に圧を加えていく。乳首を舐めながらユウが言った台詞にそう返すと、歯先が乳首を掠めるのかビクビクと体を震わせて息を呑むユウの反応に

 「もっとして欲しいだろ?」

 言い終わるとジュッと乳首に吸い付き、ユウの顔の横に置いていた手で乳首を抓ると、扱いていたユウの竿がビクンッと跳ねて、グッと大きくなる。

 「ハハッ……、素直な体……ッ」

 意地悪く呟いた俺の髪を、一度グッと掴むとユウは頭から手を離してシーツと枕をそれぞれの手で掴み、快感の波に呑まれていく。

 俺の下で気持ち良さそうに喘いでいるユウを見詰め、こんなにもユウの体を変えたのは自分だとの想いが込み上げる。

 初めて体を繋げてから徐々に俺好みに変えた。最初はすんなりとユウに受け入れてはもらえなかった。時間をかけてユックリとユウの体が俺に馴染むまで何度も何度も抱き合って……。乳首でさえも当初はくすぐったいと言っていたのに、今ではもうそこは感じるところだと認識している。

 俺無しでは駄目になって欲しかった。

 女ではイケ無い体になって欲しかった。

 けれど女を抱けるのだと突きつけられた先日の事を思い出せば、俺がユウから身を引けばきっとユウは普通の幸せを手にする事が出来る。

 そう思えば最後に滅茶苦茶に抱き潰してしまいたい思いと、優しく抱きたいと思う気持ちの間で感情がグチャグチャだ。

 「悠二……?」

 「あ……?」

 行為の最中にボォとしてしまっていた俺に、ユウは訝しげな顔と共に俺の名前を呼ぶ。

 呼ばれて俺はハッとすると

 「……、ゴメン……ッ」

 聞こえるか聞こえないか位の小さな返事を返して、俺は握って扱いていたユウのモノへと顔を近付ける。

 そうして先端から涙を流しているところへ、一度吸い付くように唇をあててから口腔内へと含む。

 「ッ、ア~~……」

 俺にそうされる事を予想出来ていても、緩く間延びした喘ぎがユウの口から漏れる。

 唇を上下に動かしながら舌先で裏筋から鈴口をチラチラと舐めねぶれば、先程よりも先走りが溢れ出し俺はコクリと喉を鳴らす。

 「ア、アァッ……、ゆう、じッ……ゆう……ッンンゥ……」

 ユウも堪らないのか、徐々に腰が浮いてヘコヘコと俺の喉奥にあたるように腰を振り始めるので、俺は唇と頬を窄めキュウゥッと竿を絞るように圧をかけると、ビクビクとユウの内腿が痙攣するタイミングで唇を離した。

 「……ッ、なん、で……」

 そのまま気持ち良く射精できると思っていたユウは、少し恨めしそうに顔だけ俺の方に向けて呟いている。

 俺は唇を離して、一度ユウの方へと体を寄せ枕の下にあるローションとゴムを掴み、ユウの体の下敷きになっている掛け布団を引き抜くと、ベッドの下へと落とす。

 シーツの上には俺が設置したバスタオルがあって、その上に自分が乗っている事を理解したユウは

 「……ッ、準備万端かよ……」

 まさか自分が風呂に入っている間に、俺がこんな事をしていたとは思って無かったのか、そう呟くユウに

 「だから、今日は抱くって言っただろ?」

 俺は言いながら自分が着ていた服を脱ぎ、ユウの内腿にキツく口付けると薄っすらとついた赤い花びらに、眉間の皺を寄せる。

 今更こんなものを付けたところで、何の意味も無くなるが、今だけは俺の好きなようにユウを愛したいのだ。

 傍らに置いたゴムの箱から一つ取り出すと、パッケージを破いてぬるついたゴムをつまみ、時折ピクピクと揺れているユウのモノへ装着する。

 「これで、気になら無いだろ?」

 「ッ……」

 今日の朝、昨日の情事の跡をユウは綺麗に処理していた。

 気になるのだ。誰に俺達の事がバレるかも知れないと。けれど、処理した事を出来れば俺にも知られたくない。

 それは、俺がそれを知って傷付くかも知れないと思うユウの気持ちからだと解っている。だが、朝起きて綺麗に片付けられた部屋と不自然に皺の寄ったベッドを見れば、俺達が何か悪い事をしているようで……。

 俺もユウに対して口には出さないが、そういう事の積み重ねが俺達の間に距離を生んだのだろう。

 お互いに、言えない事や隠し事もある。

 それを全て曝け出せるほど子供でも無くなってしまったのだ。

 好きという感情だけではずっと側にはいられない。
 年々現実を突き付けられて、俺もユウも気持ちが疲弊していく。

 一緒にいる事への言い訳が難しくなる事への不安や、ユウには更に母親というバックボーンも重く伸し掛かっている。

 ーーーーーー、だから。

 俺はゴムの側にあるローションを持つと、蓋をパカリと開けて液体を自分の手に垂らし、何度か手に馴染むようにグッパを繰り返すと、少し体温で温まったそれをユウの最奥にある蕾へと塗り付ける。

 指先で縁をなぞれば、ヒクヒクと入口が収縮して俺の指を誘っているのが解り、俺はユックリと一本手のひらを上に向けて中指を蕾の中へと入れると

 「ッ……、ン、クぅ……ッ」

 堪らずと言った感じでユウの口から吐息が漏れ、中に入れた中指をクンッと上へと押し上げれば

 「ヒァッ……、ア、アァ……ッ」

 押し上げた指先にコリッと膨らんだか所があたり、あたった瞬間に俺の指を内壁がキュウゥッと食い締め、次いではまとわりつくように収縮するので、俺は中指に沿わせて人差し指も一緒に中へと入れる。

 俺の指は自分で意識しなくても内壁が中へと蠢くので、苦もなくスムーズに迎え入れられ俺は先程押していた前立腺を指で挟むとギュッと両側から圧を加えていく。

 「ンウゥッ……、ハァ……、ア、持ち……良い……ッ」

 先程よりも両側から潰される方が気持ち良いのか、ユウの声音が一段高くなる。俺はその声に煽られて我慢できずにパンツの中でガチガチになっている自分のモノを取り出すと、ユウを愛撫しながら自分のモノも扱き上げていく。

 ……ッ、ハァ、入れたい。この狭くて……あったかいところに……ッ、俺のを、入れて……滅茶苦茶に腰を振りたい……ッ。

 差し入れた蕾は良いところにあたる度に、入口が俺の指を締め付ける。それが視界に入れば早くその中に自分のモノを押し込みたい衝動に駆られるが、もう少し馴染むまで我慢する。

 二本の指が馴染んだ頃に、今度は薬指もユックリと入れる為一度ローションを入り口へと垂らしてから三本の指を内壁へと入れ込み、前立腺よりも少し奥まで挿入し押し開くように指を動かす。

 「……ッァ、ゆう……ッ、も、……大丈、夫……だから……ッ」

 再びユウが顔を持ち上げて、懇願するように俺に呟く。

 その台詞に俺はユウの中から指を引き抜くと、自分のモノにもゴムを着けてローションを垂らし、何度か自分の手で扱きながらユウの最奥へと切っ先をあてがい何度か先端を蕾に擦り付け、ユックリと蕾を押し開くように腰を前へと進めた。

 「ハッ……、ァ、ア~~~……ッ」

 ユウの内壁は俺のモノを奥へと誘うようにうねっていて、もっていかれそうになる感覚に耐えながら指で押していた前立腺を、自分の亀頭で潰すように腰を動かすと

 「ヒァッ……、アァッ、アッ、……ッ気持ち……、良い……ッ」

 甘い喘ぎが恋人から漏れ出て、グワッと理性が焼き切れそうになる。奥歯を噛み締めて酷く腰を振ってしまいそうになる自分を抑え、ユウが気持ち良く蕩けるように重点的にそこを攻めると

 「ア……ッゆう、じ……、ゆう……ッ」

 ギュッと閉じたユウの目から生理的な涙がツッと溢れ落ち、顔の横にある俺の手を握るので、俺は顔を近付けて目から流れ出た涙を舌先で拭い、そのまま唇を移動させ喘いでいるユウの口を塞ぐ。

 「フウゥ……、ン、ンウゥッ……ンッ!ンクッ」

 キスするとより一層内壁が俺のモノへ絡み付き、キュンキュンと波打つように収縮し始める。ユウの限界が近い事が解って俺は前立腺から奥を捏ねるように腰を動かすのを変えると、ビクンッとユウが跳ねた。

 「イキそう?」

 唇を離してユウの耳元で呟くと、一度ギュウゥッと俺のモノが絞られ次いでは

 「アッ、……ヒ……ック……、イクッ」

 「ン……、イッて、良いよ」

 震える唇から気持ち良さ気にユウが呟いた刹那、俺が良いよと言った直後に腰を上下に小刻みに振りながら、ユウがゴムの中へと射精する。

 何度かに分けて射精すると、それに呼応するように中もビクビクと震えるので、俺はその快感に耐えるように奥歯を噛み締め、達さないようやり過ごすと、出し切ったゴムを外すために、何度かユウのモノを掴んで軽く扱きながら白濁が漏れないよう慎重にゴムを取り外すと、素早く口を括ってベッドの下へと落とした。

 肩で息をしているユウに軽く口付けてから、再びユウのモノへゴムを装着するため箱からパッケージを取り出し破る。

 「もッ……、イッた……」

 俺の動作を見ながら呟くユウに、俺は苦笑いをしながら

 「……、俺がまだだから……、頑張れそうか?」

 言いながら緩く腰を振ると、ビクビクとユウの体が踊って

 「ンウゥ……ッ」

 喉元を仰け反らせて、次いでは俺に視線を向けると、コクコクと緩く首を振るので俺はユウのモノを握って亀頭をクチュクチュと刺激する。

 「ハァ……ッ、ア、……ッイヤ……ゆう、じ……それ、止めッ……」

 「うん……、また勃ってきた……」

 強い刺激に腰を捩らせながらユウは喘ぎ、勃ち上がってきたモノに俺はゴムを再び着けると

 「もう少し、……奥入らせて……ッ」

 と、最後まで入れていなかった自分のモノをユウの中へと押し込んでいく。

 「ア゛……ッ、駄目、だ……ゆぅじっ……」

 「ッ……、ユウ……、お願い……ッ」

 あまり今までユウの奥を犯した事は無い。

 いつもならユウが気持ち良くなるところで止めていたが、今日はどうしても奥まで受け入れて欲しかった。

 俺はユウの耳元でそう呟く。すると食い締めてギチギチだった内壁が、フッと緩んだ瞬間に俺は腰を押し進めると輪っかみたいな引っ掛かりにカリ首の部分が嵌った途端、竿全体を絞られるようにギュチリと包まれる。

 「クァ……ッ」

 堪らずに声が漏れ出て、更に気持ち良くなりたい衝動に腰が前後に揺れてしまう。

 「ヒァッ……、ア゛~~~ッ、だ、めッ……だ……ッゆぅ……じ……それ゛ッ」

 腰を揺らせば、輪っかの部分にカリが引っ掛かるように出たり入ったりするのが駄目なのか、俺が突くたびにユウはビクリッと体を過剰に跳ねさせ、その度に俺を中で締め付けるから

 「ハッ……、駄目だ……イキ、そぅ……ッ」

 腰を動かす度に溶けそうなほどの快感が俺を蝕んでいく。

 「……ッ、て……ゆぅ、じ……、イ゛ッて……」

 俺の言葉に反応してユウが下からそう呟く。

 俺はその言葉に閉じていた目を開き、視線をユウへ向けると、俺の下で俺に揺すぶられながら必死に俺を見ている顔と出会えば、キュウゥと愛おしさが溢れて俺はユウの唇に噛み付くようなキスを落とす。

 「ンウ゛ゥッ!……ッ、ン゛、ンン゛~~~ッ!」

 唇を合わせて、イキそうな快感の中で自分本意に腰を打ち付ける俺に、ユウは握っていたシーツから手を離して俺の背中に腕を回すと、爪を立てる。

 「……ッ!!」

 その感覚だけが鮮明に感じて、俺は堪らずにユウの中で自分の欲望を手放した。


        ◇


 しばらく抱き合ったままでいたが、ずっとその態勢ではいられない。

 俺はゆっくりとユウの中から自分のモノを抜いて、バタリと横へ体を投げると

 「風呂行くの……、面倒臭い……」

 俺の隣でポソリと呟いたユウの台詞に

 「激しく同意だけど……、入らないとな」

 俺も天井を見ながらボソリと返事を返す。

 それからまたしばらくそのままでいたが、寝てしまいそうな自分を奮い立たせてモソリと起き上がり

 「ホラ、行こう」

 横で寝そべっているユウに手を伸ばして風呂へと誘うと、小さく溜め息を吐き出しながらユウは俺の手を取る。

 起き上がらせたユウのモノに着いているゴムを外して、自分のモノも同様に処理しバスタオルを持って二人で部屋の風呂へと入るが、本格的に入る事はしない。

 体に付いたローションやら、汗やら、唾液やら、をザッと洗い流すだけ。ついでにシーツの上に敷いていたバスタオルも洗ったけど……。

 簡単に洗い流して部屋へと戻り、ベッドの下に投げ捨てられたゴムをティッシュで包んでいると、ユウが自分のバッグの中から取り出したビニール袋を俺の前へと差し出す。

 その中には昨日俺がテーブルに投げていたティッシュが入っていて……、俺は一度チラリとユウを見て、無言でその中に包んだゴムを入れる。

 ユウも無言でそれを固く縛って自分のバッグの中へと入れ直すと

 「……………、寝るか」

 「そ、だな……」

 それだけ言葉を交わして、一度キスを交わすとその日はそれぞれのベッドへと入って眠りについた。



         ◇


 朝起きると、ユウは最後にもう一度部屋の風呂に入ったらしい。

 無言で朝食を食べて、宿を出る。

 帰りの車の中も特に会話らしい会話はしていない。一度寄ったパーキングエリアで、軽く会話をしながら昼食を食べてまた無言で車を走らせているだけ。

 車の中でかかっている音楽だけが、無言の俺達を唯一それで大丈夫だと慰めているようだ。

 夕方前にユウの自宅マンション前へと着いて、車を駐車場へと停めてから

 「はぁ、着いたな」

 「そうだな……」

 車のエンジンは切らずに呟いた俺に、ユウは少し緊張した感じでそう返す。

 そうして

 「……………ッ、何か言う事あるんだよな?」

 「……………、そうだな」

 ユウから切り出させてしまった自分に、苦笑いを浮かべて答え

 「別れようか、ユウ」

 視線をユウへと向けながらそう言った俺に、俺が何を言うのか解っていたユウは、既に眉間に皺を寄せてこちらを見ていて……

 「……………。理由、聞かせてくれないか?」

 苦しそうにそう吐き出すユウに、俺は考えていた理由を口にする。

 「お前の他に好きな奴が出来たから……」

 「……………ッ、そうか……」

 「うん……」

 本当は、そんな奴出来てはいない。

 たが、それが一番良い別れの理由だと俺は知っていた。

 俺にユウ以外で好きな人が出来れば、それ以上ユウも何も言えないし、俺も何も言えなくなるから。

 最後の最後で、ユウを責める気も無かった。

 なぜ俺に隠れて浮気したのか?とか、ね。

 責めて、別れてしまえばきっとユウは俺を忘れてしまう。喧嘩別れした普通の恋人として。

 これは、俺の最後のエゴだ。

 苦くても、フトした時に思い出して欲しいから。

 「………、良い奴なのか?」

 「え?」

 重い空気の中、ユウが呟いた台詞に俺はキョトンとすると

 「そいつ……、お前が好きな……相手」

 「まぁ……、そうだな」

 「そうか……」

 最後でも、俺の相手が気になってくれている事が嬉しい。

 そう思いフッと笑うと、俺がそいつの事を思い出して笑ったのかと勘違いしたユウは、おもむろにバッグを手に取り車のドアに手をかけて扉を開けると

 「……、じゃぁな」

 車から降りてドアを閉め、窓から顔を覗かせてそう呟く。

 「あぁ……、ゆっくり休めな?」

 「うん……お前も帰ったらゆっくりな」

 「おぅ、ありがとう」

 一度片手を上げて、これ以上ここに居れる理由が無くなった俺は、ハンドルを切って駐車場を出ていく。
 バッグミラーは、見れなかった。


         ◇


 バタンッ。

 「はぁ……、疲れた……」

 玄関が閉まった途端、俺はその場にバッグを落としてしゃがみ込む。

 ユウを送った後、どう運転して帰ってきたのか記憶が曖昧だ。

 こんなにも簡単に、呆気なく別れられるなんて、思ってもみなかった。

 十年だぞ?十年ッ!

 俺の一目惚れから今日まで、沢山の思い出が蘇る。

 「はぁ…………、マジで別れちまった……」

 震える唇から絞り出すように出た言葉に、ブワッと目の前の視界がぼやける。

 「はぁ……、マジで……ッ」

 鼻の奥がツンとして、玄関のコンクリートの上にパタタッと丸い染みが出来る。

 ……………、俺を選んで欲しかった。

 女じゃ無くて、ずっと一緒にいた俺を見て欲しかった。

 「……ッ、き、…………、好き、だった……ッ」

 おばさんからのプレッシャーとかもあったのだろうと思う。それに、ユウがおばさんの事を大切にしたいと想っていたのも知っているから。

 けれど、俺と一緒に歩いて行って欲しかった。

 「……ッヒ……、好き、だった……なぁ……」

 俺の手を、取って欲しかった。

 しばらく俺は、その場から動けずにいた。



          ◇


 「悠二~、年賀状きてるよ~」

 「んぁ~~……」

 あれから三年。

 俺は、生きている。

 人生で一番かっていう位の失恋を経験した後、言わずもがなどん底まで落ちた俺は立ち直るのに二年の月日を費やした。

 最初の一年はユウとの思い出がある自宅に帰るのが嫌過ぎて、遊びに遊びまくり殆ど家に居た記憶が無い。

 だが、知り合いの飲み屋で連日ナンパしていた俺に、その知り合いが

 『いい加減にしないと、自分の身を滅ぼすわよ?』

 と言われて、妙にゾッとしたのを覚えている。

 そこから逃げることを止めて、ちゃんと向き合おうと決めた俺は、先ず自宅にあるユウの物を処分する事から始めた。

 綺麗に整理されていけば、不思議と自分の気持ちも整理されていく。少しづつ、少しづつやり始めたから気付けばそれに一年ほどかかっていて……。まぁ、それと並行して引っ越しも考えていたから物件探しとかでも時間がかかったっていうのはある。

 で、一年前から新しい引っ越し先で暮らし始めて、遊びも止めてたところに新しい恋人もできてって……いう感じだ。

 「あ、これ前の住所から転送されてるやつだよ?」

 コタツの中でのんびり酒を飲んで、お正月の特番を見ている俺の前に、そう言いながら恋人が年賀状をヒラリと差し出してくるので、俺はそれを受け取りハタと動きを止めてしまう。

 「………、どうしたの?」

 俺の隣でコタツに入りながら、訝しげにそう聞いてくる相手に

 「イヤ、懐かしい奴から届いたから」

 「そうなん?」

 言いながら気になるのか、恋人は俺の持っている年賀状をピッと取り上げると

 「アハ、可愛いね~。同級とか?」

 「そうだな」

 笑顔で答える俺に、ふ~ん。と相槌を返してその年賀状をテーブルの上へと置く。

 そこにはユウと、ユウに抱かれて寝ている子供の写真があって……。

 俺は指先でそれをなぞって、笑えている自分に気付くと、隣で蜜柑を食べ始めた恋人を引き寄せた。




おしまい。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

TO-GD
2022.06.24 TO-GD

とても切なくて泣けました。
こういうジンワリと切ない物語が大好きです。
反対目線の物語も見てみたいです。

2022.06.24 庵慈莉仁

ご感想、ありがとうございます!
そう言って頂けて大変嬉しいです♡

一方の感情で話の展開を進めると、もう一方の感情は詳しく書けないので、当初どちらの視点で進めるか悩みました……(笑)短編でサクッと読めるものにしたかったので、今回は攻め視点にしました。

機会があれば、祐司視点の話も書けたら良いなと思います!

またお時間良かったら、他の話も覗いてやって下さい♡

解除

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