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第4話
しおりを挟む赤松のマンションの前で揃ってタクシーを降りた。足元のふらつく赤松を支えながら、真也はまだ外観も真新しい彼の自宅マンションを見上げる。
「すげーマンションだな……」
「そりゃな。嫁の為に気合い入れて買ったし」
自嘲気味に笑う赤松に、ほんのりと同情心のようなものが湧きあがる。
どういった経緯でそうなったのかは知る由もないが、ある程度の長い期間、共に連れ添ったパートナーと別れるという現実は頭では分かっていても受け入れ難いものだ。
そんな気持ちに寄り添えてしまうのは、自身も数ヶ月前に似たような経験をしているからだ。
* * *
『俺、結婚決まったから』
真也の別れた恋人というのは、男──。
半年後には学生時代から付き合っている彼女と結婚を控えているうえに、その彼女のお腹には──というありがちなやつだ。
結論から言えばこうだ。
恋人、友和は両性愛者で──真也と彼女、二人同時に関係を続けていた。
元を正せば付き合いの長いのは結婚相手である彼女の方だったらしい。いわゆる真也のほうがアソビの相手。
『──彼女とか、初耳だし。あんたゲイじゃなかったのかよ?』
言いたいこと聞きたいことは山ほどあった。けれど、それを聞いた、言ったところで何がどう変わる訳でもない。元々長く続く関係ではなかったのだ。男同士の恋愛なんて。
そもそも「恋愛」だったと思っていたのは真也のほうだけで、相手にしてみたら都合のいい遊び相手だったのかもしれない。
会えば必ず身体を繋げたのは、愛されていたわけではなくただの欲の吐け口。
あまり会えなかったのは、仕事のせいではなく、本命である彼女に会う時間を作っていただけのこと。
真也は、いとも簡単に切り捨てられたのだ。
まるで不要なゴミを片付けるように──。
* * *
足元のふらつく赤松をどうにか部屋まで運び込み、リビングのソファに座らせた。
広いリビングはまるで何処かのモデルルームのような洒落れた造りだが、ソファの隅には脱ぎ捨てられた物なのか、はたまた洗濯をした後の物なのか分からない衣類が積み上げられており、その雑然とした様に既にパートナーがこの部屋からいなくなった“男の一人暮らし”の様子が滲み出ていた。
「……水」
赤松がソファにもたれたまま呟いた。
真也は赤松から離れ、キッチンに向かうとそこにあった適当なグラスを見つけ手に取った。シンクの中にもコンビニ弁当の空箱や割り箸、使いっ放しのグラスやビールの空き缶が無造作に転がっている。
「冷蔵庫にミネラルウォーターとかあります?」
「いや」
赤松の返事に真也は水道水を豪快にグラスに注いで、そのグラスから水が滴った状態のままリビングに戻り赤松に差し出した。
「サンキュ。……悪りぃな」
「奥さん出てってどれくらい経つんすか? そもそもなんで離婚を?」
そう訊ねると赤松がグラスの水を半分ほど一気に飲み干して気怠そうに笑った。
「おまえ。直球だな」
「オブラートに包んだとこで、聞きたいことは同じですからね」
「……べつに。俺が悪かったんだよ、俺が」
そう言ったきり、赤松はそれ以上この件に関して一切口を開かなかった。
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