いつか、その想いを攫えたら

涼暮つき

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第18話

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 いつの間にか十二月に入り、街並みはクリスマスムード一色となった。街の至るところでイルミネーションが輝き、行き交う人々の服装も真冬の装いに様変わりした。
 赤松と最後に会ったのは十一月。もう三週間ほど顔を合わせていない。
 真也の方から、時折SNSのメッセージを入れてみるも、当たり障りのない返事は帰っては来るが約束を取り付けるまでには至らない。 
「二度としねぇ、ってそういう意味なのかよ」
 あの夜、赤松が言った言葉。
 受け取りようによってはどう解釈することもできるわけだが、乱暴なことをしない、という意味か、はたまたセックスをしないという意味か──二度と二人では会わないという意味か。
 どう捉えるべきだったのか、頭の中で常に考えている。
 赤松にしてみれば、真也の存在など特にどうということはない。所詮、何人かいるであろう飲み友達の一人が消えるというだけだ。
 結局、そこに行きつく。
 赤松にとって最優先事項は黒川で、真也などいくらでも後回しにできる程度の存在。
 近づきたくて、もっと知りたくて──。無理矢理にでも懐まで入り込んで、心の中まで暴いて。近づけたどころか、逆に遠ざけてしまったのかもしれない。
 身体に刻み込まれて消えない、感覚。
 初めてあの男に抱かれたとき、一度だけなんて本当は思ってなかった。
 一度が、二度になって、それがさらに三度になって、もっともっと──赤松が自分に嵌ればいいのに。それがダメなら、せめてこの身体が赤松を繋ぎとめられる武器になればいいのに、と。俺は心のどこかでそんなことを考えていた。
 赤松がどういうつもりかなんて本当は真也にとってどうでも良かった。
 ただ心地よかったのだ。あの男との時間が。

 外回りを終え、事務所に戻ると同僚たちがちょうど帰り支度をしながらこれから向かう居酒屋の店選びをしているところだった。そういえば今夜は金曜だったなどと思い出し、そんな楽しそうな同僚たちの姿を眺める。
「なー、灰原。おまえも久々に飲みに行かね?」
 ふいに声を掛けられた。
 飲みに出かけてこのクサクサとした気持ちを紛らわすのもいいかと、一瞬考えたが、そういった理由で飲み会に参加して気晴らしが出来た試しなどほとんどなかったことを思い出す。
「やー。俺はいいや。ちょい予定入ってて。来週の忘年会は参加するし」
「おー。なんだよ、予定って。彼女とデートか? 羨ましいなぁクソ」
「はは。いや、ツレとだよ」
 適当に誤魔化してその場を凌ぐ。
 ついさっき、赤松に連絡を入れたら【今夜も残業だ】と返された。
 本当に残業なのか、避けられているのか。その辺りは正直分からないが、とりあえず部屋まで行ってみようと思っている。
 元々、腹の探り合いのようなものは得意ではない。
 赤松が何を思っているのか知りたいというよりは、ただ自分が赤松に会いたい。会いたくて仕方ないという、なんともシンプルな理由だけだ。








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