僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

7.高校進学

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 その翌週に松翔学院のセレクションが行われた。
 土曜日で母は仕事があったので、祖父の運転する車で松本市まで行った。
 この日も150人は来ていたのでは……

 松翔では体力測定を全項目受けた。
 背筋力・握力・前屈・50メートル走・垂直飛び・反復横跳び・遠投などの種目を一通り行い、最後に実技の二次試験に進む20名が発表された。

 残念ながら僕の名前は呼ばれなかった。
 やはり遠投が他の受験生より劣っていると感じた。
 背筋力と握力も多分平均以下だったのだと思う。

 この日もセレクションを見ていたコーチをやっている人から
「今日は不合格だったけれど、パワーは高校生になってから身に付くと思うから悲観することは無いよ。
 一般入試を受けて入部してくれれば、活躍できる可能性があるよ」
 と言ってもらえた。
 でも落ちたばかりで言われても……
 祖父が代わりに「ありがとうございます。帰ってから検討してみます」と返事をしてくれた。


 正直なところ、少し自信はあった。
 実技テストまで進んで、セカンドの守備と打撃を見てもらえれば、同じ中学三年生に負ける気はしなかったのだが、二校ともその前の段階で落とされてしまうとは想像していなかった。

 受験生全員に実技テストを受けさせていたら、とても一日では終わらないし、仕方のないことだとは思ったけれど、野球の実力を見ないで不合格にされるとは思っていなかった……
 帰宅してから一般入試で進学した場合の学費を調べてみた。
 やっぱり無理だよなぁ……
 と思う数字が書いてあった。
 祖父は、金のことなら何とかする。
 って言ってくれたが、素直に受け入れられる金額ではないし、この二校への進学は諦めて、違う道筋を考えてみよう。
 と思っていた。

 地元の県立高校で、甲子園出場経験があるのは、上田増尾高校と上田北高校の二校だ。
 しかしそれは随分前のことで、最近は目立った成績を残していない。

 最近は上田染川高校のレベルが高そうな感じがする。
 僕の学業の成績でも、染川高校がベストな選択のように思える。
 そうは言っても甲子園には出れない前提で考えなければならない。
 甲子園に出れなければ、プロのスカウトに注目されるのは難しいだろう。
 そうなると大学野球か社会人野球が次のステップになるだろう。
 大学こそ特待生にでもなれなければ学費の面で無理がある。
 社会人野球なら、給料も貰えるし、プロになれなくてもその会社で働かせてもらえば、生活に困ることは無いだろう。
 我ながらナイスな考えだ。
 染川高校から社会人野球に進む。
 それならば母や祖父母にも迷惑を掛けずにプロ野球選手を目指せるだろう。

 ベースボールステーションに行って、森田さんに自分の考えを聞いてもらった。
「そうか、水野君は染川高校を志望するんだ。
 実は俺も染川高校出身なんだよ。
 来年は後輩になるのか」
「えぇ! そうだったんですか。
 森田さんのポジションはどこだったんですか?」
「あぁ、俺か…… ベンチだよ……」
「えぇ! 補欠だったんですか?」
「補欠とは失礼なっ! 守備が悪くてレギュラーにはなれなかったけど、代打の切り札だったんだぞっ!」
 なるほど、僕の素振りを見てアドバイスしてくれる打撃理論は確かに凄い。
「染川高校の堀内監督は、ちょっと変わってるけど、選手の適正を見る力は的確だと思うよ。
 先生じゃなくて、用務員のおじさんなんだけど、自作の筋トレマシーンとか作って、部員をしごくのが好きなんだよ。
 ドSなんだと思うけど、それに耐えれば間違いなくパワーアップできると思うよ」
 パワー不足で悩んでいる僕には良さそうな高校じゃないかっ!
 染川高校に進学して野球部に入部する!
 僕の進路は決まった。


 高校に進学して、すぐに野球部に入部した。
 目標は甲子園に出場することだ!
 とは言え、それは簡単なことではない。
 と言うか、まぁ現実的には無理だろう。
 と思っていた。

 ところが、僕が想像していたより、染川高校の野球部はレベルが高かった。
 エース松村先輩は、130キロを超えるストレートと、落差のあるフォークボールを投げる本格派だ。
 それを受けるキャッチャーの菅沼先輩は、相手の読みを外す巧みな配球と、攻撃でも四番を打つ強打者だ。
 セカンドの長嶋先輩とショートの三木先輩は、守備範囲が広くエラーも少ない。
 三木先輩は男子生徒も驚くほどの美形で、気のせいか普段の仕草も女性的に見える。
 三木先輩に憧れる男子生徒も居るとか噂があるのだが、ショートの守備位置に就くと、別人のような動きに変わるのだ。
 ただし芸術的な守備と対照的に、残念ながら打つほうはサッパリだ。
 長嶋先輩は足も速く、打撃も正確で広角に打ち分けるヒットメーカーだ。
 球は速くないのだが、ナックルを武器に控え投手も兼任している。
 外野も守れる万能選手だ。
 この人に勝たなければレギュラーになれない。
 壁は高いと感じていた。

 余談だが、長嶋先輩の名前は「一茂」という。
 テレビに出ている面白おじさんと同じ名前なので、すぐに覚えてしまった。

 二年生はパワーヒッターが多い。
 森田さんから聞いていたが、堀内監督の筋トレで鍛えられているのであろう。
 ただし、当たれば飛ぶのだが、確率が低いのが難点であった。

 二年生の中心選手はサードを守る福井先輩だ。
 元々ピッチャーだったのだが、今年は松村先輩と長嶋先輩を中心として登板させる方針なので、最近になってサードの練習を始めたらしい。
 慣れないサードの守備練習では、どんな球も捕りに行くガッツがあり、ユニフォームはいつも泥だらけだ。
 バッティングでも、打ち損ないの内野ゴロも常に一塁まで全力疾走、最後はヘッドスライディングでベースに飛び込むガッツマンだ。

 本当は「ナイスプレー!」とか「ナイスバッティング!」と声を掛けたいところなのだが、「ナ~イスガッツ、福井先輩っ!」が合言葉になってしまっているのが残念だ。

 そんな個性的で、且つ実力も兼ね備えたチームで、何とかポジションを獲得しなければならない。
 その為には普段の練習から目立つように心掛けることが必要だと思っていた。
 ランニングでは先頭を走り、球拾いも全力で打球を追いかけた。
 用具の準備や片付け、手入れも積極的に実行した。

 部員の数は多くないので、一年生も守備練習や打撃練習に参加させてもらうようになった。
 嬉しいことに、すぐに目立つ存在になることができた。
 セカンドのポジションが被る長嶋先輩に勝つことが最初の目標だったが、自分で言うのも何だが、決して負けていない自信が持てるようになっていた。


 ある日、長嶋先輩に声を掛けられた。
「おい水野、お前なら佐久穂や松翔でもレギュラーでやって行けそうなのに、何でウチみたいな弱小校に来たの?」
「野球推薦みたいなのがあって、佐久穂も松翔もセレクション受けたんですけど、両方とも落ちました!」
「マジかっ? お前、今の時点でウチの野球部で一番上手いのに、それでも落ちるのか?」
「一番上手いかどうかは分かりませんし、結構簡単に落とされたので、僕なんかまだまだ未熟者ですよ。
 合格したのは5人くらいずつだったんじゃぁ?」
「ってことは、お前より上手いヤツが県内に最低でも10人は居るのか…… しかも一年生で……」
 体力測定で落とされたので、僕より野球に必要な体力があるヤツが10人居る。
 って思うようにしていたし、後で知ったことなのだが、特待生は各校5人までというルールがあり、事前のスカウトで、ほぼ5人は決まっているらしかったのだが……

「でもさぁ、お前なら一般入試で入っても、この後の頑張り次第ではレギュラーも狙えたんじゃない?」
「はぁ…… そうかもしれませんが、ウチは母子家庭であんまりお金が無くて、私立は無理だったんですよ……」
「あぁ…… ゴメンな悪いこと聞いちゃったな……」
「いいっスよ。僕は母ちゃんを楽にさせてやりたいから、高校卒業したら社会人野球に進んで、そこで頑張ってプロに行けたらなぁ……
 って思ってるんですよ」
「そうか、しっかりしてるな。お前がウチのチームに入ってきて、ウチとしては戦力アップは間違いないから、良かったと思ってるよ」

 ここで少し会話が途切れた。
 長嶋先輩、何か言いたそうだなぁ……
 と思って、息を止めてみた。

(ところでさぁ、お前の肩ならサードやショートでもレギュラー務まるから、コンバートする気は無い?
 って、何だか俺にセカンドのレギュラーを譲れよ。って言うみたいで気が引けるなぁ……)

 なるほど、そういうことか。
 確かに僕の肩のほうが少しマシだし、サードに転向すれば福井先輩より上手い自信もある。
 でもここは譲れない。

「先輩、ポジションが被っちゃってて悪いんですが、僕はセカンド以外やりませんよ。
 高校野球で終わるなら別ですけど、この先のレベルでやることを考えたら、僕の肩ではセカンドしか通用しないと思ってるんですよ」

 うわっ!
 凄い生意気な言い方!
 他に言い方が無かったかなぁ……
 長嶋先輩、僕のこと嫌いにならないで下さいねっ!
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