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第三章_星満
6.夏休み
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蛮と一緒に少年野球チームに入ったのは四年生の時だったから、中学卒業まで六年間一緒に野球をしていたことになる。
その間に僕が覚醒して、ビックリするほどの速球を投げたのは何回くらいあったのだろうか?
改めて確認してみると、正確に数えていた訳ではないけれど、十回はあった。とのことだった。
つまり一年に一回か二回という計算になる。
今年は既に二回あったので、もう無いのでは……
何日に一回なのだが、見たこともない速球を投げる。
と言うのは、蛮の希望もあっての表現だったのだろうか……
他に手掛かりが無いので、納豆とあさりの味噌汁は継続してみるけれど、次に覚醒した時に、新しい発見があればいいが、年内にその日が訪れる保証は無い。
そうこうしているうちに、夏の神奈川県予選が始まった。
エースの長谷川投手は、130キロ近くの速球を投げるので、公立高校の投手としてはレベルが高い。
蛮も一年生ながらレギュラー捕手として定着しているようだ。
野球部のグラウンドは、校舎の西側の広い敷地を借りられているので、普通の公立高校と比べて恵まれた環境にあると言える。
期待通り一回戦・二回戦と勝ち進み、三回戦の相手は強豪の平塚学院に決まった。
ここを勝ち抜けば本物の強さだと思ったのだが、激戦区神奈川にあり、甲子園出場経験もある平塚学院の強さは想像以上だった。
コールド負けにはならなかったが、1対7の完敗で蛮にとって最初の挑戦は終わった。
紅陵高校じゃなければ、もっと勝ち進むことができたかもしれないが、その件に関しては必要以上に責任を感じるのは止めようと決めた。
僕は僕成りに努力して蛮に協力しているのだ、思ったような結果にならないのは申し訳ないけれど、僕の責任ではない。
それにしても、あれから全く何も起きない。
納豆とあさりの味噌汁という切り口が、そもそも間違っているのではないか?
との疑問も持ち始めていた。
本当は全く違うものに反応しているのに、見当外れの納豆とあさりの味噌汁のせいで、本命を食べる機会が失われているのかもしれない。
いやいや食べ物だけとは限らない。
全く別の何か、例えば入浴時間とか、トイレに行く回数とか、髪や爪の長さとか、その条件に納豆とあさりの味噌汁が絡んでいる可能性もあるので、やはり継続したほうが良いのではないか?
山岳部に入部して、山の魅力を発見したこと。
横浜ボールパークでのアルバイト。
など、今まで経験したことが無かった新しい生活は刺激的だったが、納豆とあさりに振り回されて、高校一年生の一学期が終わった。
夏休みになり、三浦半島の大楠山や、横浜市内の円海山に行ったりして体力作りに励んでいた。
学校は休みなので用事は無いのだが、時間さえあれば上大笹駅まで走って往復するようにもした。
横浜は関東平野だから平坦な街のイメージがあるかもしれないが、平地は少なく丘陵地帯というほうが合っている。
普段は自転車で15分だが、走るとかなり厳しい道なのだ。
特に帰り道は上り坂が多く、山登りのトレーニングには適したコースだと思う。
夜は横浜ボールパークでのアルバイトを続けていた。
毎日ある訳ではなく、ドルフィンズが遠征に行っている時は休みになるので、夏休みの宿題はアルバイトが無い日に集中して消化するようにした。
登山計画は八月の最後の週なので、今までのように最後に宿題を片付けようなどと思っていては、酷い目に合うこと疑い無し!
八月の最初の週に、具体的な登山ルートの検討をして、コースタイムやテント設営の場所などを決定する為に、ミーティングがあった。
北岳に行くには、山梨の甲府駅からバスで広河原という登山口まで直行便がある。
そこから北岳に向かうのが一般的なのだが、僕たちは広河原からバスを乗り継ぎ、北沢峠方面に向かい、途中の野呂川出合というバス停で下車して、野呂川沿いに両俣山荘を経由して、北岳を目指すルートを検討していた。
多くの登山者が広河原から北岳を目指すのだが、僕たちが計画している両俣ルートは、なかなか渋いルートだと思われる。
野呂川沿いは深い谷間になっているので、視野は狭く全天を望むことは期待できないが、街の明かりが遮断されるので、星空は期待しても良さそうだ。
両俣山荘にはテント場があるので、ここで一泊するとなれば、天体写真を撮影する条件はかなり整っているものと予想できる。
あとは天気に恵まれるかどうかだ。
参加するのは顧問の先生を含め、総勢十名の予定となった。
男子部員六人、女子部員三人、テントは男子二張り、女子一張りの予定で、自炊道具などの荷物の分担を決めると、ノルマはなかなかのモノになった。
しかし、それよりも楽しみな気持ちのほうが大きい。
この時の為に地道なトレーニングを重ねてきたのだ。
絶対に登れるはずだっ!
二日後に本番と同じ装備で、神奈川県西部の丹沢山地の中にある、鍋割山に練習登山に出向いた。
六時半に横浜駅集合だ。
六時過ぎの京浜電鉄で上大笹駅から横浜駅に向かい、相鉄・小田急を乗り継いで、秦野駅からバスで大倉登山口へ。
普通なら往復五時間前後のコースなのだが、荷物の重さを考慮して、往復六時間の計画でスタートした。
山頂の鍋割山荘で、名物の鍋焼きうどんを食べた。
天気も良く暑さで参ったが、富士山を間近で見ながら食べる、真夏の鍋焼きうどんは最高だった!
近所の低山ではなく、神奈川県内では最高峰に近い山に登れたことは、大きな自信になった。
このまま油断することなく、トレーニングを継続していれば、北岳だって登れるに違いない。
夏休みになったが、蛮とのキャッチボールもできる限り継続していた。
野球部の練習は、ほぼ毎日あったので、蛮は普段と変わらず毎日学校に通っている様子だった。
僕も山岳部の集まりがある日は学校に行っていたが、それ以外の日は学校に行く意味が無いので、蛮が登校する前に、近所の公園で待ち合わせをした。
しかし、僕の速球は現れることはなく、いつものヘロヘロ球を30球程度投げて終わることが日課になっていた。
納豆とあさりの味噌汁には飽きてきていたが、それ以外に手掛かりが無いので、我慢して継続していた。
納豆もあさりも身体には良い食材なので、無駄にはならないっ!
と、なんとか自分を納得させて耐えているのが本音ではあるが……
ドルフィンズは今年も弱かった。
そのせいで球場に来るお客さんも少なく、弁当の売上もあまり良いものではなかった。
でもお金が貰えてトレーニングもできて野球も観れる。
って環境が気に入っていたので、バイト代には不満を持ちつつ、八月中旬まで継続することができた。
旅費は確保できたし、登山靴や雨具などの装備もバイト代で揃えることができた。
納豆とあさりの味噌汁も、バイト代があってこそ、毎日継続できているので、二学期になってもシーズン中は続けるつもりでいた。
その間に僕が覚醒して、ビックリするほどの速球を投げたのは何回くらいあったのだろうか?
改めて確認してみると、正確に数えていた訳ではないけれど、十回はあった。とのことだった。
つまり一年に一回か二回という計算になる。
今年は既に二回あったので、もう無いのでは……
何日に一回なのだが、見たこともない速球を投げる。
と言うのは、蛮の希望もあっての表現だったのだろうか……
他に手掛かりが無いので、納豆とあさりの味噌汁は継続してみるけれど、次に覚醒した時に、新しい発見があればいいが、年内にその日が訪れる保証は無い。
そうこうしているうちに、夏の神奈川県予選が始まった。
エースの長谷川投手は、130キロ近くの速球を投げるので、公立高校の投手としてはレベルが高い。
蛮も一年生ながらレギュラー捕手として定着しているようだ。
野球部のグラウンドは、校舎の西側の広い敷地を借りられているので、普通の公立高校と比べて恵まれた環境にあると言える。
期待通り一回戦・二回戦と勝ち進み、三回戦の相手は強豪の平塚学院に決まった。
ここを勝ち抜けば本物の強さだと思ったのだが、激戦区神奈川にあり、甲子園出場経験もある平塚学院の強さは想像以上だった。
コールド負けにはならなかったが、1対7の完敗で蛮にとって最初の挑戦は終わった。
紅陵高校じゃなければ、もっと勝ち進むことができたかもしれないが、その件に関しては必要以上に責任を感じるのは止めようと決めた。
僕は僕成りに努力して蛮に協力しているのだ、思ったような結果にならないのは申し訳ないけれど、僕の責任ではない。
それにしても、あれから全く何も起きない。
納豆とあさりの味噌汁という切り口が、そもそも間違っているのではないか?
との疑問も持ち始めていた。
本当は全く違うものに反応しているのに、見当外れの納豆とあさりの味噌汁のせいで、本命を食べる機会が失われているのかもしれない。
いやいや食べ物だけとは限らない。
全く別の何か、例えば入浴時間とか、トイレに行く回数とか、髪や爪の長さとか、その条件に納豆とあさりの味噌汁が絡んでいる可能性もあるので、やはり継続したほうが良いのではないか?
山岳部に入部して、山の魅力を発見したこと。
横浜ボールパークでのアルバイト。
など、今まで経験したことが無かった新しい生活は刺激的だったが、納豆とあさりに振り回されて、高校一年生の一学期が終わった。
夏休みになり、三浦半島の大楠山や、横浜市内の円海山に行ったりして体力作りに励んでいた。
学校は休みなので用事は無いのだが、時間さえあれば上大笹駅まで走って往復するようにもした。
横浜は関東平野だから平坦な街のイメージがあるかもしれないが、平地は少なく丘陵地帯というほうが合っている。
普段は自転車で15分だが、走るとかなり厳しい道なのだ。
特に帰り道は上り坂が多く、山登りのトレーニングには適したコースだと思う。
夜は横浜ボールパークでのアルバイトを続けていた。
毎日ある訳ではなく、ドルフィンズが遠征に行っている時は休みになるので、夏休みの宿題はアルバイトが無い日に集中して消化するようにした。
登山計画は八月の最後の週なので、今までのように最後に宿題を片付けようなどと思っていては、酷い目に合うこと疑い無し!
八月の最初の週に、具体的な登山ルートの検討をして、コースタイムやテント設営の場所などを決定する為に、ミーティングがあった。
北岳に行くには、山梨の甲府駅からバスで広河原という登山口まで直行便がある。
そこから北岳に向かうのが一般的なのだが、僕たちは広河原からバスを乗り継ぎ、北沢峠方面に向かい、途中の野呂川出合というバス停で下車して、野呂川沿いに両俣山荘を経由して、北岳を目指すルートを検討していた。
多くの登山者が広河原から北岳を目指すのだが、僕たちが計画している両俣ルートは、なかなか渋いルートだと思われる。
野呂川沿いは深い谷間になっているので、視野は狭く全天を望むことは期待できないが、街の明かりが遮断されるので、星空は期待しても良さそうだ。
両俣山荘にはテント場があるので、ここで一泊するとなれば、天体写真を撮影する条件はかなり整っているものと予想できる。
あとは天気に恵まれるかどうかだ。
参加するのは顧問の先生を含め、総勢十名の予定となった。
男子部員六人、女子部員三人、テントは男子二張り、女子一張りの予定で、自炊道具などの荷物の分担を決めると、ノルマはなかなかのモノになった。
しかし、それよりも楽しみな気持ちのほうが大きい。
この時の為に地道なトレーニングを重ねてきたのだ。
絶対に登れるはずだっ!
二日後に本番と同じ装備で、神奈川県西部の丹沢山地の中にある、鍋割山に練習登山に出向いた。
六時半に横浜駅集合だ。
六時過ぎの京浜電鉄で上大笹駅から横浜駅に向かい、相鉄・小田急を乗り継いで、秦野駅からバスで大倉登山口へ。
普通なら往復五時間前後のコースなのだが、荷物の重さを考慮して、往復六時間の計画でスタートした。
山頂の鍋割山荘で、名物の鍋焼きうどんを食べた。
天気も良く暑さで参ったが、富士山を間近で見ながら食べる、真夏の鍋焼きうどんは最高だった!
近所の低山ではなく、神奈川県内では最高峰に近い山に登れたことは、大きな自信になった。
このまま油断することなく、トレーニングを継続していれば、北岳だって登れるに違いない。
夏休みになったが、蛮とのキャッチボールもできる限り継続していた。
野球部の練習は、ほぼ毎日あったので、蛮は普段と変わらず毎日学校に通っている様子だった。
僕も山岳部の集まりがある日は学校に行っていたが、それ以外の日は学校に行く意味が無いので、蛮が登校する前に、近所の公園で待ち合わせをした。
しかし、僕の速球は現れることはなく、いつものヘロヘロ球を30球程度投げて終わることが日課になっていた。
納豆とあさりの味噌汁には飽きてきていたが、それ以外に手掛かりが無いので、我慢して継続していた。
納豆もあさりも身体には良い食材なので、無駄にはならないっ!
と、なんとか自分を納得させて耐えているのが本音ではあるが……
ドルフィンズは今年も弱かった。
そのせいで球場に来るお客さんも少なく、弁当の売上もあまり良いものではなかった。
でもお金が貰えてトレーニングもできて野球も観れる。
って環境が気に入っていたので、バイト代には不満を持ちつつ、八月中旬まで継続することができた。
旅費は確保できたし、登山靴や雨具などの装備もバイト代で揃えることができた。
納豆とあさりの味噌汁も、バイト代があってこそ、毎日継続できているので、二学期になってもシーズン中は続けるつもりでいた。
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