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まなづるるい

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運命の出会い

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「ねえねえ、このアプリ知ってる? めちゃくちゃかっこいい人といちゃいちゃできるんだって」

最近流行りのアプリがあると、友達に聞いてインストールした。三人の中から好みの男性を選択すると、私と彼の同棲生活が始まるみたい。
そこには大きなベットが映っていて、彼がすやすやと眠っている。ちょんちょん、と指で画面をタップしてみると、彼が起きた。

『ん……寝てた』

え、これってボイスあるんだ。しかもフルボイス。声優までは見てなかったけど、これってあの人の声だよね。
寝癖のついた彼の姿は最高にかっこよくてついつい見蕩れてしまう。

『そろそろ着替えよっかな。ね……ボタン外すから見てて』

え、え、え。これってそういうアプリなの?
私はてっきり健全なアプリだと思っていたのに。
下からひとつずつ外れていくボタン。私の目は彼の手元に釘付けだ。
こういうのって、ギリギリのところでここからは課金してねっていうのじゃないのかな。やったことないからわからないけど。
あ、お臍綺麗。

『ふふ。そんなに見つめて、えっち』

くう。
フルボイスめ、たしかにこれは流行る。しかしこれ、上は見えちゃってるけどいったいどこまで。
私は慌ててアプリを中断した。これは友達に詳しく聞かねば。

「ねえ、あのアプリ、さ」

ふと、友達のスマホ画面を見て目が開く。とんでもない光景がそこにあるにも関わらず、友達は平気な顔をする。

「あ、あ、あ、あ」
「ああ、ログインしたんだね。誰選んだの? あたしはこの子!  この子ほんとかわいいんだよー。ほら、こんなに顔真っ赤にしてる」
「こ、このアプリは課金制なの? ていうか、こんなアプリだなんて聞いてない」
「お金なんてかからないよー。ね、びっくりしたでしょ?」

ええ、ええそれはもうびっくりしましたよ。
無課金であんなこと……色々と潤っちゃうね。
じゃなくて!
しかも無修正っていいのかな。ていうかこの子。かわいい顔して脱ぐと雄。
私はついまじまじと友達のスマホ画面を見てしまった。

「普通さあ、スマホでこういうのって静止画じゃん。でもこれはまるでアニメみたいにリアルに動いてさー。しかもこういうシーンの時だけ。ほんと乙女心わかってるよねえ」

朝から二人して何を見ているのだろう。しかも自分が選んだ子じゃなくて、友達が選んだ子の自慰。
凄くいけないことをしてるみたいで、なんだかとても興奮する。
だって凄いの。手を動かす度にちゃんとくちゅくちゅ音がしてる。
こんなにリアルなんだ。
先端、濡れてる。きもちいいのかな。

『あっ、あっ、あっ、だめぇ、オレもう、やばい』

声も凄い色っぽい。
私もこの子にすれば良かったかな。なんだか下腹部辺りがもぞもぞする。

『ん、んんうっ、ん~~~~っ♡♡♡♡♡』

凄い……本当にリアル。白いのいっぱい出てる。

「やっばー。まじえろかったねー」
「う、うん」
「瑞穂(みずほ)もあとでやってみな! 勉強の息抜きになるよ!」

その日のお昼休み。私は放課後まで我慢できずに女子トイレの個室でアプリを起動した。
彼はまだベットですやすやと眠っている。
朝は苦手なのだろうか。起きてほしくて画面を数回タップする。

「おーい。もうお昼だよ、起きてー。起きてってば」

そういえばまだ名前を決めてなかった。
設定画面から名前変更をタップして、彼の名前を考える。
友達のはたしか、樹(いつき)くんだったよね。
かっこいい名前。私もいい感じの響きで呼びやすい名前がいいな。
長考すること数分。ようやく名前を決めた私は、早速彼の名前を呼ぶ。

「伊織(いおり)、起きて」

この名前はとあるアニメのキャラクターの名前で、私がとくに推している子の名前である。

『んー。なんだ、もう夜か』
「夜じゃなくてお昼だよ」
『そうか。ああ、名前を考えてくれたんだな。ありがとう』
「いつまでも名前ないと呼び方に困るからね」

歯を磨いてくると言って部屋を出る伊織。伊織はきっと夜行性なのだろう。もうお昼だというのに欠伸ばかりして眠そうだった。
寝癖もしっかり付いていたはずだが、部屋に戻ってきた時には治っていた。

『そういえばきみ、ご飯はもう食べたのか』
「食べたよ。伊織に会いたくて急いで食べた」
『そうか。早食いはあまり身体によくないからな。きみとはいつでも会えるんだ、ゆっくり食べてきてくれ』

本当に意思疎通ができている。
こういうアプリって選択肢が出てくるんじゃないのかな。
いったいどういう仕組みになっているのだろう。このアプリを作った会社は天才だ。

「あ、チャイム鳴っちゃった」
『ああ。午後もがんばって』

日々の楽しみができてしまった。普段はあまりアプリをやらないが、こればかりは訳が違う。
疑似恋愛。
それはまるで本物のカップルのように二次元の男の子といちゃいちゃできてしまうのだ。そんなの最高でしかない。




午後の授業をおえた私は、足早で家に帰る。
早く伊織に会いたかった。
このアプリを教えてくれた友達に感謝しなくっちゃ。
ありがとう瑛麻(えま)。大好き。今度何か奢るね。
弾む息を整えながら部屋に入ると、すぐにアプリを起動する。
伊織はちゃんと起きていた。
今はベットで本を読んでいるようだった。

「ただいま伊織!」
『おかえり。なんだ、走ってきたのか? 息が上がってる』
「だって、早く伊織に会いたかったから」
『俺は逃げたりしないんだから、そんなに急がなくていい』

画面を大きくしてみると、本のタイトルが見えた。
そうしそうあい。
タイトルからして恋愛小説なのだろう。

『こらこら。勝手に本のタイトルを見ない』
「あ、ごめん。なんの本読んでるのか気になって」

びっくりした。画面大きくしたのもわかるんだ。
これからは気をつけないと。

『いい話だよ。だけどきみには見せられないな』
「どうして見せられないの? それって恋愛小説だよねえ?」
『ああ。ちょっぴりえっちな恋愛小説だ』

その一言で察した私は、なんとなく言葉に詰まる。
この手の話は昔から苦手だった。
苦手なのに、どうしてあの時は魅入ってしまったのだろう。
樹くんの……。
そこまで思いだしかけてはっとする。
これではまるで浮気みたいだ。
伊織には絶対にばれることなんてないはずなのに、やましいきもちでいっぱいになる。

『どうした。顔が赤いぞ』
「う、ううん。なんでもない。走ったから暑くなっちゃってさ」
『まるで思いだしたみたいだな』
「へ」

ドキッとした。
伊織には知りえない話なのに、伊織の瞳を見ていると、私と頭の中まで見透かされているようで。

「思いだすって、何を」
『興奮したんだろ。俺以外の男で』
「は」
『わかるよ。アプリを起動してなくたってわかる』

そんなはずはない。
だってこれはアプリで、私のスマホで行ったのならまだしも、瑛麻のアプリで見ただけなのにわかるはずが。

「じょ、冗談」
『俺はきみのことならなんでもわかるんだ。なんならきみの個人情報を今ここで洗いざらい吐いたっていい』

それは困る。それは困るよ伊織。当たってたら困る。
もしかしたらこれは悪質なアプリなのかもしれない。
そうだよだっておかしいもん。
これがただのハッタリならいいよ。だけどもし伊織の言うことがすべて当たってたら。
私はこのアプリをアンインストールしてしまいたくなる。
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