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まなづるるい

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瑛麻の秘密

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「ご、ごめんなさい。私、そういうアプリだなんて知らなくて」

伊織の視線が痛いほど突き刺さる。
ここで嘘をついたらだめなような気がして、私は伊織に謝罪をした。

『ああ、知ってる。きみは知らなかったんだもんな。なら仕方ないよ。あれは事故だ。俺もそう思うことにする』
「い、伊織」

許されたことが嬉しくて思わず頬が緩む。

『ふふ。じゃあ、仲直りのキスだ。画面にきみの唇を押し当てて』

初めてのキス。私は迷うことなくそっと画面に唇を押し当てた。
アプリをインストールしてからまだ一日しか経っていないのに、こんなにも伊織に惹かれている。幸せで尊い時間。
唇を離すと伊織は嬉しそうにこちらを見つめている。
その天使のような笑みに釣られて、私もへらりと笑った。

『なあ。俺がしても、きみは疼く?』
「え?」
『俺が今、きみにオナニーしてるところを見せたら、きみは俺で興奮するのか?』

いったい何を言っているのだろうか。しかも今、オナニーって言った?
オナニー。つまり自慰。マスターべーション。自分で自分の性器に刺激を与えること。
言葉の意味を理解した途端、顔が熱くなる。
だってそれはつまり樹くんがしていたことを伊織がやるってことで、ただでさえあんなに魅入ってしまったのに、伊織がやったら私、どうなっちゃうの?

「え、あ、ええとぉ……ど、どうしましょう……」
『興奮、するんだな?』
「うううん。多分、凄く、するんじゃないかなぁ?」

これではまるで処女の反応だ。間違ってはいないがあまりにもわかりやすくて恥ずかしい。
顔が熱いので手でぱたぱたと仰いでいると、勝手にストリップショーがはじまった。
白いワイシャツのボタンを上からひとつずつ外していくと見える白い肌。そこにぽつりとあるピンク色の乳首がとても映える。
思わず拡大して見たくなるが、本人に拡大したことがばれるのでここはグッと我慢する。
上半身裸の伊織。正直、舐めたい。
まだ全部脱いだわけでもないのに興奮しているのが自分でもよくわかった。

『いいよ拡大して』
「へ」
『じっくり見たいんでしょ。わかるよ。顔に書いてある』

震える指で一番見たいところを拡大する。
綺麗な色。見ているだけでドキドキしちゃう。

『舐めて』
「んえ?」
『乳首舐めて』
「どうやって?」
『画面、舐めて。そしたら俺、興奮する』

流石に画面を舐めるのには抵抗を感じるけど、じゃあ舐めなくていいよと言われたらそれはそれで困る。
口を開けて、舌を出す。そのままゆっくりと画面に近付けると、かなり下半身にきた。

『んっ』
「はあっ……い、伊織。これやばい。なんか、変になりそう」
『ん、俺も。きみの舌が熱くて溶けそうだ』
「やだ。きみじゃなくて、瑞穂って呼んで」
『……瑞穂』

ああやばい。伊織の声で私の名前を呼ばれると全身がこう、電流が走ったみたいにゾクゾクして、頭が変になる。
伊織の声優って誰だっけ。あとで調べてみよう。

『また違うこと考えてる』 
「へ」
『ねえ、もう触っていい? 瑞穂がえっちだからだよ。先っぽからほら、きもちいいのが出てる』

伊織の先っぽが濡れている。こんなに大きくて硬そうなの、多分、樹くんよりも凄い。

「あ、ま、まって。舐める……舐める、から」

先っぽを拡大したままさっきよりも早く舐める。
舐めるだけでは物足りなくて、唇を押し当ててはわざとリップ音を鳴らしたり。
私、変態だ。
恥ずかしさよりも性欲が勝(まさ)ってる。さっきから下腹部辺りがもぞもぞして、シーツに擦り付けたくて苦しいの。
ていうかもう、擦り付けてる。
ベットがギシギシ言ってるからきっと伊織も気付いていると思うんだ。

「あっ、んぁ、ふっん、いほりぃ」
『はあ……っ、瑞穂、見て、凄いくちゅくちゅ言ってる。ちんこきもちよすぎて、っあ、すぐ出ちゃいそう』

伊織がちんこって言った。
きもちよすぎるって、すぐ出ちゃいそうって。
出るってあれだよね。あの白いのが先っぽからおしっこみたいに出るんだよね。
私も今、多分凄い濡れて。

『んく……ッ』

あ、伊織の出てる。
かわいい、かわいい、かわいい!




『なんだか俺だけすっきりしてしまったな。瑞穂はその、大丈夫なのか? すっきりしなくて』
「い、いいのいいの私は! 伊織がきもちよくなれたならそれでいいの!」

嘘である。私は今とても下半身が疼いている。
だけどシーツに擦り付けていくなんて恥ずかしすぎてできるわけがない。なので我慢するしかないのだ。

『別に気にしなくていいのに』
「え?」
『俺は射精を、瑞穂はその痴女っぷりを。互いに恥ずかしいところを見せあった仲なんだ。いまさら気にしなくていい』
「ちっ、痴女じゃないから!」

痴女。猥褻行為を好む女性を指す言葉。色情に溺れ迷う女。変態。
私はそんなものになった覚えなどない。

『うそーん。見るの大好きじゃん。はあはあぺろぺろぢゅるぢゅるしてたくせにん』
「そ、それは伊織が舐めてとか言うからでしょう」
『舐めてとは言ったけどぢゅるぢゅるしてとは言ってない』

ぢゅるぢゅる。吸った。スマホ画面を。
なので私は今、スマホ画面をウエットティッシュでしつこいくらいに拭いている。
どうしてあんなことをしたのだろうと、今になって後悔しているくらいだ。

『ねえ、今度は瑞穂がするとこ見せて』
「え、私?」
『今じゃなくていいから。あ、そうだ。学校のトイレとかどう? 起動してくれたらじっくり見てあげる』

そんな甘い囁きに私が乗るわけないでしょう。
それに私、自分でしたことはあるけど、指とか入れたことないし。

「む、むりだよできない」
『どうして?』
「自分でとか、シーツに擦り付けるのしかしたことない」
『玩具とか指とか入れないの?』
「い、入れない」
『ふうん』

お願いだから何か言って。失望しないで。

『なら、教えてやるからやってみな』
「え」
『心の準備ができたらでいい。それまでは普通にしていよう。あ、起動したからってするわけじゃないぞ? 瑞穂が自分でしてもいいと思えたら、昼休みにトイレで起動してくれ。いいか、昼休みにトイレで起動。これが合図だ』




それから伊織は自慰をしなくなった。
いや、正確には私の前でしなくなった。
本当に私の心の準備が整うまでは待ってくれているみたいだ。
それはとても有難かった反面、私が覚悟を決めなければ伊織はもう私の前ではしてくれないのだと傷付いた。
またあの甘い吐息が聞きたい。
あの時の私は信じられないくらい興奮していたんだと思う。
あまりにも刺激が強すぎて、忘れられなくて。

「瑞穂おはよー」
『おはよーん』
「あ、瑛麻……と、樹くん。おはよう」

教室に入ると当たり前のように瑛麻と樹くんが画面を通して会話をしていた。
私も学校で起動する分にはなんの問題はないのだとわかってはいるんだけど、なんとなくそんな気にはなれなくてスマホを閉じる。
それに樹くんとはあの時ぶりなのでちょっと気まずい。
でも会話するだけなら浮気じゃない……よね。

「二人は普段、何して過ごしてるの?」
「うーん。一緒にテレビ見たり、お風呂入ったり」
『寝る時も一緒だよう』
「す、凄いね。もしかして一日中起動してるの?」
「そだねー。授業中とトイレ以外はずっと一緒だね」
『オレの前では脱げるけど、トイレの音は聞かれたくないんだよねー』

二人は仲がいいんだな。なんだか微笑ましくてクスリと笑ってしまう。
そういえば、攻略対象は三人いたんだよね。それぞれにイメージカラーがあって、樹くんは赤、伊織は白、もう一人の子はたしか青だったような。
あの子はどういう子なんだろう。使ってる人が近くにいればいいのに。

「ね、ね。このアプリのさ、青い髪の子ってどんな子か知ってる?」
『あー、時雨(しぐれ)? 時雨はねえ、なんか凄い敬語だよね』
「時雨?」
『あ、時雨ってのはデフォの名前ね。ちなみにオレのデフォはー』
「時雨も凄くかっこいいよ。声がはちゃめちゃにいいし、アレもデカいし」

樹くんのデフォ……。気になるけどそれよりも気になる言葉が出てきてしまった。
アレがデカいの、なんで知ってるんだろう。まさか公式サイトにサイズとか載ってたりするのかな。そもそも公式サイトなんて存在するのかな。

「このアプリの公式サイトとか攻略サイトとかないのかな?」
『公式サイトはないかなー。攻略サイトはあるかもしれないけど、皆自分好みに育ててるからとくに必要ないしね』

なんだか育成ゲームなのか恋愛シュミレーションゲームなのかわからなくなってきちゃったけど、とりあえず答えはないらしい。つまりエンディングも分岐もないということだ。
しいていえば、甘やかせばかわいい系になるし、接し方ひとつで対象の性格が変わっていく。これがこのアプリにおいての分岐といえるだろう。
あれ、おかしいな。
公式サイトも攻略サイトもないならどうして瑛麻は時雨くんのアレがデカいって知ってるんだろう。
まあゲームだし、もしかしたら樹くんの前に時雨くんを選んだのかもしれないよね。
でも、そっかあ。
キャラクター変更、してみるのも悪くないのかも。
だって瑛麻と樹くんはこんなに仲がいいんだもん。変更してみて、波長が合ったからこうして一緒にいるんだろうし。

「キャラ変更はできないよ」
「へ」
「最初に書いてあったじゃーん。一度選んだら変更できませんって」

あれ、そうだったっけ。やばい見逃してた。

「え、でも瑛麻はさ」
「うん?」
「瑛麻はキャラ変更、したんだよね?」
「どうしてそう思うの?」
「え、だって、そうじゃないとおかしい」
「おかしいって何が?」
「だって、だって、公式サイトも攻略サイトもないんだよね? だけどさ、瑛麻は時雨くんのその……アレが大きいってこと、知ってるんだよね。それってさ、キャラ変更しないとわからなくない?」
「そんなことしなくたってわかるよお。流行ってるんだから、このアプリ。他にやってる人のをちらっと見たのー。瑞穂だって見たじゃん、樹の。それとおんなじだよう」

言われてみればたしかにそうだ。それなら辻褄が合う。

『瑛麻ぁ、言えばいいじゃん苺(いちご)のことぉ』
「苺?」

苺って誰。
瑛麻は私に何か隠しているの?

「……そうだね。瑞穂には教えてあげる」

そう言って鞄の中をごそごそと漁る瑛麻。その手に握られていたのは。

「あたしね、スマホ二台持ちなの」
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