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第5話
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会長、私、一目惚れだったんです。
初めて会長を見かけた時からずっと、かっこいい人だと思っていた。
名前を知って、同じクラスだと知って、声を聞いて、ますます好きになった。
私は少しでも会長に近付きたくて、わざとぶつかったりしてみせたっけ。
ちょっと可哀想なことをしたとは思うけど、それも今となってはいい思い出。
会長の、私のことをきみと呼ぶ、その呼び方が好き。
顔は勿論、声も話し方も話すスピードも好き。
勉強はできるのに、運動は苦手なところが好き。
虫が苦手なくせに、人前では平気なふりをするところも好き。
「危ない」
ふと手を引かれてはっとする。
思い出に浸っている場合じゃなかった。危うく自転車にぶつかるところだったようだ。
「ご、ごめんなさい。私、ぼうっとしてたみたい」
会長の手が私の手を掴んでいる。会長の手、冷たい。
「……びっくりした。危ないからきみはこっちな」
会長が車道側を歩く。そんなに私はふらふらしてただろうか。
会長の手、離れちゃった。
冷たくてきもちよかったのに残念。
私は。
会長に手を繋ぎたいと言う。
会長に手を伸ばす。←
会長に手を伸ばす。
ふいに伸びた私の手に気付いた会長は、驚いて立ち止まる。
「へ」
私もその場に立ち止まって、会長をじっと見つめていた。
「あ、ああ。そういえば、そろそろバレンタインだな。きみは誰かに渡すのか?」
会長、会話の提供ヘタすぎる。
言いながら私と会長の手は、やんわりと触れ合っていた。
会長、これじゃ誤解されちゃいます。
私達、恋人同士だと誤解されちゃいます。
「そうですね。今年は渡そうと思います」
「そ、そうか」
「会長は今年も沢山貰えますね」
「甘いものはあまり好きじゃないんだが」
知ってます。
甘いものが苦手なくせに、無理して少しずつ食べるんですよね。
会長は優しい。会長は相手を傷付けたりしない。だからモテる。
「会長は」
「私に貰えたら嬉しいですか?」←
「優しいですよね」
「私に貰えたら嬉しいですか?」
「え、貰えたらって、何を」
鈍感。この話の流れで会話の意図を掴めないなんて。
でもそこが好き。
「バレンタイン。私に貰えたら嬉しいですか?」
会長が私を見ている。
反応がないので触れている手にほんの少しだけ、力を込めてみた。
「あ、えと。そうだな、きみから貰えるなら喜んでいただくとしよう」
会長は優しい。きっと誰にでも同じことを言う。
「めちゃくちゃ甘いものでも?」
「めちゃくちゃ甘いものでも」
意地悪したのに受け入れる。会長だめだよ、自分の身は自分で守らないと。
「それがたとえ、毒入りでも?」
「毒入りでも」
ねえ会長。だめだって言ったじゃないですか。流石に毒入りは断らないと。
ねえ会長。私じゃなくても、同じことを言いましたか。
だとしたら会長は酷いですね。
こんなの勘違いするじゃないですか。
もしかしたらって、期待、するじゃないですか。
あんまり女の子に夢を持たせてたらいつか刺されちゃいますよ。女の子は怖いんですから。
「会長」
会長の唇にキスをする。
会長に好きだと言う。←
会長に好きだと言う。
「……好き」
「へ」
溢れる。
「私は会長のことが好き。会長の、私をきみと呼ぶ、その呼び方が好き。顔は勿論、声も話し方も話すスピードも好き。勉強はできるのに、運動は苦手なところが好き。虫が苦手なくせに、人前では平気なふりをするところも好き」
一度溢れれば止まらない。
言葉だけでなく、涙まで溢れてくる。
「好きです会長。初めて見た時からずっと好き。今こうして隣を歩いているだけで幸せ。こうして手を繋いでいるだけで幸せ」
会長は、私の言葉を黙って聞いている。
「会長、会長、会長……っ」
目蓋を閉じると涙が零れた。
お願いだからこの口を塞いで。じゃないと会長を困らせてしまう。
「言うつもり、なかったのに……っ、会長が気まぐれに私を誘うから……っ、会長が、私の手を掴むから……っ」
最低だ。
私が今こうしていることを、全部会長の所為にしてる。
いやな女。こんな私、だいきらい。このままじゃ会長に嫌われちゃう。
「……もう、わかったから」
いったい何がわかったというのだろう。
目を開ければそこに会長はいて、私の両肩を優しく掴んでいる。
私は会長に諭されているのだろうか。
我儘ばかり言う子供を宥めるように、私のことも。
ふと、視界が遮られる。
会長が近い。
近いというか、触れている。
唇に柔らかい感触がして、なんだかいい匂いがする。
私今、会長とどうなっているの?
私の頬に触れる会長の指が、さっきよりもほんの少しだけ、ひんやりとしていた。
初めて会長を見かけた時からずっと、かっこいい人だと思っていた。
名前を知って、同じクラスだと知って、声を聞いて、ますます好きになった。
私は少しでも会長に近付きたくて、わざとぶつかったりしてみせたっけ。
ちょっと可哀想なことをしたとは思うけど、それも今となってはいい思い出。
会長の、私のことをきみと呼ぶ、その呼び方が好き。
顔は勿論、声も話し方も話すスピードも好き。
勉強はできるのに、運動は苦手なところが好き。
虫が苦手なくせに、人前では平気なふりをするところも好き。
「危ない」
ふと手を引かれてはっとする。
思い出に浸っている場合じゃなかった。危うく自転車にぶつかるところだったようだ。
「ご、ごめんなさい。私、ぼうっとしてたみたい」
会長の手が私の手を掴んでいる。会長の手、冷たい。
「……びっくりした。危ないからきみはこっちな」
会長が車道側を歩く。そんなに私はふらふらしてただろうか。
会長の手、離れちゃった。
冷たくてきもちよかったのに残念。
私は。
会長に手を繋ぎたいと言う。
会長に手を伸ばす。←
会長に手を伸ばす。
ふいに伸びた私の手に気付いた会長は、驚いて立ち止まる。
「へ」
私もその場に立ち止まって、会長をじっと見つめていた。
「あ、ああ。そういえば、そろそろバレンタインだな。きみは誰かに渡すのか?」
会長、会話の提供ヘタすぎる。
言いながら私と会長の手は、やんわりと触れ合っていた。
会長、これじゃ誤解されちゃいます。
私達、恋人同士だと誤解されちゃいます。
「そうですね。今年は渡そうと思います」
「そ、そうか」
「会長は今年も沢山貰えますね」
「甘いものはあまり好きじゃないんだが」
知ってます。
甘いものが苦手なくせに、無理して少しずつ食べるんですよね。
会長は優しい。会長は相手を傷付けたりしない。だからモテる。
「会長は」
「私に貰えたら嬉しいですか?」←
「優しいですよね」
「私に貰えたら嬉しいですか?」
「え、貰えたらって、何を」
鈍感。この話の流れで会話の意図を掴めないなんて。
でもそこが好き。
「バレンタイン。私に貰えたら嬉しいですか?」
会長が私を見ている。
反応がないので触れている手にほんの少しだけ、力を込めてみた。
「あ、えと。そうだな、きみから貰えるなら喜んでいただくとしよう」
会長は優しい。きっと誰にでも同じことを言う。
「めちゃくちゃ甘いものでも?」
「めちゃくちゃ甘いものでも」
意地悪したのに受け入れる。会長だめだよ、自分の身は自分で守らないと。
「それがたとえ、毒入りでも?」
「毒入りでも」
ねえ会長。だめだって言ったじゃないですか。流石に毒入りは断らないと。
ねえ会長。私じゃなくても、同じことを言いましたか。
だとしたら会長は酷いですね。
こんなの勘違いするじゃないですか。
もしかしたらって、期待、するじゃないですか。
あんまり女の子に夢を持たせてたらいつか刺されちゃいますよ。女の子は怖いんですから。
「会長」
会長の唇にキスをする。
会長に好きだと言う。←
会長に好きだと言う。
「……好き」
「へ」
溢れる。
「私は会長のことが好き。会長の、私をきみと呼ぶ、その呼び方が好き。顔は勿論、声も話し方も話すスピードも好き。勉強はできるのに、運動は苦手なところが好き。虫が苦手なくせに、人前では平気なふりをするところも好き」
一度溢れれば止まらない。
言葉だけでなく、涙まで溢れてくる。
「好きです会長。初めて見た時からずっと好き。今こうして隣を歩いているだけで幸せ。こうして手を繋いでいるだけで幸せ」
会長は、私の言葉を黙って聞いている。
「会長、会長、会長……っ」
目蓋を閉じると涙が零れた。
お願いだからこの口を塞いで。じゃないと会長を困らせてしまう。
「言うつもり、なかったのに……っ、会長が気まぐれに私を誘うから……っ、会長が、私の手を掴むから……っ」
最低だ。
私が今こうしていることを、全部会長の所為にしてる。
いやな女。こんな私、だいきらい。このままじゃ会長に嫌われちゃう。
「……もう、わかったから」
いったい何がわかったというのだろう。
目を開ければそこに会長はいて、私の両肩を優しく掴んでいる。
私は会長に諭されているのだろうか。
我儘ばかり言う子供を宥めるように、私のことも。
ふと、視界が遮られる。
会長が近い。
近いというか、触れている。
唇に柔らかい感触がして、なんだかいい匂いがする。
私今、会長とどうなっているの?
私の頬に触れる会長の指が、さっきよりもほんの少しだけ、ひんやりとしていた。
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