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第一章
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月曜日の朝。あたしはまた、制服を着て学校に行く。今日は小長井さん、こないといいけど。なんて思っちゃうあたしは性格ブスなのかな。
洗面台で前髪を整えると、鞄を持って、玄関でローファーを履く。あんな話をしたお兄ちゃんは、あれから態度を変えることなく普通に接してくれている。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい、愛莉」
坂道をみてもみかんを落として困っているお婆さんなんていないし、重たそうな荷物を持ったお爺さんもいないなぁ。
なんとか遅刻の言い訳になりそうなことが起きないかと辺りをきょろきょろしてみるけど、この街は平和すぎて退屈だ。
学校、行きたくないなぁ。
でも制服でうろついていたらさぼってるってばれるよね。お兄ちゃんも今日は家にいるからこんな時間に帰れないし、やっぱり行くしかないんだろうな。
教室に入ると、小長井さんがいなくてほっとした。あの人ちょっと苦手なんだよね。昔はあたしと仲が良かったのかもしれないけど、あたしをみる目がなんか怖い。
「今日もきたんだ」
席に着くと、坂上さんがあたしに声をかけてきた。
「きたけど、悪い?」
こういう時は強気でいないと馬鹿にされる。間違っても下手にでちゃだめなんだ。
「別にぃ。記憶がないならないで、好都合だし」
「それってどういう意味?」
「だってあんた、うざいんだもん。ま、これはこれでうざそうだけど」
事故で記憶が消える前のあたしは、どんな子だったのかな。柚留ちゃんにブスだと言って、学校では坂上さんにうざいと思われていて。小長井さんとの関係はよくわかんないけど、仮に友達だったとしてもあまりいい関係ではなかったような気がするんだよね。
「あのさ、前のあたしがどうだったか知らないけど、あんまり人にうざいとか言わない方がいいんじゃない?」
「よく言うよ。自分の妹不登校になるまで追い詰めたくせに」
それって柚留ちゃんのこと?
どうして坂上さんがそんなこと知ってるの?
「え、なにそれ……もしかして噂になってるの?」
「知らない人なんていないよ。あんた、結構有名なんだから」
「……あたしと坂上さんは、友達だった?」
「坂上さんとかきも。あたしがあんたと友達なわけないでしょ」
結局、小長井さんは学校にこなかった。明日も明後日もこなければいい。なんて思っちゃうあたしは性格ブスだ。
家に帰ったら帰ったで気が重かった。柚留ちゃんには謝りたいけど、いまのあたしに謝られても許せないよね。あたしには柚留ちゃんにブスと言った記憶も、部屋からでてくんなと言った記憶もないんだもん。
「おかえり、愛莉」
「ただいまお兄ちゃん」
気が重いのは柚留ちゃんのことが気がかりなだけで、家に帰れば誰かがいるこの安心感は、涙がでそうなくらい嬉しいものだった。
「あのさ、お兄ちゃん」
「うん?」
あたしって、学校ではどんな感じなの?
聞こうと思ったのに言葉がでてこなかった。お兄ちゃんが嘘を吐くとは思わないけど、なんだか聞くのが怖かった。
あたしが知らないこと全部知りたいのに、知れば知るほど、知りたいと思ったことに後悔しそうで怖かった。
「……今日のご飯、なに?」
「今日は唐揚げだよ」
「やったぁ」
だからこんなことしか聞けないの。だって、中学生が不登校になるなんて相当じゃん。どんだけあたし、柚留ちゃんを傷つけたんだよって。
あたしに記憶がなくたって、あたしは柚留ちゃんから目を逸らしちゃいけないのに、あたしはあたしが可愛くて仕方がないみたい。
何度も柚留ちゃんの部屋の前に行ってみた。偶然ドアが開いたりしないかなって思ってた。
他力本願。自分から動けばいいのに、偶然や奇跡が起きるのを待ってるの。
「柚留ちゃん……ごめんね……」
返事はない。わかってる。あたしの声は届かない。
洗面台で前髪を整えると、鞄を持って、玄関でローファーを履く。あんな話をしたお兄ちゃんは、あれから態度を変えることなく普通に接してくれている。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい、愛莉」
坂道をみてもみかんを落として困っているお婆さんなんていないし、重たそうな荷物を持ったお爺さんもいないなぁ。
なんとか遅刻の言い訳になりそうなことが起きないかと辺りをきょろきょろしてみるけど、この街は平和すぎて退屈だ。
学校、行きたくないなぁ。
でも制服でうろついていたらさぼってるってばれるよね。お兄ちゃんも今日は家にいるからこんな時間に帰れないし、やっぱり行くしかないんだろうな。
教室に入ると、小長井さんがいなくてほっとした。あの人ちょっと苦手なんだよね。昔はあたしと仲が良かったのかもしれないけど、あたしをみる目がなんか怖い。
「今日もきたんだ」
席に着くと、坂上さんがあたしに声をかけてきた。
「きたけど、悪い?」
こういう時は強気でいないと馬鹿にされる。間違っても下手にでちゃだめなんだ。
「別にぃ。記憶がないならないで、好都合だし」
「それってどういう意味?」
「だってあんた、うざいんだもん。ま、これはこれでうざそうだけど」
事故で記憶が消える前のあたしは、どんな子だったのかな。柚留ちゃんにブスだと言って、学校では坂上さんにうざいと思われていて。小長井さんとの関係はよくわかんないけど、仮に友達だったとしてもあまりいい関係ではなかったような気がするんだよね。
「あのさ、前のあたしがどうだったか知らないけど、あんまり人にうざいとか言わない方がいいんじゃない?」
「よく言うよ。自分の妹不登校になるまで追い詰めたくせに」
それって柚留ちゃんのこと?
どうして坂上さんがそんなこと知ってるの?
「え、なにそれ……もしかして噂になってるの?」
「知らない人なんていないよ。あんた、結構有名なんだから」
「……あたしと坂上さんは、友達だった?」
「坂上さんとかきも。あたしがあんたと友達なわけないでしょ」
結局、小長井さんは学校にこなかった。明日も明後日もこなければいい。なんて思っちゃうあたしは性格ブスだ。
家に帰ったら帰ったで気が重かった。柚留ちゃんには謝りたいけど、いまのあたしに謝られても許せないよね。あたしには柚留ちゃんにブスと言った記憶も、部屋からでてくんなと言った記憶もないんだもん。
「おかえり、愛莉」
「ただいまお兄ちゃん」
気が重いのは柚留ちゃんのことが気がかりなだけで、家に帰れば誰かがいるこの安心感は、涙がでそうなくらい嬉しいものだった。
「あのさ、お兄ちゃん」
「うん?」
あたしって、学校ではどんな感じなの?
聞こうと思ったのに言葉がでてこなかった。お兄ちゃんが嘘を吐くとは思わないけど、なんだか聞くのが怖かった。
あたしが知らないこと全部知りたいのに、知れば知るほど、知りたいと思ったことに後悔しそうで怖かった。
「……今日のご飯、なに?」
「今日は唐揚げだよ」
「やったぁ」
だからこんなことしか聞けないの。だって、中学生が不登校になるなんて相当じゃん。どんだけあたし、柚留ちゃんを傷つけたんだよって。
あたしに記憶がなくたって、あたしは柚留ちゃんから目を逸らしちゃいけないのに、あたしはあたしが可愛くて仕方がないみたい。
何度も柚留ちゃんの部屋の前に行ってみた。偶然ドアが開いたりしないかなって思ってた。
他力本願。自分から動けばいいのに、偶然や奇跡が起きるのを待ってるの。
「柚留ちゃん……ごめんね……」
返事はない。わかってる。あたしの声は届かない。
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