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第一章
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火曜、水曜、木曜と、金曜日になっても小長井さんがいないからか、学校は平和だった。坂上さんに、小長井さんはいつもこんな感じなのか聞いてみたけど、「あんたがきもくなったからじゃん?」と言われてしまった。
正直なところ、あたしと坂上さんの関係もよくわからないんだよね。友達なのか、友達じゃないのか。友達じゃないならなんなのか。
あたしのことをうざいと言うくせに、あたしが話しかけると答えてくれる。まぁ、口は悪いけど。
事件が起きたのは、金曜日のお昼休み。教室でお弁当を食べていると、後ろのドアが開いた。
急に静まり返る教室に、最初は小長井さんがきたのかもと緊張したけど、坂上さんの声が不機嫌そうだったから、小長井さんじゃないんだと確信した。
「……あ? あいつなんでまたきてんの?」
あいつって誰だろう。視線をそっちに向けてみると、思わず胸に目が行くほど胸の大きい、だけど背の低い女の子がそこにいた。
こういうのって、ロリ巨乳って言うんだっけ。男の子は好きだよね。
「なにしにきたの? 早く帰れよブス」
あ、なんかいま、ブスって言葉、地雷かも。坂上さんの口の悪さは気にいらない子に対してなのかな。
「……あ……」
なんか、すんごいちっちゃい声。身長だけじゃなくて声もちっちゃいんだ。次になにを言うのかが気になって、こっちまで思わず黙ってしまう。
だけどその子はなかなか言葉を紡ごうとはしなかった。それが坂上さんを余計に苛立たせたようで、背後から強めの舌打ちが聞こえてきた。
「言い返す言葉もないなら早く帰れっての」
こういう空気、苦手だな。
「さ、坂上さん、そんな言い方しなくても」
「はぁ? だって教室に入りもしない、言い返してもこない、なにがしたいの? って思うじゃん」
「で、でも言い方が」
「じゃああんたが優しく聞いてあげればいいじゃん。教室に入んないんでちゅかぁ? って」
流石にそんな言い方はしないけど。ていうかあの子、誰。
あたしは周りに聞こえないように坂上さんに耳打ちをする。
「……ていうかあの子、誰」
「鹿児島千里。鹿児島県の鹿児島に針千本の千、たけのこの里の里って書いて、鹿児島千里」
針千本の千にたけのこの里……千里眼の千里でよくないか?
まぁいいや。とにかくあたしが話を聞いてみよう。坂上さん相手だと怖くて萎縮しちゃうのかもしれないし。
席を立つと、あたしは鹿児島さんの元へと歩きだした。近くでみると高校生とは思えないくらい本当にたわわで、ついつい胸元ばかりに視線がいってしまう。同性とはいえ、あんまりガン見してはセクハラに値するだろう。ほどよく視線を逸らさねば。
「鹿児島さん、あの、教室に入らないの?」
うん?
なんだろう?
鹿児島さんが、あたしのことをじっとみつめている。
そりゃ話しかけてるんだからこっちをみるのは当たり前なんだけど、そうじゃなくてなんていうか、さっきまでの怯えた雰囲気じゃなくて、汚いものでもみるかのような、冷たい目。
「……鹿児島さん?」
もしかして名前が違うのかな。坂上さんなら適当な名前を教えて馬鹿にしてきそうだよね。
「あの、もしかして名前違うのかな? ごめんねあたし、事故に遭って記憶がなくて。さっき坂上さんに名前聞いたんだけど、もし間違ってたら言ってほしいな」
反応がない。瞬きすらしていない。
困ったな。この子も絡みづらいかも。
「……なんか別人みたい」
「え?」
こんなに距離が近いのに、鹿児島さんの声が小さすぎて聞き取れなかった。
だけどもう一度聞き返すのも失礼な気がして、あたしはなにも言えないまま、チープな愛想笑いを浮かべてしまう。
そんなあたしをみて鹿児島さんは、教室に入ることなく踵を返して去っていった。
「凄いじゃん、あいつを追い返すなんて」
席に戻ると坂上さんがあたしを褒める。鹿児島さん、あの時なんて言ったんだろう。気になるけど帰っちゃったみたいだし、また今度聞いてみようかな。
「鹿児島さんって、あんまり学校こないの?」
「……あっは。やっぱあんたまじウケる」
いまのはどういう意味だろう。あたしは普通に聞いただけなんだけど。
「そうだね、あんまりこないね。まぁいいんじゃない? いない方が平和だし」
「またそういうこと言う」
「あんたさぁ、自分がいままでなにをしてきたかとか気にならないの?」
「そんなの気になるに決まってるじゃん」
「日記とかつけてないの?」
「日記とかはつけてないと思う。家に帰ってきた時に自分の部屋を一通り調べてみたけど、なにもみつからなかったし」
あたしの部屋は本当になにもなかった。必要最低限のものしかなくて、誰かから貰った手紙とか、写真とか、そういう類いのものは本当になにも。
「あたしって友達いなかったのかな」
こんな話を坂上さんにしたってしょうがないのに、誰かに話したくて仕方がなかった。
「そんなに友達がほしいなら、いまからでもあいつと仲良くなればいいよ」
「うーん」
でもなぁ、あの子、声がめちゃくちゃ小さいんだよね。友達になったとしても会話になるか。
それにしてもあたしのクラスの女子って、綺麗な子多くない?
口は悪いけど坂上さんも綺麗だし、小長井さんも、鹿児島さんも皆綺麗。
ああでも、小長井さんと鹿児島さんはあんまり学校にこないんだよね。クラスに二人も休みがちな子がいるなんてなかなかないと思うけど。
とにかく今週も無事、乗り切ったことだし、帰ったら入浴剤入れちゃおうかなぁ。週に一度の贅沢バスタイム。この間は柚子の香りを入れたから、今度は森林の香りにしよう。
正直なところ、あたしと坂上さんの関係もよくわからないんだよね。友達なのか、友達じゃないのか。友達じゃないならなんなのか。
あたしのことをうざいと言うくせに、あたしが話しかけると答えてくれる。まぁ、口は悪いけど。
事件が起きたのは、金曜日のお昼休み。教室でお弁当を食べていると、後ろのドアが開いた。
急に静まり返る教室に、最初は小長井さんがきたのかもと緊張したけど、坂上さんの声が不機嫌そうだったから、小長井さんじゃないんだと確信した。
「……あ? あいつなんでまたきてんの?」
あいつって誰だろう。視線をそっちに向けてみると、思わず胸に目が行くほど胸の大きい、だけど背の低い女の子がそこにいた。
こういうのって、ロリ巨乳って言うんだっけ。男の子は好きだよね。
「なにしにきたの? 早く帰れよブス」
あ、なんかいま、ブスって言葉、地雷かも。坂上さんの口の悪さは気にいらない子に対してなのかな。
「……あ……」
なんか、すんごいちっちゃい声。身長だけじゃなくて声もちっちゃいんだ。次になにを言うのかが気になって、こっちまで思わず黙ってしまう。
だけどその子はなかなか言葉を紡ごうとはしなかった。それが坂上さんを余計に苛立たせたようで、背後から強めの舌打ちが聞こえてきた。
「言い返す言葉もないなら早く帰れっての」
こういう空気、苦手だな。
「さ、坂上さん、そんな言い方しなくても」
「はぁ? だって教室に入りもしない、言い返してもこない、なにがしたいの? って思うじゃん」
「で、でも言い方が」
「じゃああんたが優しく聞いてあげればいいじゃん。教室に入んないんでちゅかぁ? って」
流石にそんな言い方はしないけど。ていうかあの子、誰。
あたしは周りに聞こえないように坂上さんに耳打ちをする。
「……ていうかあの子、誰」
「鹿児島千里。鹿児島県の鹿児島に針千本の千、たけのこの里の里って書いて、鹿児島千里」
針千本の千にたけのこの里……千里眼の千里でよくないか?
まぁいいや。とにかくあたしが話を聞いてみよう。坂上さん相手だと怖くて萎縮しちゃうのかもしれないし。
席を立つと、あたしは鹿児島さんの元へと歩きだした。近くでみると高校生とは思えないくらい本当にたわわで、ついつい胸元ばかりに視線がいってしまう。同性とはいえ、あんまりガン見してはセクハラに値するだろう。ほどよく視線を逸らさねば。
「鹿児島さん、あの、教室に入らないの?」
うん?
なんだろう?
鹿児島さんが、あたしのことをじっとみつめている。
そりゃ話しかけてるんだからこっちをみるのは当たり前なんだけど、そうじゃなくてなんていうか、さっきまでの怯えた雰囲気じゃなくて、汚いものでもみるかのような、冷たい目。
「……鹿児島さん?」
もしかして名前が違うのかな。坂上さんなら適当な名前を教えて馬鹿にしてきそうだよね。
「あの、もしかして名前違うのかな? ごめんねあたし、事故に遭って記憶がなくて。さっき坂上さんに名前聞いたんだけど、もし間違ってたら言ってほしいな」
反応がない。瞬きすらしていない。
困ったな。この子も絡みづらいかも。
「……なんか別人みたい」
「え?」
こんなに距離が近いのに、鹿児島さんの声が小さすぎて聞き取れなかった。
だけどもう一度聞き返すのも失礼な気がして、あたしはなにも言えないまま、チープな愛想笑いを浮かべてしまう。
そんなあたしをみて鹿児島さんは、教室に入ることなく踵を返して去っていった。
「凄いじゃん、あいつを追い返すなんて」
席に戻ると坂上さんがあたしを褒める。鹿児島さん、あの時なんて言ったんだろう。気になるけど帰っちゃったみたいだし、また今度聞いてみようかな。
「鹿児島さんって、あんまり学校こないの?」
「……あっは。やっぱあんたまじウケる」
いまのはどういう意味だろう。あたしは普通に聞いただけなんだけど。
「そうだね、あんまりこないね。まぁいいんじゃない? いない方が平和だし」
「またそういうこと言う」
「あんたさぁ、自分がいままでなにをしてきたかとか気にならないの?」
「そんなの気になるに決まってるじゃん」
「日記とかつけてないの?」
「日記とかはつけてないと思う。家に帰ってきた時に自分の部屋を一通り調べてみたけど、なにもみつからなかったし」
あたしの部屋は本当になにもなかった。必要最低限のものしかなくて、誰かから貰った手紙とか、写真とか、そういう類いのものは本当になにも。
「あたしって友達いなかったのかな」
こんな話を坂上さんにしたってしょうがないのに、誰かに話したくて仕方がなかった。
「そんなに友達がほしいなら、いまからでもあいつと仲良くなればいいよ」
「うーん」
でもなぁ、あの子、声がめちゃくちゃ小さいんだよね。友達になったとしても会話になるか。
それにしてもあたしのクラスの女子って、綺麗な子多くない?
口は悪いけど坂上さんも綺麗だし、小長井さんも、鹿児島さんも皆綺麗。
ああでも、小長井さんと鹿児島さんはあんまり学校にこないんだよね。クラスに二人も休みがちな子がいるなんてなかなかないと思うけど。
とにかく今週も無事、乗り切ったことだし、帰ったら入浴剤入れちゃおうかなぁ。週に一度の贅沢バスタイム。この間は柚子の香りを入れたから、今度は森林の香りにしよう。
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