橋本愛莉というおんな

まなづるるい

文字の大きさ
4 / 97
第一章

4.

しおりを挟む
 火曜、水曜、木曜と、金曜日になっても小長井さんがいないからか、学校は平和だった。坂上さんに、小長井さんはいつもこんな感じなのか聞いてみたけど、「あんたがきもくなったからじゃん?」と言われてしまった。
 正直なところ、あたしと坂上さんの関係もよくわからないんだよね。友達なのか、友達じゃないのか。友達じゃないならなんなのか。
 あたしのことをうざいと言うくせに、あたしが話しかけると答えてくれる。まぁ、口は悪いけど。
 事件が起きたのは、金曜日のお昼休み。教室でお弁当を食べていると、後ろのドアが開いた。
 急に静まり返る教室に、最初は小長井さんがきたのかもと緊張したけど、坂上さんの声が不機嫌そうだったから、小長井さんじゃないんだと確信した。

「……あ? あいつなんでまたきてんの?」

 あいつって誰だろう。視線をそっちに向けてみると、思わず胸に目が行くほど胸の大きい、だけど背の低い女の子がそこにいた。
 こういうのって、ロリ巨乳って言うんだっけ。男の子は好きだよね。

「なにしにきたの? 早く帰れよブス」

 あ、なんかいま、ブスって言葉、地雷かも。坂上さんの口の悪さは気にいらない子に対してなのかな。

「……あ……」

 なんか、すんごいちっちゃい声。身長だけじゃなくて声もちっちゃいんだ。次になにを言うのかが気になって、こっちまで思わず黙ってしまう。
 だけどその子はなかなか言葉を紡ごうとはしなかった。それが坂上さんを余計に苛立たせたようで、背後から強めの舌打ちが聞こえてきた。

「言い返す言葉もないなら早く帰れっての」

 こういう空気、苦手だな。

「さ、坂上さん、そんな言い方しなくても」
「はぁ? だって教室に入りもしない、言い返してもこない、なにがしたいの? って思うじゃん」
「で、でも言い方が」
「じゃああんたが優しく聞いてあげればいいじゃん。教室に入んないんでちゅかぁ? って」

 流石にそんな言い方はしないけど。ていうかあの子、誰。
 あたしは周りに聞こえないように坂上さんに耳打ちをする。

「……ていうかあの子、誰」
鹿児島千里かごしませんり。鹿児島県の鹿児島に針千本の千、たけのこの里の里って書いて、鹿児島千里」

 針千本の千にたけのこの里……千里眼の千里でよくないか?
 まぁいいや。とにかくあたしが話を聞いてみよう。坂上さん相手だと怖くて萎縮しちゃうのかもしれないし。
 席を立つと、あたしは鹿児島さんの元へと歩きだした。近くでみると高校生とは思えないくらい本当にたわわで、ついつい胸元ばかりに視線がいってしまう。同性とはいえ、あんまりガン見してはセクハラに値するだろう。ほどよく視線を逸らさねば。

「鹿児島さん、あの、教室に入らないの?」

 うん?
 なんだろう?
 鹿児島さんが、あたしのことをじっとみつめている。
 そりゃ話しかけてるんだからこっちをみるのは当たり前なんだけど、そうじゃなくてなんていうか、さっきまでの怯えた雰囲気じゃなくて、汚いものでもみるかのような、冷たい目。

「……鹿児島さん?」

 もしかして名前が違うのかな。坂上さんなら適当な名前を教えて馬鹿にしてきそうだよね。

「あの、もしかして名前違うのかな? ごめんねあたし、事故に遭って記憶がなくて。さっき坂上さんに名前聞いたんだけど、もし間違ってたら言ってほしいな」

 反応がない。瞬きすらしていない。
 困ったな。この子も絡みづらいかも。

「……なんか別人みたい」
「え?」

 こんなに距離が近いのに、鹿児島さんの声が小さすぎて聞き取れなかった。
 だけどもう一度聞き返すのも失礼な気がして、あたしはなにも言えないまま、チープな愛想笑いを浮かべてしまう。
 そんなあたしをみて鹿児島さんは、教室に入ることなく踵を返して去っていった。

「凄いじゃん、あいつを追い返すなんて」

 席に戻ると坂上さんがあたしを褒める。鹿児島さん、あの時なんて言ったんだろう。気になるけど帰っちゃったみたいだし、また今度聞いてみようかな。

「鹿児島さんって、あんまり学校こないの?」
「……あっは。やっぱあんたまじウケる」

 いまのはどういう意味だろう。あたしは普通に聞いただけなんだけど。

「そうだね、あんまりこないね。まぁいいんじゃない? いない方が平和だし」
「またそういうこと言う」
「あんたさぁ、自分がいままでなにをしてきたかとか気にならないの?」
「そんなの気になるに決まってるじゃん」
「日記とかつけてないの?」
「日記とかはつけてないと思う。家に帰ってきた時に自分の部屋を一通り調べてみたけど、なにもみつからなかったし」

 あたしの部屋は本当になにもなかった。必要最低限のものしかなくて、誰かから貰った手紙とか、写真とか、そういう類いのものは本当になにも。

「あたしって友達いなかったのかな」

 こんな話を坂上さんにしたってしょうがないのに、誰かに話したくて仕方がなかった。

「そんなに友達がほしいなら、いまからでもあいつと仲良くなればいいよ」
「うーん」

 でもなぁ、あの子、声がめちゃくちゃ小さいんだよね。友達になったとしても会話になるか。
 それにしてもあたしのクラスの女子って、綺麗な子多くない?
 口は悪いけど坂上さんも綺麗だし、小長井さんも、鹿児島さんも皆綺麗。
 ああでも、小長井さんと鹿児島さんはあんまり学校にこないんだよね。クラスに二人も休みがちな子がいるなんてなかなかないと思うけど。
 とにかく今週も無事、乗り切ったことだし、帰ったら入浴剤入れちゃおうかなぁ。週に一度の贅沢バスタイム。この間は柚子の香りを入れたから、今度は森林の香りにしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...