橋本愛莉というおんな

まなづるるい

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第一章

5.

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 家に帰るとお兄ちゃんはいなかった。いつ休みなのかは聞いていないから、いれば嬉しいし、いないと気分が落ち込んだ。試しに自分の部屋で机の上に今日の宿題を広げてみたけど、全然捗らないし。
 あたしのやる気、何処に行っちゃったの?
 もうお風呂入っちゃおうかな。それともお兄ちゃんのバイト先に遊びに行ってみるとか。
 お店の名前なんだっけ。ううん、思いだせないや。お兄ちゃんが帰ってきたら聞いてみよう。となると、お風呂に入るのもまだ早い気がするしどうしようかな。
 悩むこと数分。
 よし、ちょっとだけお昼寝しよう。一時間、いや三十分だけ。
 あたしはベットに横になると、秒で意識を持っていかれた。
 夢をみた。
 あたしが坂上さんと小長井さんと一緒にいて、鹿児島さんも教室にいるんだけど、鹿児島さんは一人ぼっちで椅子に座っていて、お弁当を食べようとしていて、あたしがそのお弁当をごみ箱に捨てる夢。
 坂上さんと小長井さんはみてるだけ。笑ってるだけ。あたしが率先して鹿児島さんに酷いことばかりしてるの。あたしはそんなことしないのに、夢の中のあたしは意地悪だ。
 鞄の中身を床に全部ぶち撒けたり、上履きを脱がせて遠くに投げたり。
 だけど教科書を破ったり落書きしたりはしないの。そういう、先生がみたらすぐにわかりそうなことは。
 だから蹴ったり殴ったりもしないし、机に落書きもしない。物を壊したり隠したりもしない。
 だけど。
 鹿児島さんのたわわな胸を、揉んだりシャツを引っ張ってボタンが弾け飛んだり。
 とにかく夢の中のあたしは酷かった。夢なのに心が苦しくなった。
 目を覚ましたあたしはすぐに身体を起こせなくて、ずっと心が痛かった。これは夢だってわかってるのに、どうしようもなく胸が苦しかった。
 ごめんなさい、ごめんなさい。夢の中で鹿児島さんを虐めてはずかしめてごめんなさい。
 水が飲みたくてリビングに行くと、お兄ちゃんが帰ってきてた。

「あ、お兄ちゃん」
「ただいま、愛莉。もしかして寝てたの?」
「うん。おかえりお兄ちゃん」

 あんな夢をみたからか、お兄ちゃんの顔をみたら凄く落ち着いた。嫌な夢はどんどん吐きだした方がいいって言うけど、思いだすのも嫌なくらい胸糞悪い夢だったな。

「あ、そうだ。お兄ちゃんのバイト先ってなんてとこ?」
「どうして?」
「今日遊びに行こうかと思ったんだけど、バイト先の名前知らないなって」
「フルールだよ。駅前の喫茶店」
「おっけ。今度遊びに行っていい?」
「なにか一杯、頼んでくれるなら」
「了解」

 水を一杯飲んでからリビングのソファに腰を下ろすと、あたしはスマホでお兄ちゃんのバイト先を調べた。

「フルール、フルール……あった」

 ほんとに駅から近いんだ。これなら迷わずに行けそう。
 喫茶店の場所を確認すると、あたしは漫画を読み始めた。
 お兄ちゃんのいるこの空間が好き。会話がなくても安心するし、此処にいてもいいんだって思えるから。

「お兄ちゃん、今日のご飯、なに?」
「今日はシチューだよ」
「やったぁ」

 毎日が平和であれ。
 柚留ちゃんの部屋にはお兄ちゃんがご飯を持っていった。あれからあたしは、柚留ちゃんの部屋の前には行ってない。
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