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第二章
14.
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「おはよう、流」
翌日。教室であたしがそう言うと、流は勿論、小長井さんまで驚いていた。
そりゃそうだ。昨日まで坂上さんと呼んでたのに、急に流と呼ぶようになれば誰だって驚くよ。その阿呆面があたしには面白くて仕方がなかった。
「なんでてめぇが流を呼び捨てしてんだよ」
「なんでって。元々仲が良かったんだから当たり前でしょ、小長井さん」
さん呼びを強調することで、貴女とは仲が悪かったんだと遠回しに告げていた。
ま、阿呆な小長井さんには、はっきり言わないとわからないかな。阿呆な小長井さんには。
「ちょ、ちょっと。流もなんとか言ってやんなよ。なに好き勝手言わせてんのよ!」
あたしはじっと流をみつめると、にこりと笑ってみせた。
「……あは」
「え、なに笑ってんの?」
「ああもうやめやめ! 記憶はなくても愛莉は愛莉なんだもん!」
「は? え、なに……どゆこと?」
流は笑いながらあたしの方に歩み寄ると、小長井さんの方に向き直った。
「あたし、愛莉と一緒にいることにするわ」
「はぁ?」
「果歩のことは好きだけど、愛莉に嫌がらせするためだけに毎日学校くるとかまじできしょいし」
「ちょ、ちょっと待ってよ流」
「愛莉があんなに謝ってんのに許さないで意地悪するとかぁ……鬼?」
流の一言で小長井さんは完全に黙ってしまった。流は小長井さんの鞄を手に取ると、ぶんぶんと振り回してその勢いのまま窓から放り投げた。
「ありゃりゃ、果歩の鞄が飛んでいっちゃった! 今日はもう帰った方がいいんじゃないっ?」
こういう時の流は心底楽しそうな顔をするんだよね。
あたしは黙ったまま棒のように突っ立っている小長井さんの腕を引っ張ると、鞄と同じように窓から投げ捨てようとする。
「え、ちょ、ちょっとやめて」
やめてだって。やめるわけないじゃん、ばーか。
「流が帰れって言ってんじゃん! 早く帰りなよ」
小長井さんの身体を押さえつけながら、あたしは冷たく言い放つ。
あたしはこのままあんたを此処から突き落としたっていいんだよ。いままでそれくらいのことをされてきたんだし。
「わ、わかったから、帰るから、だからやめて!」
あたしは小長井さんから手を離した。慌てて教室から飛びだそうとする小長井さんに、流がお別れの挨拶をする。
「もう学校こなくていいから」
小長井さんの足が一瞬、止まった。
「きたらあたしが虐めてあげる♡」
二人は友達だったはずなのに、あんなに仲が良かったのに、壊れるのは一瞬なんだ。
これはあたしが壊したのかな?
違うよね。あたしは流を助けただけ。二人は一緒にいるべきじゃなかったの。
小長井さんはなにも言わず、振り返ることもなく教室から飛びだした。
「はぁ、すっきりした!」
「格好良かったよ、流」
小長井さんのいなくなった教室はとても静かだった。やっぱり害虫は駆除しないとね。ほら、クラスの皆の顔もなんだかほっとしてる。
皆、小長井さんが嫌だったんだ。そうだよね。たまにしかこなかったくせに、急に毎日学校にきたかと思えば、あたしを虐めているんだもん。なんだこいつって感じだよね。わかる、あたしだってそう思ってた。
こんなふうに、鹿児島さんのことも学校にくんなって言ったのかな。小長井さんは別にいいけど、鹿児島さんに対してはやっぱり罪悪感が拭えない。
また面会できるようになったら会いに行きたいな。会って、小長井さんになにをされたのか聞きたい。害虫ならもういないから大丈夫だよって教えてあげたい。
「愛莉、ハイタッチしよ」
「うん!」
『いえーい!』
あたしは流と笑顔で勝利のハイタッチをした。
翌日。教室であたしがそう言うと、流は勿論、小長井さんまで驚いていた。
そりゃそうだ。昨日まで坂上さんと呼んでたのに、急に流と呼ぶようになれば誰だって驚くよ。その阿呆面があたしには面白くて仕方がなかった。
「なんでてめぇが流を呼び捨てしてんだよ」
「なんでって。元々仲が良かったんだから当たり前でしょ、小長井さん」
さん呼びを強調することで、貴女とは仲が悪かったんだと遠回しに告げていた。
ま、阿呆な小長井さんには、はっきり言わないとわからないかな。阿呆な小長井さんには。
「ちょ、ちょっと。流もなんとか言ってやんなよ。なに好き勝手言わせてんのよ!」
あたしはじっと流をみつめると、にこりと笑ってみせた。
「……あは」
「え、なに笑ってんの?」
「ああもうやめやめ! 記憶はなくても愛莉は愛莉なんだもん!」
「は? え、なに……どゆこと?」
流は笑いながらあたしの方に歩み寄ると、小長井さんの方に向き直った。
「あたし、愛莉と一緒にいることにするわ」
「はぁ?」
「果歩のことは好きだけど、愛莉に嫌がらせするためだけに毎日学校くるとかまじできしょいし」
「ちょ、ちょっと待ってよ流」
「愛莉があんなに謝ってんのに許さないで意地悪するとかぁ……鬼?」
流の一言で小長井さんは完全に黙ってしまった。流は小長井さんの鞄を手に取ると、ぶんぶんと振り回してその勢いのまま窓から放り投げた。
「ありゃりゃ、果歩の鞄が飛んでいっちゃった! 今日はもう帰った方がいいんじゃないっ?」
こういう時の流は心底楽しそうな顔をするんだよね。
あたしは黙ったまま棒のように突っ立っている小長井さんの腕を引っ張ると、鞄と同じように窓から投げ捨てようとする。
「え、ちょ、ちょっとやめて」
やめてだって。やめるわけないじゃん、ばーか。
「流が帰れって言ってんじゃん! 早く帰りなよ」
小長井さんの身体を押さえつけながら、あたしは冷たく言い放つ。
あたしはこのままあんたを此処から突き落としたっていいんだよ。いままでそれくらいのことをされてきたんだし。
「わ、わかったから、帰るから、だからやめて!」
あたしは小長井さんから手を離した。慌てて教室から飛びだそうとする小長井さんに、流がお別れの挨拶をする。
「もう学校こなくていいから」
小長井さんの足が一瞬、止まった。
「きたらあたしが虐めてあげる♡」
二人は友達だったはずなのに、あんなに仲が良かったのに、壊れるのは一瞬なんだ。
これはあたしが壊したのかな?
違うよね。あたしは流を助けただけ。二人は一緒にいるべきじゃなかったの。
小長井さんはなにも言わず、振り返ることもなく教室から飛びだした。
「はぁ、すっきりした!」
「格好良かったよ、流」
小長井さんのいなくなった教室はとても静かだった。やっぱり害虫は駆除しないとね。ほら、クラスの皆の顔もなんだかほっとしてる。
皆、小長井さんが嫌だったんだ。そうだよね。たまにしかこなかったくせに、急に毎日学校にきたかと思えば、あたしを虐めているんだもん。なんだこいつって感じだよね。わかる、あたしだってそう思ってた。
こんなふうに、鹿児島さんのことも学校にくんなって言ったのかな。小長井さんは別にいいけど、鹿児島さんに対してはやっぱり罪悪感が拭えない。
また面会できるようになったら会いに行きたいな。会って、小長井さんになにをされたのか聞きたい。害虫ならもういないから大丈夫だよって教えてあげたい。
「愛莉、ハイタッチしよ」
「うん!」
『いえーい!』
あたしは流と笑顔で勝利のハイタッチをした。
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