橋本愛莉というおんな

まなづるるい

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第十一章

72.

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「あの、さ。今度の日曜日、空いてる?」
「え、空いてるけど、なに?」
「映画館とか、行かない?」
「……え?」

 次の日の朝、あたしは高松に映画館に行かないかと誘われた。これってもしかしてデートのお誘い?
 突然の申し出にあたしは言葉を詰まらせる。
 だって、高松とデートなんかしたら浮気になっちゃうじゃん。高松とはなにもない。なにもなければ浮気にならない。そう思っていたのに。

「あ、あんまり好きじゃないかな? 映画は借りてみるタイプだった?」
「あ……えっと……急なお誘いだったからびっくりして」
「あ、そ、そうだよね。急だったよね。別に今週じゃなくても、橋本の都合のいい日でいいよ?」

 そういう意味で言ったんじゃないよ。
 言いかけて言葉を飲み込んだ。

「……いいよ」
「え?」
「日曜日、デートしよっか」

 自分からデートしよっかとか、なに言っちゃってんの?
 高松は言わなかったのに。これじゃまるであたしからデートに誘ってるみたいじゃん。違うのに。高松なんか誘うわけないのに。あたしが好きなのは高松じゃなくて、加賀さんなのに。
 もやもやと後悔するきもちがあたしの心を縛りつける。どうしてあんなことを言ったんだろう。どうして映画館に行こうじゃなくてデートしようって言ったんだろう。どうして、どうして、どうして、どうして。もしもこれが加賀さんにばれたら。

『へぇ、愛莉さんって彼氏いたんだ。ふうん』

 だめだめだめだめダメだめだメだめだ目ダダダダダダダだだだだだだッッッッ!!!!!?
 違うの、加賀さん、これは違う。これは彼氏じゃなくて、友達で。彼氏じゃなくて、友達で。友達とっ映画館に。そう!
 映画館に友達と。
 授業中、ずっと先生の言っている言葉が耳に入ってこなかった。授業なんて受けている場合じゃなかった。
 そうだ、断ろう。いまからでも断ればいいよ。日曜日は予定があるからごめんねって。これから先も、ずっと予定があるからごめんねって。加賀さんにだけは誤解されたくないもん。そう、思っていたはずなのに。
 いざ高松を目の前にすると、一度受け入れたか
らか断るのが申し訳なく感じてしまってなかなか切りだせないまま、気がつけば日曜日を迎えていた。
 どうしよう。もう行かなくてもいいかなぁ?
 行かないで明日学校で実は体調悪くなっちゃってとでも言えばいいかなぁ?
 きっと高松ならドタキャンしたって許してくれる。あたしが今日行かなくたって、高松なら許してくれる。
 高松はあたしじゃなくてもいいはずなんだ。あたしじゃなくてもいくらでも可愛い女の子はいる。あたしが高松に手を伸ばしたから。だから高松はあたしの傍にいる。ただそれだけ。
 それだけなら別にいいじゃない。あたしが今日行かなくたっていいじゃない。あたしじゃなくてもいいなら、あたしじゃなくてもいいんだよ。
 約束の時間が迫ってくる。そろそろ家をでないと遅刻する。あたしは明日、後ろめたいきもちで一日を、これからを、一生を過ごすんだ。

「じゃあ行こっか」
「う、うん」

 あたしは結局、此処にいる。高松の隣を歩いている。
 ごめんなさい、ごめんなさい。ドタキャンしようと思ってたのに。
 本当だよ?
 本当だよ?
 なのにきちゃった。高松と映画館に行くためにきちゃった。
 映画はいま流行りのアニメをみた。泣けるアニメだったと思う。
 あたしの頭の中はずっと真っ黒で、どうしてきてしまったんだろう、どうして、加賀さんごめんなさい、加賀さんに会いたい、会って優しく抱き締めてもらいたい、加賀さんとしたい、加賀さん、加賀さん、加賀さん、加賀さん。
 あたしは途中でむらむらして、どうしても触りたくなっちゃって、真っ暗なのをいいことに、スカートの中に手を忍ばせた。




(背後注意)

 下着の上から撫でていると、それだけで全身がゾクゾクした。隣には高松がいて、周りには知らない人がいる。そんな中でこっそり触って感じている背徳感。堪らなく興奮、する。
 触らなくてもわかるほど、あたしは濡れていた。下着の横から指を入れて、濡れた割れ目を上下になぞる。浅く、第一関節の半分くらい、中に入れて動かす。
 どうしよう、きもちいい。あたし、映画館で恥ずかしいことしてる。
 アニメの内容が頭に入ってこない。繰り返し、繰り返し、同じリズムで動かしている。
 やばい、やばい、このままじゃ、だめになる。
 あたしは隣に座っている高松にばれないように指をゆっくり動かすと、そのまま静かにだめになった。
 誰にもばれていないだろうか。高松には。
 あたしは誤魔化すように、売店で購入したコーラを口に含んだ。
 大丈夫、きっと大丈夫。
 上映がおわるまでの長い間、あたしの心臓は怖いくらいに高鳴り続けていた。
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