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第十四章
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ケイさんの連絡先が消えた。なにも知らないケイさんは、あたしが橋本愛莉と偽って接触してきたと思っている。あたしがいるから愛莉が消えたんだって、だからあたしは死ねばいいって、あの日助けるんじゃなかったって。
ズキズキと頭が痛む。あれからあたしはどうやって家まで帰ってきたんだっけ。
自室のベットに倒れ込んだあたしは、ぴくりともせずにただ時間が流れるのを待っていた。
『ごめんね、あの日助けちゃって』
謝ってほしいなんて言ってない。
『何処って、きみは死ぬんだよ! 今度こそ屋上から飛び降りるんだ!』
ケイさんはあたしが死ねばいいと思ってるんだ。あたしが本当についていったら、喜んで背中を押すんだろうな。
『きみはいったい誰なんだ?』
知らないよ。あたしって誰。
もうむり、学校になんか行きたくない。行ったって鹿児島さんはあたしを避けてるし、高松があたしに近づいてくる。高松の声がする度に吐き気がするならもうむりじゃん。流が戻ってくるのを待ちたいけど、その前にあたしの心が死んじゃうよ。
あたしはようやく重い身体を起こすと、スマホで学校に連絡をした。
「あたし、学校やめます」
こんな重大な話を電話一本で、「はいそうですか」となるはずがなかった。詳しく話を聞きたいから明日は学校にきてほしいと言われたあたしは授業が始まる頃、教室には寄らずに職員室に行くとだけ伝えて電話を切る。
翌日。いつもより遅い時間に家をでたあたしは、極力ゆっくり歩いて誰にも鉢合わせしないようにした。
誰にも会わずに学校に着くと、そのまま職員室へと向かう。ドアを開けるとほとんどの先生が席を外しており、これなら騒ぎにならないだろうと安堵する。
「橋本さん、いらっしゃい」
あたしを迎えてくれたのは、以前少しだけ話したことのある女の先生だった。
「久しぶりだね。怪我はもう大丈夫?」
「あ、はい」
そうだ、思いだした。この人はあたしが鷺沼先生を追いだそうとして、わざと窓ガラスを割った時に怪我の手当てをしてくれた先生だ。
「じゃあ保健室に移動しよっか」
移動するなら最初から保健室にくるように言えばよかったのに、どうしてわざわざ職員室に呼んだんだろう。聞けば、「職員室に用があったからきてもらったんだ」と言っていた。
保健室に移動すると、席に座るよう促される。
「それで、どうして橋本さんは学校をやめたいのかな?」
「……学校をやめたいというか、正確には、高松がいるなら学校に行きたくないんです」
「高松くんって、同じクラスの?」
「はい」
あたしは高松があたしに対して好意があること、きもちには答えられないと言ってるのに付き纏われていることを伝えた。
あたしの話を聞いた先生は、事情はわかったけど此処では最低限の対応しかしてあげられないこと、高松のクラスを変えるよう同学年の先生達に掛け合ってくれること、完全にあたしに近づかないようにさせるのはむりだけど近づいたら警察に通報して二度と檻からださないよう徹底してもらうと高松に脅しを入れておくと言ってくれた。
確かにそこまでしてくれるなら、あたしが泣き寝入りをする必要はないかもしれない。あたしは先生に、いま掲げた提案すべてが通るなら学校に通うことを約束した。
「じゃあ今日は帰ります」
「これだけのためにきてくれてありがとうね。結果がでたら連絡します」
学校からでてしばらく歩いていると、私服姿の流をみかけて足が止まる。
「流?」
「あ、愛莉!」
「え、こんなところでなにしてるの? もう出歩いて平気なの?」
「うん、もう全然平気なの。まだ包丁は怖くて使えないんだけどね。それ以外はもう全然。実は明日から学校に復帰しようと思ってるんだ」
「え、そうなの?」
「うん。いまちょうど愛莉の家に報告に行こうと思ってたの。凄い偶然」
こないだ会った時よりも、顔色がいいように思えた。本当に流が戻ってくるんだ。なら、あたしも学校やめたいとか言ってる場合じゃないな。
「あれ、制服……あ、今日平日かぁ。休日だと思ってた。あれ? 愛莉学校は?」
「ああうん、今日はもういいの」
「ふうん。なんかまた色々なことに巻き込まれてるんだねぇ」
近況報告をしながら歩いていると、自然と足がコンビニに向かっていた。あたしが流に、「どうしてコンビニに寄るの?」と聞くと、「久しぶりにお菓子パーティーしようよ」と言うので賛成する。
今日はポッキーにしようかな。あ、苺味がでたんだ。甘いのの次はしょっぱいのがほしいよね。やっぱポテチはうすしおしか勝たん。
カゴに自分が好きなお菓子を入れてるだけでも楽しかった。今日は家に帰っても一人じゃないんだと思うと、それだけで嬉しかった。
「あたし鹿児島さんの家とか知らないしさ、どうやって鹿児島さんに会ったらいいんだろう?」
話題は移り変わって、鹿児島さんの話になっていた。せっかく学校にくるようになったのに、またこなくなっちゃったからどうしようって内容だ。
二人して困ったねぇと小首を傾げていると、お菓子コーナーに誰かきたのでちらりとみる。
「え、鹿児島さん?」
まさかこんなところで会えるとは思ってなかったあたしは、怪訝そうな表情を浮かべてこの場から逃げようとする鹿児島さんを捕らえるために、流とお菓子をおいて全速力で走っていた。
「鹿児島さん、待って! 逃げないで!」
「え、愛莉! お会計はぁ?」
「ごめぇんあとでお金払うからぁ!」
鹿児島さん、あたしをみて嫌そうな顔してた。面倒な奴に会ったって顔。
あたしは鹿児島さんの腕を掴むと、人生初の壁ドンをした。
「な、なんで逃げるの? はあっ、はあっ、走って逃げるなんて酷いよ……っ」
「……いま一番会いたくない人に会ったから……」
やっぱりそうなんだ。わかっていたけど、面と向かって言われると傷つくな。
あたしは弾んだ息を整えると、壁から手を離した。
「鹿児島さんがあたしを嫌いなのは知ってるよ。だけどあたしは鹿児島さんを諦めたくないんだよね」
随分と自分勝手な発言をしている自覚はある。だけどせっかく流が戻ってくるんだから、鹿児島さんにも戻ってきてほしいと思ったんだ。二人ともあたしの大切な友達だから。
鹿児島さんはじいっとあたしの顔をみつめると、なにか言いたそうな表情を浮かべていた。
「愛莉ぃー」
遠くから流がお菓子の入った買い物袋を持ちながら、こちらに向かって走ってくるのがみえた。
「よかった追いついたぁ」
「ご、ごめん流。重たいよね、持つよ」
「ううん大丈夫ぅ。それよりお話はおわったのぉ?」
「あ、えっと」
あたしがどう切りだそうか迷っていると、ランドセルを背負った男の子達が、あたしの後ろを通り過ぎていく。男の子達は冗談交じりで「死ねよお前ぇ」などと言い合っていて、その瞬間、ケイさんの言葉があたしの頭の中でフラッシュバックした。
『何処って、きみは死ぬんだよ! 今度こそ屋上から飛び降りるんだ!』
あたしは死ぬべき人間だ。此処にいてはいけない存在だ。
そう言われているみたいで胸が頭がズキズキと痛みだす。
苦しい。
このままじゃ息ができない。
しっかりしなきゃ。流と鹿児島さんの前で取り乱すわけにはいかないの。とくに鹿児島さんの前では。
「愛莉? どうしたの、顔色悪いよ、具合悪い?」
あたしの様子をみて心配してくれている流に、「大丈夫だよ」と言いたいのに言葉がでてこない。
対して鹿児島さんは、「またか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。
「う……う……薬……」
「え、薬? 薬がなぁに?」
なにも知らない流があたしに聞く。鹿児島さんは我関せずという顔で、退屈そうにあたしから視線を逸らしている。
「薬って、頭が痛い時に飲む薬? 愛莉、頭痛いの? 今日は薬持ってきてない?」
「薬、もう、ない……あれがないとあたしは生きていけないのに……薬、飲まないと、薬、薬ぃ……っ」
「愛莉? どうしたの? なんか変だよ?」
「なんであたしに死ねって言うの! 助けちゃってごめんねって言うの! あの日助けてくれたから、あたしは生きようと思えたのに!」
ズキズキと頭が痛む。あれからあたしはどうやって家まで帰ってきたんだっけ。
自室のベットに倒れ込んだあたしは、ぴくりともせずにただ時間が流れるのを待っていた。
『ごめんね、あの日助けちゃって』
謝ってほしいなんて言ってない。
『何処って、きみは死ぬんだよ! 今度こそ屋上から飛び降りるんだ!』
ケイさんはあたしが死ねばいいと思ってるんだ。あたしが本当についていったら、喜んで背中を押すんだろうな。
『きみはいったい誰なんだ?』
知らないよ。あたしって誰。
もうむり、学校になんか行きたくない。行ったって鹿児島さんはあたしを避けてるし、高松があたしに近づいてくる。高松の声がする度に吐き気がするならもうむりじゃん。流が戻ってくるのを待ちたいけど、その前にあたしの心が死んじゃうよ。
あたしはようやく重い身体を起こすと、スマホで学校に連絡をした。
「あたし、学校やめます」
こんな重大な話を電話一本で、「はいそうですか」となるはずがなかった。詳しく話を聞きたいから明日は学校にきてほしいと言われたあたしは授業が始まる頃、教室には寄らずに職員室に行くとだけ伝えて電話を切る。
翌日。いつもより遅い時間に家をでたあたしは、極力ゆっくり歩いて誰にも鉢合わせしないようにした。
誰にも会わずに学校に着くと、そのまま職員室へと向かう。ドアを開けるとほとんどの先生が席を外しており、これなら騒ぎにならないだろうと安堵する。
「橋本さん、いらっしゃい」
あたしを迎えてくれたのは、以前少しだけ話したことのある女の先生だった。
「久しぶりだね。怪我はもう大丈夫?」
「あ、はい」
そうだ、思いだした。この人はあたしが鷺沼先生を追いだそうとして、わざと窓ガラスを割った時に怪我の手当てをしてくれた先生だ。
「じゃあ保健室に移動しよっか」
移動するなら最初から保健室にくるように言えばよかったのに、どうしてわざわざ職員室に呼んだんだろう。聞けば、「職員室に用があったからきてもらったんだ」と言っていた。
保健室に移動すると、席に座るよう促される。
「それで、どうして橋本さんは学校をやめたいのかな?」
「……学校をやめたいというか、正確には、高松がいるなら学校に行きたくないんです」
「高松くんって、同じクラスの?」
「はい」
あたしは高松があたしに対して好意があること、きもちには答えられないと言ってるのに付き纏われていることを伝えた。
あたしの話を聞いた先生は、事情はわかったけど此処では最低限の対応しかしてあげられないこと、高松のクラスを変えるよう同学年の先生達に掛け合ってくれること、完全にあたしに近づかないようにさせるのはむりだけど近づいたら警察に通報して二度と檻からださないよう徹底してもらうと高松に脅しを入れておくと言ってくれた。
確かにそこまでしてくれるなら、あたしが泣き寝入りをする必要はないかもしれない。あたしは先生に、いま掲げた提案すべてが通るなら学校に通うことを約束した。
「じゃあ今日は帰ります」
「これだけのためにきてくれてありがとうね。結果がでたら連絡します」
学校からでてしばらく歩いていると、私服姿の流をみかけて足が止まる。
「流?」
「あ、愛莉!」
「え、こんなところでなにしてるの? もう出歩いて平気なの?」
「うん、もう全然平気なの。まだ包丁は怖くて使えないんだけどね。それ以外はもう全然。実は明日から学校に復帰しようと思ってるんだ」
「え、そうなの?」
「うん。いまちょうど愛莉の家に報告に行こうと思ってたの。凄い偶然」
こないだ会った時よりも、顔色がいいように思えた。本当に流が戻ってくるんだ。なら、あたしも学校やめたいとか言ってる場合じゃないな。
「あれ、制服……あ、今日平日かぁ。休日だと思ってた。あれ? 愛莉学校は?」
「ああうん、今日はもういいの」
「ふうん。なんかまた色々なことに巻き込まれてるんだねぇ」
近況報告をしながら歩いていると、自然と足がコンビニに向かっていた。あたしが流に、「どうしてコンビニに寄るの?」と聞くと、「久しぶりにお菓子パーティーしようよ」と言うので賛成する。
今日はポッキーにしようかな。あ、苺味がでたんだ。甘いのの次はしょっぱいのがほしいよね。やっぱポテチはうすしおしか勝たん。
カゴに自分が好きなお菓子を入れてるだけでも楽しかった。今日は家に帰っても一人じゃないんだと思うと、それだけで嬉しかった。
「あたし鹿児島さんの家とか知らないしさ、どうやって鹿児島さんに会ったらいいんだろう?」
話題は移り変わって、鹿児島さんの話になっていた。せっかく学校にくるようになったのに、またこなくなっちゃったからどうしようって内容だ。
二人して困ったねぇと小首を傾げていると、お菓子コーナーに誰かきたのでちらりとみる。
「え、鹿児島さん?」
まさかこんなところで会えるとは思ってなかったあたしは、怪訝そうな表情を浮かべてこの場から逃げようとする鹿児島さんを捕らえるために、流とお菓子をおいて全速力で走っていた。
「鹿児島さん、待って! 逃げないで!」
「え、愛莉! お会計はぁ?」
「ごめぇんあとでお金払うからぁ!」
鹿児島さん、あたしをみて嫌そうな顔してた。面倒な奴に会ったって顔。
あたしは鹿児島さんの腕を掴むと、人生初の壁ドンをした。
「な、なんで逃げるの? はあっ、はあっ、走って逃げるなんて酷いよ……っ」
「……いま一番会いたくない人に会ったから……」
やっぱりそうなんだ。わかっていたけど、面と向かって言われると傷つくな。
あたしは弾んだ息を整えると、壁から手を離した。
「鹿児島さんがあたしを嫌いなのは知ってるよ。だけどあたしは鹿児島さんを諦めたくないんだよね」
随分と自分勝手な発言をしている自覚はある。だけどせっかく流が戻ってくるんだから、鹿児島さんにも戻ってきてほしいと思ったんだ。二人ともあたしの大切な友達だから。
鹿児島さんはじいっとあたしの顔をみつめると、なにか言いたそうな表情を浮かべていた。
「愛莉ぃー」
遠くから流がお菓子の入った買い物袋を持ちながら、こちらに向かって走ってくるのがみえた。
「よかった追いついたぁ」
「ご、ごめん流。重たいよね、持つよ」
「ううん大丈夫ぅ。それよりお話はおわったのぉ?」
「あ、えっと」
あたしがどう切りだそうか迷っていると、ランドセルを背負った男の子達が、あたしの後ろを通り過ぎていく。男の子達は冗談交じりで「死ねよお前ぇ」などと言い合っていて、その瞬間、ケイさんの言葉があたしの頭の中でフラッシュバックした。
『何処って、きみは死ぬんだよ! 今度こそ屋上から飛び降りるんだ!』
あたしは死ぬべき人間だ。此処にいてはいけない存在だ。
そう言われているみたいで胸が頭がズキズキと痛みだす。
苦しい。
このままじゃ息ができない。
しっかりしなきゃ。流と鹿児島さんの前で取り乱すわけにはいかないの。とくに鹿児島さんの前では。
「愛莉? どうしたの、顔色悪いよ、具合悪い?」
あたしの様子をみて心配してくれている流に、「大丈夫だよ」と言いたいのに言葉がでてこない。
対して鹿児島さんは、「またか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。
「う……う……薬……」
「え、薬? 薬がなぁに?」
なにも知らない流があたしに聞く。鹿児島さんは我関せずという顔で、退屈そうにあたしから視線を逸らしている。
「薬って、頭が痛い時に飲む薬? 愛莉、頭痛いの? 今日は薬持ってきてない?」
「薬、もう、ない……あれがないとあたしは生きていけないのに……薬、飲まないと、薬、薬ぃ……っ」
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