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第十四章
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「あ、愛莉? ちょっと落ち着いて。誰も死ねなんて言ってないよ?」
「死ねって言った! 鹿児島さんも加賀さんもケイさんも、皆あたしに消えてほしいって思ってるんだ!」
「鹿児島……」
流が鹿児島さんの方に視線を向けると、あたしの発言に嘘はないと言いたいのだろう。鹿児島さんはこくりと頷いた。
「あー……そいつらは愛莉に酷いこと言ったかもしれないけどさ、あたしはそんなふうに思ってないよ? 薬なら家に帰ってから飲めばいいじゃん。あ、そうだ。なんなら今日愛莉んちに泊まるよぉ。あたしと一緒にお菓子パーティーしよ♡」
「だめだよ、薬もうないもん。もうずっと飲んでない。飲んでないからおかしくなるんだ。もうなんでもいい、頭痛薬でも睡眠薬でも鎮静剤でもなんでもいいから飲まないと……」
あたしはぶつぶつと呪文のように唱え始めていた。その異質な様子に流石の流もおかしいと思ったのか、鹿児島さんに、「どういうこと?」と問いかける。
「多分、薬物依存症だと思う。そのうち身体壊して死ぬんじゃない?」
鹿児島さんが他人事のようにそう言うと、流はショックを受けているようだった。
「嘘……ねえ、ねえ、だめだよそんなになるまで薬飲んじゃ。薬なんかに頼ってたら身体がボロボロになって死んじゃうよ?」
「いいよ? 別に。だってあたしは愛莉じゃないもん。愛莉の身体を乗っ取った、何処かの誰か。お兄ちゃんの妹でもなければ家族でもない、赤の他人。そりゃお前誰だよって、柚留ちゃんも怒って当然だよね」
強がりとかじゃなく、本心でそう言った。
あたしは誰?
そんなの誰にもわからない。あたしの記憶が戻らない限り。
橋本愛莉として生きようとしたこともあったけど、やっぱりむりだ。あたしは必要とされてない。いくら流があたしを必要だと手を差し伸べてくれたとしても、あたしはもう立ち上がることはできないの。疲れたの。もう傷つきたくないの。ケイさんとならもしかしてって、思った矢先にこれだもん。
だからもういいの。あたしは死ぬの。そしてあわよくば愛莉が戻ってくればいい。この身体はあたしのじゃない。もう返すよ、もういらないよ。
思いの丈をぶちまけると、流があたしを抱き締める。
「なに言ってるの、もういらないなんて言わないでよ……味方があたしだけじゃ不満だって言いたいわけ?」
流の声は震えていた。世界中の人があたしを必要としなくても、流だけは味方でいてくれたね。嬉しいよ。だからあたしもそのきもちに答えたいと思う。思うのに、あたしは傷つきすぎた。
本当に色々あった。これ以上此処にいても苦しいだけ。
「薬、やめられる?」
「え?」
「薬、飲むのやめられる?」
どうしてそんなことを聞くんだろう。鹿児島さんの質問の意味がわからなくて言葉に詰まっていると流が、「そんなの、あたしがやめさせるし!」と豪語した。
「なら、学校に戻ってもいいよ」
「やばぁ、いまの聞いたぁ? 愛莉が薬飲まずにいられたら、鹿児島が学校にきてくれるってぇ」
「……やめるなんてむりだよ。それは鹿児島さんが一番わかってるでしょ?」
「わかってる。だから言ってるの。私は賭けにでただけ。貴女は? こんなに貴女を想ってくれる人がいるのに、貴女はそれでも死を選択するの? 残されたこの人はどうなるの? 私、この人の面倒なんてみたくないんだけど」
「鹿児島に面倒みられるとか死んだ方がマシなんだけどぉ。ねぇ愛莉ぃ、あたしのためにも生きて、お願いぃ」
「だ、だから勝手に決めないで」
「そぉだ! 鹿児島も愛莉んちに泊まればよくない?」
「え、でも流は鹿児島のことが嫌いなんじゃ」
「嫌いだよぉ? でも、愛莉はあたしだけじゃむりじゃん。鹿児島もいなきゃあたしの頼みは聞いてくれない。でしょ?」
確かにそうだ。あたしが此処まで渋るのは、鹿児島さんがあたしを避けるから。三人一緒じゃなきゃ嫌なのに、鹿児島さんがあたしを嫌うから。
なんてね。ただあたしが駄々こねてるだけなんだ。鹿児島さんは関係ない。ううん、関係なくはないかな。鹿児島さんが逃げるから傷ついたのは本当だし。
でも、そうだね。あたしがこの先ずっと薬を飲まずにいられるかどうかはわからないけど、鹿児島さんがまたあたしと普通に話してくれるなら、そういう選択肢もありなのかもしれない。
「……それは鹿児島さん次第、かな?」
あたしがそう言うと、鹿児島さんはほんの少しだけ笑ってくれたような気がした。
「死ねって言った! 鹿児島さんも加賀さんもケイさんも、皆あたしに消えてほしいって思ってるんだ!」
「鹿児島……」
流が鹿児島さんの方に視線を向けると、あたしの発言に嘘はないと言いたいのだろう。鹿児島さんはこくりと頷いた。
「あー……そいつらは愛莉に酷いこと言ったかもしれないけどさ、あたしはそんなふうに思ってないよ? 薬なら家に帰ってから飲めばいいじゃん。あ、そうだ。なんなら今日愛莉んちに泊まるよぉ。あたしと一緒にお菓子パーティーしよ♡」
「だめだよ、薬もうないもん。もうずっと飲んでない。飲んでないからおかしくなるんだ。もうなんでもいい、頭痛薬でも睡眠薬でも鎮静剤でもなんでもいいから飲まないと……」
あたしはぶつぶつと呪文のように唱え始めていた。その異質な様子に流石の流もおかしいと思ったのか、鹿児島さんに、「どういうこと?」と問いかける。
「多分、薬物依存症だと思う。そのうち身体壊して死ぬんじゃない?」
鹿児島さんが他人事のようにそう言うと、流はショックを受けているようだった。
「嘘……ねえ、ねえ、だめだよそんなになるまで薬飲んじゃ。薬なんかに頼ってたら身体がボロボロになって死んじゃうよ?」
「いいよ? 別に。だってあたしは愛莉じゃないもん。愛莉の身体を乗っ取った、何処かの誰か。お兄ちゃんの妹でもなければ家族でもない、赤の他人。そりゃお前誰だよって、柚留ちゃんも怒って当然だよね」
強がりとかじゃなく、本心でそう言った。
あたしは誰?
そんなの誰にもわからない。あたしの記憶が戻らない限り。
橋本愛莉として生きようとしたこともあったけど、やっぱりむりだ。あたしは必要とされてない。いくら流があたしを必要だと手を差し伸べてくれたとしても、あたしはもう立ち上がることはできないの。疲れたの。もう傷つきたくないの。ケイさんとならもしかしてって、思った矢先にこれだもん。
だからもういいの。あたしは死ぬの。そしてあわよくば愛莉が戻ってくればいい。この身体はあたしのじゃない。もう返すよ、もういらないよ。
思いの丈をぶちまけると、流があたしを抱き締める。
「なに言ってるの、もういらないなんて言わないでよ……味方があたしだけじゃ不満だって言いたいわけ?」
流の声は震えていた。世界中の人があたしを必要としなくても、流だけは味方でいてくれたね。嬉しいよ。だからあたしもそのきもちに答えたいと思う。思うのに、あたしは傷つきすぎた。
本当に色々あった。これ以上此処にいても苦しいだけ。
「薬、やめられる?」
「え?」
「薬、飲むのやめられる?」
どうしてそんなことを聞くんだろう。鹿児島さんの質問の意味がわからなくて言葉に詰まっていると流が、「そんなの、あたしがやめさせるし!」と豪語した。
「なら、学校に戻ってもいいよ」
「やばぁ、いまの聞いたぁ? 愛莉が薬飲まずにいられたら、鹿児島が学校にきてくれるってぇ」
「……やめるなんてむりだよ。それは鹿児島さんが一番わかってるでしょ?」
「わかってる。だから言ってるの。私は賭けにでただけ。貴女は? こんなに貴女を想ってくれる人がいるのに、貴女はそれでも死を選択するの? 残されたこの人はどうなるの? 私、この人の面倒なんてみたくないんだけど」
「鹿児島に面倒みられるとか死んだ方がマシなんだけどぉ。ねぇ愛莉ぃ、あたしのためにも生きて、お願いぃ」
「だ、だから勝手に決めないで」
「そぉだ! 鹿児島も愛莉んちに泊まればよくない?」
「え、でも流は鹿児島のことが嫌いなんじゃ」
「嫌いだよぉ? でも、愛莉はあたしだけじゃむりじゃん。鹿児島もいなきゃあたしの頼みは聞いてくれない。でしょ?」
確かにそうだ。あたしが此処まで渋るのは、鹿児島さんがあたしを避けるから。三人一緒じゃなきゃ嫌なのに、鹿児島さんがあたしを嫌うから。
なんてね。ただあたしが駄々こねてるだけなんだ。鹿児島さんは関係ない。ううん、関係なくはないかな。鹿児島さんが逃げるから傷ついたのは本当だし。
でも、そうだね。あたしがこの先ずっと薬を飲まずにいられるかどうかはわからないけど、鹿児島さんがまたあたしと普通に話してくれるなら、そういう選択肢もありなのかもしれない。
「……それは鹿児島さん次第、かな?」
あたしがそう言うと、鹿児島さんはほんの少しだけ笑ってくれたような気がした。
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