デビルフェイス

偶然編

第５話減少の暗示

降りしきる雨。
そんな住宅街を４０代の男性と、６歳ぐらいの黒髪の幼い少女が傘を持っている。
おそらく家に帰る途中なのだろう。
「お父さん、今日のごはんはなんですか？」
「今日はおでんだよ」
「良いですね。今日は冷え込みますし、熱い物を食べて温まりましょう」
娘は父に笑みを浮かべる。
「そう言えばニュースで軍隊の主力兵器がデビルに破壊されたって言ってました」
「ふーん。これでますますデビルが暴れるな。気をつけないと」
そう言って歩き続けていると、ずぶ濡れの騎士がそこに立っていた。
「貴様ら、マスターとそのデビルだな」
「デビル！？」
驚きを隠せず叫びを上げる父の心臓の鼓動が早くなる。
「私の名はブレイド、刃を暗示する者だ」
「私の名前はダウン、減少を暗示する者です」
自己紹介が済んだところで、ダウンは父の顔を見る。
「お父さん、危ないですから先に帰っててください」
「分かった。無事に帰って来てね」
微笑む父はダウンの傘を持って帰って行った。
「ダウン、貴様はマスターの事をお父さんと呼ぶのだな」
「悪いですか？ マスターの呼び名はデビルの自由でしょう」
「そうだな、気分を悪くしたならすまない。では始めようか」
ブレイドは次元の裂け目から刀とサーベルを取り出し、二刀流の体勢で攻撃を仕掛ける。
すると刀とサーベルが異常に軽くなる。
（なんだ？ いきなり軽くなったぞ？）
異変に気づき、刀とサーベルをダウンに向けて投げつける。
これにはちゃんとした理由がある。
その理由とは武器の強度の確認である。
もしかしたら暗示の通り、性能を落とされた可能性があるからだ。
そんな事をしている間に、刀とサーベルが頭に命中する。
だがまるでスポンジの様にふんわりと跳ね返り、地面に落ち、バラバラに砕けた。
「やはり、貴様の能力は」
「そうです、私の能力はすべてを減少させると言う物です。だからあなたがどんだけ強い武器を使ったとしても、スポンジみたいになっちゃうんですよ」
「厄介な奴だ。私には手がつけられん。ブックエスケープで帰らせてもらう」
「私としてはありがたいです、別に戦いたくないですから」
「一応聞いておく。貴様のマスターは遺産を欲しくないのか？」
「特にそんな事は聞いてませんね。ただ私はお父さんといたいだけです」
「そうか、なら戦う理由はない。さらばだ」
そう言ってブックエスケープを使い、その場から逃げ出した。
ダウンはため息を吐きながら、ずぶ濡れの状態で家に帰った。
数十分後、帰って来たダウンは次元の裂け目からカギを取り出し、玄関のカギを開け、入り、閉める。
「ただいま帰りました」
ダウンの声に気づき、テレビを見ていた父が玄関に向かう。
「お帰りなさい、ケガはないかい」
「はい、デビルは私の能力に恐れをなして逃げちゃいました」
「それなら良いんだ、俺はデビルと戦わず、ダウンと普通に生活できればそれで良いんだ。冷えただろう、お風呂に入って来な、沸かしてあるから」
「わかりました。お父さん」
ダウンは靴を急いで脱いで、廊下を走り、服を脱ぎ、下着を脱ぎ、靴下を脱ぎ、ポケットからハンカチを取り出し、全部洗濯機に入れ、体を洗いに行く。
シャンプーで髪を洗い、お風呂のお湯で泡を洗い流す。
体をボディソープとタオルでゴシゴシ洗い、お風呂のお湯で泡を洗い流す。
「ふーう」
軽い体がゆっくりと沈んで行く。
お風呂の水嵩が増えるが、溢れるほどではない。
温かい、そう感じる。
毎日行っている行為だが、癖になるほど、好きな事の１つだ。
（私はただお父さんと一緒にいたい、それだけです。だから戦いたくない。デビルはデビルに引かれ合う。まったく、よく言った物です）
デビルは気配を察知する事ができる。
戦わせ、遺産を手にしたい。
そんな気持ちを持つマスターはたくさんいる。
しかし、戦わせず、デビルと一緒にいたい、そんなマスターも少なからず存在する。
それでもデビルはデビルやマスターを殺しに来る。
蛇口から水を飲み、喉を潤す。
蛇口を閉め、お風呂から出ると、用意されていたタオルで全身を拭き、同じく用意されていたパジャマに着替える。
デビルとの戦闘に一種の恐怖を覚えつつ、リビングに行く。
「出ましたー」
「はーい」
父は壁にかけてあるデジタル時計を確認する。
「もうごはんの時間だ、おでんを作るか」
そう言ってキッチンに行き、置いてあるおでんの具材が入った袋を３つ取り、具財を鍋に入れる。
コンロの火をつけ、温める。
ダウンは皿や箸、鍋敷きをちゃぶ台の上に用意した。
数十分後、おでんが煮えたので、鍋掴みを付けて鍋を運び、鍋敷きに置く。
お茶碗にご飯を装い、準備完了。
「「いただきます」」
２人はオタマで具を取り、息で冷ましつつ、おでんを食べるのであった。