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三話
レッドグレイブ領へ
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フレイルが白昼堂々と誘拐される事件から数日、兵士達による邪竜教の捜索に進展があった。
あの誘拐事件では首謀者であるサマンサ・マサマーを捕まえる事は出来たが、その他多くの教徒は混乱に乗じて逃げていった。
兵士達も追いたかったがフレイルの安全を優先した。
「あの女は何か喋ったの?」
「いえ、何も喋りません。恐ろしい信仰心です」
フレイルはソニアにサマンサの近況を聞いたが収穫は無かった様だ。
「しかし散り散りになった教徒達の一部がレッドグレイブ領に向かっていると報告が上がりました」
自室で椅子に座りながら優雅にお茶をしているフレイルにソニアは淡々と伝えた。
レッドグレイブ、その名前にオーズは心当たりがあった。
「レッドグレイブってソニアさんの名前じゃ?」
「そうだ、レッドグレイブ家はその昔騎士として活躍した事で王国から領地を割譲され、今も騎士領の領主としてその地を治めているのだ」
「て言うことはソニアさんの実家の方に教徒が潜んでいると」
「そう言う事ね。ただレッドグレイブ領は隣の領だし、ただ通過しただけかもしれないけどね。うん、上達したわねアーティ」
「ありがとうございます!」
フレイルはアーティに淹れてもらったお茶を飲みながらもしっかりと聞いている。アーティは嬉しそうに頭を下げた。
オーズは王宮でもしっかりと働けているアーティが誇らしかった。オーズは何か起きても土下座をするしか能の無い人間なので、そのもどかしさがアーティへの期待に繋がっているのだ。
「領主には伝えてありますので状況が分かり次第また報告します」
「レッドグレイブ領の領主って今はソニアのお兄さんよね?」
「はい、戦死した父の代わり兄のギースリーが領主になりました」
「ふーん、そう……」
フレイルは何が気に入らないのか分からないが黙って考え込んでしまった。ソニアも何が引っ掛かったのか分からず何も言えないでいる。
ただ経験でソニアは分かる、この後言うことは碌でもない事であるのを。
「よし、レッドグレイブ領を視察に行きましょう」
フレイルは自信満々にそう宣言した。いつものフレイルの我儘にソニアは慣れていたが今回ばかりは驚き必死に抵抗した。
「いけません!先日拐われたばかりではないですか!何があるか分からないのですよ!」
「でも城下町で拐われたのなら何処にいても同じでしょ?それにレッドグレイブの兵士は皆勇敢で実力者揃いと聞くけど一体何が不安なの?」
「それでも王宮の方が安全です!」
「王宮も安全ではないでしょ?何処に刺客が潜んでいるか分からないのに」
ああ言えばこう言うフレイルは譲らない。ソニアは口でフレイルに勝ったことは殆どない。大体がフレイルに言いくるめられてしまう。困ったソニアはオーズに助けを求めた。
「オーズも何か言ってくれ」
「いや、俺も何処も安全じゃないなら姫様のやりたい事させたいかな」
「きゃー兄ちゃん!かっこいいー!」
「またそうやって甘やかして!」
ソニアは頭を抱えた。最近オーズが護衛騎士になってからフレイルの我儘に拍車がかかっている。その分笑顔も増えたが悩み事もその倍増えたと言ったところだ。
「何?ソニア。もしかして家族に会うのが恥ずかしいの?」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃあ行きましょう。王国の視察をするのも王族の義務だからね。それにソニアの実家も興味があるし」
「それが本音ですか!」
こうなっては誰もフレイルを止められない。頼みの綱のオーズもフレイルについては全肯定をする溺愛ぶり。アーティはフレイルの決定に口をは舐める訳ないので人数的にはいつもソニアが負けてしまうのだ。
ウンウンと悩んだ末にソニアは遂に諦めた。
「分かりました。その様にします。領主には視察があると手紙を出しますのでお待ち下さい」
ソニアの言葉には覇気はなく。うなだれるように部屋を後にした。
ソニアが部屋から出るとフレイルはイスから飛び降りクルクル回り始めた。実にご機嫌である。
「お出掛け、お出掛け、久しぶりにお出掛けね。こんな人目のあるとこに閉じ込めて本当やになる」
ここのところずっと王宮に閉じこもっていたフレイルにとって久し振りの外出に心も体と踊らせた。そんな風に調子に乗っていると部屋の扉が突然開かれた。
「視察している日のレッスンは別日に詰め込みますからね。覚悟して下さい」
「え!ちょっ!」
扉からソニアが顔だけ出して言い残して返事を聞く前に扉を閉めた。
「……はーい」
フレイルは嫌そうな顔をしながら扉越しに返事をした。オーズを見つめたがこれはオーズにもどうする事も出来ない。
「うーん、頑張れ、やれば出来る子だから」
オーズの気のない返事にフレイルはオーズのスネを蹴っ飛ばした。
「ぐっ!!」
痛みに声が漏れたオーズは直ぐに土下座をして無敵になりスネの痛みから解放された。まさに流れる様な動きである。
そんなオーズを横目にフレイルは椅子に座りお茶の続きをした。隣で立っているアーティは実の兄がこんな情けない姿を晒しているが、いつもの事なので放っておいてフレイルの世話をしている。
「なあ、ソニアの実家に行きたい理由って何かあるのか?」
痛みが引いたオーズは立ち上がりフレイルに質問した。フレイルは思い付きで行動するがいつも何らかの理由がある。
「そうね、ソニアに里帰りさせてやりたいの。ソニアは護衛騎士になってから実家に帰ってないから」
「お優しいですねフレイル様」
「やめてよ、恥ずかしい」
アーティに褒められてフレイルの顔は少し赤くなった。そんな二人の妹の微笑ましい光景にオーズは思わずニヤけてしまう。
「なによ?」
「いや、なんでも」
フレイルはオーズを睨みつけたがオーズのニヤけは止まらない。止められる筈がない。
フレイルは立ち上がりオーズの足の甲を踵で踏み抜いた。
「ぐあっ!」
痛がるオーズは土下座をしようとしゃがもうとするがフレイルが足を踏み付けているので動けない。しゃがもうにもしゃがめないオーズはその場で苦しんだ。
「痛い!痛い!ごめん!ごめんて!」
「何?どうした?そんなに痛がって」
「ニヤニヤしてごめんなさい!」
フレイルは足を上げてオーズを解放してあげた。オーズはその場で膝をつきヨロヨロと土下座をした。
「ふー痛かった」
オーズは土下座をすると直ぐに立ち上がった。このフレイルに痛め付けられて土下座をする一連の流れはアーティが側仕えになってから何度も目にしている為、実の兄が土下座していても何も思わなくなった。
ただアーティが最近思ったことは。
――お兄ちゃんの土下座、最近誠意が感じられないなぁ。本当に謝る時どうするんだろ。死ぬのかな……
まるで通行人に挨拶する程度のノリで土下座をする兄が本当に謝らないといけない時どうするのか心配であった。
フレイルの突発的思いつきでソニアを困らせた日から二日後、フレイルは王族専用の馬車に揺られていた。朝早くに王宮から出発した一行はお昼過ぎにはレッドグレイブ領に到着する予定である。
御者台にはソニアが座り馬を操り、馬車の中にはオーズとアーティも乗っていた。勿論フレイル愛用の特大ハンマーも積み込んでいる。
馬車の中で軽食を取りつつの移動だがフレイルは終始楽しそうである。アーティも王都から出るのは初めてなので何処かソワソワしている。そんな二人の妹を見てオーズは嬉しくて堪らなかった。
馬車は何事も無く順調にレッドグレイブの街に向かっている。
「もうすぐ街に到着します」
「レッドグレイブ領って王都から近いのですね」
ソニアの報告にアーティが感想を漏らした。
「王都で何かあった時直ぐに駆けつける為ですね。それと外敵が侵攻してきた時に守りの最後の要になります。レッドグレイブ家はその為に存在しているのです」
「それじゃあソニアさんも?」
「はい、物心つく頃から訓練して王家に仕える為に鍛えてきました」
「はえーすごいです」
アーティは生まれながらにその人生を決定づけられ全うしていく事に感心した。平民もある程度就ける職業は決まっているが生まれながらにとまではいかない。
「なのでレッドグレイブ領には産業らしい産業もなく、小さな街が一つあるだけです。視察も一日で終わるでしょう」
ソニアはフレイルに言い聞かせる様に付け加えた。フレイルはソニアの声が聞こえている筈なのに「私関係ありません」みたいな顔をして惚けて外を眺めている。
馬車がズンズン進んで行くと街が見えてきた。街は城壁で囲われており、出入りには堅牢な門を通る必要があった。街と言うより城塞と言った方が適切だろう。
門の前にはレッドグレイブの兵士達が立っておりフレイルを出迎えた。フレイルが馬車から降りると兵士達は一斉に敬礼した。
兵士の中には一人だけ場違いな女性がおり、前に出てフレイルに頭を下げた。
「ようこそおいで下さいました、フレイル・スウィンバーン姫殿下。私は領主の代理で案内を務めますマルテ・レッドグレイブと申します」
マルテ・レッドグレイブと名乗った女性は長い赤い髪に褐色の肌であり、その目は細く優しい顔立ちをしている。ソニアと違い細く華奢な指をしておりシンプルだが品のあるドレスを着ている。
「出迎えご苦労様です。今日はご案内よろしくお願いします」
フレイルはいつもの如く猫を被り愛想を振り撒いた。これを見るたびにオーズは笑いたくなる。
「マルテさんはソニアとどの様なご関係で?」
「ソニアは私の妹です。二つ程歳は離れています」
「そうでしたの。ソニアったら何も教えてくれないのですよ」
「あら、それは妹が失礼しました。後で罰として外周させます」
フレイルとマルテは笑っているが後ろで控えているソニアは苦笑いしている。そんな表情のソニアをオーズは見た事がないので、もしかしたらマルテは恐ろしい人なのかと疑い始めた。
視察という事でフレイルは門からレッドグレイブの屋敷まで歩く事にした。護衛騎士であるソニアにオーズもいるがその周りにも兵士がきっちり固めている。これでは視察と言うよりパレードの様である。
「こちらが屋敷に続く通りになっています」
「何だか道が曲がっている様だけど何でかしら?」
「はい、それは敵の侵攻を遅らせる為です。道を左右にうねらせる事により敵の足止めをするのです」
「なるほど、他に何か工夫は?」
「このまま進んでも屋敷には行けず何度か曲がり角があったり、道を塞ぐ為にあえて崩しやすい家もあります」
「本当に城塞都市なのですね」
マルテの案内の下、街の視察をしているフレイルは実に立派なお姫様であった。外出する為にわざわざ視察と言う名目にしているが、視察もしっかりと行っている。街行く人には手を振り声を掛けて笑顔を振り撒く、可愛らしくお淑やかで優しい絵に描いたようなお姫様である。
「ところでマルテさん、領主はどうしているのかしら?急病でも?」
「それが姫様がお越しになる少し前に大型の魔物が出たと報告を受けまして、領主自ら指揮を取り討伐に向かいました。それで私が急遽代理で案内を務める事になったのです」
「レッドグレイブ家の者は領主であっても戦うのですね」
「はい、レッドグレイブ家の者が死ぬ時は戦場と幼い頃より教わっています。私も死ぬ時は敵兵か魔物に殺されるのでしょね。ふふふ」
「……そうですか」
何とも反応に困る返答をされ、流石のフレイルも愛想笑いするしかなかった。
そんな物騒な会話をしながら進んで行くと遂にレッドグレイブ家の屋敷に着いた。フレイルは屋敷の前で足を止めた。
「これが屋敷ですか?」
フレイルが驚くのも無理はない。オーズもアーティも驚いている。それは屋敷と呼ぶにはあまりにも堅牢で威圧的である。窓も小さく、飾りっ気の無い外壁に重く厚そうな扉、つまるところ砦である。
「驚かれました?」
「驚かれるも何もこれは?」
「レッドグレイブ領は元々防衛拠点なのです。その為当時の砦をそのまま屋敷にして暮らしているのです。レッドグレイブ家の者は王家の為に死ぬ最後の時まで、この屋敷に立て籠り戦う覚悟があるのです」
マルテは穏やかな表情で当然の様に話している。マルテの発言の真偽を確かめる為にフレイルはソニアを見たが、ソニアは頷き肯定した。
「見た目は砦ですが内装は暮らしやすい様に所々改装しておりますので安心して下さい。この屋敷に居れば何人たりとも侵入を許しませんのでどうぞ心穏やかにお過ごし下さい。何かありましたら私共が殲滅致します」
マルテの発言には絶対的自信が感じられた。そして優しい笑顔の奥にはフレイルを仇なす者は一人残らず葬ってやるぞと執念にも似た決意が映し出されていた。それはソニアも同じである。
フレイルはそんな戦闘狂の様な一族の屋敷に泊まる事と、今までその一族の一人が側にいた事に少しばかり恐怖した。
勿論オーズもアーティも背筋が凍った。この屋敷で問題を起こせば殺されるのではないかと思い、今一度気を引き締めた。
――絶対にこの一族には逆らわない様にしよ
オーズは誓った。
――屋敷の物、壊したらどうしよう……
アーティは怯えた。
――来るんじゃなかった
フレイルは後悔した。
「さあ、どうぞお入り下さい。お部屋を用意してありますので旅の疲れを癒やして下さいね」
マルテは微笑みながら屋敷に招き入れた。ソニアを除いた一行が腹を括り屋敷の中に入った。
屋敷の中は外と違い置き物が置かれたり、絨毯が敷かれたりとそれなりに見た目に気を遣っていた。
しかしそれだけではなく、剣や槍、弓矢などが壁に掛けられていた。そのどれもが飾りっ気のない実用的な武器であり、本当にこの屋敷で戦闘を行う覚悟が見て取れた。
と言うより明らかに武器の数々に使われた形跡があり、壁にも薄らと切った跡が見つかった。
戦う覚悟あると言う貴族や騎士は幾らでもいるが、レッドグレイブ家はその昔実際にここで戦っていたのであろう。
ちなみに置き物と言うのも魔物の剥製であったり、竜の首を壁に掛けたりである。
「どうです?屋敷の中は案外普通なんです」
マルテはそう言うがそんな訳がない。
そんな屋敷の中を見たフレイルが絞り出した言葉は、
「本当ね……」
オーズは今までフレイルが心折れた所を見た事が無かったが今日初めてその目で見る事が出来た。出来れば兄らしくここでフォローの一つでもしてやりたいと思っているが身体は動かず、フレイルにかけるべき言葉は何一つ出てこなかった。
フレイルはマルテが用意してくれた客室のソファに座り緊張の糸がぷつりと切れた。ぐったりとソファに寄りかかり旅の疲れとレッドグレイブ家への緊張からくる疲れを癒やしている。
幸いな事に客室は飾りっ気のこそないが至って普通であり、窓から小さい事以外不満は無い。
「ふーとりあえず一日目の視察は終わったわね」
「この後食堂で夕食を取り今日の業務は終わりとなります。明日は兵士の訓練を視察してその後昼食を取り、王宮に帰ります。到着は夜中になりますがいいですね」
「それでいいわ」
フレイルとソニアは予定を確認している中オーズとアーティはやる事も無いのでただフレイルの側で立っている。
「それでソニアから見て何か不審な所は無かった?」
フレイルは急に真面目なトーンになった。
「私も久しぶりに来ましたが特に怪しい所は無かったです。それに少し歩いただけではなんとも。教徒はレッドグレイブ領を通り過ぎただけかもしれませんし」
「うーん、馬車の移動中も襲われてなかったし」
「そもそも、街の中へは簡単に入れませんので」
「じゃあ無駄足だったかな」
「食事の席で姉上と兄上に聞いてみましょう。手紙で調べる様に伝えてありますので何か情報があるかもしれません」
「そうね、王族である私の誘拐と言う大事件だったもの。レッドグレイブ家も血眼になって捜査してるはずね」
部屋でしばらくくつろいでいると屋敷の執事が扉を叩いた。
「どうぞ」
フレイルが返事をすると扉が開かれた。
「夕食の準備が整いました。どうぞ食堂までお越しください」
「分かりました。今から向かいます」
フレイルは立ち上がり部屋から出た。執事の案内で食堂に向かう。
食堂に着くとマルテともう一人大柄な男が既にいた。
「お初にお目に掛かります、フレイル・スウィンバーン姫殿下。私がレッドグレイブ領の領主、ギースリー・レッドグレイブです」
三十歳程の男性で赤い長髪に褐色の肌をしており、その目は鋭く強者の風格がある。そんなギースリーは左手が無かった。
「今日は急な視察を受け入れて下さり誠にありがとうございます。大変実りのある視察となりました」
「恐縮でございます。さあ、どうぞお座り下さい。直ぐに夕食が運ばれてきます」
フレイルは席に座り夕食が運ばれてくる間ギースリーと談笑した。
「ところで手紙に書いてた件については何か分かりましたか?」
「それが街に不審な人物が入ったと言う報告も無く、姫様の望む様な情報は得られませんでした。期待に添えず申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございました。ギースリーも忙しいでしょうに突然の調査にお手を煩わせて」
報告は残念だが仕方ない。フレイルは切り替えて夕食を楽しむことにした。その後料理が運ばれて夕食となった。
「お見苦しいですがお許し下さい」
ギースリーは右手でフォークを持った。ギースリーの下に運ばれた料理は全て細かく切られており、ナイフで切り分けなくても食べれる様になっている。
「いいえ、民の為に身を犠牲にして戦った証です。何も恥じ事はありません」
フレイルはギースリーに微笑んだ。
今日は夕食はフレイルの希望でソニアも参加していた。テーブルにはフレイル、ソニア、ギースリー、マルテが座っており、オーズとアーティはフレイルの後ろに立っている。
フレイルがいるがソニアにとって久しぶりの家族の団欒である。
「ソニアはどうでしょう、護衛騎士として相応しいですか?何やらこの前の誘拐事件では側に居たにもかかわらず姫様を危険な目に合わせたとか」
「そうね、姫様が無事だからよかったものの何かあったらその首を切り落とさないといけないわ」
ギースリーの質問にマルテは物騒なことを言ってる。ソニアも己の甘さを痛感してるらしく何も言えない。
「いいえ、ソニアは私の為にいつも傷付きながら戦っています。私にとって最高の騎士です」
フレイルは本心からそう言った。決してソニアに気を使うだとか、庇う等の意図は無い。
「姫様がそう言うなら。ただもしソニアの腕に疑問を持たれたならいつでも報告して下さい。領に連れて帰り再教育します」
「そうね、王都とも近いし定期的に私も会いに行こうかしら」
ギースリーとマルテは笑いながら言ってるがその目の奥は酷く冷たい。ソニアは昔の訓練を思い出したかの苦笑いをして何も言えないでいる。
オーズは日頃ソニアから手ほどきを受けているが本当に辛い。そんなソニアが怯えていると言う事はどれほど恐ろしい訓練が待ち受けているのかオーズは想像するだけで恐ろしかった。
「そちらの騎士殿もどうぞ一緒になって鍛えましょう」
ギースリーは威圧感ある笑顔でオーズを見た。
――あれ?もしかして俺も参加させられ流れになってないか?
「は、はい。是非……」
内心とは裏腹にオーズは承諾してしまった。断れる空気では無かった。
そんな緊張感溢れる微笑ましくも穏やかで殺伐とした夕食は滞りなく終わり客室に戻った。
客室では怯えたオーズがソニアに縋り付いている。
「訓練って死なないのですか?ソニアさん!」
「大丈夫だ、少なくとも私はかろうじて生きている」
「かろうじてって何ですか?ギリギリ死ねるって事ですか?」
「まあ、私と一緒に乗り越えよう」
ソニアも少し怯えた表情でオーズに話している。ソニアでさえもマルテとの訓練は恐ろしいのだ。
「ソニアのお兄さんに初めて会ったけどすごい迫力ね」
「そうですね、座っていても私より大きかったです」
フレイルはアーティと二人を無視してお喋りしている。
「マルテさんも怖かったけどお兄さんも大丈夫なんですか?殺されたりしませんよね?」
「安心しろ、兄上は武人には厳しいが市民には優しい立派なお人だ」
「って事は俺は武人じゃないから大丈夫って事ですか?」
「いやオーズも護衛騎士だから武人扱いだろう」
「何も安心出来ないじゃないですか!」
何一つ解決しない二人のやり取りをフレイルとアーティは「可哀想だなぁ」と思いながら眺めていた。
翌日、フレイルは兵士の訓練所の視察に出た。今日は屋敷から歩いて城壁沿いにある訓練所に向かう。
昨日は代理として案内役はマルテが務めたが、今日も引き続きマルテが務める。二日続けて同じ話を聴かせない為の配慮らしい。
昨日より少なめの兵士で警護しながらの移動により市民達の距離は少しだけ近くなっていた。
「姫様ー!」
一人の市民が興奮して近付き兵士に止められている。そんな市民にもフレイルは手を振った。
すると更に多くの市民が近付こうと押し寄せて兵士達が慌てて抑えにかかる。
フレイルが街中に出ると度々この様な騒ぎは起こる。特にフレイルが出向かない街では一目見ようと人で溢れかえるのだ。
兵士達が市民に気を取られてその時にフレイルの後ろから男が走ってきた。手にはナイフを持っている。
その姿を見たソニアとオーズは直ぐに反応した。オーズはその場で土下座をしソニアは剣を抜き男を切り捨てた。ソニアとマルテはフレイルの側で次の刺客が来ないか警戒した。
一瞬の出来事に何が起きた分からない市民達は血の流し倒れる男を見て叫び声を上げた。そして我先に逃げ出して行った。
兵士達は直ぐにフレイルを囲み万全の体勢を整えた。よく訓練された兵士である。
「そのまま待機!」
マルテが叫び周りを見渡す。しかし次の刺客はいつまで経っても来ない。
ソニアは自分が切り捨てた男を見た。男の手には何か握られており、それを口に運ぼうとしている。
「その男を拘束しろ!」
ソニアが叫んだ。男の体からドス黒い瘴気が溢れ出した。メキメキとその姿は変わっていき、男は翼が生えてた異形の怪物に変身した。
のだが兵士達は変身途中から槍で滅多刺しにしている。
「待て!待て!まだ終わってない!今は変身してるから!もう少し待て!痛いから!」
怪物は何かごちゃごちゃ言っているが兵士達は止めない。
ようやく瘴気が止まり変身が終わった時は怪物は既に満身創痍であった。その状態になると槍は通らない為兵士達は距離を取った。
「はぁはぁ、よくもやってくれたな。ここから地獄を見せてやろう。俺は邪竜教のドナルドル・ルドルドルフだ!ここでフレイルを殺して邪竜様への手土産にしてやる」
そう言いながらフラフラの怪物から瘴気が漏れ出した。その瘴気を見て怪物は慌て出した。
「まだ変身したばかりだろ!くっ!変身途中に攻撃を喰らいすぎたか!ちくしょう退散だ!」
怪物は勝手に一人で盛り上がって、勝手に帰ろとしている。
翼を大きく広げて飛び上がった。こうなってしまったら兵士の槍は届かない。
「弓を」
マルテが命令すると兵士の一人が弓矢をマルテに渡した。渡された瞬間マルテは弓を構え怪物に矢を放った。まるで迷いの無いその所作は美しく、放たれた矢は怪物の翼に直撃した。
「ぐあ!俺は!ドナルドル・ルドルドルフだぞーー!!」
そう叫びながら怪物は墜落していった。
「拘束しなさい」
兵士達は怪物が落ちた地点に走って向かった。
マルテはフレイルの方を向き頭を深々と下げた。
「申し訳ありません。我が領でこの様な失態を」
「いいのです。私は無事ですし。兵士達は皆勇敢に戦っていたではありませんか」
「ありがとうございます。ただ……」
「ただ?」
「オーズさんと言ったかしら、そちらの護衛騎士は?」
マルテは土下座をしているオーズを睨んだ。
「護衛騎士とあろう者が何故戦いもせず命乞いをしているのですか?」
マルテはこれまで感じたことの無い威圧感を発している。
「これには深い訳があるのです!」
オーズは土下座をしながら弁明をしようとしている。しかしマルテの表情は変わらない。
そこにソニアが二人の間に割って入った。
「姉上!本当なのです!どうか怒りを収めて下さい」
「なら屋敷で訳を聞きましょう。ただ事によっては姫様の護衛騎士であろうと容赦はしません」
これから屋敷に戻るのだがオーズは行きたくなかった。恐る恐るオーズは立ち上がるとマルテの他にレッドグレイブの兵士達からも鋭い視線を浴びせられた。
――いや、本当なんだって
悲しいかな、オーズの心の声は誰にも届かない。
あの誘拐事件では首謀者であるサマンサ・マサマーを捕まえる事は出来たが、その他多くの教徒は混乱に乗じて逃げていった。
兵士達も追いたかったがフレイルの安全を優先した。
「あの女は何か喋ったの?」
「いえ、何も喋りません。恐ろしい信仰心です」
フレイルはソニアにサマンサの近況を聞いたが収穫は無かった様だ。
「しかし散り散りになった教徒達の一部がレッドグレイブ領に向かっていると報告が上がりました」
自室で椅子に座りながら優雅にお茶をしているフレイルにソニアは淡々と伝えた。
レッドグレイブ、その名前にオーズは心当たりがあった。
「レッドグレイブってソニアさんの名前じゃ?」
「そうだ、レッドグレイブ家はその昔騎士として活躍した事で王国から領地を割譲され、今も騎士領の領主としてその地を治めているのだ」
「て言うことはソニアさんの実家の方に教徒が潜んでいると」
「そう言う事ね。ただレッドグレイブ領は隣の領だし、ただ通過しただけかもしれないけどね。うん、上達したわねアーティ」
「ありがとうございます!」
フレイルはアーティに淹れてもらったお茶を飲みながらもしっかりと聞いている。アーティは嬉しそうに頭を下げた。
オーズは王宮でもしっかりと働けているアーティが誇らしかった。オーズは何か起きても土下座をするしか能の無い人間なので、そのもどかしさがアーティへの期待に繋がっているのだ。
「領主には伝えてありますので状況が分かり次第また報告します」
「レッドグレイブ領の領主って今はソニアのお兄さんよね?」
「はい、戦死した父の代わり兄のギースリーが領主になりました」
「ふーん、そう……」
フレイルは何が気に入らないのか分からないが黙って考え込んでしまった。ソニアも何が引っ掛かったのか分からず何も言えないでいる。
ただ経験でソニアは分かる、この後言うことは碌でもない事であるのを。
「よし、レッドグレイブ領を視察に行きましょう」
フレイルは自信満々にそう宣言した。いつものフレイルの我儘にソニアは慣れていたが今回ばかりは驚き必死に抵抗した。
「いけません!先日拐われたばかりではないですか!何があるか分からないのですよ!」
「でも城下町で拐われたのなら何処にいても同じでしょ?それにレッドグレイブの兵士は皆勇敢で実力者揃いと聞くけど一体何が不安なの?」
「それでも王宮の方が安全です!」
「王宮も安全ではないでしょ?何処に刺客が潜んでいるか分からないのに」
ああ言えばこう言うフレイルは譲らない。ソニアは口でフレイルに勝ったことは殆どない。大体がフレイルに言いくるめられてしまう。困ったソニアはオーズに助けを求めた。
「オーズも何か言ってくれ」
「いや、俺も何処も安全じゃないなら姫様のやりたい事させたいかな」
「きゃー兄ちゃん!かっこいいー!」
「またそうやって甘やかして!」
ソニアは頭を抱えた。最近オーズが護衛騎士になってからフレイルの我儘に拍車がかかっている。その分笑顔も増えたが悩み事もその倍増えたと言ったところだ。
「何?ソニア。もしかして家族に会うのが恥ずかしいの?」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃあ行きましょう。王国の視察をするのも王族の義務だからね。それにソニアの実家も興味があるし」
「それが本音ですか!」
こうなっては誰もフレイルを止められない。頼みの綱のオーズもフレイルについては全肯定をする溺愛ぶり。アーティはフレイルの決定に口をは舐める訳ないので人数的にはいつもソニアが負けてしまうのだ。
ウンウンと悩んだ末にソニアは遂に諦めた。
「分かりました。その様にします。領主には視察があると手紙を出しますのでお待ち下さい」
ソニアの言葉には覇気はなく。うなだれるように部屋を後にした。
ソニアが部屋から出るとフレイルはイスから飛び降りクルクル回り始めた。実にご機嫌である。
「お出掛け、お出掛け、久しぶりにお出掛けね。こんな人目のあるとこに閉じ込めて本当やになる」
ここのところずっと王宮に閉じこもっていたフレイルにとって久し振りの外出に心も体と踊らせた。そんな風に調子に乗っていると部屋の扉が突然開かれた。
「視察している日のレッスンは別日に詰め込みますからね。覚悟して下さい」
「え!ちょっ!」
扉からソニアが顔だけ出して言い残して返事を聞く前に扉を閉めた。
「……はーい」
フレイルは嫌そうな顔をしながら扉越しに返事をした。オーズを見つめたがこれはオーズにもどうする事も出来ない。
「うーん、頑張れ、やれば出来る子だから」
オーズの気のない返事にフレイルはオーズのスネを蹴っ飛ばした。
「ぐっ!!」
痛みに声が漏れたオーズは直ぐに土下座をして無敵になりスネの痛みから解放された。まさに流れる様な動きである。
そんなオーズを横目にフレイルは椅子に座りお茶の続きをした。隣で立っているアーティは実の兄がこんな情けない姿を晒しているが、いつもの事なので放っておいてフレイルの世話をしている。
「なあ、ソニアの実家に行きたい理由って何かあるのか?」
痛みが引いたオーズは立ち上がりフレイルに質問した。フレイルは思い付きで行動するがいつも何らかの理由がある。
「そうね、ソニアに里帰りさせてやりたいの。ソニアは護衛騎士になってから実家に帰ってないから」
「お優しいですねフレイル様」
「やめてよ、恥ずかしい」
アーティに褒められてフレイルの顔は少し赤くなった。そんな二人の妹の微笑ましい光景にオーズは思わずニヤけてしまう。
「なによ?」
「いや、なんでも」
フレイルはオーズを睨みつけたがオーズのニヤけは止まらない。止められる筈がない。
フレイルは立ち上がりオーズの足の甲を踵で踏み抜いた。
「ぐあっ!」
痛がるオーズは土下座をしようとしゃがもうとするがフレイルが足を踏み付けているので動けない。しゃがもうにもしゃがめないオーズはその場で苦しんだ。
「痛い!痛い!ごめん!ごめんて!」
「何?どうした?そんなに痛がって」
「ニヤニヤしてごめんなさい!」
フレイルは足を上げてオーズを解放してあげた。オーズはその場で膝をつきヨロヨロと土下座をした。
「ふー痛かった」
オーズは土下座をすると直ぐに立ち上がった。このフレイルに痛め付けられて土下座をする一連の流れはアーティが側仕えになってから何度も目にしている為、実の兄が土下座していても何も思わなくなった。
ただアーティが最近思ったことは。
――お兄ちゃんの土下座、最近誠意が感じられないなぁ。本当に謝る時どうするんだろ。死ぬのかな……
まるで通行人に挨拶する程度のノリで土下座をする兄が本当に謝らないといけない時どうするのか心配であった。
フレイルの突発的思いつきでソニアを困らせた日から二日後、フレイルは王族専用の馬車に揺られていた。朝早くに王宮から出発した一行はお昼過ぎにはレッドグレイブ領に到着する予定である。
御者台にはソニアが座り馬を操り、馬車の中にはオーズとアーティも乗っていた。勿論フレイル愛用の特大ハンマーも積み込んでいる。
馬車の中で軽食を取りつつの移動だがフレイルは終始楽しそうである。アーティも王都から出るのは初めてなので何処かソワソワしている。そんな二人の妹を見てオーズは嬉しくて堪らなかった。
馬車は何事も無く順調にレッドグレイブの街に向かっている。
「もうすぐ街に到着します」
「レッドグレイブ領って王都から近いのですね」
ソニアの報告にアーティが感想を漏らした。
「王都で何かあった時直ぐに駆けつける為ですね。それと外敵が侵攻してきた時に守りの最後の要になります。レッドグレイブ家はその為に存在しているのです」
「それじゃあソニアさんも?」
「はい、物心つく頃から訓練して王家に仕える為に鍛えてきました」
「はえーすごいです」
アーティは生まれながらにその人生を決定づけられ全うしていく事に感心した。平民もある程度就ける職業は決まっているが生まれながらにとまではいかない。
「なのでレッドグレイブ領には産業らしい産業もなく、小さな街が一つあるだけです。視察も一日で終わるでしょう」
ソニアはフレイルに言い聞かせる様に付け加えた。フレイルはソニアの声が聞こえている筈なのに「私関係ありません」みたいな顔をして惚けて外を眺めている。
馬車がズンズン進んで行くと街が見えてきた。街は城壁で囲われており、出入りには堅牢な門を通る必要があった。街と言うより城塞と言った方が適切だろう。
門の前にはレッドグレイブの兵士達が立っておりフレイルを出迎えた。フレイルが馬車から降りると兵士達は一斉に敬礼した。
兵士の中には一人だけ場違いな女性がおり、前に出てフレイルに頭を下げた。
「ようこそおいで下さいました、フレイル・スウィンバーン姫殿下。私は領主の代理で案内を務めますマルテ・レッドグレイブと申します」
マルテ・レッドグレイブと名乗った女性は長い赤い髪に褐色の肌であり、その目は細く優しい顔立ちをしている。ソニアと違い細く華奢な指をしておりシンプルだが品のあるドレスを着ている。
「出迎えご苦労様です。今日はご案内よろしくお願いします」
フレイルはいつもの如く猫を被り愛想を振り撒いた。これを見るたびにオーズは笑いたくなる。
「マルテさんはソニアとどの様なご関係で?」
「ソニアは私の妹です。二つ程歳は離れています」
「そうでしたの。ソニアったら何も教えてくれないのですよ」
「あら、それは妹が失礼しました。後で罰として外周させます」
フレイルとマルテは笑っているが後ろで控えているソニアは苦笑いしている。そんな表情のソニアをオーズは見た事がないので、もしかしたらマルテは恐ろしい人なのかと疑い始めた。
視察という事でフレイルは門からレッドグレイブの屋敷まで歩く事にした。護衛騎士であるソニアにオーズもいるがその周りにも兵士がきっちり固めている。これでは視察と言うよりパレードの様である。
「こちらが屋敷に続く通りになっています」
「何だか道が曲がっている様だけど何でかしら?」
「はい、それは敵の侵攻を遅らせる為です。道を左右にうねらせる事により敵の足止めをするのです」
「なるほど、他に何か工夫は?」
「このまま進んでも屋敷には行けず何度か曲がり角があったり、道を塞ぐ為にあえて崩しやすい家もあります」
「本当に城塞都市なのですね」
マルテの案内の下、街の視察をしているフレイルは実に立派なお姫様であった。外出する為にわざわざ視察と言う名目にしているが、視察もしっかりと行っている。街行く人には手を振り声を掛けて笑顔を振り撒く、可愛らしくお淑やかで優しい絵に描いたようなお姫様である。
「ところでマルテさん、領主はどうしているのかしら?急病でも?」
「それが姫様がお越しになる少し前に大型の魔物が出たと報告を受けまして、領主自ら指揮を取り討伐に向かいました。それで私が急遽代理で案内を務める事になったのです」
「レッドグレイブ家の者は領主であっても戦うのですね」
「はい、レッドグレイブ家の者が死ぬ時は戦場と幼い頃より教わっています。私も死ぬ時は敵兵か魔物に殺されるのでしょね。ふふふ」
「……そうですか」
何とも反応に困る返答をされ、流石のフレイルも愛想笑いするしかなかった。
そんな物騒な会話をしながら進んで行くと遂にレッドグレイブ家の屋敷に着いた。フレイルは屋敷の前で足を止めた。
「これが屋敷ですか?」
フレイルが驚くのも無理はない。オーズもアーティも驚いている。それは屋敷と呼ぶにはあまりにも堅牢で威圧的である。窓も小さく、飾りっ気の無い外壁に重く厚そうな扉、つまるところ砦である。
「驚かれました?」
「驚かれるも何もこれは?」
「レッドグレイブ領は元々防衛拠点なのです。その為当時の砦をそのまま屋敷にして暮らしているのです。レッドグレイブ家の者は王家の為に死ぬ最後の時まで、この屋敷に立て籠り戦う覚悟があるのです」
マルテは穏やかな表情で当然の様に話している。マルテの発言の真偽を確かめる為にフレイルはソニアを見たが、ソニアは頷き肯定した。
「見た目は砦ですが内装は暮らしやすい様に所々改装しておりますので安心して下さい。この屋敷に居れば何人たりとも侵入を許しませんのでどうぞ心穏やかにお過ごし下さい。何かありましたら私共が殲滅致します」
マルテの発言には絶対的自信が感じられた。そして優しい笑顔の奥にはフレイルを仇なす者は一人残らず葬ってやるぞと執念にも似た決意が映し出されていた。それはソニアも同じである。
フレイルはそんな戦闘狂の様な一族の屋敷に泊まる事と、今までその一族の一人が側にいた事に少しばかり恐怖した。
勿論オーズもアーティも背筋が凍った。この屋敷で問題を起こせば殺されるのではないかと思い、今一度気を引き締めた。
――絶対にこの一族には逆らわない様にしよ
オーズは誓った。
――屋敷の物、壊したらどうしよう……
アーティは怯えた。
――来るんじゃなかった
フレイルは後悔した。
「さあ、どうぞお入り下さい。お部屋を用意してありますので旅の疲れを癒やして下さいね」
マルテは微笑みながら屋敷に招き入れた。ソニアを除いた一行が腹を括り屋敷の中に入った。
屋敷の中は外と違い置き物が置かれたり、絨毯が敷かれたりとそれなりに見た目に気を遣っていた。
しかしそれだけではなく、剣や槍、弓矢などが壁に掛けられていた。そのどれもが飾りっ気のない実用的な武器であり、本当にこの屋敷で戦闘を行う覚悟が見て取れた。
と言うより明らかに武器の数々に使われた形跡があり、壁にも薄らと切った跡が見つかった。
戦う覚悟あると言う貴族や騎士は幾らでもいるが、レッドグレイブ家はその昔実際にここで戦っていたのであろう。
ちなみに置き物と言うのも魔物の剥製であったり、竜の首を壁に掛けたりである。
「どうです?屋敷の中は案外普通なんです」
マルテはそう言うがそんな訳がない。
そんな屋敷の中を見たフレイルが絞り出した言葉は、
「本当ね……」
オーズは今までフレイルが心折れた所を見た事が無かったが今日初めてその目で見る事が出来た。出来れば兄らしくここでフォローの一つでもしてやりたいと思っているが身体は動かず、フレイルにかけるべき言葉は何一つ出てこなかった。
フレイルはマルテが用意してくれた客室のソファに座り緊張の糸がぷつりと切れた。ぐったりとソファに寄りかかり旅の疲れとレッドグレイブ家への緊張からくる疲れを癒やしている。
幸いな事に客室は飾りっ気のこそないが至って普通であり、窓から小さい事以外不満は無い。
「ふーとりあえず一日目の視察は終わったわね」
「この後食堂で夕食を取り今日の業務は終わりとなります。明日は兵士の訓練を視察してその後昼食を取り、王宮に帰ります。到着は夜中になりますがいいですね」
「それでいいわ」
フレイルとソニアは予定を確認している中オーズとアーティはやる事も無いのでただフレイルの側で立っている。
「それでソニアから見て何か不審な所は無かった?」
フレイルは急に真面目なトーンになった。
「私も久しぶりに来ましたが特に怪しい所は無かったです。それに少し歩いただけではなんとも。教徒はレッドグレイブ領を通り過ぎただけかもしれませんし」
「うーん、馬車の移動中も襲われてなかったし」
「そもそも、街の中へは簡単に入れませんので」
「じゃあ無駄足だったかな」
「食事の席で姉上と兄上に聞いてみましょう。手紙で調べる様に伝えてありますので何か情報があるかもしれません」
「そうね、王族である私の誘拐と言う大事件だったもの。レッドグレイブ家も血眼になって捜査してるはずね」
部屋でしばらくくつろいでいると屋敷の執事が扉を叩いた。
「どうぞ」
フレイルが返事をすると扉が開かれた。
「夕食の準備が整いました。どうぞ食堂までお越しください」
「分かりました。今から向かいます」
フレイルは立ち上がり部屋から出た。執事の案内で食堂に向かう。
食堂に着くとマルテともう一人大柄な男が既にいた。
「お初にお目に掛かります、フレイル・スウィンバーン姫殿下。私がレッドグレイブ領の領主、ギースリー・レッドグレイブです」
三十歳程の男性で赤い長髪に褐色の肌をしており、その目は鋭く強者の風格がある。そんなギースリーは左手が無かった。
「今日は急な視察を受け入れて下さり誠にありがとうございます。大変実りのある視察となりました」
「恐縮でございます。さあ、どうぞお座り下さい。直ぐに夕食が運ばれてきます」
フレイルは席に座り夕食が運ばれてくる間ギースリーと談笑した。
「ところで手紙に書いてた件については何か分かりましたか?」
「それが街に不審な人物が入ったと言う報告も無く、姫様の望む様な情報は得られませんでした。期待に添えず申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございました。ギースリーも忙しいでしょうに突然の調査にお手を煩わせて」
報告は残念だが仕方ない。フレイルは切り替えて夕食を楽しむことにした。その後料理が運ばれて夕食となった。
「お見苦しいですがお許し下さい」
ギースリーは右手でフォークを持った。ギースリーの下に運ばれた料理は全て細かく切られており、ナイフで切り分けなくても食べれる様になっている。
「いいえ、民の為に身を犠牲にして戦った証です。何も恥じ事はありません」
フレイルはギースリーに微笑んだ。
今日は夕食はフレイルの希望でソニアも参加していた。テーブルにはフレイル、ソニア、ギースリー、マルテが座っており、オーズとアーティはフレイルの後ろに立っている。
フレイルがいるがソニアにとって久しぶりの家族の団欒である。
「ソニアはどうでしょう、護衛騎士として相応しいですか?何やらこの前の誘拐事件では側に居たにもかかわらず姫様を危険な目に合わせたとか」
「そうね、姫様が無事だからよかったものの何かあったらその首を切り落とさないといけないわ」
ギースリーの質問にマルテは物騒なことを言ってる。ソニアも己の甘さを痛感してるらしく何も言えない。
「いいえ、ソニアは私の為にいつも傷付きながら戦っています。私にとって最高の騎士です」
フレイルは本心からそう言った。決してソニアに気を使うだとか、庇う等の意図は無い。
「姫様がそう言うなら。ただもしソニアの腕に疑問を持たれたならいつでも報告して下さい。領に連れて帰り再教育します」
「そうね、王都とも近いし定期的に私も会いに行こうかしら」
ギースリーとマルテは笑いながら言ってるがその目の奥は酷く冷たい。ソニアは昔の訓練を思い出したかの苦笑いをして何も言えないでいる。
オーズは日頃ソニアから手ほどきを受けているが本当に辛い。そんなソニアが怯えていると言う事はどれほど恐ろしい訓練が待ち受けているのかオーズは想像するだけで恐ろしかった。
「そちらの騎士殿もどうぞ一緒になって鍛えましょう」
ギースリーは威圧感ある笑顔でオーズを見た。
――あれ?もしかして俺も参加させられ流れになってないか?
「は、はい。是非……」
内心とは裏腹にオーズは承諾してしまった。断れる空気では無かった。
そんな緊張感溢れる微笑ましくも穏やかで殺伐とした夕食は滞りなく終わり客室に戻った。
客室では怯えたオーズがソニアに縋り付いている。
「訓練って死なないのですか?ソニアさん!」
「大丈夫だ、少なくとも私はかろうじて生きている」
「かろうじてって何ですか?ギリギリ死ねるって事ですか?」
「まあ、私と一緒に乗り越えよう」
ソニアも少し怯えた表情でオーズに話している。ソニアでさえもマルテとの訓練は恐ろしいのだ。
「ソニアのお兄さんに初めて会ったけどすごい迫力ね」
「そうですね、座っていても私より大きかったです」
フレイルはアーティと二人を無視してお喋りしている。
「マルテさんも怖かったけどお兄さんも大丈夫なんですか?殺されたりしませんよね?」
「安心しろ、兄上は武人には厳しいが市民には優しい立派なお人だ」
「って事は俺は武人じゃないから大丈夫って事ですか?」
「いやオーズも護衛騎士だから武人扱いだろう」
「何も安心出来ないじゃないですか!」
何一つ解決しない二人のやり取りをフレイルとアーティは「可哀想だなぁ」と思いながら眺めていた。
翌日、フレイルは兵士の訓練所の視察に出た。今日は屋敷から歩いて城壁沿いにある訓練所に向かう。
昨日は代理として案内役はマルテが務めたが、今日も引き続きマルテが務める。二日続けて同じ話を聴かせない為の配慮らしい。
昨日より少なめの兵士で警護しながらの移動により市民達の距離は少しだけ近くなっていた。
「姫様ー!」
一人の市民が興奮して近付き兵士に止められている。そんな市民にもフレイルは手を振った。
すると更に多くの市民が近付こうと押し寄せて兵士達が慌てて抑えにかかる。
フレイルが街中に出ると度々この様な騒ぎは起こる。特にフレイルが出向かない街では一目見ようと人で溢れかえるのだ。
兵士達が市民に気を取られてその時にフレイルの後ろから男が走ってきた。手にはナイフを持っている。
その姿を見たソニアとオーズは直ぐに反応した。オーズはその場で土下座をしソニアは剣を抜き男を切り捨てた。ソニアとマルテはフレイルの側で次の刺客が来ないか警戒した。
一瞬の出来事に何が起きた分からない市民達は血の流し倒れる男を見て叫び声を上げた。そして我先に逃げ出して行った。
兵士達は直ぐにフレイルを囲み万全の体勢を整えた。よく訓練された兵士である。
「そのまま待機!」
マルテが叫び周りを見渡す。しかし次の刺客はいつまで経っても来ない。
ソニアは自分が切り捨てた男を見た。男の手には何か握られており、それを口に運ぼうとしている。
「その男を拘束しろ!」
ソニアが叫んだ。男の体からドス黒い瘴気が溢れ出した。メキメキとその姿は変わっていき、男は翼が生えてた異形の怪物に変身した。
のだが兵士達は変身途中から槍で滅多刺しにしている。
「待て!待て!まだ終わってない!今は変身してるから!もう少し待て!痛いから!」
怪物は何かごちゃごちゃ言っているが兵士達は止めない。
ようやく瘴気が止まり変身が終わった時は怪物は既に満身創痍であった。その状態になると槍は通らない為兵士達は距離を取った。
「はぁはぁ、よくもやってくれたな。ここから地獄を見せてやろう。俺は邪竜教のドナルドル・ルドルドルフだ!ここでフレイルを殺して邪竜様への手土産にしてやる」
そう言いながらフラフラの怪物から瘴気が漏れ出した。その瘴気を見て怪物は慌て出した。
「まだ変身したばかりだろ!くっ!変身途中に攻撃を喰らいすぎたか!ちくしょう退散だ!」
怪物は勝手に一人で盛り上がって、勝手に帰ろとしている。
翼を大きく広げて飛び上がった。こうなってしまったら兵士の槍は届かない。
「弓を」
マルテが命令すると兵士の一人が弓矢をマルテに渡した。渡された瞬間マルテは弓を構え怪物に矢を放った。まるで迷いの無いその所作は美しく、放たれた矢は怪物の翼に直撃した。
「ぐあ!俺は!ドナルドル・ルドルドルフだぞーー!!」
そう叫びながら怪物は墜落していった。
「拘束しなさい」
兵士達は怪物が落ちた地点に走って向かった。
マルテはフレイルの方を向き頭を深々と下げた。
「申し訳ありません。我が領でこの様な失態を」
「いいのです。私は無事ですし。兵士達は皆勇敢に戦っていたではありませんか」
「ありがとうございます。ただ……」
「ただ?」
「オーズさんと言ったかしら、そちらの護衛騎士は?」
マルテは土下座をしているオーズを睨んだ。
「護衛騎士とあろう者が何故戦いもせず命乞いをしているのですか?」
マルテはこれまで感じたことの無い威圧感を発している。
「これには深い訳があるのです!」
オーズは土下座をしながら弁明をしようとしている。しかしマルテの表情は変わらない。
そこにソニアが二人の間に割って入った。
「姉上!本当なのです!どうか怒りを収めて下さい」
「なら屋敷で訳を聞きましょう。ただ事によっては姫様の護衛騎士であろうと容赦はしません」
これから屋敷に戻るのだがオーズは行きたくなかった。恐る恐るオーズは立ち上がるとマルテの他にレッドグレイブの兵士達からも鋭い視線を浴びせられた。
――いや、本当なんだって
悲しいかな、オーズの心の声は誰にも届かない。
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