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64.この先、どんな敵がこようとも。

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「ふうん‥」
 ゾッとしたああ。
 肩をすくめて青くなっている二人に気がつかないのか、アンバーが話を続ける。
「そしたら、客観的に自分の目を見れるようになって‥今は黒っぽい赤だな~とかね」
 ふふ、っと面白そうに笑うアンバーが‥気持ち悪い。
 だけど、そんなこと言わない。‥ドン引きし過ぎて突っ込む気力が奪われてるんだ。何て突っ込んでいいのか分かんないし。
 だから
「ナルホド~」
 コリンは棒読みって感じの感想が口から思わず出た。
 シークはというと‥若干固まっている様だ。

 ‥分かりますシークさん。その気持ち。僕も若干自分で何を言っているのかわかりません。

「今日は機嫌が悪いな、とか」

 ‥それは、自分の事だから自分で分かるだろうがあ!
 ‥もう、やめてくれえええ!!

 相変わらずアンバーの口調は柔らかく、楽しそうだ。
 まるで仲の良い級友について語るかのような表情に「そうか、コイツにとって「それ」は唯一の心の拠り所だったのかもしれないな」と‥無理矢理自分の心を納得させた。
 だけど、‥だからといって

「‥常に誰かが一緒にいて寂しくなくて良かったな‥」

 とかまではいうつもりはなかったんだけど、‥気がついたら例の「思わず何言ってるかわかんない状態」でついそんなことを言ってしまっていた。
 ‥おいい! それはいくら何でも失礼だろう!!
 だけど、アンバーはちょっと驚いた様な顔を一瞬コリンに向け
「うん」
 ふわりと、花が咲くように‥微笑んだんだ。

 ‥思った以上に闇が深かった‥!!

 さっき、驚いた顔を自分に向けられた時、一瞬、ドキッとした。
 カッコイイ!! とかいうドキッでは勿論ない。
 ‥しまった! 言わんでもいいこと言ってしまった!! 
 っていう、自己嫌悪の‥ドキッだ。
 ‥アンバーがどう受けとった、とか怒ってないからいい、とかいう問題じゃない。‥僕は確かに「いらんこと」を言った。
「‥ごめん」
 頭を下げてきちんと謝ると、隣ではシークさんも「うんうん」と小さく頷いている。‥分かってるならそれでいい、っていうことだろう。
 
 ‥ホント、ごめん。

「ん? いや、別に気にしてないけど。‥まあちょっと可愛そうな人間って感じではあるよな‥。そういえば俺」
 はは、とアンバーは笑った。
 ‥アンバーっていい奴だよな。
 黙り込んで視線を落とすコリンにアンバーは「気にするな」って感じでちょっと首を振ると、
「ま‥それ程、俺の周りには誰もいなかったってわけだ。今まで。だから、今はちょっと‥ってか、かなり‥良い状態だよな」
 って、照れたように笑う。
 アンバーは、さっき森で村の人たちに話しかけられて嬉しかったって言ってた。
 ‥それ程、アンバーの周りには誰も人がいなかったってことなんだろう。
 なら‥自分の内面に「友達」みちゃっても、おかしくない‥のかも??
 ‥いや、でもそりゃおかしいって!!
 ヤバいって!! ちょっと病んじゃってるって!!
 ‥っていうか、それって‥悲しすぎる!!
 そんな考えに至った時、いい奴・シークはこころがキューって痛くなって、別にいい奴でもないコリンは「可哀そう、自分の事の様にシークさんが気にして‥心を痛めている‥っ! でも、そんなシークさん‥セクシー!! 」って密かにテンションが上がって‥
 気がついたら
「これからは‥俺たちが「僕たちがいるから」」
 シンクロさせてた。
 つい言葉がかぶったコリンとシークにアンバーは「ぷ! 」ってはじけたように吹き出した。


「悪い」
 ひとしきり笑うと、ほっと息を付き、アンバーがへらっと微笑んだ。
ちょっと目元に涙が浮かんでいる。
「‥泣くほどって、どんだけ笑ってんだよ‥笑い過ぎだ」
 コリンは‥「泣いてるなんて気付いてないよ☆」ってアンバーをフォローしてる‥って感じじゃない。言葉の通り‥それこそドン引き顔の表情と口調で言った。
「ありがと、コリン、シーク」
 へへ、素直じゃね~な。なんて生温かい顔でアンバーはコリンを見ているが、そんなんじゃない。
 ツンデレとかじゃない。
 ‥これ以上シークさんを心配させたくないだけ! アンバーの為なんかじゃないからね!! そこんとこ、誤解しないでね!!
 ‥とかじゃ全然ない。
「‥‥‥」
 ‥(俺のせいじゃないけど)なんかごめん‥。
 なんて思ってしまうシークは、ちょっと苦笑して音もなく立ち上がると、お茶を淹れて戻って来た。

 ‥気が利かない僕とは違う。‥シークさん、気配り女房にその内僕がなりますからね!! (←無理)

 暖かいハーブティーを飲みながら、話はさっきの話に戻っていた。
「さっきの話だけど‥シークの属性って結局何なんだろうな~」
 さっきの‥シークには魔力があるけど、剣に魔力を纏わせる程度しか使っていない。魔力を使った時に、目の色がちょっと変わる‥って話の続きだ。
 因みに、シークの母親の属性は風だったらしい。医療型の魔術士に一番多い属性だ。
「お母さまが風だったら、‥シークさんも風かなあ‥」
 魔術は遺伝することが多い。だから、多分そうだろうと思うけど、正しい属性は鑑定しないと分からない。でも、「魔術紋が出ない程度の魔力だったら鑑定しても分かるかどうかは分からない」とコリンが言いにくそうに言った。
‥コリンが心配するのも、気を使うのも、可愛い顔見せるのもシークだけだ。
「いや、属性がわかったからと言って、何も変わらないから、それはいい」
 シークが首を軽く振って断る。
「俺の魔力をこの先活用していく方法ってのはあるのかな。‥この先、加齢により体力が衰えた分を魔力で補うとか‥」
 ‥加齢。
 コリンが眉を寄せて一瞬沈黙する。
 加齢って言い方、良くない。そりゃ、歳は取るだろうけど、そういう直接的な言葉‥良くない。
 ポジティブシンキング的な言い方だと、「魔力を上手く使うことで、剣の威力が上がったりするかな」‥こっちの方を希望します‥。
「シークさんが魔力を剣の威力増進に使う方法は‥ないことはないだろうけど、練習にも時間が掛かるし、魔力をつかうことを意識することによって、集中力がそれたり‥はしないだろうとは思うけど、‥リスクがないこともない。シークさん程の腕前があるなら、魔力を使った‥魔剣‥とか、今からわざわざ練習する必要も無い気もする。少なくともシークさんはそのタイプじゃない」
 だから、しっかり言い方を変えておきましたよ☆ シークさんは「さらに深みを帯びたナイスミドル」になるんであって、じいさんになって衰えたりとかしないんだからね!!
 ザッカさん張りにちょっと渋みを帯びたシークさん‥素敵かも‥
 ‥ちょっとごっつめのフツメンが年を取ったって、ただの、ちょっと老けたフツメンになるだけで、ザッカみたいなチョイ悪イケオジにはならないだろうけど、‥恋は盲目って奴だ。
「そうだな」
 コリンの脳内なんて知らないアンバーは真剣な顔で頷いた。
 ‥確かに、コリンの言っていること自体は間違っていない。
「そうか‥」
 シークが、ふう、とため息をつく。
 魔術士以上に、冒険者にとって体力の衰え対策っていうのは、重要なことなんだ。活動寿命にも関わるからね。
「‥色々考えて、焦る気持ちも分るけど、シークさんは一人じゃない。例えば、コリンがバフって形でサポートすることも出来るだろうし‥、まあ、魔術は俺たちが担当するからそれでいい」
 アンバーがガーネットみたいな目で、真っ直ぐシークを見る。
「そうだよ」
 ふわっとコリンが琥珀の瞳を細めて微笑む。
「‥そうだな」
 優しい空気に、‥涙が出そうになる。
「何でも自分で出来るものでもない。出来ることをすればいい‥っていうか、出来ることを伸ばす方が効果的でしょ」
 言ったのはコリンだ。‥魔術に悩む同級生から相談されたら言おうって思ってて‥でも結局卒業まで一度も誰にも言えなかった言葉。
 ‥誰にも相談されなかった‥というか、友達とか‥結局出来なかった。そういえば、同級生はみんなライバルとしか思えなかったもんな~。そんなピリピリした奴に話しかける人なんていないよな~。ましてや相談とかしないよね‥。「そんなの努力が足りてないんだろ!! 」とか言われるに違いない‥とか思われてたんだろうな~。
 言わないのにな~。‥そんな敵に塩を送る的な事(←結局同級生は全員敵認識で間違いなし)
 でも、実際に口に出して言ってみたら「(この言葉)そりゃそうだな」って思う。
 結局、出来ることしか出来ないし、なんでもかんでも手をだしても、何でもかんでもが中途半端になるだけだ。
「‥だな」
 ふ、とシークが苦笑いする。
「コリンに剣とか似合わなさそうだよな」
 はは、と軽い笑い声を上げたのはアンバーだ。
 コリンの表情が固まる。
 ‥は?
 背筋が凍る様な視線をアンバーに向ける。
「‥僕、剣は人並みに出来ますけど‥。学校でも必修だし。‥言わなかったっけ!? 誓約士は攻撃系の魔術士だって」
「え!? 」
 コリンのいつもとは違う張り詰める様な表情‥様子にアンバーは息を飲む。
「絶対に負けないだけの力がいるんだ。‥精神的にも肉体的にも。魔術を封じられても利用されないだけの力がいる。
 で、これはもう駄目だ、ここまでだってなったら、自害する。
 そこまでの覚悟と精神力を常に持ってるのが誓約士だ」
 アンバーに捕まった時も、魔術を封じられて‥駄目だと思った。だけど、あの時更に絶望的だったのは、手を封じられていたことだった。
 足は使えなくても、最悪、手さえ使えれば、逃げようはあった。
 ‥魔術を封じられた時の対策として、更なる検証が必要だな。でも、まあ‥あの時シークさんがいなかったら、普通に自害コースを選ぶしかなかった‥。

 誓約士として、敵に利用される‥悪用されるわけには絶対にいかない。

「「‥‥‥」」
 アンバーとシークは無言でコリンを見た。

「‥そんな覚悟持つ必要は無いからな」

「そうだよ。そんな話したら、怒りますよ」
「ザッカさん‥。ナナフルさん‥」
 静けさを破る、ザッカの不機嫌な声と、ナナフルの静かに怒った声。
「命なんて、好きな奴に捧げる以外は、自分の為だけに生きればいいんだ。自分の命が一番大事だ。誓約士協会だろうが、‥国だろうがくそくらえだ」
 好きな奴に捧げる以外ってのが、ザッカさんっぽい。
 うん、ザッカさんは熱いね! ザッカさんにそこまで思われてる人は幸せだね!! いつか紹介してもらえるといいな!! ‥ナナフルさんは、相棒だから‥ん~でも、ただの相棒以上かもって思う時は‥無いこともない‥。まさか‥??
「コリンはシークをいざという時は庇っちまうかもしれないが、その時はシークがコリンを庇うだろ? ‥だから、お互いの為に生きないといけないんだ。
 愛し合うって、そういうことだと思うぞ」
「‥え、じゃあ、誰も特別な人がいない俺って‥」
 ‥うん、分かってるよ。俺の為に生きればいいんだよね‥。
 アンバーが苦笑いする。

「‥僕の為に生き残っていいよ」
「勿論俺もな」

 照れた様な表情の‥ツンデレなコリンとシークにアンバーは「ぷ! 」ってはじけたように吹き出した。
 これ、本日二回目だわ! ったく、このコンビは!

 愛する人の為、友の為‥自分の為。
 生きることを放棄しない。‥諦めない。
 この先、どんな敵がこようとも、‥それだけは変わらない。
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