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113.フタバちゃんとロナウ君。

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 そんなにこいつのこと‥嫌いなのかな??
 ‥嫌いってか、
「キライっていう程知らないですよ! テイナー君のことなんて! 」
 コリンがシークの背中に隠れながら言った。
 顔が‥
 信じられない程、
 真っ白だ。
「知らないなら教えてあげるよ! そっか~。コリン君が僕の事避けてる‥って思って密かに落ち込んでたけど、僕の事よく知らなくて怖がってたんだね! コリン君は人見知りなところあるから‥
 僕の事よく知ってもらえたら、きっとコリン君も僕の事好きになってくれると思うよ! 」
 一方のロナウの方は、コリンを前にご機嫌MAXって顔をしている。
「知る気が全くないと言ってきたはずなんだが、通じてないのか!? 」
 シークの背中をぎゅっと握り締めて、真っ青‥を通り越して真っ白なコリンが叫ぶ。

 嫌いってか‥生理的に合わないって奴なんだね‥。
 気の毒に‥。
 (案外コリンってぐいぐい来られるの苦手だよね。‥自分からは行くくせに)

「ええと‥コリン? 私たちにお友達のこと紹介してもらってもいいかな? 」
 にっこりと聖母の微笑でナナフルが言った。
 フタバの目がナナフルを捕らえた‥!

「お兄様だったんですね! あんまりお綺麗だからてっきり女性の方だと思っておりました! 失礼をいたしまして‥」
 確かに、喋らなかったらナナフルは美しい女性に見える。
 だけど、声は、優しく若干高いとは言え、男性の声だ。
 艶のある、透明感の高い‥優しいテノールは、落ち着いた雰囲気のナナフルによくあっている。
 コリンの声は高めだが、所謂カウンターテナーやボーイソプラノとか言った美声の類ではない。甘さも透明感もない。よく通る、耳障りの良い彼の明るい声は、言うならば、声変わり前の少年の様な声なんだ。
 コリンの父親から察するに、多分‥コリンはずっとこのままだろう。(つまり、ある日突然、声変わりが来て声が太くなる‥とかいうこともないんだろう)
 コリンの父親も男性にしては若干声が高い。女性的なんじゃなく、少年っぽい濁りがない声をしているのだ。

 ナナフルを見上げるフタバの目がキラキラしている。
 さっきのアンバーを見た時を凌ぐキラキラさだ。
 座っているせいもあるが、長身のナナフルとフタバでは、大人と子供ほどの身長差があるだろう。
 さっきまでシーク以上に無表情で、人形の様に座っていた姿はもうない。
 真っ白な肌を高揚させ、ナナフルとアンバーを順に見つめ「ほう‥」とため息をついている。
 
 恋する乙女っていうより、ご主人を見つけた子犬みたい。

 コリンは苦笑いした。
 キラキラの瞳は恋焦がれてる‥っていうより、嬉しくってたまらないって目に見える。

 色気とは、程遠いよな。‥ベネット嬢は相変わらずだなあ。
 にしても‥さっきはちょっと
 びっくりした。
 びっくりした‥っていうより、ちょっとざわって感じがした。
 侵されたくない領域に土足で入られた‥そんな感じ。
 
 ナナフルさんのこと‥女性だと思ったって?
 ‥そんなこと、思ったことは無い。
 コリンは思わず感じた、ざらっとした思いに顔をゆがめた。

 確かにナナフルの顔は女性の様に綺麗だが、ナナフルは女性的ではない。話し方も、女性っぽくはない。
 男性っぽくもない。(性格は男らしいって思うこともあるけどね)
 男だとか女だとかじゃなく‥
 ナナフルは、「ナナフル」なんだ。
 あれだ。昔のアニメの「先生」。男でも女でもなくて、ただ「先生」。あの感じ。
 ナナフルを大好きなザッカも、ナナフルが女の様に綺麗だから‥「女の代わり」で好きなわけではない。男だろうが女だろうが、ナナフルが好きなんだ。(多分そうだと思う‥とコリンの予測だ。因みに合ってる)

 まあ、‥男同士だけど、好きだから構わない。身体の関係だって持ちたい‥っていうのは、話は別だろうけど。そもそも、ザッカさんのナナフルさんが好きってのは、どんな「好き」なんだろう?? 
 ‥まあ、そういう詮索は下世話だな。(←コリン的に、あんまり考えたくない。理想の母と恋人のセックス‥とか考えたくないよね‥)

 コリンたちにとって、ナナフルはナナフルだ。
 (自分ではあんなに「理想の母親だ! 」って言ってるくせに)女性の様だって言ったフタバに驚いた。
 そして、そんな自分に驚いたり。
 
 ‥恋愛対象だって思わないから、性別のことを考えたことがなかった‥ってことかな?
 違うな‥、僕にとってナナフルさんは‥性別を超越した存在だったから‥って感じかなあ。‥ザッカさんのことも尊敬してるけど、ザッカさんは普通にストレートに男だって思うんだけどなあ。
 ナナフルさんは‥そういう風に考えたくない‥って感じかな?

 フタバちゃんは、貴族で「いい跡取り」を作る義務がある。(らしい)
 その為に、家がお金持ちとかじゃなく、自分が尊敬できる(と、あと顔が良ければなおいい)恋人を見つけたいって願望が強いから‥
 自然と相手のことを値踏みしちゃうんだろう。値踏みって言うか‥査定? つまり「そういう目」で観察しちゃうこと。‥仕方が無いって思うけど、‥なんか、ね。
 
 因みに、シークの時は、(値踏みが)ちょっと控えめだった。
 アンバー、ナナフルがキラキラ~で、シークの時がキラって位かな。

 なんでだ! シークさんの方がアンバーより魅力感じないとかおかしいだろ!‥失礼な! ナナフルさんは兎も角、アンバーの方が上とか見る目ないよ!! まあ、ライバルが増えないのはいいことだけどね! 

 なんて、コリンが百面相していると(シークに惚れ惚れしたり、フタバに怒ったり、アンバーを睨み付けたり‥だ)苦笑いしたナナフルと目が合った。

 ああそうだ。二人の紹介まだだった。

「ああ、紹介が遅れまして。
 こちらは、フタバ・ジェラルナン・ベネット様です。
 僕とは同級生で、魔術の実技・座学とも大変優秀な方です。(因みに、コリンに次いで学年2位)
 メインの属性は氷だけど、風の魔術も得意。
 攻撃魔法として、風と氷を複合させた『ブリザード』を使うほか、空間魔術が得意で、氷と空間魔術を組み合わせた魔術を得意とされています。
 空間魔術っていうのは、‥アンバーが得意な結界もその一種なんですけど‥自分で空間を自由に区切ることが出来る魔術です。因みに、空間魔術は、属性がない魔術で、魔力保持者なら、練習次第で誰でも使える様になる‥というのが特徴です。
 魔力の調節が難しいから、才能がないと無理ですけどね。
 ベネット嬢は空間を氷の膜で区切り、敵をその空間内に閉じ込め、凍らせる‥「空間切断」という空間魔術を使います。これは、普通の空間魔術ではなく、氷属性の魔術との混合です。
 自らと外の空間を遮断して、自らの身を守る結界に代表されるような‥防御的利用の性質の強い空間魔術とは違い、攻撃魔術的利用onlyの空間魔術です」
 魔術に詳しくないナナフル達の為に、若干説明口調でコリンが説明し、フタバに確認を促し、フタバが頷く。
「それで間違いはありません」
 コリンに対しては、相変わらず淡々とした口調で答えたフタバであったが、
「すごく優秀でいらっしゃるんですね」
 コリンの横にいつの間にかちゃっかり座っていたアンバーに「王子様スマイル」で褒められると
 顔を赤らめて、
「あら、アンバー様こそ‥。優秀な魔術士でいらっしゃるんですね? 独学で結界を張られるなんて‥素晴らしいですわ」
 嬉しそうに微笑んだ。
 (難しい)空間魔術の中でも、「結界」は特に難しく、結界が得意ということは、高等魔術士であると言える。
 フタバの様に、魔術を空間に閉じ込める方法は、中に入っている人間の安全性まで考慮しなくてもよい。つまり、繊細なコントロールがそう必要じゃないんだ。
 空間切断は、攻撃だから、強い力の方がいい‥って位の「力任せ」の感覚。だけど、結界はそういうわけにはいかない。繊細な魔力の調節も必要だし、短期間勝負の閉じ込め‥より持続力がいる。集中力もいる。あと、センスもいる。
 優秀な結界というのは、遮断に加え「攻撃無効化」や、「音の遮断」「気配遮断」等の効果が付与したりする。(コリンも、短時間の結界なら出来るが、持続が苦手)

 中にいるものに気を遣うとか、僕には無理。

 コリンが常時使用している「自動攻撃型の結界」は結界と言いながら、コリンが結界内にいる‥という感覚ではない。コリンの周りの一定距離の空間において「殺意あるいは他魔術を使用して近寄った者は攻撃する」という命令を出しておく‥というものだ。
 切り取る、とも、遮断する‥とも違う。
 難易度で言ったら、結界(←アンバー)が一番難しく、その次に空間切断(←フタバ)。その次に「条件空間創造(←これがコリン)」で。使用魔力量が多いのは、結界、「条件‥」、空間遮断の順となる(だけど、コリン程常時使用している‥というのは規格外)

「それから‥この騒がしい人が、ロナウ・ヴァンディール・テイナー君。
 魔力保有量は少ないんですが、他の属性の魔力に対して適応力が普通の人の数倍優れているらしく、あと‥対象者に触れないでも、魔力吸収が出来る‥というのが一番の特性。
 メインの属性は、雷。
 ‥一応は‥ですが。
 アンバーと同じで、‥アンバー以上に器用で、使用できる魔術も、雷の外、風、空間、‥闇と多い。
 もっとも、テイナー君が闇属性の魔術を使えることを知っている人は教会内には少ないと思います。‥僕も、自分が闇属性の魔術を学んで初めて気づいたくらいです」

 あ~。闇属性の魔術って評判が‥っていうか印象が悪いから、わざわざ自分で公表するってこと少ないよね‥。

 さっきの説明‥
 フタバとは「氷属性」繋がり、ロナウとは、「雷属性」繋がり‥ってことで、間違いないのかな? 
 あとは‥三人とも、優秀な魔術士って共通点‥かな?
 ナナフルは、コリンの説明を聞きながら頭の中で自分なりに推測をしてみるのだった。
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