この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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139.変化と覚悟。

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(ナナフル視点)


「ザッカ? 」
 僕は顔を上げた。
 依然顔は熱いから、絶対真っ赤なままだろう。
 でも、ザッカは僕の顔を‥多分見てない。
 見てる余裕なんかない‥って感じ。
 きゅって目を瞑って、苦しそうに‥声を絞り出すように‥言葉を続ける。
「俺は‥母さんが言ったから‥とかじゃなくて‥、ナナフルと結婚したい。‥ナナフルが好きだ。‥ナナフルと一生一緒にいたい‥! 」
 瞑った目から涙をボロボロ流しながらザッカが言う。
「‥嫌わないで‥! ナナフル、俺はナナフルに嫌われたら‥っ! 」
 俯いて、涙をボロボロボロボロ流すその姿は、まるで子供みたいだった。
 ‥なんだよ、図体だけじゃないか。やっぱり。
 大人の男になったんじゃなかったのかよ。
 って、呆れた‥と同時に‥否、それ以上にほっとした。
 ザッカが、僕の知ってるザッカだって分かって、
 ほっとした。
「馬鹿だなあ。‥僕がザッカのこと嫌いになるわけないでしょ? 僕もザッカと一緒にいたい。‥ザッカがあんまりカッコ良くなってたから‥驚いて、嫉妬してた。‥これでも、僕も男だからね。嫉妬位する。
 置いていかれた‥って悔しくもなるし、自分は‥って落ち込む。
 ‥それっ位、ザッカはカッコよくなった。
 でも、ザッカはザッカだった。
 相変わらず、ちょっと抜けてる‥ってか、カッコ悪くって‥なんかほっとした。
 なんだよ。僕なんかに嫌われたかもって泣き出すなんてさ」
 はは、って苦笑いすると、
 ザッカが勢いよく顔を僕に向けた。
 顔は真っ赤で、涙でぐちゃぐちゃだ。
 口を拗ねてるみたいにとがらせて、怒ってる‥っていうより、子供が精一杯抗議してるって感じ。
 ‥すごい迫力だな。
 まじ泣きした男‥、‥ちょっと‥怖いぞ。
「そりゃ泣くよ! なんだよ、僕なんか、って、俺の嫁さんは世界で一番カッコいいんだ! だから、俺、ナナフルに並びたいって頑張ったんだ! 鼻っからその努力無駄‥って言うなよ‥! 
 俺だって、カッコつけたかった。こんなボロボロで‥情けないのじゃなくてさ‥!
 でも駄目だ~。ナナフル前にしたら、嬉しいのと、怖いのと‥好きな気持ちが前面に出過ぎて、カッコよくなんかできない‥」
「怖い? 」
 僕は、首を傾げて、ザッカに聞き返した。
 ザッカがこくん、と頷く。
「怖い。嫌われるのが何より、怖い。‥これ以上、好きになって、歯止めが利かなくなりそうなのも怖い。‥好き過ぎて、怖い」
 な~んか、頭悪そうな言い方だなあ~。
 好き過ぎて怖いとか、
 なんだそりゃ。
 ‥でも、分かる。
 分かるよ、って言い返そうとしただけなのに、さ‥
「ぼ‥僕もおかしいんだ! お‥男だのにさ‥! ザッカのこと‥カッコイイ‥とかおもっちゃってさ! 」
 顔を真っ赤にして、一生懸命になってた。
 ‥一生懸命言葉にしようって思っちゃった。
 そしたら上手いこと言えないわ、声がひっくり返っちゃうわ‥散々なの。
 うわ~。
 ‥カッコ悪~。
 でも、さ‥。
 一生懸命には、一生懸命を返すのが男ってもんでしょう!? 
 ザッカがきょとんとした顔で僕を見てる。
 ‥見るなよ。カッコ悪いから。
 ってか、‥顔が‥顔の熱さが引かないから‥見ないでよ‥。
「ナナフル‥。俺、‥カッコいい? 俺のことカッコいいって思ってくれる? 」
 ザッカの目はまだ、涙でウルウルしてる。
 ちぇ、‥かっこいいのに可愛い‥。僕、女の子みたいじゃん。こんなゴツイ男を可愛い‥なんて思うなんてさ‥。
 母性本能‥とか、男だから無いはずだろ。
「ねえ、‥ナナフル? 」
 不安げな顔で見て来るんじゃない! 思わず‥抱きしめたくなっちゃうじゃないか!!
 僕は、なるだけ平静を装って、こくん、と頷いた。
「かっこいい。ちぇ、言わさないでよ。なんの罰ゲームさ! 」
 カッコイイよ! ほんと、悔しい程にさ!!
 ごくん、ってザッカの喉が鳴った。
「ねえ‥」
 何気ない声かけに、心臓が跳ねる。心臓が‥破裂しそうだ‥。
「触っても、‥いやじゃない? 」
「いい‥けど‥」
 そっと、
 本当にそっと
 ザッカの剣ダコだらけの硬い手が僕の頬に触れる。
 その指がゆっくりと唇に触れる。
 ‥顔が近い。
 いつの間にか、顔の距離が近い。
「‥キスしても、‥いい? 」
 そういうセリフは、この距離でいうセリフじゃない。
 ここで僕に断られたら、お前どうするつもりだ。
 こんなムード満点って感じにしといてさ、‥どうするつもりだよ。
 こんなの‥拒否権ゼロみたいなもんじゃん‥。
「いい‥けど‥」
 ザッカの両手が僕の両頬に触れる。
 まるで包み込むみたいに‥優しく優しく触れる。
 ゆっくり、ザッカの顔が近づいてきて
 そっと、唇に触れた。

「‥俺、もう、死んでもいいって思う‥」

 僕の胸に顔をうずめながらザッカが呟く。
 僕はぎこちない仕草で、ザッカの頭を軽く抱きしめた。
 ザッカのちょっと硬い髪の毛がくすぐったい。
 まるで、離さない‥って感じに、ザッカの手が僕の腰に巻き付いてくる。
 抱きしめてるんだか、抱かれてるんだか分からないな。
 そうか‥抱き合ってるっていうんだな。こういうの。
 なんて、‥変に冷静に思った。

「‥ばか、何言ってるんだよ‥僕を未亡人にする気か‥」
 小さく息をつくと、ザッカの顔を覗き込んだ。
 どんな顔してるのかな~‥
 ってちょっと、悪戯心が湧いてきた‥っていうか‥
 なんか、‥顔が見たくなったんだ。
 まだ俯いてるのかな‥って思ったら、ザッカと目が合った。
 ザッカが目だけで、ふわっと微笑む。
 ‥う、カッコイイ。
 さっきまで泣いてたくせに‥かっこいい‥。
「そっか‥そうだな、俺がナナフル残して死んじゃったら‥嫁のナナフルは未亡人だな‥。それは、ダメだな」
 真っ赤になった僕に、今度はふわっとひまわりが咲くみたいに笑った。
 ‥悔しい。
「~~っ! 」
 僕は、ザッカを抱きしめていた手をばっと音がする位、勢い良く離すと、
 驚いて目を見開いてるザッカに、

 今度は、僕から口づけた。
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