この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

文字の大きさ
147 / 310

145.不器用な君を守る義務があるのは、同じく不器用な僕だって思ってる。

しおりを挟む
「じゃあ設定を確認しておくよ。
 まず、子爵家の令嬢であるフタバちゃんの婚約者になったロナウは、三男坊で帰る家がない。
 で、婿養子先にちょっとでもいい顔をしたいロナウは、友人であるコリンの持ちかけた表には出ていない「儲け話」に目をつけた。
 その儲け話っていうのが、貴族に魔薬を売ること。
 ‥そうだな‥効用どうしようかな‥貴族のどういう層をターゲットにするかにもよるな。
 層と‥客の種類? 紳士か淑女‥。
 ちょっと違法性をにおわせるか、それとも「軽いおまじない」的な感じにするか‥。
 おまじないだったら女性だし、違法性を‥っていうんだったら上昇志向強めの若者‥それも、下級貴族‥って感じかな‥」
 アンバーが顎に手をやりながら‥一つ一つ確認するように言う。
 フタバが頷く。
「成程‥そうですわね。まずはそこを設定してから‥ですわね」
 シークとザッカも頷く。ナナフルは、口には出さないが、違法薬物が商品だから、どうにも乗り切れない‥割り切れない? って顔をしている。

 ここでの魔薬っていうのが、本当の魔薬じゃなくて、「本当の魔薬」をおびき寄せる為の、嘘の魔薬だとしても‥だ。

 コリンはアンバーの表情を見ている。

 ‥アンバーを信用していないのではない。心配してるんだ。
 過去の「悪い思い出」の象徴でもある「魔薬」の話。アンバーは、淡々と話しているが、無理しているんじゃないだろうか、って気になる。
 ‥僕なら、嫌だ。
 せっかく離れることが出来た「嫌いな世界」に自分から‥わざわざ関わり合いに‥接触したいとは思わない。
 ‥自分が‥自分たちが今していることは、アンバーの古傷をえぐって‥否それ以上に、‥アンバーをわざわざ危険な目に合わせるかもしれない危険な行為なんだ‥。
 
 ということに‥今更‥やっと気付いた。
 気付いて、ぞくっとした。
 自分の無神経さに。自分の‥身勝手さに。

 真っ青なコリンの顔に気付いたのは、ロナウだった。
「どうした? 怖くなったのか‥? コリン」
 自分を心配そうに見つめるロナウに、胸が痛む。
 ‥ロナウの気持ちも考えていなかった。

 いままで、(気が付かずに)ひどい言い方して‥ごめん。

 ロナウは、「ホントに」優しい人間なんだろう。
 そして‥絶対に「黒い道」になんか一生縁がない人間なんだろう。

 僕とは違う。

 それなのに‥
 ロナウを危険な目に合わせることに、僕は‥驚くほど‥無関心だった。

 僕は‥

 僕は、「自然に」人を大事にすることができない。
 人だけじゃなく、自分の事も。
 僕は‥自分の事が嫌いだから、自分なんて大事にする必要すらないって思ってる。
 自分を大事にしないのは‥だけど、自分の勝手だ。
 自分を大事に思ってくれる皆には迷惑をかけるけど‥、人に対して「実害」があるわけでは無い。
 心配をかける not= 人を害する。

 だけど、「人を大事にしない」のはそれとは別次元の問題だ。
 人道的に正しくない。

 人を大事にする‥って、きっと‥ナナフルさんやザッカさん、シークさんにとっては、わざわざ考えないような「当たり前」の感情。
 だけど、僕は‥僕やアンバーにとっては違う。
 僕たちは、もっと、打算的な感情で‥行動する。

 例えば、目の前で友達が悪党に絡まれてるとする。
 その友達の事「好きだから」悪党から庇う。

 そういう二段階の感情で動く僕らみたいなタイプは、「こいつは知らない奴だから」→「助けない」って、目の前の対象者を選ぶ。選んで‥助けないって選択肢も普通に選択する。
 (いや、見捨てたことはなかったと思うよ。
 だって、
 「人道的に正しくないっておもう」から「助けた」から。)
 その際も、「かわいそうだから」助けるのとは違う。
 弱者は助けるべきだろう‥って「考える」から助けるんだ。そうすべきなんだろうって「考える」から助ける。
 そういうのを、ナナフルさんたち「いいひと」は、当たり前の様に‥誰に対してでも‥「自然に」やっちゃうんだ。
 当たり前の様にやっちゃうし、‥やれちゃうんだ。
 寧ろ助けない理由なんて‥彼らにとってないんだ。
 そして、実際に助けられる力がある。
 
 優しいだけじゃなくて、強い人たち。(物理的にも精神的にも)

 友達だけじゃない。

 親を大事に‥家族を大事に‥
 それを、僕は「義務」だと思っている。
 家族を大事に思うのは「当たり前」で、家族の一員として「お互いに」守り、‥いずれは成人したならば、自分が親を養う。
 お金‥経済的な面であったり、例えば、培ってきた知識やらコネクション。そういう物理的なサポート。
 精神的に‥ってことは、きっと僕にはできない。僕はアデル兄さん(長男)みたいにしっかりしてないし、リンク兄さん(次男)みたいに要領も良くない。僕は‥でも、稼ぎはそこそこある‥から、僕に出来ることをするしかないって思ってる。(つまり資金面で援助します、ってことだ)

 精神的には支えられないから、せめて、ってことだ。
 
 家族のことは好きだ。
 家族も僕のことが好きだ。
 お互いが好きで、お互いに対してする行動に、誰も見返りなんて求めない。僕らの両親は僕らが好きだから、僕らに衣食住を提供してくれてきた。子供のころ、そのことを僕らは‥僕は甘受して、ろくに感謝することもしてこなかった。
 それどころか‥、今でさえも「僕は末っ子だから、家族が僕を大事に思ってくれるのは「当然」」みたいな‥甘い考えが僕の頭の‥根底にある気がする。

 家を出て、一人で神殿の寮で暮らすようになって、親のありがたさを知って、自分のこれからの義務みたいなことを考えるようになって‥
 僕は、「そんなこと考えられるような大人になった」「僕も成長したな」って満足してた。
 家族を大事だって‥家族の一員として、今後家族を支えるって口に出すことが「大人になった」ってことだ‥って。
 僕は大人になれたって‥勝手に思い上がっていた。
 認めたくないけど‥、多分、僕は今でも「褒めてほしい子供」に過ぎない。

「コリンは大人になったね。成長したね。偉いね」って。
 家族は褒めてくれるだろう。成長した僕に安心してくれるだろうって。
 所詮は僕は、「常識がどう」だとか、「人からの評価」を気にして行動してるにすぎない。
 僕は‥心から「自然に」人を大事に思ったりできない。
 わざわざ、意識して、考えないと、行動できない。

 アンバーが闇魔法の「解析」を持ってるって分かった時、気付いたんだ。
 アンバーが自分と似てるってことに。
 闇魔法の鑑定って、風魔法の鑑定みたいに「自然に備わった能力」じゃない。いうなれば、後から加わる‥性格のゆがみみたいなやつだ。
 相手に対する不信感だとか、恐れから、習慣的に相手を観察する。そういう‥積み重ねの「凄い版」。
 僕らは、相手に興味を持ってるから相手を知りたいって思うんじゃない。僕らにとって相手を観察するのは、自衛の為の癖みたいなもんなんだ。

 僕らは常に冷めてるし、常に考えてるんだ。
 そして、そのことを常に自覚してるんだ。

 だけど、短気な僕は‥つい‥考えるより先に行動しちゃって後悔することも多い。アンバーは‥あの、余裕ありげな微笑? 含み笑い? で、ワンテンポ置いて考えたり‥周りの出方をみたりとかしてるんだから‥偉いよね。

 僕には、だけど、周りにいい人たち‥過保護な兄弟だとかね、今だったらザッカさんたちだとかだ‥がいっぱいいて助けてくれたりフォローしてくれたりしてる。ありがたいって思う。
 それは、たまたま僕が恵まれてる環境にいたってのもあるけど、‥助けられてもいいって本能的に認めた人間には、助けられてもいいって‥柔軟に考えることができたから‥ってのも勿論ある、って思う。
 性格的なもの。
 あれだ。
 末っ子の気質(特権? )ってやつだ。

 だけど、アンバーはそうじゃない。
 もっと、意地っ張りだ。
 意地っ張りだし、僕よりもっと強いから、一人でできちゃうことがもっと僕より多いから‥人に弱みを見せずに、一人で我慢しちゃうじゃない? 

 人に弱みもあんまり見せない。

 意地っ張りで、カッコつけで、だけど、案外弱いところがある。
 似てるから‥なんとなく、分かることってある。

 アンバーのこと、「仲間」認識したんだから、僕くらいは、アンバーの事、気にかけて‥助けてやりたいって思うんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...