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157.僕は、僕。(コリン、同窓会に行って思ったこと)

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 よくさ。
 巷で好まれてる『いいお話』で、人が信じられなくてささくれてとがってた主人公が優しい人のこころに触れて次第に人間らしい心を取り戻していき‥最後には友達も増えて皆楽しく暮らしました。って話、あるよね。
 僕は、あれに懐疑的なんだ。

 人はそんなに容易に変われない。

 先生がフタバちゃんに言った
「随分柔らかい雰囲気になったね」
 もそうだ。
 嬉しいことがあって気分がいいから、自然と優しい笑顔が出るようになったんだね。
 ‥とでも言いたいのだろうか?
 フタバちゃんが、元々「私は皆に愛されてる存在だ」って信じて疑わない「幸せな人種」だったらそう言う事もあるかもしれない。

「何かいいことあったの? 」
「え! なんでわかるの? 」
「その笑顔でわかっちゃうよ」
「え~私ってそんなに思ってること全部顔に出ちゃうかな~? 」
「出てる出てる」
「ひっど~い! 人を単純みたいにいわないでよぉ! ぷんぷん」
 
 って感じで、「嬉しいこと」があった位で「自然と優しい笑顔が出る」ようになるのかもしれない。
 でも、フタバちゃんはそんな感じじゃない。
 きっと他人から見たら「そんなに大した悩みじゃない」って思うことだろうけど‥フタバちゃんは両親との関係についてずっと悩んでいた。(他人からすれば)「ちょっとしたすれ違い」程度のことであっても、フタバちゃんにとっては大きな悩みだった。

 自分は兄弟たちに比べて両親に愛されていない。
 なぜなら、
 自分が兄弟たちに比べて「可愛げがない」から。
 だから、父親は自分の事を扱いにくく‥疎ましく思っている様だ。
 優等生の母親は、娘が父親と不仲であることを(そんな娘を産んだ)自分の失敗として責められるのが嫌で、結果として娘のことを面倒に思っている様だ。
 そう仮定して、苦しんでいた。

 ‥もちろんこれらは、全部フタバの仮定で、ただの被害妄想だ。
 お父さんは、普通の「娘の扱いって分からない」「娘に割けられてる気がする‥悲しい」って感じの、単純な脳筋だ。お母さんがフタバを実家に養子に出したのも、フタバが疎ましいからじゃなくて、「フタバが一番実家に合ってる。だって自分と一番似ているから」って思っただけのことだ。
 ちょっと会って話した時、そう思った。

 だけど、当時のフタバちゃんは本気で悩んでいたし、本当に傷ついて‥結果的に凄くとがっていた。
 それ程、フタバちゃんは「幸せな人種」からほど遠い性格をしているんだ。

 そんな「とんがっていた」彼女が、ロナウとの婚約(恋愛)位で変わる‥とでも思ったのだろうか?
 先生にはフタバちゃんがそんなに単純な人間に見えていたのだろうか。

 でもね。
 所詮、「人を理解する」なんてその程度のもんだ。ましてや、先生にとってフタバはただの一生徒にしか過ぎないんだから。(僕からしたら名前を憶えてるだけでも尊敬に値するよ)

 誰かの苦しみも悲しみも、強さも弱さも。
 他人には理解できないし、理解した気になっていいものでは無い。
 『これって、そういうこと』
 っていう勝手な「世間一般の杓子」に人を当てはめて
「恋すると綺麗になるよね」
 とか
「やっぱり‥恋は人を変えますよね」
 とか
 適当なこと言っちゃいけない。
 

 僕はさ。

 シークさんに一目惚れして、
 自分が! 一目惚れしたって事実に驚いた。自分にもこんな純粋なこころがあるんだって‥驚いた。それより‥何よりうれしくって、こんな気持ち大事にしなきゃって思った。そして、自分をこんな気持ちにさせたシークさんのことがもっともっと大好きになった。
 でも、考えているうちに‥シークさんへの恋心が、純粋な恋心じゃなくて、
 例えば「自分にはないもの」に惹かれた。
 とか
 この人なら親も納得してくれそう。きっと、この人は親が納得する人だ。
 とか
 そういう‥打算っていうの? 純粋な気持ちじゃなくって‥頭で考えた想いがある‥って気付いて凄くショックを受けた。
 これは‥純粋な気持ちではない‥ってショックを受けた。

 僕は‥僕なんて‥一生恋愛なんて出来ない。僕には「こころから人を愛する」なんてこと‥出来ない。

 そう思ったんだ。
 シークさんと一緒にいちゃいけないって思った。だけど、‥一緒に居たいって思った。頭で考えたんじゃなくて、こころから一緒に居たいって思った。

 僕は変わってしまったのかな。
 弱くなってしまったのかなって思った。

 でも、‥気のせいだった。
 久し振りに会った教会の同級生の僕を見る冷めた視線。
 僕の‥同級生に対する‥嫌悪にも近い感情。

 何にも変わってなかった。
 そして、それをショックだと思わない自分も‥
 僕らは何一つ変わってなかったんだ。

 彼らに会う前、僕は凄く嫌だった。
 だけど、そんなこと思うのは大人気ないなとも‥思ったんだ。
 彼らにしても、僕からそう‥大人気ない人間だって‥思われたままなのも嫌だろう。って思った。
 だから、
「昔は大人気なかったよ。
 あの時は悪かったよ。許してくれとは言わないけど‥せめて謝らせてくれ」
 彼らは、ホントはそんなこと思ってなかったとしても、大人になって「社会人」になったんだから、それくらいのことは言ってくるかも? って‥「一般的に考えて」思った。
 だけど、そうならなかった。
 ホントに、あの頃のままだった。

 僕に対してして来たこと忘れてるのか? って思った。

 ‥案外そうなのかもしれない。した本人よりされた本人の方が覚えてるらしいからね。
 そのことについて、‥だけど、別に怒りはない。ただ、「所詮その程度の奴らだよな」って思っただけ。呆れただけ。ただ、「卒業してこいつらの顔見ることなくなってホント良かったよ」って思っただけ。
 冷静にそう思えた自分に‥ほっとした。

 こいつらとなれ合うことなんて一生涯ないって思う。

 自分が「弱くなんかなってなかった」って安心できた。
 あの時のことも‥今も、悲しいとか、寂しいとか思わない。やっぱり当時同様、「こんな奴らどうでもいい」としか思わない。

 シークさんやザッカさん、ナナフルさんとの出会いで僕の心の氷は溶解されなかった。「みんなに優しい人間」になんか変わらなかった。
 やっぱり、僕は僕のまま。
 ただ、「いいものは、いい」「どうでもいいものは、やっぱりどうでもいい」って目が‥こころが養われただけ。

 そのことに気付けただけでも、あのあほらしい同窓会に行った意味はあったかな、って感じ。
 ‥絶対目的が無かったら行ってなかったけどね。

「同窓会。久し振りに同窓生に会えて楽しかった? 」
 自然と顔がほころんでた僕に‥何を誤解したのか、ちょっと心配そうな顔でシークさんが聞いてきた。
(同窓会で「いい」出会いがあったとでもおもったのかな?? 嫉妬してくれたの? 嬉しい!! )
 僕は今度はちょっとにやけ顔になった。
「いいえ? 相変わらずクズばっかりでしたよ。‥ただ、僕にはシークさんという帰れる場所が出来てよかったな、って改めて思えただけでした」
 
 でも、僕は昔よりやっぱり弱くなった。
 シークさんという帰る場所が無かった昔に‥今は帰れる気がしない。

 僕の言葉にちょっと赤くなった優しいシークさんに抱き着きながら僕はそんなことを思ったのだった。
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