この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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173.ロナウの話

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 コリンに頼られてる‥。

 コリンって言ったらあれだ。
 魔術の天才。
 人に媚びず、人に合わせず我が道を行く一匹狼。
 凄い美人だけど、無表情。
 皆から「可愛さ余って」避けられたり、意地悪されたりしてるのに全然へこたれない‥
 それどころか、自動攻撃機能で、好意も悪意も全部跳ね返しちゃう子。
 自動‥だから、攻撃をしたことすら気付かない‥気付かない振りをしちゃう「ツレナイ」子。
 カワイイけど、全然可愛くない子。

 そんなコリンに!!

 僕は‥コリンと同等のところまでこれたのかもしれない。
 思えば‥今まで苦労しかなかった‥

 ロナウはロナウの生い立ちを思い出していた。


 残念な三男坊‥って呼ばれて育った。

 貧乏って程じゃないけど、そう勢いのあるわけでもない貴族の三男坊として生まれ、兄弟の誰よりも家族に冷遇されて育った幼少時代。
 長兄のように華があるわけでもない。
 ‥社交界の薔薇とか言われてた母親にそっくりの容姿をしていた長男は、「薔薇の貴公子」って呼ばれ若いお嬢さん方にモテモテなんだ。
 その上、愛想もよくって「気の利いたセリフ」がすらすらと出て来るもんだから‥モテないはずがないよね。
 華やかで社交性がある長男。
 だけど、長男は頭はいいんだろうけど(← 頭の回転が速い)‥誠実ってイメージはない。

 その点をカバーするのが、頭脳派の次男なんだ。
 次男は、次世代テイナー家のブレインだ。
 容姿だけは騎士である父親にそっくりな彼は、だけど剣はからっきしだった。(あんまり運動神経がよくないのかもしれない)
 父親と同じアイスブルーの瞳をしている彼は、切れ長の目のせいで、キツイ印象を持たれがちだったが、仏頂面の父親を見て育ち思うところがあったのか‥いつも穏やかな微笑を浮かべている。
 責任感があり、仕事もしっかりしている。
 だけど、完璧すぎて‥人間味が無い。(いつも浮かべてる微笑も、ロナウからしたら「胡散臭い」)

 そんな兄がいて‥
 両親はなぜ自分を生んだんだろう‥ってロナウはずっと思ってきた。
 もう、(二人だけで)十分だったんじゃないか? って‥。

 なぜ
 は、きっと両親にも「はっきりとは」分からなかったのだろう。
 なぜか
 物足りない。
 父親にしたら
 それは多分、剣の素質を持っている子供がいなかったから。
 母親にしたら、
 それは多分、魔術の素質を持っている‥魔術に興味を示す子供が‥いなかったから。

 十分なはずなのに‥
 家の為にはそれで十分なのに‥
 物足りない。
 
 そこで、父親は「思い出した」んだ。
 家宝の神剣の存在に。

「誰も、剣の道に進むものが居なかったら、家宝の神剣はどうするつもりだ」
 父親は‥長男に言う振りをして‥三男に言い聞かせた。
「剣に認められないと‥当主にはなれないんだぞ」
 って。

「当主と認められるためには、剣に認められる人間が兄弟の中にいなければいけない‥」

 案の定、優しい三男は剣の稽古を始め‥そして、幸運なことに才能があった。騎士になれる程は残念ながらなかったが、どうやら嫌いではなさそうだ。
 そんな様子が見れるだけで、満足だった。
 認められないと‥って、そんなこと、口から出まかせだ。
 そんな「伝説の剣」じゃあるまいし‥認められないと振れない‥とか、有り得ない。
 たかが、剣だ。
 普通に剣の稽古をしてきたなら普通に扱える。
 自分だってそうしてきた。

 ‥そんなものは、ただの「イジワル」だ。
 騎士である自分の息子が揃いも揃って剣に興味を示さないのが‥嫌だったんだ。

 だけど、親戚は‥特に年寄り連中は「家宝の剣」を特別な目で見ていた。
「剣に認められない当主が出るなんて‥うちは終わりだ‥」
 って、嘆いたり、苦情を言ってきたり‥
 家宝の剣を口実にうちに難癖をつけてるだけだろう‥と父親は思っていた。
 だけど面倒だから‥
 魔術士の学校に行ったのに魔術士紋を騎士紋に変えた変わり者の三男に剣を振らせて親戚たちに見せた。
 三男と長男は顔は似ていなかったから、いくら「長男です」って言っても、分かるだろう。だけど、親戚たちにとってそれは問題ではなかったらしい。
 ただ、家宝の剣を振れる人間が兄弟の中にいればそれでよかったんだろう。

 認められるって‥馬鹿馬鹿しい。
 そんなことあるわけない。
 剣に意志があるとか‥
 そんなことあるわけがない。

 長老によると、家宝の剣は特別な剣であるという。
「剣に認められた者が当主になれば、剣は当主と共に闘い、一族を守り、一族に安寧と繁栄をもたらす」
 って聞いた時には、呆れた。
 闘うって‥
 ‥戦争のある時代ならともかく、この平和な時代だ。そんな事態になるわけがない。
 魔物の討伐は今だってある。だけど、魔物を討伐するのは本職の騎士だったり、冒険者たちだ。
 神剣に認めらようが‥当主が神剣でもって戦うってことはない。
 
 だけど、その家宝の剣は‥本当に「特別な剣」だった。
 「使いこなす」には魔力を要する、魔剣。それも、属性は闇。
 今までの‥ここ数代の‥当主には、闇の属性はおろか、魔力を有している者はいなかった。
 最後に「真の後継者」だったのは‥ロナウのひい爺さん(故人)だった。
 爺さんも、ロナウの父親も、魔力は無かった。
 が、‥必要も感じてなかった。

 だけど、魔力を持っていたロナウの母親と父親が結婚したことで、ロナウにたまたまそれが遺伝した。
 そして、たまたまロナウは闇の属性を持っていた。
 騎士で魔術士。
 久し振りに「真の魔剣の継承者」の資格を持った者が生れたのだ。
 そして、ロナウの性格。
 多くを望まない控えめな性格(← いろいろと諦めてるだけ)だけど、知識欲旺盛で実直で真面目。だけど、ひとたび剣を握れば途端にイキイキとし始めるヤバい性格‥ロナウは久し振りに「神剣のお眼鏡にかなった」‥ってか、神剣に興味を持たれたんだな。
 久し振りにおもちゃが現れた! 今まで退屈で死にそうだったぜ!
 って感じかな。

 ロナウは剣を振った時、分かったんだ。
 この剣が普通の剣とは違うってことを。
 そして、剣も「もう自分以外、使うのなしな」ってロナウに呪いを掛けた。
 だけど、
 それに気付いたのは家族の中ではロナウだけだった。
 古参の親戚の何人か‥長老辺りは完全に‥は、気付いた。
 長老は、ロナウのひい爺さんの弟だったのだ。
 ひい爺さんは彼の弟に「息子(ロナウの爺さん)は魔力がない。真の当主になり得ない‥」って相談しており、その際長老は、自分も含めて魔力を持っている者が一族に居なかったので‥「振れればさえ、いいんじゃないか? 」って言ったのだ。‥それ程、兄(ロナウのひい爺さん)が悩んでいたから‥。
 そして、兄は亡くなり、爺さんが跡を継ぎ‥、結婚して子供が産まれた。長老は、生まれた子供(ロナウの父親で兄の孫)に期待した。
 だけど、ロナウの父親にも魔力は無かった。
 そしてやっと生れた魔力のある子どもがロナウだった‥わけだ。
 
 だけど、今は時代が違う。
「剣に認められたから君が次期当主になるべきだ」
 って時代ではない。
 だから、ロナウの父親が
「長男が剣に認められた」
 ってロナウのことを「長男の代わり」だって言うなら‥そのように‥納得しなければいけなかった。

 ロナウは、頼りない‥存在だ。
 頼りにならない、じゃなくって、存在が頼りない。
 だけど実は‥
 (少なくとも)ロナウの両親にとっては
 彼は、「何の意味もないようで」、実は「一番意味がある」息子なのだった。
 (だけど、その事を知っている者はいない。両親も「認めない」だろうし、彼は「気付きもしない」だろう)


 今までパッとしない人生だった。
 優秀な兄たちの陰に隠れてひっそりと暮らして来た幼少期、コリンたちと比べて目立たなかった学生時代。騎士紋を得て、騎士になるも、神剣に気に入られ‥他の剣が握れない呪いを掛けられて‥就職活動もままならない‥。
 お先真っ暗な人生だ。

 今まで全然パっとしない人生を送ってきたけど‥っ!
 そんな僕がコリンに認められるまでになるてな~! 

「何すればいいのかわかんないけど‥
 僕に出来ることなら何でもするよ! 任せてよコリン! 」
 元気いっぱいに安請け合いする‥やっぱりちょっと残念な‥ロナウだった。
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