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216.コリンは随分溜まっていたようだ。
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シークさんの表情が読めない。
僕はシークさんの事、もう好きじゃなくなったの?
‥なんて、思わない。
これは‥
僕が「冷静さを失ってるから」だ。
人の行動は、ホントにびっくりするほど気分に左右される。
いつもなら普通に当たり前にできていることだって、気分が落ち込んでいたり、イライラしていると(ホントにびっくりするほど)出来ない。
そうした時、
「なんでできないんだ! 」
って激昂すると、事態は更に悪くなる。
こういう時は、まず「あ、僕は今平常じゃないんだ」って自覚して、気持ちを落ち着けることが大事なんだ。
‥以前はこれで随分失敗してきた。
あれだ。
八つ当たりだとか、憂さ晴らしで魔獣に対峙しても、ウマく行かないって奴。
魔術の軌道はそれるし、そもそも、魔術を練り上げるって言うのかな‥そういうのが上手くいかない。
つまりね、僕は雷の攻撃魔法を使うんだけど、それを矢のように一本に集中させて、真っすぐ的である魔獣に当てるのには、結構な集中力と精神力が必要だってこと。
矢の形にできないまま魔術を使うと、当てにくいし、当たっても威力が少ない。丁度、小石を適当に当てる様な格好になっちゃう。C肉程度の魔獣だったら多少効率が悪い位でそう問題は無いけど、中型の魔獣だったら、一発で仕留めないと、興奮状態になって反撃されたらヤバいからね。死にはしなかったけど、大怪我をしてヤバかったことは十本の指でおさまらないほどある。
だから、僕は自分が今冷静かってことを常に確認しながら行動している。
普段の僕は短気だけど、ここぞってときはちゃんとしているんだ。それを分かってるから、僕は今生きて居られてるんだと思ってる。僕の身勝手な「線引き」で、他の皆に迷惑を掛けてるという自覚は一応ある。分かっていながら(周りに丸投げして)甘えてるって言う自覚も‥一応ある。
ありがたいなあ‥って思ってるし、‥それが凄く心地いいんだ。
日常生活はそんな風に線引きして、一応気をつけて暮らして‥至らない部分は自動攻撃機能(バリア)で補ってる。ずっと用心してるのも大変だし‥そうすることによってもっと大きな危険の予兆を見落としたりしたら大変だからね。
‥注意力が散漫だったり、冷静じゃないときってのは、これが怖いんだ。
だけど、案外自分が冷静じゃなくって本調子じゃないってときは、自分の状態を客観的に判断しにくい。「自分が今冷静じゃない」「本調子じゃない」って気付きにくい。
そんなときのバロメータになるのが、僕にとっては「ポーションの配合が上手いこといかない」とか「魔法陣を一つ書くのにやたら時間がかかる」とか‥「シークさんの表情が読めない」とかなんだ。
つまり
今この状態。
そうか‥僕はいつもより冷静さを欠いてるから、さっきまでアンバーが「黙ってニヤニヤしてる」んじゃなくて「縛られて気絶している」ってことにすら気づかなかったのか‥。
‥そうか‥。
じゃあ‥どうしよう?
僕は‥取り敢えず、大きく深ぁくため息をついてみた。
それでも気持ちは相変わらず晴れず、モヤモヤしたまま。
大声出したらすっきりする? って思ったけど‥急に大声出すとか‥ないわ~。寧ろもっとダメージ受けそう。自分が嫌。
もやもやもやもや‥
ずずずずず‥
「コリン!! 」
皆の僕を呼ぶ声が遠くで聞こえて‥
僕は‥深ぁい穴に落ちて行った。
落ちて行った‥っていうより、沈んで行ったって感じかな。
落とし穴に落とされたわけじゃない。建物の二階から、自分でセットしておいたふかふかのマットに背面から落ちてくって感じ。
背中から落ちた先は、‥ふかふかのマットじゃなくって、ただの地面。
ひんやりとした土の感触がして、僕は身体を起こして座った。
誰もいない穴の底にいるような感じ。
だけど、周りは広くって、閉塞感は感じない。
暑くも寒くもない。明るくもないが真っ暗で何も見えない訳でもない。
そこに一人座っていると‥驚くほど落ち着いていくのを感じた。
一人ぼっちで寂しい‥ではない。安心できる場所で、ようやく一人になれた‥って思った。
誰もいないって分かったら‥無性に叫びたくなった。
「わ~! 」
とか
「あ~! 」
とかひとしきり大声で叫んで‥息が切れると、今度は何故か笑えてきて‥大声で笑った。大声で笑っていると、なぜか涙がぼろぼろ溢れてきて、笑いながら泣いた。
‥なんだ僕‥情緒不安定みたい。
はは‥
は~‥
笑い疲れてため息をつくと、今度はさっきのフタバちゃんの言葉が頭に浮かんできた。
‥誰かに任せる? 誰に? 信用できる人って誰さ‥。誰も彼も信用できないよ。裏切られるか‥それ以前に、取り合ってすらもらえないだろう。運よく話を聞いてもらえても、お役所同士かばい合って、結局、ちょこっと調査する「形」だけ取って、適当に小物だけ「トカゲのしっぽ切り」で処分して、「まあ‥こんなところで手を打ちましょうか」になるに違いない。
それでそれ以降「お互いなあなあでやっていきましょうね」ってなって、‥余計に手出しが出来なくなる。僕らにとっては、討つべき敵が増えるんだ。
魔法省自体ももっと警備を厳しくしてくるだろう。
そんなことになったら、今までの苦労はどうなるんだ??
フタバちゃんは‥所詮当事者じゃないし、貴族だし‥奴らに被害を被ってきたわけじゃないからそんな無責任なことを言えるんだ。‥諦めきれるんだ。
‥それをいうなら僕も当事者ではないな‥。でも、僕の愛するシークさんは奴らのせいで両親を殺された。シークさんの仇なら、恋人である僕の仇でもあるんじゃない? だから、僕は当事者だ。
‥でも‥シークさんはそのことで「奴らに復讐をしたい」とは思ってない‥。じゃあ、シークさんは当事者じゃない‥だから、恋人の僕も違う‥。
それでも
「シークさんは優しい。シークさんは怒れないかもしれないから、代わりに恋人の僕が! 」
って僕が危ない目に合うかもしれないことに首を突っ込んで‥それを「俺の為に! 嬉しいっ」って思うシークさんじゃない。そんなヤバい人じゃない。
「俺はそんなこと気にしてない。コリンには危ないことして欲しくない」
って思うだろう。
じゃあ僕は何のために頑張ってるんだろう‥。
親友のアンバーが敵にマークされてるから? 殺される前に敵の組織壊滅させてやれ? そもそも、アンバーを助けたのは僕だから僕にはアンバーを守る義務があるでしょう! ‥ってそれはあるかもだけど、それもアンバーが望んでるかな? アンバーなら「逃げ切れるなら逃げ切ってればいい」ってタイプだよね。
ええ?? じゃあなに。
僕だけ勝手に盛り上がって「悪者やっつけちゃうぞ~♡ 僕は正義の味方だぞ~♡ 」とか言ってたってこと??
ただの「言いがかり」野郎で、誰も望んでないのにええ格好しようとしてる、ヒーロー願望のあるヤバい奴ってこと?
で、キジ(フタバちゃん)とサル(ロナウ)をお供にして鬼退治目指してたのに、急にお供が「やっぱり無理だと思うんです。城の兵士に任せたらいいかな‥って。モモタローさんに言っても聞いてもらえないかな‥って思って、おじいさんたちに言ってもらいたいんです。キビダンゴ用意してもらったおばあさんには悪いんですけど‥」っておじいさんとおばあさんに(モモタローに事前の相談もなしに! )苦情を言って、おばあさんは「なんで急にそんなことをいうんだ! キビダンゴ貰ったのに恩は感じないのか!? 」って言わないどころか‥「分かってくれたか! あとはモモタローを説得しないとね! 」って‥。
ないわ~!!
そんなの‥ないわ~!!
僕‥色々可哀そ過ぎない??
馬鹿! 僕はいいカッコしたくてそんなことしようとしてるんじゃないぞ!! そもそも、しなくていいならやらない!! 僕だって怖いし、シークさんと穏やかに暮らしてる方がいいさ! でも、僕にしかできないでしょ?? じゃあ、やるべきじゃないの??
僕の愛する人やら、僕を愛してくれる人‥シークさんや、僕の家族、僕の幼馴染たち、ザッカさんナナフルさん‥魔法が使えない人。フタバちゃんやアンバー、シャルル、‥ロナウ。魔法の使える人。魔薬はどんな人にとっても害になる。
誰も危険な目にあわせたくないし‥
何より許せないのは‥
あ
そうか‥
僕は何より‥魔法が悪用されることが‥許せないんだ‥。
皆を守って、皆を幸せにするべき魔法を‥悪用する奴は‥
何人たりとも許せない‥。
僕はシークさんの事、もう好きじゃなくなったの?
‥なんて、思わない。
これは‥
僕が「冷静さを失ってるから」だ。
人の行動は、ホントにびっくりするほど気分に左右される。
いつもなら普通に当たり前にできていることだって、気分が落ち込んでいたり、イライラしていると(ホントにびっくりするほど)出来ない。
そうした時、
「なんでできないんだ! 」
って激昂すると、事態は更に悪くなる。
こういう時は、まず「あ、僕は今平常じゃないんだ」って自覚して、気持ちを落ち着けることが大事なんだ。
‥以前はこれで随分失敗してきた。
あれだ。
八つ当たりだとか、憂さ晴らしで魔獣に対峙しても、ウマく行かないって奴。
魔術の軌道はそれるし、そもそも、魔術を練り上げるって言うのかな‥そういうのが上手くいかない。
つまりね、僕は雷の攻撃魔法を使うんだけど、それを矢のように一本に集中させて、真っすぐ的である魔獣に当てるのには、結構な集中力と精神力が必要だってこと。
矢の形にできないまま魔術を使うと、当てにくいし、当たっても威力が少ない。丁度、小石を適当に当てる様な格好になっちゃう。C肉程度の魔獣だったら多少効率が悪い位でそう問題は無いけど、中型の魔獣だったら、一発で仕留めないと、興奮状態になって反撃されたらヤバいからね。死にはしなかったけど、大怪我をしてヤバかったことは十本の指でおさまらないほどある。
だから、僕は自分が今冷静かってことを常に確認しながら行動している。
普段の僕は短気だけど、ここぞってときはちゃんとしているんだ。それを分かってるから、僕は今生きて居られてるんだと思ってる。僕の身勝手な「線引き」で、他の皆に迷惑を掛けてるという自覚は一応ある。分かっていながら(周りに丸投げして)甘えてるって言う自覚も‥一応ある。
ありがたいなあ‥って思ってるし、‥それが凄く心地いいんだ。
日常生活はそんな風に線引きして、一応気をつけて暮らして‥至らない部分は自動攻撃機能(バリア)で補ってる。ずっと用心してるのも大変だし‥そうすることによってもっと大きな危険の予兆を見落としたりしたら大変だからね。
‥注意力が散漫だったり、冷静じゃないときってのは、これが怖いんだ。
だけど、案外自分が冷静じゃなくって本調子じゃないってときは、自分の状態を客観的に判断しにくい。「自分が今冷静じゃない」「本調子じゃない」って気付きにくい。
そんなときのバロメータになるのが、僕にとっては「ポーションの配合が上手いこといかない」とか「魔法陣を一つ書くのにやたら時間がかかる」とか‥「シークさんの表情が読めない」とかなんだ。
つまり
今この状態。
そうか‥僕はいつもより冷静さを欠いてるから、さっきまでアンバーが「黙ってニヤニヤしてる」んじゃなくて「縛られて気絶している」ってことにすら気づかなかったのか‥。
‥そうか‥。
じゃあ‥どうしよう?
僕は‥取り敢えず、大きく深ぁくため息をついてみた。
それでも気持ちは相変わらず晴れず、モヤモヤしたまま。
大声出したらすっきりする? って思ったけど‥急に大声出すとか‥ないわ~。寧ろもっとダメージ受けそう。自分が嫌。
もやもやもやもや‥
ずずずずず‥
「コリン!! 」
皆の僕を呼ぶ声が遠くで聞こえて‥
僕は‥深ぁい穴に落ちて行った。
落ちて行った‥っていうより、沈んで行ったって感じかな。
落とし穴に落とされたわけじゃない。建物の二階から、自分でセットしておいたふかふかのマットに背面から落ちてくって感じ。
背中から落ちた先は、‥ふかふかのマットじゃなくって、ただの地面。
ひんやりとした土の感触がして、僕は身体を起こして座った。
誰もいない穴の底にいるような感じ。
だけど、周りは広くって、閉塞感は感じない。
暑くも寒くもない。明るくもないが真っ暗で何も見えない訳でもない。
そこに一人座っていると‥驚くほど落ち着いていくのを感じた。
一人ぼっちで寂しい‥ではない。安心できる場所で、ようやく一人になれた‥って思った。
誰もいないって分かったら‥無性に叫びたくなった。
「わ~! 」
とか
「あ~! 」
とかひとしきり大声で叫んで‥息が切れると、今度は何故か笑えてきて‥大声で笑った。大声で笑っていると、なぜか涙がぼろぼろ溢れてきて、笑いながら泣いた。
‥なんだ僕‥情緒不安定みたい。
はは‥
は~‥
笑い疲れてため息をつくと、今度はさっきのフタバちゃんの言葉が頭に浮かんできた。
‥誰かに任せる? 誰に? 信用できる人って誰さ‥。誰も彼も信用できないよ。裏切られるか‥それ以前に、取り合ってすらもらえないだろう。運よく話を聞いてもらえても、お役所同士かばい合って、結局、ちょこっと調査する「形」だけ取って、適当に小物だけ「トカゲのしっぽ切り」で処分して、「まあ‥こんなところで手を打ちましょうか」になるに違いない。
それでそれ以降「お互いなあなあでやっていきましょうね」ってなって、‥余計に手出しが出来なくなる。僕らにとっては、討つべき敵が増えるんだ。
魔法省自体ももっと警備を厳しくしてくるだろう。
そんなことになったら、今までの苦労はどうなるんだ??
フタバちゃんは‥所詮当事者じゃないし、貴族だし‥奴らに被害を被ってきたわけじゃないからそんな無責任なことを言えるんだ。‥諦めきれるんだ。
‥それをいうなら僕も当事者ではないな‥。でも、僕の愛するシークさんは奴らのせいで両親を殺された。シークさんの仇なら、恋人である僕の仇でもあるんじゃない? だから、僕は当事者だ。
‥でも‥シークさんはそのことで「奴らに復讐をしたい」とは思ってない‥。じゃあ、シークさんは当事者じゃない‥だから、恋人の僕も違う‥。
それでも
「シークさんは優しい。シークさんは怒れないかもしれないから、代わりに恋人の僕が! 」
って僕が危ない目に合うかもしれないことに首を突っ込んで‥それを「俺の為に! 嬉しいっ」って思うシークさんじゃない。そんなヤバい人じゃない。
「俺はそんなこと気にしてない。コリンには危ないことして欲しくない」
って思うだろう。
じゃあ僕は何のために頑張ってるんだろう‥。
親友のアンバーが敵にマークされてるから? 殺される前に敵の組織壊滅させてやれ? そもそも、アンバーを助けたのは僕だから僕にはアンバーを守る義務があるでしょう! ‥ってそれはあるかもだけど、それもアンバーが望んでるかな? アンバーなら「逃げ切れるなら逃げ切ってればいい」ってタイプだよね。
ええ?? じゃあなに。
僕だけ勝手に盛り上がって「悪者やっつけちゃうぞ~♡ 僕は正義の味方だぞ~♡ 」とか言ってたってこと??
ただの「言いがかり」野郎で、誰も望んでないのにええ格好しようとしてる、ヒーロー願望のあるヤバい奴ってこと?
で、キジ(フタバちゃん)とサル(ロナウ)をお供にして鬼退治目指してたのに、急にお供が「やっぱり無理だと思うんです。城の兵士に任せたらいいかな‥って。モモタローさんに言っても聞いてもらえないかな‥って思って、おじいさんたちに言ってもらいたいんです。キビダンゴ用意してもらったおばあさんには悪いんですけど‥」っておじいさんとおばあさんに(モモタローに事前の相談もなしに! )苦情を言って、おばあさんは「なんで急にそんなことをいうんだ! キビダンゴ貰ったのに恩は感じないのか!? 」って言わないどころか‥「分かってくれたか! あとはモモタローを説得しないとね! 」って‥。
ないわ~!!
そんなの‥ないわ~!!
僕‥色々可哀そ過ぎない??
馬鹿! 僕はいいカッコしたくてそんなことしようとしてるんじゃないぞ!! そもそも、しなくていいならやらない!! 僕だって怖いし、シークさんと穏やかに暮らしてる方がいいさ! でも、僕にしかできないでしょ?? じゃあ、やるべきじゃないの??
僕の愛する人やら、僕を愛してくれる人‥シークさんや、僕の家族、僕の幼馴染たち、ザッカさんナナフルさん‥魔法が使えない人。フタバちゃんやアンバー、シャルル、‥ロナウ。魔法の使える人。魔薬はどんな人にとっても害になる。
誰も危険な目にあわせたくないし‥
何より許せないのは‥
あ
そうか‥
僕は何より‥魔法が悪用されることが‥許せないんだ‥。
皆を守って、皆を幸せにするべき魔法を‥悪用する奴は‥
何人たりとも許せない‥。
応援ありがとうございます!
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