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266.show must go on ③(side ロナウ)

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 光に包まれた美しいイルミネーション。
 コリンとフタバちゃんが一生懸命魔法で出した。そして、これを維持する為に今も魔力を流している。
 魔力自体は僕らのモノじゃないけど‥そんなこと問題じゃない。
 これは難しい魔術で‥僕には恥ずかしながら出来そうにない。
 ‥これはいわばあの二人の今まで頑張ってきた努力が結晶になったものなのだ。
 皆が「凄い‥」って見惚れてる。
 だけど、これはいわば「おまけ」で「カムフラージュ」でしかない。
 本当にしたいことは、切り取った空間の中で行われている。
 これは‥見せかけの美しさだ。
 ハクチョウは水面の下で一所懸命もがいてるって聞いたことある‥ってそんな「そうらしい」っていう例え話を出さなくても、「そんなこと」は日常に溢れている。
 僕らの生活は沢山のひとたちに支えられている。
 道路を作ってくれた人、ご飯を売ってくれる人、その材料を育ててくれている人‥。
 直接僕らの為に‥ではない。
 僕の事知ってる人たちばかりではない。
 自分たちの仕事だからやってるんだけど、だけどその結果皆が助かっている。
 「便利」も「美味しい! 」も、そんな人たちの努力の元にある。

 世の中そんなことばかりだ。

 だけど、別に努力の過程を全部「知って欲しい」「感謝して然るべきだ」ってみんながみんな思ってるわけでは無いって思う。
「結果だけ見てもらえれば」
 ってことはいっぱいある。
 過去にいっぱい苦労して、だけど今は成功している人がいるとして、その人が「私の昔の苦労も知らない癖に」って思ってるか‥って言うと‥そうじゃないって思う。
 知られたくないことだっていっぱいあるだろう。それは、当たり前のことだって思う。
 隠したいことだって‥。
 魔薬に手を出してしまったってことだって‥そう。
 過去にコリンと「解呪」してきた子たちは皆家族に隠していた。
 魔薬を使用するに至った経緯には、色んな事情はあると思う。
 だけど‥全員後悔してるって思ってる。
 だから、彼らの「これから」の為に、そうっとしておいてあげたいなって思うんだ。
 これ(カムフラージュのイルミネーション)は‥いわば、彼らに対してのエールにもなるかな? (‥苦しくてそれどころじゃないかもしれないけど)

 契約解除後の対象者の状態。
 使用頻度が高ければ相当苦しいだろう。
 ‥となると、傍から見てもわかるほど苦しむだろうって容易に想像がつく。
 この「魔術ショー」の構成を考える際、これが一番の問題点となった。
 だって、一斉契約解除が成功したところで、対象者が全員もがき苦しんだり気絶してたら‥「なにやったんだ!? 」ってなるよね? そりゃ、事実を言えば納得してもらえるだろうけど、そのことを言うわけにはいかないから。
 契約解除した後、短時間で空間の中の被害者たちを「何ともなってないよ」って状態に「取り敢えず」しなければいけない。
「いや~何をするのかと思ったら、いい魔術ショーだったよ」
 って言ってもらえるような状態に「表面上は」しなくてはならない。
 別に「ホントに完治」って状態にしなくてもいい。兎に角その場だけでも‥だ。
 その場だけ無事に見えたらそれでいい。
 その後のケアは「内密に」「個々で」対応していかないといけない。それが配慮ってもんだ。
「その場だけでいい‥と言ってもねえ‥」
 コリンとフタバちゃんが難しい表情で首を捻っている。
 だって、違法魔法陣とはいえ、契約の一方的な解除だ。
 痛みを伴わないわけがない。
 本来なら、一方的に契約を解除したコリンもその痛みを伴うのが普通なんだけど、
 コリン曰く、
「魔薬の売人を甲、契約者を乙とした契約を結ぶんだけど、あの手の契約はね甲にとって有利な条件がこっそり組み込まれているんだ。
 甲に不利益が生じそうになった時、甲が一方的に契約を破棄することが出来る‥とかね。
 例えば‥乙が「これって違法だろ? ばらされたくなかったらタダにしろ」とか言った場合、甲は乙に対して一方的に契約を解除する。その時の契約無断解除のペナルティーを乙だけが食らう‥ってわけだね。違法な契約を結ぶ場合、乙に脅されたり、代金を踏み倒されたり‥と甲にもリスクが伴うからね。
 この魔薬もそんな感じの契約だったようだね。
 僕が甲に成りすまして一方的に契約を解除しても、僕はダメージを食らっていない」
 らしい。
 悪の組織はいい頭と人脈を最大限に使って、社会にとって悪いことばかりしてるんだ。
 なんか腹が立つよね。

 過去の「解呪」の際、乙‥契約者は契約解除後、皆気絶していた。
 だけど、コリンによると
「これでも、ましな方だよ。普通だったら、痛みが一気に来るから気絶位じゃすまない。ショック死する人だっている位だ。
 痛みを「遅らせる」スローモーション的な闇魔法で傷みが一気に来るのを避けたんだ」
 って言ってた。
 因みにこのスローモーション的な闇魔法はやっぱり拷問の為の魔術で「ずっと同じ痛さが続くんだ。それって一瞬だけ痛いより拷問に向いてるだろ? 」らしい。
 闇魔法は「巻き戻し」→ 再生
 「遅らせる」 → スローモーション
 はあるけど、怪我が治った状態に「早送り」することは出来ない。
 因みに再生は‥傷を治すのを目的にしたものではなく、「傷が出来るに至ったを巻き戻す」のが目的な‥性格の悪い魔術らしく、これも主に拷問に使用されるらしい。(膨大な生贄を使用すれば、身体の欠損修復や、生命復元さえも可能‥らしいがきっと今まで成功例はないだろう。‥あってたまるか)
「う~ん。僕は再生は使えないし‥今回の場合、巻き戻しちゃ、ダメだからね~」

 治療は「なだらかな早送り」って呼ばれてる。
 なぜ「なだらか」かって言うと‥急に状態を変化させたら身体に悪影響を与えかねないし‥何より、かなり痛いじゃない。そんな苦痛を「聖女」「神官」って呼ばれる人間が与えちゃ‥問題でしょ。
 聖女たちは優しくって責任感が強い真面目な人間ばかりだから‥それこそ、罪悪感で治療をやめちゃうよ。(外科医的な青い医療紋持ちは患者の痛みにそこまで敏感じゃない「はいは~い。大丈夫大丈夫。我慢してね~。もうすぐ終わるからね~」って言いながら、ジャンジャンメスを振るう。
 麻酔とかそんなに発展してないから、そこは赤の医療紋持ちが「痛みを和らげる」的な力を隣で使いながら‥ってことになるんだけど‥。この赤の医療紋持ちの力量が手術の出来を左右するっていうのは‥まあ‥想像に難くない。
「動くな! 寝てろ! (一発殴って物理的に)寝かせてやろうか!? 」
 なんて罵声は通常運転だ。
「聖女に魔法陣作成を依頼してもいいんだけど‥そんな依頼をしたら絶対協会が不審に思うだろ? この段階でバレたくはないんだよね~」
 コリンが言うと、フタバちゃんも頷いた。
 こりゃ解決策なんてないや~って僕ら全員が絶望的になってた時に、
「取り敢えず、「大イリュージョンです」とか言って‥どこかに皆を転送する‥とかできたらいいのにな」
 って‥
 シークさんが言ったんだ。
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