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281.今だけは‥

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「‥シークさん。シークさん‥! 」
 コリンは椅子から転げ落ちるように立ち上がり、シークの胸に飛び込んだ。
「ダメだって分かってるのに‥っ! シークさん‥! どうしようもなくシークさんが好きなんです! だけど、それじゃ‥ダメなんです! シークさんの‥」
 頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉が上手く出ない。
 
 三年間会わない間に、シークが心変わりするのが不安? 
 ‥それはない。
 心変わりしたシークに失望するのが不安? 
 ‥シークさんは心変わりなんてしない‥! 
 じゃあ、自分が心変わりするときの保険? 
 ‥僕は三年間、心変わりしようにもできない空間に閉じ込められるんだ。そんなことあるわけないだろ。
 三年間「シークさんが心変わりしたらどうしよう‥」って不安に思ったり「もし、心変わりされたら‥憎いな」って思ってしまうのが不安?
 ‥ああ僕はそういうところあるよね。

 ‥実のところ、どうしようもなく、ただ不安で怖いんだ。
 シークさんのことがほんの少しでも信じきれない自分‥とか、三年間、シークさんが寂しいだけの時間を過ごしたらどうしよう‥とか。
 言葉に出来ない不安でこころの中がいっぱいなんだ。

「シークさん‥。怖いんです。僕、不安で‥僕自身の気持ちやら、シークさんの将来やら‥何もかも不安で‥どうしたらいいかわからなくって‥
 怖くて仕方がないんです! 」
 シークは、泣きじゃくるコリンを抱きしめて背中をさする。
 暖かい‥安心するシークの胸の中‥
 ずっとここにいられたらって思う。

「わかった。
 三年間、俺は、俺なりに一生懸命生きていく。
 新しい恋も‥機会があればする。コリンのことを理由に‥言い訳に‥始めっから、逃げたりしない。
 まっさらな気持ちで自分の人生に向き合っていく。
 コリンは心配しないで、自分のことだけ考えて一生懸命過ごしていって欲しい。
 俺は大丈夫だ」
 でも、‥今はまだ‥
 コリンは俺の恋人でしょ? 
 小さく耳元でささやかれ、コリンは夢中で頷き、シークにもっと強く抱き着いた。
「シークさん‥。シークさん‥! 」
 何度も名前を呼んで
 潤んだ瞳でシークを見上げる。

「‥今だけは‥僕だけのシークさんでいてください‥っ! 」

 こんなお願い‥シークさんのこれからの人生に重荷にしかならないって分かってるのに‥
 僕は‥

 僕はお願いせずにいられなかったんだ。
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