この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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292.隠密スキルと平凡を装うは、全然違う。

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「‥なるほどなあ。自分が自分のことを勝手に決めつけてた‥かあ。
 そういうのはあるかもなあ‥」
 ため息をついたアン先輩にコリンは
 でも‥
 って思った。
 でも、それってアン先輩に責任を擦り付けてるだけじゃないか? そういうの‥痴漢に遭った被害者に「君にも非があったんじゃない? 」っていうのと同じじゃないか? 
 ない! 痴漢をする奴が絶対的に悪い! 
 そんなことを思って、腹が立った。
 態度で牽制して‥とかそういうのが出来る人と、出来ない人がいるし、「そういう乗り切り方」が出来る場合と出来ない場合がある。
「僕が言ったのは、この三人のことですからね! この三人にだけ当てはまるパターンです。僕が言いたかったのはそういう生き方しろって話じゃなくて、僕が知ってる信じられない位の美人たちは皆たくましく強かったって話! 皆が皆この生き方が当てはまるって話じゃないですからね! 」
 コリンは力強くアン先輩に言った。
 それに‥
「平凡なら目立たない‥目立たない方がこの仕事は都合がいい‥。
 空気の様に移動する隠密スキルは、誰にも気づかれないスキルですよね。‥でも、仕事をする以上誰にも気づかれないじゃ、ダメだって思うんです。一人の人間として‥向き合わないといけないって思うんです。
 先入観を持たれたくない、‥そんなのだけど、多かれ少なかれ仕方がないことなのかなって‥。
 平凡であれば、「その他大勢」に擬態出来て、目立たない‥ホントにそういうことは出来るんでしょうか? 
 しかも、その平凡ってホントに、多数決で決まるんでしょうか? 」
 ポツリ呟く。
「多い方が強いっていうんだったら、この前の魔術士協会と同じじゃないですか。
 そう言う‥大勢いる中のメディアンって意味じゃないんだと思うんです。
 その他大勢と同じようで特徴がないから「気にならない」。
 だけど‥仕事相手に対する「気にならない」ってそういう意味じゃない気がします。
 仕事相手としての「気にならない」っていうのは、「気にする必要がない」もしくは「気にしない様にする」‥なんじゃないですかね‥」
 アン先輩がはっとして、コリンを見上げる。
 アン先輩はコリンよりずっと身長が小さいから。
 コリンは頷いて、椅子を二つ持ってきて、二人で向き合って座る。
 やっぱり話をするには、落ち着いて座った方がいいでしょ、って思ったから。
 ホントは飲み物でもあったらいいんだけど、話してるのに用意するわけにもいかないしね。
 アン先輩は、視線でコリンに話の続きを促した。
「誰かと仕事をする際「どんな人かな」って、気にならないわけがないです。
 そのときは、どんな些細な特徴でも見落とさない様にって観察します。
 特徴がない人ほど‥仕事相手‥特に僕らが相手をする様な「仕事相手」‥例えば情報屋だったり犯罪者だったりっていう‥普通とは違う人種はきっと注意深く僕らを観察するって思います。
 なんでこの人は自分を偽ってるんだろう? 何か理由があるのか? 
 ‥そういう風に考えるでしょう。
 その地点で、相手は余計に詮索するって思うんです。
 ‥すれ違うだけの、接点も何もない人ならともかく‥仕事相手には、相手の視線を意識して自分を偽るってことはするべきではないって思います。
 ‥生意気言ってスミマセン。
 でも、この三ヶ月間、先輩のことを僕よりずっと知っている情報屋の皆さんに関わって来て‥そんな風に思いました」
 真っすぐとアン先輩を見つめて、コリンが言った。
「‥情報屋が何か言った? 」
 アン先輩が心配そうな視線をコリンに向ける。
 コリンが首を振り
「ただ‥よく見てるんだなって思っただけです」
 とだけ言って、一度言葉を切り、微かに微笑むと
「職業柄、本当の自分を出すのは難しいんだろうけど‥俺にはもう少しこころを許してくれてもいいんじゃねえかなあ‥って思う。
 ってサンテスさんは言ってました」
 と、言葉を繋げた。
「サンテスが‥」
 アン先輩が眉を寄せる。
 因みにサンテスさんってのは、先輩御用達の情報屋さんの一人。
 情報屋さんって感じがしない、ゴリマッチョな中年男性(推定50歳のちょい悪イケオジ)です。刈り上げたごく短い金茶の髪にちょっと白髪が混じってる「いかつい軍人(元幹部)」ってイメージです。
「‥あと、「そういう風に対応するのも面倒くさいから」とも言ってた」
 ‥先輩バレてるじゃんって思ったもん。
 ってコリンは苦笑いだ。
「‥そう‥だよなあ。‥なんかオレ馬鹿みたい」
 真っ赤な顔して照れまくるアン先輩は‥ただの可愛い女の子って感じがした。
 年上なんだけど、先輩なんだけど、可愛い。
 そう言うのある。
 何ならザッカさんとか「頼れる大人の男」だって時々、可愛いって思うことあった。
 自分にこころを許して‥無防備な姿を不意に見ちゃうと、「可愛い! 」って思う。
 それは普段とのギャップがある程、そういう傾向にある。
 それで言うと、何時も通常運転で自由気まま我が儘放題の僕に‥ギャップなんてないんだろう。
 シークさんが僕に対して「ギャップ萌え! 」って思ったことなんて‥きっとないんだろう。
 といって‥そういうのってやろうって思って出来るもんでもない。

 駆け引きとか出来ない「大人じゃない」自分が‥憎らしい。
 人の印象って‥意識しても、他人には操作出来ない。
 そう思ってもらおうって努力することはできる。だけど‥その努力が実るかどうかは分からない。
 その人が自分のことをそれ程気をつけて見てくれてるかって話だからね。
 ‥自分が努力するだけではどうしょうもないことなんだって思う。

「アン先輩は優秀な誓約士です。それは、皆知ってます。知ってるからアン先輩と‥皆は仕事してるんです。
 サンテスさんとして、
 ジャイルさんとして、
 アン先輩と仕事してるんです。
 ジャイルさんとか‥多分きっとアン先輩よりアン先輩の事知ってると思いますよ。
 職業柄調べたんでしょうけど‥「知れば知るほど味が出る‥」って言ってました。あれですよ、あの人のアン先輩に対する情報収集熱、ちょっとヤバいくらいですよ。(小声で)‥気をつけた方がいいですよ‥」
 もう、アン先輩の全てがハマるって感じなのかな? そういう風に見えた。(因みにジャイルさんも情報屋)
 ジャイルさんは、「笑顔がテンプレ」って感じの、読めない兄さん。
 細身なんだけど、頼りないって感じは全然ない。寧ろ、隙がない‥ただ者じゃないって感じ。
 目は開いてるのか分からない位細い。
 口元も目元も常に微笑をキープしてるんだけど、絶対後ろにも目があるよね‥って感じ。360度全部見えてるよ~ってイメージ。ちょっとでも異常があれば‥何なら超高速で‥誰にも気づかれずに始末してそう。(サンテスさんはコッソリ始末するタイプじゃない)
 サラサラの銀髪と整った容姿は‥だけど、絶対堅気じゃないよね~ってオーラが凄い。
 目が開いてるのはそれまで見たことなかったけど、この前「アン先輩がサンテスさんと(サンテスさんとジャイルさんはお互い知り合い)」って世間話をした瞬間、ギンって感じで開いて‥ぎゃあ! って思わず叫んじゃった。
 ‥ホント驚いて。
 その時、チラッと見えたジャイルさんの目の色は、髪の色より若干暗く‥だけど、淡いダークグレーの珍しい色だった。あれだ、スズとか鉛色って感じ? 
 そんな‥絶対普通じゃないジャイルさんの、アン先輩に向ける恋情にも似た‥興味、執着。
 もう‥気をつけてくださいねとしか言えないでしょう。
「え‥」
 ってアン先輩‥ちょっと引いちゃってる。
「‥オレよりオレのこと知ってる‥ってことはないだろう‥? 」
 なくないですよ、ホント注意した方がいいです。
 コリンが小さく首をふって否定すると「注意するって何をだよ」ってアン先輩が笑う。
 いや、普通に貞操を‥的な? 
「貞操ってww オレにかぎってそんな話はないない。‥何だろう、全然恋バナ感ゼロ‥。それはオレがこんな容姿だからかな? 」
 ははってアン先輩がいつもの朗らかな笑顔で否定した。
「‥容姿関係ないでしょ。恋バナ感ゼロなのは相手がジャイルさんだからだと思いますよ」
 恋バナに無縁なのは、アン先輩っていうより、寧ろジャイルさん。
 その気になったら、アン先輩監禁したりしそう。「おはようからおやすみまで、君の事見てたい♡」って言って。
 それも‥恋っていうより、実験観察対象として‥。
「だけど、オレの全てが知りたいとかって‥なんか、情熱的で‥ちょっとドキドキするな」 
 ちょっと頬を染めたアン先輩(先ほどに続き、レアな表情! 可愛いです! )。
 いや、でもね。全然ドキドキしません。ゾクゾクの間違いです‥っ。
 ちょっとドン引きしたコリンは、だけど苦笑いして胡麻化した。
 そして、ホントにポツリ

「ありのままの自分を認めてくれる人って‥だけど、例えば恋愛相手としては嫌ですよね。
 何でも好きって、逆に何にも見てないと同意ですよねえ」

 って呟いた。
 アン先輩がコリンを振り向く。
 コリンは微かに自嘲気味に微笑むと

「昔の僕がそうでした」

 昔の罪を懺悔するように言った。

 かっての自分のシークさんに対する想い。
 シークさんの事ろくに知らない癖に「全部好き」って言ってた。
 でも、シークさんの僕に対する想いが受け止められなかったり、シークさんの全部を受け入れることが出来なくて、シークさんを傷つけたりした。

 自分に自信がなかったからも、ある。
 だけど、一番は僕が恋愛に対して全然積極的じゃなかったから。
 ‥全然分かってなかったから。
 だから‥自分では好き好きって行けるけど、相手から来られたら‥怖くなって逃げちゃった。
 だけど‥あの時、シークさんの家で初めて結ばれた時、‥あの時、僕は「こころから」シークさんの事好きだった。
 頭でっかちがホントに恋に馬鹿になったって感じだった。

「恋はどちらか一方が盛り上がってするもんじゃないんでしょうね。知らないことは相手に直接聞いて‥一つづつ知っていけばいい‥。そうしなければいけない。
 そういう‥こころの交流が「お付き合い」ってことなのかもしれませんねえ。
 それは恋だけじゃなくって‥日常生活すべてに言えるんでしょうね。
 一切の情報公開お断りや、黙って情報収集する‥そういう関係って‥ちょっと不健全な関係かなって」

 ホント、人間関係って難しい。
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