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閑話 その頃の‥(シークさん)

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「先輩、好きなんです! 」
 冒険者に戻って(というか、仕事を再開して、だな)特に指導するってわけでもないんだけど、危ないことしてるな‥って後輩にアドバイスしたり、助けたりすることもあって、後輩から告白されることが増えた。
 女の子の場合もあるし、男の子の場合もある。
 コリンみたいなきらきらしくって「なに?! 美人局?! 」みたいなのじゃなくって、ホント素朴な普通の田舎の子どもたちって感じの子たち。
 ‥大丈夫? 君たち未成年じゃない?! (18歳が成人、彼らは16歳(推定)位)
 って思うし、‥正直保護者的な目でしか見られない。
 彼らはきっと、社会に出て厳しさを知って、その中で受けた「ちょっとした親切」を恋心だと勘違いしてるんだろう。憧れや尊敬も‥か。
 仲間たちは
「いや、オジ専って奴かもよ? 大人と付き合うの憧れちゃう~って感じ。可愛いじゃないか。で、付き合ってみたら「全然話し合わない~親父臭い~面白くない~」ってすぐ気付くの。そしたら「さよなら! 」だ。若い子は案外逞しいよ? そんなに深く考えることないって。
 それにさ、そうやって失敗したり「違うな」を繰り返し、彼らも大人になってくんじゃない? 
 俺たちオッサンはそういう一時的な‥通過点でしかないが、若者と付き合えるっていうメリットがある。若者は成長する‥ウインウインだよ」
 って言ったけど‥。

 それってどう。

 俺は、もし自分の息子や娘が年が10程も違うおっさんと付き合ってたら嫌だぞ。絶対に「それも彼らの成長の一端だ」「社会勉強だ」とは思わんぞ。少なくとも、俺は。
 俺は、若者は、同年代と付き合って「同じように悩み、同じ様に喜び」共に成長した方がいいって思う。
 俺が彼らの親と同世代とまでではない。だけど、それに近い。やっぱり年上と付き合うってなったら‥特にギルドランクが上の先輩と付き合うってなったら、どこか頼ってしまうわけじゃない。‥そういうのは、これから先も彼らが冒険者を続ける上ではよくないって思うんだ。(俺はね)
 だから、
「‥分からないことや、困ったことがあったら出来る限り力になるが、俺は君とは個人的に付き合うことは出来ない」
 って断ることにしている。
 ‥あと、やっぱり10程も違う子供は恋愛対象として見られない。
 罪悪感を感じるって言うか‥なんか‥嫌だ。(やっぱり親目線ってやつなのかな?? )
 コリンも年下だったけど、彼らはコリンより更に若いんだもんなあ。
 可愛いと、幼いは違うと思う。

「シークは真面目だな~。だけど、まさかシークから恋愛相談受ける日が来るとは‥思ってもいなかった」
 仲間たちが笑って酒を驕ってくれた。
「ギルドランクではSランクだけど、恋愛はまだまだ‥Fランクだな! 」
 って楽しそうだ。
 以前は‥
 コリンと会うまでは、こんなに人とつるむことすらなかった。
 恋愛どころじゃない。ギルドで人と会っても、顔を知っていれば会釈位はするけど‥って感じだった。
 別に人が嫌いってわけでは無く、‥付き合い方が分からなかったんだ。
 コリンと話したり、コリンの家族に会ったり(! )ロナウやフタバっていう、今まで話したこともなかった人種と話したり‥ザッカさんたちと一緒に居たってことで人との付き合い方を学んだって(っていうか、慣れた)感じかな。
「どんなタイプが好きなの? 紹介するよ。俺さ、シークってもっと話しにくいタイプだって思ってた」
 って言ったのはミック。
 魔術士だ。
 ランクはA。
「結婚は考えたことない。子供も欲しくないし、そもそも‥なんで結婚するのか分からない。一人の方が楽じゃない? 」
 が彼のモットーなようだ。
 シークと同年代(ミックの方がシークよりちょっと年上)。ちょっとたれ目がセクシーな「ちょい悪オジサン」でいつ見ても別な女の人を連れてる(彼はセクシー系、清楚系とタイプにこだわりはないが、「大人の女」が好きらしい)。オジサンって自分では言ってるけど、まだ28歳。実力もある「働き盛り」。ギルドでは中堅って年頃だ。
 元々は貴族だったらしい彼は、アカデミーで魔法を学んだエリートなんだけど「貴族はあわない」と冒険者になったらしい。聞くところによると後継者の問題で色々あったらしいが、彼が言いたがらないのに聞き出す必要なんてここの誰にもない。
 いろんな事情があるのは、生きている以上「当たり前」のことなんだ。
 属性は土と風。どちらも攻撃に使用できる戦闘型のエリート。
 アカデミーで学んだだけあって、魔術の腕はギルド1だ。(実はコリンもギルドに入籍してるからホントのギルド1の実力はコリンなんだけどね)
「誰かと一緒に暮らすってのもいいもんだぜ? 「こいつの為に頑張ろう」とか思うし「帰ったら待ってる人がいる」って感覚‥特に俺らみたいな仕事してたら大事だと思う。ピンチに陥った時、「別に‥もういっか」って思っちゃったりするもんな。自分一人だと」
 既婚者の魔術士ラルフがしみじみと言った。彼は最近一児の父になったらしい。
「こないだ産まれたと思ったら、もう歩いてるんだもんな~。子供って不思議なもんだよ。でも、可愛いんだこれが! 仔犬みたいなんだ~」
 ってデレデレ。
 属性は風と火。
 攻撃に使うのは風で、火は「生活に便利な程度(ラルフ談)」らしい。
「犬の子どもだから、仔犬に間違いないな! 」
 どこからか声が飛んで、周りの皆がどっと笑う。
「誰が犬だ! 」
 声がする方を向いて、ラルフが苦笑いする。
 ミックと同じくランクAなんだけど、(ミックとは違い)フランクで親しみやすい。
 明るく優しいムードメーカーな彼は、駆け出しの冒険者の臨時のパーティーに「指南役」として引っ張りだこだ。(ミックは主に女にモテ、ラルフは人にモテてる)
 愛すべき弄られキャラ。フワフワのこげ茶の短髪と紫がかった大きな紺色の瞳がチャーミングな27歳。
「それはラルフの考え方だろ。俺は一人でも別に命を粗末になんてしない」
 ミックが呆れた顔をする。
「シークは結婚を考えてないのか? 俺たち魔術士と違って剣士はやっぱり年齢がいったらキツイだろ? そしたらやっぱり転職も考えないといけないよな。‥そういうこと考えて躊躇してるとか? 」
 ラルフが(ミックを無視して)シークを振り返り、ちょっと心配するような視線を送る。
「シーク程の腕だったら、剣術の先生だとか転職先はいくらでもあるんじゃないか? Sランクだし、実績もある。それこそギルドの幹部にだってなれるだろう。それより俺たちの方が心配だぞ。魔術士だからって‥魔術だっていつまでも使えるわけじゃない」
 ミックが呆れ顔でラルフを見る。
 ミックの呆れ顔は‥だけど、テンプレだ。
 それに、呆れたような顔ってだけで、別にホントに呆れてるってわけでもないし、まして人を馬鹿にしているってことでは絶対にない。そういう顔して、実は心配してたりするんだけど、それを素直に口にしたくないんだ。‥要は照れ屋だし‥ひねくれてるんだね。
 ラルフもそれを分かってるから、かれこれ10年以上の付き合いとなっている。
 冒険者としての経験が同じぐらい‥まあ、最年長組だな‥のシークは、彼らとは今まで話したことはなかったが顔見知りだった。(例の挨拶する程度の顔見知り)
 ザッカたちと過ごし、他人と会話することに慣れたシークは、彼自身が感じる以上に「話しかけやすい雰囲気」になっていたらしい。ミックとラルフが
「よ、久し振りじゃないか。この頃見ないから心配してたぜ」
 って話し掛け‥今に至る。
 ‥今こうして親しくしているのは、勿論あのとき二人が話しかけてくれたからなんだけど、以前の自分だったら「ああ」とだけ返事して‥それっきりになってただろうな。今みたいな関係になることなんて絶対なかっただろう。
 ってシークは思った。
 親しくなったって言っても、当たり前のことだけどミックとラルフ程の親密さはないんだけどね。
 そうして、少しずつではあるけど、ギルド内で人と話すことも増え、今までは遠巻きにしてきたり、(Sランクだから)やっかんだり僻んだり‥誤解してた人間も、シークに話しかけてくるようになった。
 時には、
「‥誤解してた、悪かった」
 って謝られ、情報を回してくれたりする者もいたり。
 そんな時シークは
 ‥コミュニケーションって、思った以上重大な意味があるんだな。
 って思ったり。
 そうなると、元々面倒見がよく、優しいシークは仏頂面だし口数が少ないのは相変わらずなのに、やたら男に「モテた」。勿論「好きだ~! 付き合ってくれ~」って意味ではない。「弟子にしてくれ! 」って奴だ。でも、後輩たちにとってのシークは‥
 強くって、優秀、ミステリアスで渋くてカッコイイ、‥素敵な先輩
 って風に映ったらしい。
 更に優しいし‥料理上手って‥どんだけ? スパダリじゃね? 顔は確かにラルフ先輩の方がカッコいいけど‥ラルフ先輩はちょっと軽そうだし‥。それに比べてシーク先輩は真面目だし‥。Sランクだから将来安定だし‥。
 って彼らの中でどんどん憧れが恋心に変換されて行って‥冒頭みたいに‥やたら後輩に告られるようになったってわけ。
 だけど、シークは今のところ誰にもこころ惹かれたりしていない。
 
 俺は‥やっぱり‥
 まだコリンのことが好きなんだ‥。
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