リバーシ!

文月

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二章 別に生活に支障を感じなかった特異なリバーシ

11. ヒジリに対する王子の思惑と、ナツミの思惑。

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 変哲もない草顔に一目惚れして‥眠りから覚めるまで見守ってきた王子様。
 え、なにそれ。キモイ。
 だけど、実際に会ってきた王子様‥ラルシュは、イケメンでいい奴っぽかった。これで結構人を見る目がある俺が見ても‥裏表ありそうなタイプには見えなかったし、ちょっとしゃべった感じだけど、アドリブきかないような馬鹿って感じじゃなかった。
 デブでも、なよなよ~なモヤシ体型でもなかった。筋肉とか、そんなによく見てないけど、健康そうな体格って感じ。
 どう考えてもモテそう。

 ‥俺みたいな不良物件が婚約者‥よく国‥ってか王様が許したな。
 実はすっごい問題があるのかな。
 ‥どんな問題だ‥怖い。
 実は人間じゃないとか、どうしても結婚できない理由があって、それで「どうせ目覚めないだろう」って前提で俺と婚約したとか‥。
 ‥ひぃい‥どんな理由だ‥。
「‥‥‥」
 (勝手な想像で)完全に固まる俺に気にする様子もなく、母さんは、うっとりとした顔のまま説明を続けた。
「眠るヒジリに、国宝である魔道具‥「持ち主の成長によって服も成長する服」を着用させて下さったのも、王子様だわ」
 ‥なにその、ダサい魔道具。
 ってか、そういうのもあるのか。
 魔法、何でもありだな。
 ってか。
 ‥キショい上にダサい。
 ‥王子だから、褒めなきゃダメ的な感じなんですか? 不敬罪とか怖いですもんね? でも、ここだけの話だから、大丈夫だと思いますよ。
 ‥寝てる女に一目惚れとかキショい! とか、言っても誰も聞いてませんよ。(あ、眠る前に会ってたんでしたっけ? ‥俺は知らないんですけど)

 で、その時に草顔の子供に一目惚れ。
 絶対噓やん。なんかほかにある。何か理由がある。何かわかんないけど、絶対何かある。
 いや、‥でもその「何か」があったおかげで俺は生かされてたってことか‥。「何か」がなかったら、俺はあの時(何があったかはわからないんだけど、何かはあったんだろう)死んでたんだ‥。
 ‥じゃあ、まあ、いいか‥。
 ‥いいかな‥命を助けてもらってなんだけど‥それとこれ(結婚)は別っていうか‥。

 ねえ? ‥俺の意志ってのもあるわけじゃない?

「そして眠っている間に、栄養その他が不足しないように最高位の医療魔法を施してくださったわ。そして、「もしこの方が目覚めたら、この方を私のお嫁さんにください」って」
 母さんが、「素敵だったわ~! 」って乙女の顔になってる。

 ひいぃ!

 俺は、全身の毛が逆立った気がした。
 ‥それは、‥ない。
 絶対に、ない。
「まさか、承諾してないだろうね!? 」
 声が思わず裏返る。
 涙目(← 無意識)で母さんを見たら。
 母さんは首を傾げていた。
「え? 嫌なの? 何か嫌な要素あった? あなたもさっき言ったじゃない「イケメン」って。
 あなたに良くしてくださって、そして、イケメン。
 あなたは、リバーシで国の為に働ける膨大な魔力を持つ。リバーシはあなたも知っての通り、全員城で働く‥普通に民間で暮らしていけないの。だから、いくら好きあっていても、民間人と結婚できることは‥そうない。
 リバーシの力を悪用する悪い人たちに狙われるかもしれない。でも、‥民間人にはリバーシを守り、悪人を倒す‥そんな力はない。
 だけど王子様ならその点も安心だし! 」
 俺は、膝から崩れ落ちた。目の前は真っ暗だ。
 え? だからって‥。
 お母さん、考え直して。
 俺の意思とかまる無視反対!!

 児嶋 聖
 男だと信じて育ってきて20年(男だと信じさせられて育って10年が正しい)、男の婚約者がいることが分かりました‥。そして、そいつはイケメンで王子で、しかも、眠る女に一目惚れするやばい奴です‥!

 ってか、‥さっきなんか変なことが聞こえた‥?
「城から出られない? 」
 俺が母さんを見ると、母さんは、困ったように眉を寄せた。
「さっきも言ったけど、防衛上の問題でね。
 ミチル君だって、城から出たりしないわ。出るときには、城が信用した護衛が同行するのが義務だわ。それは、身辺警護というより、誰かと密会しないだめにね。‥魔力が強いリバーシに、そう敵う者なんていないもの。‥そうやって、常に、監視がついて、自由がない生活をするの」

 ‥。ミチル‥なんで「あっち」に行くんだ?
 疑われて、‥利用しようと狙われて‥。自由もない。
 そんなとこ、行かない方がいいんじゃないのか?
 だって、こっちにはそんなことはない。
 ‥俺は、いっそのこと、このままこっちで暮らした方がいい。
 だけど、ミチルが言った通り、あっちが俺の本体だったら、‥これからずっと本体から離れて生きていくことって可能なんだろうか?

 今までは可能だったけど、‥可能じゃなくなったから、死にそうになった。
 今回の事は、‥そういうことだった。
 
 俺を今まで守ってきたらラルシュ。
 否、俺には、守るだけの価値がある。
 ‥それは、何なんだろう。
 リバーシだから? だけど、リバーシは俺一人じゃない。他にもいる。
 だけど、‥きっと、他のリバーシと俺は違うんだろう。
 顔とか‥そういうのではない、きっと「政治的な」価値が俺にあるってことだろう。

 ナツミが俺を守ってくれたのは、そうじゃない。
 ナツミにはそんなものは関係ない。
 俺とナツミの間にあるのは、友情だ。

 ナツミ‥。
 今、どこにいるの?

 無意識にブレスレットを見た。
「これ、どんな力があったんだろ」
 昔、ナツミが俺にくれたブレスレットを思い出した。
 あれは、‥小さな石が連なったようなブレスレットだった。
 キラキラして綺麗だったけど、どんなに気をつけてつけてても、すぐに切れてしまって、だけどナツミは「いいのいいの。また直すから」って‥怒らなかった。
 いつもは、「また壊した! 」って怒るのに。
 だけど、あのあと、あれが空の魔石をつないだものだって知って、「流石ナツミ。ちゃっかりしてる」って呆れた。
 つまり、俺に空の魔石をつないだブレスレットを渡して、俺の魔力がたまって糸が切れたら回収してた‥ってこと。あれは、ナツミのバイト代になってたんだ。
 ‥ナツミは魔法学校に行きたがってたから。
 だから、(魔力を抜かれてることに)気付いても俺はナツミを責めたりなんかしなかった。

 当時‥ナツミが作れた魔道具はその程度だった。
 だけどこのブレスレットは‥
 
 誰が作って、誰が俺に渡した?
 ‥渡したのは、ナツミだ。俺は、知らないやつからもらったものなんてつけない。
 じゃあ、誰がナツミにこれを渡した? ‥ナツミはなぜそれを俺に?
 俺に危害を与えようとしたの?
 でも、俺が最後に聞いたナツミの声は‥

 ‥俺を助けてっていう、叫びだった。

「‥私はナツミちゃんを許さない。‥ヒジリにこれをつけたナツミちゃんを‥」
 母さんの目がブレスレットに注がれた。
 その視線に悪意がこもっていたのは、言うまでもなくって‥。
「ナツミのことを悪く言わないでよ! 」
 思わず俺は、叫んだ。
 叫ばずにいられなかったんだ。

 ‥ナツミは‥ナツミは悪人なんかじゃない!

 俺の心に‥刻み込むために‥俺は叫ばずにいられなかった。
 母さんの視線が俺に向けられる
 泣きそうな、苦しそうな顔。
 真剣な眼差し。
 ぼそり、と低い声「私は‥」呻くような低い声に、俺は肝が冷えた。
「私は、あなたが何を言おうとも、ナツミちゃんを許さないわ」
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