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二章 別に生活に支障を感じなかった特異なリバーシ
12.親子で帰省するのに、今日会ったばっかりの他人にお世話になるんです。
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確かに、母さんがナツミを恨むのは‥仕方が無い。
だって、俺にあのブレスレットを着けたのは、‥ナツミだ。
そして、俺は死にかけた。
本当に、‥危なかったんだ。
その時の母さんたちの気持ちを考えたら、仕方が無いだろう。
俺がその立場だって、そうしただろう。
だけど、‥当事者の俺は、ナツミが俺に害をなそうとしたなんて信じてない。
だって、ナツミには理由がない。俺を殺す理由なんてない。
俺とナツミは幼馴染だ。
ただ家が近所で遊び友達だった‥ってだけの関係じゃない。
たった一人のクラスメイトだし、ライバルだし、切磋琢磨し高めあった最高の仲間だった。
苦しい時、悲しい時、‥悔しい時。
それこそ‥ある意味家族より「濃密な時間」を過ごして来た人間だといえる。
ナツミの性格は俺が一番知っている。
魔法使いの素質があった彼女は、いつか魔法学校に行きたいって言ってた。だけど、裕福ではなかった彼女の家は彼女を労働力だとしか考えてなかった。
100%国に就職が義務付けられてるリバーシと違って、魔法使いは民間に就職するものが大半だった。
つまり、リバーシは(本人が望まずとも)100%就職が決まっているんだ。
本人の能力だとかで待遇が違う、とかはない。
リバーシだというだけで、城への就職が強制的に決まる。
‥個人の自由は? とかそういう考えを持たなければ‥ラッキーと言えないでもない。
魔法使いは違う。
魔法使いには、個人差があるからだ。つまり、能力の差だ。
給金がいいところに就職できるのは、魔法学校卒業生って決まってた。
だけど、その魔法学校ってのは、ナツミが言うには学費が高いし、凄く厳しい‥らしい。厳しいうえに、もし試験の成績が悪く、追試にでも引っかかろうもんなら余計に費用が掛かるらしく、平民には敷居が高かった。
だから、ナツミの両親はナツミを魔法学校に入れたがらなかった。
中等学校でで学べる「生活魔法」で十分だって思ってたんだ。
魔法を極めたいナツミと、いずれ嫁にいく娘にそこまでの知識は必要がない‥と思う両親。
ナツミは、自費で学校に行くって言ってた。
ブレスレットを使って俺の魔力を魔石に補充し、純度の高い魔石(魔力チャージ済み)を魔道具屋に持ち込んでお小遣い稼ぎ‥ってのには驚いたけど、別に俺にとっては痛くもかゆくもなかったから、何も言わずに騙されたふりしてた。
思えばあんな可憐な容姿で、結構したたかなところがあった。
だけど、一番の特徴は、頑張り屋で、真面目なところ。あとは‥計画性があるところ‥かな。凄く、しっかりしてた。
体力をつける為に鬼ごっこしたり、先生に新しいスキルを作り出しては、発表会したり。
だけど、時々失敗して。てへ、って大笑い。
‥一つの失敗にこだわるタイプじゃなかった。「ダメだったから、次! 」って。
たくましかったんだ。
多分あれ(例のブレスレット)だって、「魔道具作ったけど、失敗しちゃって、思った以上に強力だった! そんなつもりなかったんだよ? てへぺろ」って感じだろう。
材料の事とか‥気にならないわけじゃないけど‥多分、そう「大した事情」はないだろう。
いつも持ち込んでる魔道具屋に「こんなん入ったけど作ってみる? 」って軽く誘われた‥って程度の事だ。
ナツミだから有り得る。
知的好奇心が旺盛なナツミだから‥大いにあり得る。
つまり、‥俺は、これっぽっちもナツミを疑っていない。
まして、恨んでなんていない。
もし、ナツミがちょっとでも気にしてたら「ホント、気にしてないよ」って伝えたい。
ホントに、‥ナツミは今、何処にいるんだろう。
もしかして、俺に「呪いの魔道具」をつけたから、捕まって処刑されちゃったとか‥? だって、‥確かに考えたら、そんな強力な魔道具をつくったわけだ。相手が俺だから、とかではなく、普通にアウトだろう。‥でも、俺は生きてる。‥意識も戻った。問題は無い。もうない。
だから‥。
俺は、ナツミのことを考えて、祈った。
無事で居てくれるように、って。
ただ、それだけでいいから‥。
「下手くそだなあ、ナツミは」
「今回は流石に死にかけたよ」
って笑いあいたい。
ナツミに会いたい。
ナツミの笑顔で
「ごめんごめん」
って聞いたら、俺は恨み言を言ってやる。
「今までどこに行ってたんだよ。俺の方こそ、心配してたんだぞ」
って。
だから‥。
どうか、ナツミ。無事でいて‥。
「さ、父さんに、説明しなきゃね。‥今日は、あっちに私たちを連れて帰ってくれる? 目が覚めたあなたが見たいわ」
母さんが機嫌よさげな声を出す。
あっちでの本当の俺‥自分の娘に会えるのが嬉しいんだろう。
そして、故郷に帰るのが。
俺は、黙って頷いた。
「自分の娘って感じは、‥実はしないんだけどね。寝てる顔見たら、本当に芸術品みたいで、この子が本当に私たちのヒジリだって思えなかったもの」
くすくすと笑う母さんに、また頷いた。
母さんの顔と、あの「ヒジリ」。
髪の色は‥似てるみたい。だけど、顔の様子は全然違う。
それは母さんも言っていた。
‥ある日どんどん綺麗になっていった。って。
「ただいま! 」
事前に知らされていたんだろう。興奮した様子で父さんが部屋に飛び込んできた。
はちみつに若葉を溶かした様な色の目と、栗色の髪。(そっか、俺の目の色は父さんの目の色だった。)
‥ちょっと、日本人とは違う顔。
肌の色も、黄色というよりは、外国人の様に白い。
外国人どころか、異世界人だったのか‥。
「ヒジリ。良かった。もう、君が明日死んでしまうんじゃないかって、怯えなくていいんだね。ヒジリ‥よかった‥」
涙を流して喜ぶ両親と、俺も抱き合うと、自然に涙が出て来た。
‥実感もなく、名前も知らないドラマの主人公のことの様なのに、もらい泣きしてしまう。
そんな感じ。
「父さん、母さん。‥あっちに帰る方法、俺は分かんないんだけど教えてくれる? 」
「え? 私たちも知らないよ? だって、私たちには出来ないことだから」
‥そうですか‥。
俺は、時計を見た。
9時。今ならミチルも起きてるだろう。
絶対にもう俺からミチルに用事なんてない、一生連絡とるかと思ってたのが、今朝。
で、その日の夜にもう連絡を取る羽目になろうとは‥。
お世話になるんだったら、「有難う」くらい書いといた方が良かったか?
で、俺から住所を聞いて駆けつけてくれた、ミチル。
‥いい奴だ。
今朝振りのミチルは、やっぱり腹立つくらいイケメンで、母さんがご機嫌に微笑んでいる。
「王子様も格好のいいお方だけど、ミチル君も格好いいわねえ」
って、またうっとり。
‥隣で父さんが「ヒジリはまだ嫁にはやらんぞ‥」って呟いてる。
そういえば‥父さんは「あなたは男」って暗示をかけるみたいに言い続けて来た母さんと違って「聖は俺たちのたった一人の子供」って言ってきただけだった。
男だとか女だとか言われた覚えがない。
だのに、今「聖 = ヒジリ」解禁で、すっかり娘の父親になってる‥。
‥俺自身が、まだそんな自覚ないってのに‥。
「やあ、君がミチル君か。ヒジリがお世話になったね」
だから‥父さん‥。何気なくミチルを睨むの止めてあげなよ‥。ホントに、関係ないんだからさ。
ミチルに迷惑だよ。
ミチルは俺に興味も関心‥はあるかもしれないが、好意はないよ。
いくら、(リバーシ故にお泊り厳禁だから)彼女がつくれない(※そうヒジリは決めつけている)って言っても、会社とかではきゃあきゃあ言われてると思うよ?
イケメンだし、声もいいし、性格も悪くなさそうだし。
‥僻んでないぞ!!
ミチルは俺に、相変わらず腹立つくらいのイケメンの微笑みを向けて
「やあ。ヒジリ。昨日は、説明もせず、連れまわして悪かったね。女の子を拉致解禁するなんてとんでもないよな。今日、仕事しながら気が付いて、汗が止まらなかった」
‥いや、男でも、拉致解禁はまずいだろ。
しかも、今の俺に対する扱い! 「見た目どう考えても男な俺」をさらっと女扱いするとか、女っタラシは違うね。
‥気色悪いから、止めて欲しい。
父さん‥俺とは無関係なミチルを睨むのをやめてってば‥。
「いや‥。説明されても信じなかったと思う‥から」
なんとなく目を合わせるのも違う気がして、目を伏せたら、思ったよりも歯切れの悪い話し方になってしまった。
ミチルがまた、くすくすと笑い
「ホントに良かったね。ラルシュも喜んでた」
って言った。
俺は「ああ。アリガトウゴザイマス」ってごにょごにょ言う。
ラルシュって王子様なんだよな‥。母さんの話に出て来た‥
俺を保護してくれた、変態‥いや、もごもご‥。
恩人恩人‥。
「それで、‥今日はあっちに両親を連れて帰りたいと思うんだけど、‥俺、方法が分からなくて‥」
視線を上げて、ミチルをおずおずと見上げた。
‥こうして並ぶと、ミチルは、結構身長が高い。
俺が見上げなくちゃ視線合わないじゃないか! そんなに違うのか!
イケメン、高身長!
こうまで揃ってると、‥流石の俺でも腹立つな。(これで、高学歴、高収入とかだったらキレるな!! )こんな奴‥冷静で寛大な俺じゃなかったら僻んで、「リア充野郎滅びろ!! 」って暴言はいてるな。俺ははかないけど!
‥はく奴がいたって‥俺はそいつを責めない。
‥なぜって、俺は心が寛大だから。
「ん。いいよ。分からなくて当然だよ。任せておいて」
にこ、と笑ったミチルの顔が
やっぱり、イケメン。めっちゃ、イケメン。
やっぱり、腹立つ‥。
「で、そのままあっちに残るの? まあ、急に今日行って明日からってわけにはいかないけど、手続きとか、ラルシュに任せとけばいいと思うし」
あっちに残る‥?
そうか、俺は、ミチルとは違う。
俺の故郷はあっちなんだ。そして、勿論両親も‥。
10年近くこっちに住んできた。
今まで、あっちが故郷だって知らなかった。今更、あっちに「帰る」っていわれても‥。
「俺は‥」
俺は、顔を伏せた。
母さんたちは帰りたいだろう。だけど‥俺は‥。
ミチルは、だけど「そうとは言っても‥」と言葉を濁した。
「あんたが、でも、あっちで暮らそうと思ったら、心配があるのは確かなんだ。‥あんたの潤沢な魔力を狙ってくる者たち。
国に反する勢力に属する者たち。権力を持とうとする者たち。金のためにあんたを利用しようとする者たち。
‥あんたににそれに対抗しうる力が十分につくまで、‥あっちに住むのは考えた方がいいのかもしれない」
ああ、それ母さんも言ってたね。
だから、リバーシは国で保護されながら働くんだったよな。
ただでさえ危険なリバーシで、さらに‥いままでただ寝ててなんにもできない俺が、あの国での‥家に帰ったところで、対抗手段もないし危険‥ってことだよな。
‥だといっても、王子とすぐ結婚して城に住む(笑)とかは‥俺が無理だし‥。
「そういう奴らに、あんたの強大な魔力が悪用されるのは、‥彼の国にとって見逃せない案件になる。君が誰と付き合っても問題は無いんだけど、‥国家の危機になるような相手との交流は、やっぱり許可するわけにはいかない」
「‥? 何言って? 」
交流も何も、俺にあっちの世界での知りないなんていない。
先生と、ナツミだけだ。
‥同級生は俺を嫌っていたから‥。
「そのブレスレットをあんたにつけた幼馴染。‥俺は、その人物もその組織の一員だと思っている」
‥ナツミのこと。
‥お前までそんなふうに言うのか‥。
だって、俺にあのブレスレットを着けたのは、‥ナツミだ。
そして、俺は死にかけた。
本当に、‥危なかったんだ。
その時の母さんたちの気持ちを考えたら、仕方が無いだろう。
俺がその立場だって、そうしただろう。
だけど、‥当事者の俺は、ナツミが俺に害をなそうとしたなんて信じてない。
だって、ナツミには理由がない。俺を殺す理由なんてない。
俺とナツミは幼馴染だ。
ただ家が近所で遊び友達だった‥ってだけの関係じゃない。
たった一人のクラスメイトだし、ライバルだし、切磋琢磨し高めあった最高の仲間だった。
苦しい時、悲しい時、‥悔しい時。
それこそ‥ある意味家族より「濃密な時間」を過ごして来た人間だといえる。
ナツミの性格は俺が一番知っている。
魔法使いの素質があった彼女は、いつか魔法学校に行きたいって言ってた。だけど、裕福ではなかった彼女の家は彼女を労働力だとしか考えてなかった。
100%国に就職が義務付けられてるリバーシと違って、魔法使いは民間に就職するものが大半だった。
つまり、リバーシは(本人が望まずとも)100%就職が決まっているんだ。
本人の能力だとかで待遇が違う、とかはない。
リバーシだというだけで、城への就職が強制的に決まる。
‥個人の自由は? とかそういう考えを持たなければ‥ラッキーと言えないでもない。
魔法使いは違う。
魔法使いには、個人差があるからだ。つまり、能力の差だ。
給金がいいところに就職できるのは、魔法学校卒業生って決まってた。
だけど、その魔法学校ってのは、ナツミが言うには学費が高いし、凄く厳しい‥らしい。厳しいうえに、もし試験の成績が悪く、追試にでも引っかかろうもんなら余計に費用が掛かるらしく、平民には敷居が高かった。
だから、ナツミの両親はナツミを魔法学校に入れたがらなかった。
中等学校でで学べる「生活魔法」で十分だって思ってたんだ。
魔法を極めたいナツミと、いずれ嫁にいく娘にそこまでの知識は必要がない‥と思う両親。
ナツミは、自費で学校に行くって言ってた。
ブレスレットを使って俺の魔力を魔石に補充し、純度の高い魔石(魔力チャージ済み)を魔道具屋に持ち込んでお小遣い稼ぎ‥ってのには驚いたけど、別に俺にとっては痛くもかゆくもなかったから、何も言わずに騙されたふりしてた。
思えばあんな可憐な容姿で、結構したたかなところがあった。
だけど、一番の特徴は、頑張り屋で、真面目なところ。あとは‥計画性があるところ‥かな。凄く、しっかりしてた。
体力をつける為に鬼ごっこしたり、先生に新しいスキルを作り出しては、発表会したり。
だけど、時々失敗して。てへ、って大笑い。
‥一つの失敗にこだわるタイプじゃなかった。「ダメだったから、次! 」って。
たくましかったんだ。
多分あれ(例のブレスレット)だって、「魔道具作ったけど、失敗しちゃって、思った以上に強力だった! そんなつもりなかったんだよ? てへぺろ」って感じだろう。
材料の事とか‥気にならないわけじゃないけど‥多分、そう「大した事情」はないだろう。
いつも持ち込んでる魔道具屋に「こんなん入ったけど作ってみる? 」って軽く誘われた‥って程度の事だ。
ナツミだから有り得る。
知的好奇心が旺盛なナツミだから‥大いにあり得る。
つまり、‥俺は、これっぽっちもナツミを疑っていない。
まして、恨んでなんていない。
もし、ナツミがちょっとでも気にしてたら「ホント、気にしてないよ」って伝えたい。
ホントに、‥ナツミは今、何処にいるんだろう。
もしかして、俺に「呪いの魔道具」をつけたから、捕まって処刑されちゃったとか‥? だって、‥確かに考えたら、そんな強力な魔道具をつくったわけだ。相手が俺だから、とかではなく、普通にアウトだろう。‥でも、俺は生きてる。‥意識も戻った。問題は無い。もうない。
だから‥。
俺は、ナツミのことを考えて、祈った。
無事で居てくれるように、って。
ただ、それだけでいいから‥。
「下手くそだなあ、ナツミは」
「今回は流石に死にかけたよ」
って笑いあいたい。
ナツミに会いたい。
ナツミの笑顔で
「ごめんごめん」
って聞いたら、俺は恨み言を言ってやる。
「今までどこに行ってたんだよ。俺の方こそ、心配してたんだぞ」
って。
だから‥。
どうか、ナツミ。無事でいて‥。
「さ、父さんに、説明しなきゃね。‥今日は、あっちに私たちを連れて帰ってくれる? 目が覚めたあなたが見たいわ」
母さんが機嫌よさげな声を出す。
あっちでの本当の俺‥自分の娘に会えるのが嬉しいんだろう。
そして、故郷に帰るのが。
俺は、黙って頷いた。
「自分の娘って感じは、‥実はしないんだけどね。寝てる顔見たら、本当に芸術品みたいで、この子が本当に私たちのヒジリだって思えなかったもの」
くすくすと笑う母さんに、また頷いた。
母さんの顔と、あの「ヒジリ」。
髪の色は‥似てるみたい。だけど、顔の様子は全然違う。
それは母さんも言っていた。
‥ある日どんどん綺麗になっていった。って。
「ただいま! 」
事前に知らされていたんだろう。興奮した様子で父さんが部屋に飛び込んできた。
はちみつに若葉を溶かした様な色の目と、栗色の髪。(そっか、俺の目の色は父さんの目の色だった。)
‥ちょっと、日本人とは違う顔。
肌の色も、黄色というよりは、外国人の様に白い。
外国人どころか、異世界人だったのか‥。
「ヒジリ。良かった。もう、君が明日死んでしまうんじゃないかって、怯えなくていいんだね。ヒジリ‥よかった‥」
涙を流して喜ぶ両親と、俺も抱き合うと、自然に涙が出て来た。
‥実感もなく、名前も知らないドラマの主人公のことの様なのに、もらい泣きしてしまう。
そんな感じ。
「父さん、母さん。‥あっちに帰る方法、俺は分かんないんだけど教えてくれる? 」
「え? 私たちも知らないよ? だって、私たちには出来ないことだから」
‥そうですか‥。
俺は、時計を見た。
9時。今ならミチルも起きてるだろう。
絶対にもう俺からミチルに用事なんてない、一生連絡とるかと思ってたのが、今朝。
で、その日の夜にもう連絡を取る羽目になろうとは‥。
お世話になるんだったら、「有難う」くらい書いといた方が良かったか?
で、俺から住所を聞いて駆けつけてくれた、ミチル。
‥いい奴だ。
今朝振りのミチルは、やっぱり腹立つくらいイケメンで、母さんがご機嫌に微笑んでいる。
「王子様も格好のいいお方だけど、ミチル君も格好いいわねえ」
って、またうっとり。
‥隣で父さんが「ヒジリはまだ嫁にはやらんぞ‥」って呟いてる。
そういえば‥父さんは「あなたは男」って暗示をかけるみたいに言い続けて来た母さんと違って「聖は俺たちのたった一人の子供」って言ってきただけだった。
男だとか女だとか言われた覚えがない。
だのに、今「聖 = ヒジリ」解禁で、すっかり娘の父親になってる‥。
‥俺自身が、まだそんな自覚ないってのに‥。
「やあ、君がミチル君か。ヒジリがお世話になったね」
だから‥父さん‥。何気なくミチルを睨むの止めてあげなよ‥。ホントに、関係ないんだからさ。
ミチルに迷惑だよ。
ミチルは俺に興味も関心‥はあるかもしれないが、好意はないよ。
いくら、(リバーシ故にお泊り厳禁だから)彼女がつくれない(※そうヒジリは決めつけている)って言っても、会社とかではきゃあきゃあ言われてると思うよ?
イケメンだし、声もいいし、性格も悪くなさそうだし。
‥僻んでないぞ!!
ミチルは俺に、相変わらず腹立つくらいのイケメンの微笑みを向けて
「やあ。ヒジリ。昨日は、説明もせず、連れまわして悪かったね。女の子を拉致解禁するなんてとんでもないよな。今日、仕事しながら気が付いて、汗が止まらなかった」
‥いや、男でも、拉致解禁はまずいだろ。
しかも、今の俺に対する扱い! 「見た目どう考えても男な俺」をさらっと女扱いするとか、女っタラシは違うね。
‥気色悪いから、止めて欲しい。
父さん‥俺とは無関係なミチルを睨むのをやめてってば‥。
「いや‥。説明されても信じなかったと思う‥から」
なんとなく目を合わせるのも違う気がして、目を伏せたら、思ったよりも歯切れの悪い話し方になってしまった。
ミチルがまた、くすくすと笑い
「ホントに良かったね。ラルシュも喜んでた」
って言った。
俺は「ああ。アリガトウゴザイマス」ってごにょごにょ言う。
ラルシュって王子様なんだよな‥。母さんの話に出て来た‥
俺を保護してくれた、変態‥いや、もごもご‥。
恩人恩人‥。
「それで、‥今日はあっちに両親を連れて帰りたいと思うんだけど、‥俺、方法が分からなくて‥」
視線を上げて、ミチルをおずおずと見上げた。
‥こうして並ぶと、ミチルは、結構身長が高い。
俺が見上げなくちゃ視線合わないじゃないか! そんなに違うのか!
イケメン、高身長!
こうまで揃ってると、‥流石の俺でも腹立つな。(これで、高学歴、高収入とかだったらキレるな!! )こんな奴‥冷静で寛大な俺じゃなかったら僻んで、「リア充野郎滅びろ!! 」って暴言はいてるな。俺ははかないけど!
‥はく奴がいたって‥俺はそいつを責めない。
‥なぜって、俺は心が寛大だから。
「ん。いいよ。分からなくて当然だよ。任せておいて」
にこ、と笑ったミチルの顔が
やっぱり、イケメン。めっちゃ、イケメン。
やっぱり、腹立つ‥。
「で、そのままあっちに残るの? まあ、急に今日行って明日からってわけにはいかないけど、手続きとか、ラルシュに任せとけばいいと思うし」
あっちに残る‥?
そうか、俺は、ミチルとは違う。
俺の故郷はあっちなんだ。そして、勿論両親も‥。
10年近くこっちに住んできた。
今まで、あっちが故郷だって知らなかった。今更、あっちに「帰る」っていわれても‥。
「俺は‥」
俺は、顔を伏せた。
母さんたちは帰りたいだろう。だけど‥俺は‥。
ミチルは、だけど「そうとは言っても‥」と言葉を濁した。
「あんたが、でも、あっちで暮らそうと思ったら、心配があるのは確かなんだ。‥あんたの潤沢な魔力を狙ってくる者たち。
国に反する勢力に属する者たち。権力を持とうとする者たち。金のためにあんたを利用しようとする者たち。
‥あんたににそれに対抗しうる力が十分につくまで、‥あっちに住むのは考えた方がいいのかもしれない」
ああ、それ母さんも言ってたね。
だから、リバーシは国で保護されながら働くんだったよな。
ただでさえ危険なリバーシで、さらに‥いままでただ寝ててなんにもできない俺が、あの国での‥家に帰ったところで、対抗手段もないし危険‥ってことだよな。
‥だといっても、王子とすぐ結婚して城に住む(笑)とかは‥俺が無理だし‥。
「そういう奴らに、あんたの強大な魔力が悪用されるのは、‥彼の国にとって見逃せない案件になる。君が誰と付き合っても問題は無いんだけど、‥国家の危機になるような相手との交流は、やっぱり許可するわけにはいかない」
「‥? 何言って? 」
交流も何も、俺にあっちの世界での知りないなんていない。
先生と、ナツミだけだ。
‥同級生は俺を嫌っていたから‥。
「そのブレスレットをあんたにつけた幼馴染。‥俺は、その人物もその組織の一員だと思っている」
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