リバーシ!

文月

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二章 別に生活に支障を感じなかった特異なリバーシ

14.重さ

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 おはよう

 っていう状況なんだろう。本来なら。
 だけど、‥人形かなんかに憑依しちゃった感が、半端ない。
 今朝もこうしてただろう、って心の片隅では突っ込んでるんだけど、実際のところ‥そう単純な話じゃないらしい。
 理解は出来るんだけど、‥なんかまだ実感がないってこういうこと言うんだ。

 違和感、半端ない。

 身体が、自分のものとは思えない。
 なんか、こう‥身体中が重い感じがする。
 胸が大きい子が「肩こる」って言って、女子の顰蹙買ってるのみたことがあるけど、‥ああいう感じかも。
 そう「大きい」わけではないけど、今までが無かったんだ。それに比べたら「格段に大きい」には違いない。
 あと、髪も重い。
 毛質が硬いわけではない。そりゃあ、もうさらっさらのふわっふわだ。毛量が多いわけでもない。
 だけど、‥長すぎる。
 肩に触れる‥ふわりとした髪の感触がはっきり言って鬱陶しい。
 睫毛も重い。
 瞬きをするたび、風がおきそうな感覚がする。なんか影になるし。これ、抜けて目に入ったら痛いだろう。‥逆睫毛になりそうだし。
 視線に、鼻の先がはいってくるような気もする(※鼻が高いからね)。

 ‥どうも、違和感しかない。(二回もいっちゃった)

 何度か瞬きをして、何度か、ふわっふわつるっつるの肌に触れる。
 指は‥もとから男にしては細かったから、そう違わない感じ。
 細い首や、手首に触れてみる。
 ‥もう、懲りたから胸は揉まないけど。
「あんた、まだ自分の顔に慣れないの? 」
 くすくすとミチルが軽い笑い声をあげた。
 こっちの、ミチルだ。
 服装も、あっちの服とは違って、王子と同じ様な服を着ている。(そういえば、昨日こっちに来たときも、ミチルはそんな恰好をしていた‥気がする。覚えてない)
 コスプレか。
 俺は、シンプルなワンピースだ。寝巻替わりに丁度いい、飾りがついてないシンプルなタイプ。肌触りも問題ない。
 これ、(例の)魔道具なんだっけ。国宝級の。成長する服。
「ミチル。さっきから、あんたとか‥女の子に失礼だろ? 」
 声がした方を振り返る。
 王子様がちょっと顔をしかめてミチルを窘める。
 窘めるっていっても「め! 」って感じ。
 甘い! 窘める時は、もっとビシッと! 睨みつけて、声も低めに! そんな甘い言い方じゃ、誰も聞かないよ~。
 いやいや‥王子様はそんなことしないか。(どうなんだろ。分からない)
「いや、お構いなく。俺、そういうの気にしないんで。ところで、差しさわりがなかったら、お名前をお聞きしてよろしいですか? 」
 ミチルが、何度かラルシュって呼んでたけど、また聞きで名前を呼んではまずいだろう。ミチルは親しいから、あだ名で呼んでるってことも、十分あり得る。そんなに親しくない俺が、ミチルと同じ名で呼んでいいわけがない。
 ‥どうだろ、もしかしてもう呼んじゃったかな?? き‥記憶が曖昧‥。
 まあ‥その時は‥混乱してたってことで‥。
「名前? 今更だなあ」
 って、ミチル。笑わない。
 だってそうだろ? 俺の記憶に王子様なんて出てこなかったもん。あんたらは知ってるかもしれないし、両親やら皆も知ってるけど、俺からしたら「始めまして」だ。
 別に、特別に興味を持ったとかでは、ない。
 名前くらいは聞いておいた方がいいだろう。
 って位だ。
 ってか‥王族に俺から話しかけるとか、‥アウトだっけ。俺、そういう作法とかも分かんないんだけど‥。
 だけど、イケメン王子は俺に嬉しそうな顔で微笑みかけると、
 しゃがんで俺に目線を合わせて(今も俺はベットで寝転んだままだ。さっきから、皆の顔は遥か目線の上にあった。思えば昨日からずっと、このベッドから出てない)
 ‥起き上がらなければいけないんだろうけど、‥身体が重くて辛いんだ。
 きっと、寝たまんまだったから筋肉が落ち切っちゃったんだな。
 そんな寝たままの失礼極まりない俺に、ラルシュは
「ラルシュローレです。でも、ラルシュって呼んでください」
 と、丁寧に上品に、そして美しく微笑んで、それはそれは丁寧に自己紹介してくれた。

 ‥見事!!

 なんか、分からんが、これは、凄い。まさに、ロイヤルって感じ。チャラさなんてない。嫌味なんてどこにも感じさせない。まさに、お手本! (何のだ)
 真似できない。出来る気がしない。
 母さんが、半分魂抜かれかけてる。
 父さんは、母さんの背中に手を添えて、ちょっとオロオロしている。
 そうだね、‥王子様の前だもんね。緊張するし、女子ならちょっとくらっとくるのかもね。父さんも、こんなレベルじゃ嫉妬するのもばかばかしいって感じになるよね。わかる。その反応、両方、分かる。
「あ、初めまして。ヒジリっていいます」
 ‥って知ってるか☆

 でも、俺は聖(男)であって、「ヒジリ(女)」って自覚はないんだよな~。
 俺の中で、聖 = ヒジリは「理解はしている」けど、‥なんか、まだ実感が無いんだよな~。
 さっき思った「憑依した感じ」ってのが、まさに! ‥って感じなんだ。 

「ラルシュは、あんたって呼ぶなっていうけどさ~。考えてもごらんよ。
 彼女の名前がヒジリっていうのも聞いてて知ってたけどさ、王子の婚約者を下の名前で呼ぶとか、‥失礼だろ? 。と言って、「児嶋」ってのは、彼女のホントのファミリーネームじゃないわけだしさ~。じゃあ何て呼ぶんだ? って話になるでしょ? 
 だけど俺たち地球育ちにとって、名前呼びってのはちょっと抵抗があるわけ。ちょっと‥特別感があるわけ。
 それも、俺みたいにカッコイイ男が呼んだら‥さ? 女の子ならふらっときちゃわない? 」
 冗談を言う口調でミチルが言って、ふふ、と笑う。

 はい、チャラい笑顔、チャラいセリフ。

 俗っぽいわ~。カッコいいかもしれんが、ロイヤル感ゼロ。
 所詮、街のイケメンクラス。
 ミチルの負け!
 ‥でも、俺は、そのレベル(ミチルクラス)にも勿論達してないんだろう。
 同じ男って言っても‥種類が違うって感じ‥。
 芸能人(ミチル)と、そこらの兄ちゃんほど違いそう。

 ‥全然悔しくなんてないやい!! 

「いえ、お構いなく。俺は、ふらっと来ませんから」 
 男ですから。
 は、見た目上の問題も考慮して、言わないことにしました。
 進歩したね! 
 ‥それにしても‥
 ミチル。さらっと、俺のこと「彼女」とか「女の子」とか、言わない。肌がチキンになっちゃうだろ。ほら、ここの俺って(今まで寝てたから)キモい程白いわけじゃん? その肌で鳥肌立ったら、それこそ、チキンだから。毛をむしった鳥皮そっくりだろ? ドン引きだよ。
 はあ、軟弱な身体、不健康に白い肌、嫌になっちゃう。
 よし、起き上ろう!! お日様の下で動いて、この病人肌だけでも何とかしよう。
 だって、いつまでもここにいるわけにはいくまい。もう、俺は起きたわけだしさ! 
 俺は、手をぐっと握り、腹筋に力を入れる。
「ずっとこんな格好で申し訳ありませんでした。せめてベッドから出ますね」
「いえ! 」
 無理しないで。と止める王子に構わず、俺はえいやっと立ち上がろうとしたが、勿論、転んだ。
 頭からそのまま床にダイブだ。

 重い‥! 身体が‥重い!!

 ‥思えば、10年弱振りの「実体」だ。

 ひえぇ‥身体がいうこと聞かない‥!!

 俺はもう、盛大に転んだ。
 かろうじて頭を庇うことにだけは成功した。頭を抱えて、丸まって転がる。
 そう、ちょうどあれ、前回りし損ねた感じ。
 もう、コントか? って感じで無様に転んだ。だけど、幸運にも、王子が立ってた方と反対側に転んだ。
 俺、グットジョブ! 
 ‥王子を巻き込んでたりしたら、‥もう、大変だった。
 しかし、‥悲しいかな、即座に立ち上がれない。
 恥ずかしい‥。痛いし‥。
 まあ、そりゃあ、そうだろうけどさ‥。
 何年間も寝たままだったもんな。

 ‥寧ろ、起きてすぐ喋れたってのが奇跡だったね!!
 魔法だよね! ‥声帯を使わず、テレパシー的なもので喋ってたのかしらん‥。 
 
 そんなこと冷静に思ってる間も、俺は床に転がったまま。
「ヒジリ!! 」
 俺にとっては、スローモーションのように長い時間だったんだけど、実際、俺が俯けで倒れたまま呆然としていたのは、ほんの数秒だったと思う。だけど、再起動した母さんがそりゃあ凄い速さで俺に駆け寄り、ほぼ同じタイミングで動いた父さんが俺をひょいと抱き起‥そうとして、父さんの腕はすかっと俺の身体をすり抜けた。
 ‥実体が無いから。
 それはミチルも同じなんだろうけど、ミチルはリバーシだし、なんていっても年季が違う。(霊体(?)でありながら、実体を触る修行みたいなものを身に着けてきたんだろう)俺を軽々と抱き上げてベッドにおろした。
 ‥回収、ご苦労様です。ありがとうございます‥。
 そこは感謝するけど‥
「軽!! 」
 って‥ミチル、思わずなんだろうけど、叫ばないでよ‥。
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