リバーシ!

文月

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三章 ヒジリとミチルの「夜の国」

1.ヒジリの10年間弱

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「‥なんか、スミマセン‥」
 右側のベッドサイドに、王子とミチル。
 左側のベッドサイドに、もう、ぴったりと張り付くように、両親。
 俺が無駄に動かないように、監視してるんだ。
 動かないよ! ‥さっき、だいぶん痛かったもん‥っ。
 父さんは、「呆れた」って顔して俺を見降ろしている。(あと、ちょっと怒ってる)

 ‥そりゃそうですよね~。お手間おかけしました‥。
 俺は、思わず乾いた笑いを浮かべ父さんから視線を外して‥反対側の王子と目が合った。(しまった‥)

「無理しちゃだめだよ」
 王子は、呆れたって顔はしなかった。
 俺を心配して、無理したことに対しては‥ちょっと怒ってるって感じ。でも、さっき同様「めっ」って感じだ。
 ‥人間出来てるって感じする。
 横で、大笑いしているミチルとは大違いだ。

 おい、ミチル。地球人が皆お前みたいに性格悪いと思われたら困るから、もう少し、大人しくしていてくれ。
 
 俺は、こっそりとミチルを睨みつけたが、逆恨みにしか見えないだろう。
 さっきは助けてもらったのに、恩をあだで返す‥とか感じ悪いから止めるか。
 なんせ運んでもらったんだ。‥重くはなかったらしいが、手間をかけた。しかも、野郎なんて運びたくはないだろう‥って、‥俺今女だ。
 女になれなれしく触れるな。
 って、‥ミチル以外に俺を運べた人間はいない‥から仕方が無かったのか‥。まさか、王子様に運ばせるわけにはいくまい。いくら軽いといっても、メイドさんたちに成人した人間を運べるわけはない。扉の向こうには護衛騎士とか‥いるんだろうけどそこまで大騒ぎすることでもない。
「‥ご迷惑‥お掛けしました」
 母さんが俺に代わって謝って、俺も一緒に頭を下げる。
 ‥ホントにな。
 恐縮しまくりな母さんに、ラルシュは困ったように微笑む。
 そして当事者の俺には
「私に気を遣ってくれたんでしょう? そういうことは、無用だからね」
 ってロイヤルスマイル。
 あ~。ロイヤル~。上品~。

 ‥心が洗われるようです。

「‥ホント、スミマセン‥」
 後で、ミチルにリハビリをしてくれるお医者さんを教えてもらおう。王子に聞いては、駄目だ。これ以上ご迷惑お掛けしたら‥俺の精神が死ぬ。
 この人は‥、普通に善良な人って感じがする。
 キショいとかいって、ごめんなさい。
 ‥それとも、また、俺が単純に信じすぎてるだけかな。(だって王族とかって、単純にいいひとってだけじゃないって感じするよね。‥でも、これが演技だとしたら‥凄すぎない?? ‥人間不信に陥るレベルだよ)
「ゆっくり、日常生活に慣れて行けばいいのです。少しの間は、こちらだけで暮らしますか? 」
 こちらって‥ミチルのいうとこの、「夜の国」だ。
「‥そんなことも出来るんですか? 」
 だって、ミチルは朝になったら強制的にあっちに帰されてるって感じだ。
 俺も昨日帰ったし。
 首を傾げる俺に、ラルシュは
「こちられで産まれたリバーシの方があちらをメインの世界にすることは、寧ろ少ないですよ? 何か技術を学ぶために、留学するってことはありますが‥」
 こっちのリバーシの事をちょっと説明をしてくれた。
 ラルシュの話は、つまりリバーシの「国への就職後の話」だった。
 自分の今後の話でもあるんだけど、「子供の頃の知識」しかない俺には分かりようもなかったから、普通に「初めて聞く話」ばかりだった。
 リバーシの仕事が
 広報職(見た目的にはでな「治療」だとか、虹を出す‥といった、(平和な)奇跡を起こして、人々に「この国って素晴らしい」をアピールするのが仕事。魔力が多く危険‥って感じの奴が就く‥のが意外と多いらしい)
 救済職(聖女みたいな仕事をすることらしい。仕事内容は広報部とそう変わらないらしいんだけど、こっちはデモンストレーション的な役割ではなく、ガチに仕事をするって感じらしい)
 研究職(これがリバーシの花形職。知識を持ち込む異世界人もここに配属される。つまりミチルもココの部署に所属してる。あとは、こっちの国の人間が地球などの異世界に留学することもある)
 というように多種に分かれていることも初めて知った。

「それに、ヒジリの身体はこっちにあるわけだし」
 って言ったのは、母さん。

 そりゃそうだな。

 ミチルは、あっちの世界の出身で、あっちで暮らしている。そして、ミチルの身体はあっちにある。
 肉体がある方がメインの世界‥拠点だろう。
 こっちに拠点を置いている者が、夜だけあっち(つまり地球)に行ったところで、夜中じゃ出来ることは少ない。
 だから、メインの世界をあっちにするために、身体ごと移住する。それが、留学って呼ばれてる状態。
 留学は、リバーシだけではできなく、魔法使いの力が必要になるらしい。それに、その際の手続きなんかが凄く大変なんだって。
 あっちにすむにも、あっちの戸籍だってないわけだしね。
 あっちとこことは随分違うらしいし。
 住むっていうのは、やっぱり違う。
 母さんたちには苦労させてきた。
 これからは、やっぱりこっちに帰ってくるべきなんだろう。

 でも

「でも、急にそうするわけにはやっぱり‥。あっちで今まで暮らしていたわけですから」
 急には、無理だ。
 やっぱり、地球での仕事をやめなければならない‥とか家を解約したり‥とかすることはある。
 ‥それに、寂しくもあるしね。
 やっぱり、あっちの仲間にきちんとお別れを言いたい。
 黙っている俺に同意を示すように頷いたのは、ミチル。やっぱり、あっちの世界の人間だからその気持ちがよくわかってくれるのかもしれない。
 そんな俺とは反対に、
「今まで働いて得た知識をこちらで活かせることが出来ると思います。こちらに戻ってくるのが楽しみです」
 父さんたちは王子に言っている。
 嬉しそうだ。
 そりゃそうだ。こっちに帰ってきたいよな。
 もともとこっちの出身なわけだし。
 俺だってそれは同じなはずだ。だのに‥。
 だって、10年間だ。
 正確には9年かもしれないけど‥10年弱。そんな長い間あっちに居たんだ。
 なかったことにはならない。
 それが、無いことだっていうんだったら、俺の9年間は、何の意味があったんだろう。
 そりゃあ‥
 父さんたちと違って、祖国のために地球で何かを学び取ろうなんて意欲は無かった。
 ただ、暮らして来ただけだ。
 意味は‥なかったかもしれないが、住んでたって事実は「ないもの」にはならない。
 俺には大事な時間だった。

 っていうか‥
 あっちの便利さに慣れてしまって、今更こっちで生活できる自信も無い。
 ‥ってのが本心。

 御伽噺の眠り姫は、目が覚めて、見ず知らずの王子と本当に恋におちたんだろうか?

 小人たちとのお別れは‥寂しくなかったんだろうか。
 誰も知り合いのいない国に行くより、小人たちと暮らした方が幸せじゃなかっただろうか。
 それにしても‥

「なんでラルシュ様は、あの時‥俺を助けたんですか? 」
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