リバーシ!

文月

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三章 ヒジリとミチルの「夜の国」

12.咄嗟についた自分の嘘に、物凄くダメージ受けたんです。

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 そもそも俺、男ですし!

 ‥は、この頃自分でも自信なくなってきてる。それに‥今の姿じゃ、「そりゃないな」って感じなわけで‥。
 そもそも‥これ一番言っても仕方が無い「言い訳」なわけで‥。
 問題なのは、彼女に自分(ミチル)と他の人間(ヒジリ)との「密会現場」を見られて、彼女にその関係を誤解された(ここがポイント! そう、誤解なのだ)ってことで、浮気相手が男か女かってのは‥また別の話なんだ。余計にややこしい話にしないでってことになっちゃうわけなんだ。

 ミチルもおかまに迫られてる状況とか‥まずいだろうし‥。
 ‥いや、てか、俺は男だってことを分かってもらえたら「男同志朝からプロレスごっこしてた」が通るか!? ‥無理ですよね。男同志だそんな気が無いって主張してる俺が「この格好(ヒジリで、どう見ても女の恰好)」してるんだもんなあ‥。

「ミチル? どういうこと? ‥5時以前には、絶対来ちゃ駄目って、こういう理由だったの‥? 」
 涙目で、女の子がミチルを見てる。
 ‥いや、そういうのではありません。ホント。
 でもよかった。5時以前に来られてたら、何もない空間から俺が発生する瞬間みられるところだった。
 良かった良かった。
 なんて、思ってしまったあたり、ホント俺って‥自己中‥。嫌になっちゃうね。(←だけど、実際にそう)
「いや、ホント、違いますよ。‥ワタシ、そういうのじゃないです」
 俺と目が合った女の子の顔が、尋常じゃなく赤い。
 そうなの。この顔、女子にも破壊力凄いらしくって、目が合ったメイドさんたちも軒並みダウンしてたの。
 だから、女の子はすぐ俺から顔を逸らし、
「こんな可愛い子と一つのベッドに居て、何が「そういうのじゃない」よ! ミチル、二股とか、最低っ! 」
 合い鍵を呆然となっているミチルに投げ捨て、バタバタと部屋から出て行った。
 ‥おお、
 ミチルの信頼度が案外低いのか、それとも今の現状が彼女から「ちょっと泥棒猫!! 」ってキレる気力すら奪うのか‥(だって、‥もう完璧「疑う余地ゼロの浮気現場」だよね。疑惑じゃなくて、現行犯だよね)

 ‥うわあ、本当に‥。
 ごめん‥。

「本当に‥ごめん」 
 ミチルは、そこでやっと、我に返ったのか、俺をベッドから立たせ、自分も立ち上がると、
「‥仕方ないよ。まあ、こういうことは初めてだったけど、いつも‥なかなかうまくいかないんだ」
 と、弱弱しく微笑む。
 なかなかうまくいかない、ってのは「恋愛が」ってことなんだろうか。
 まあ‥確かに「12時前には帰れ、5時以前に来るな」って言われて、その理由もわからない‥ってなかなかうまくいかないわな~。俺みたいに実家暮らしだったら「門限が厳しい」「親が寝てるし、そもそも5時以前は常識的に非常識」って感じだろうけど‥。
 ミチルは俺と(モテ具合も含めて)状況が違うわけで‥。
「いや、そこは思い切り怒ってくれ。今までのことまでは知らないが、今回は‥俺が一方的に悪い」
 とにかく今は‥謝ることしかできない。
 勿論俺のことは気にせずあの子にフォローするのが先だって思うんだけど‥多分ミチルは今そこまで頭が回ってない。(かくいう俺も、今は‥まずはミチルに謝るってことしか頭に浮かばなかったんだ)
 だって、
 ミチルが落ち込んでるってのは、ミチルの顔を見れば分かったから。
 しかも(落ち込んでるし、俺が悪いってのは一目瞭然なのに)
「いいって。運が悪かっただけだよ」
 ミチルは笑うんだ。
 ‥弱弱しい情けない笑顔で。
 俺を一言も責めることもなく、だ。
 ‥慣れてるのか? 諦め癖ついてるのか?! 

 ‥そんな悲しい癖やめてくれよ‥。

「あ、‥うん‥。ホントにごめんな」
「くどい。‥さ、俺はシャワー浴びるから、じゃあ、‥また夜にね」
 って、いつもよりちょっと憂いを帯びた「イケメンスマイル」
 くう! イケメンはこんな時もイケメンってか!!
 で、その理由が「シャワー浴びる」まだ5時だけどシャワー浴びる。
 あんな疑惑を女の子に抱かれた後、シャワーを浴びる。それも、‥問題ありありだ。
 だけど、そう言われたら、部屋から出るしかない。でも、今出たら、あの子に会うよね‥。下に降りるには、エレベータか、非常口から出て外のらせん階段だけど、‥下でバッタリ会ったら、余計に怪しい‥。しかも、こんな早朝にカンカンカンカンいわすのは‥ね。
 いやいやいやいや。

 寧ろあの子に会って話さなきゃ!
 ミチルの誤解を解かないと!! 

「うん、じゃあ! 」
 俺は、ばっとミチルのマンションを飛び出し、エレベータに乗ろうとする女の子に追い付いた。

「あの! 」

「え? 」
 さあ! 「俺は違う」の有り得る嘘を言うぞ~!
 俺は、気合を入れる。
「ワタシ‥あの、‥ホントにごめんなさい‥。‥ワタシ、あの‥ホントにミチルさんが好きで‥、その‥ミチルさんの家に‥勝手に入り込んだんです‥。で、あんな‥寝込みを襲うみたいになって、‥でも、勿論ふられちゃって‥」
 ‥やばい、それはどんなストーカーだ。嘘ついてどうする‥。ってか、嘘でも、もう少しましな嘘あるだろ?!
 妹なんです、とか。
 いやでも、妹がいるかどうかなんて知らないし。しかも、相手の子が知ってたら、最悪のパターンだ。‥俺は、そういえばミチルのことを何一つ知らない。
 じゃあ、これはどうだ。
 実は、半分だけ血の繋がった、生き別れになってた妹とか。(←かえってヤバい)
「いやあ、ちょっと何言ってるんだかわかんなくなっちゃったんですけど‥。あのね、‥つまり‥」
 言い草とか、口調とか、表情とか不審さ満載の俺に、彼女さんは勿論ながらドン引きだ。
「‥そんなわけないですよね。貴女みたいな美人さんがふられたり、ましてやストーカーになんてなるわけないじゃないですか」
 ‥ええい。じゃあ、悪女だ。悪女のイメージでいこう!
「‥ワタシも、振られるなんて思ってなかったんです。だから今回だって‥。後で謝ればいいかなって‥」
 失敗。
 ‥いや、この設定の俺、ホントどんな奴だよ‥。ヤバすぎるし、嫌すぎる。‥咄嗟に嘘なんてつくもんじゃない。
 それ以前に、焦ったりするもんじゃない。そもそも、俺がここに帰ってくるときに焦って、ミチルの腕とか掴んだのが、総ての原因だ‥。
「ホントにすみませんでした‥」
 ‥力尽きた。
 がっくりと肩を落とす俺の、頭上でふふ、とかすかな自嘲っぽい笑い声が聞こえた。
「‥いいんです。嘘とかつかせて‥なんか、申し訳ないです‥。彼女さんなんですよね。でも、なんかどこかでこんな日が来るの、覚悟してました。だって‥あんなカッコいい人、私なんかが付き合えるなんて思ってなかったし。お泊りはダメ。朝は6時以降、とかなんか変な約束ばっかりで、‥私‥気が付くべきだったんです
 でも、‥それでもいいって思うくらい‥ミチルさんの事‥好き‥っていうか‥今思えば「ミチルさんと付き合うこと」に憧れてたんです」
 ‥なんか‥分かる気もする。
 ミチルと‥たとえ一番じゃなくても、付き合いたいって‥
 ‥いやいや、全然良くない。
 そういうの良くない。ミチルがホントにそんな付き合い方してたとしたら、俺がミチルをしばき殺す。
 ‥俺がキープで彼女が本命‥って感じ‥

 ‥だとしたら‥もっとブチ切れるな!!

「お泊りはダメ‥。寝相がめっちゃ悪いとかですかね。だから、見られたくなかったんですよ、きっと」
「見たことあるんですか? いや、そりゃあるんですよね‥」
 ‥やっぱり、みたいな顔止めてくれ。
「ありません。あるわけがないです」
 そもそも、俺、寝ないし。
 あ‥でも、一緒に「お泊り」したことはあったな。
 だけどそれは、俺たちの「特性上やむなし」って感じで‥。
 今回の事も‥あれと一緒みたいな感じだ‥ちょっと違うけど‥そう変わらない。
 ‥うん、不慮の事故って奴だ。

 決して「嬉し恥ずかしお泊り」って奴ではない! 

 そんなことを考えていた俺は、なんか微妙な顔をしていたのだろうか、
「でも、‥ホントに、あやまってもらわなくたって結構です」
 女の子が困ったように微笑んだ。
「謝らせて下さい! てか、ミチルの奴(しまった、呼び捨てしちゃった! ‥だってミチルに「ミチルさん」とか‥慣れない! )に失礼だから、その誤解解かせてください。あいつそんな奴じゃ絶対ないです。って、おお‥。時間が。すみません、仕事の時間なので、良かったら、改めてお話させていただけませんか? メール交換‥って、携帯忘れてきた‥」
 時間は、‥よくわかんなかったけど、なんとなく、さっきミチルの部屋の玄関が開いた気がした。ここでまた三人会う‥とか気まずい以外なにものでもない泥沼な状況は、避けたい。
 ってか‥携帯‥!
 く~! 携帯‥! 忘れて来るとは‥。
 多分‥ってか、確実にミチルの家だ‥。
 だけど、今は‥そんなこと言ってられない。‥何とかなるだろう。携帯無くても仕事は出来る。社会人としてどうかと思うけど、‥なんとかなるだろう。なくしたわけじゃないし。

 ええい! 今は目の前の女の子! (と、泥沼回避! )

「8時に駅前の喫茶店で、じゃあ! 」
 一方的に約束を押し付けて、(ミチルとかち合わないために)エレベータは止めて、階段にダッシュした‥しようとした俺だったが、
 ‥ここ、どこ。駅からミチルについてここに来たから‥駅に一人で行けない‥。
 タクシー呼ぼうにも携帯が無い。
 そして、財布も‥勿論ない。

 ‥終わった。

 真っ白になった俺の肩をポン‥と叩く気配に恐る恐る振り向く。
 さ~と血の気が引く。
 そこに立ってたのは、ミチル‥。
 驚きは‥しない。寧ろ‥予想通りだ。
 そりゃそうだ。ミチルしかいない。
 ‥情けない。
 気が付けばもう、さっきの女の子はいなかった。‥それだけでも、救い‥かなあ。
「ヒジリ、お前、携帯忘れてるぞ。カバンも。財布も入ってるんだろ? それ持たずに、どうやって電車乗るつもりだ」
 呆れた様な、ミチルの声。
 うん。‥俺、情けないよね。
 今だけはその「呆れた」って表情と言葉‥素直に受け取るよ‥。

 にしても‥
 俺‥さっき凄いウソついた‥「ミチルのこと好きで」「ストーカーして挙句、夜明けに押し入って眠るミチルに馬乗り」って‥どんな女やねん。
 しかも‥「断られるとは思ってなくて強行」って‥!!

 咄嗟についた嘘とはいえ‥!! 俺は‥!!
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