リバーシ!

文月

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四章 人は自分が思うほど‥

1.俺の思う聖。皆の見て来た聖。

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 もやもやする!
 自分のついたあの‥とんでもない嘘も‥そりゃあもやもやする。
 だけど‥仕事してたら晴れると思ったのに‥

 今現在別なことでもやもやしてる‥っ!


「聖。この書類、判子抜けてる」
 いつものオフィス。同僚の吉川が、振り向きもせず書類を俺に渡す。
 俺が席にもつかないうちに‥だ。
「あ‥ごめん」
 俺は、それを受け取りながら、ちょっと身構える。
 今の俺の恰好は、スーツだけど‥、女の子だ。

 確実に、俺は今おかしい。どこをってわざわざ挙げるのもばかばかしくなるほど‥もう、どこもかもおかしい。

 自分のスーツを着てるのに「彼シャツ」っての? 他人のもの感満載。
 それで会社来てるとか、‥頭おかしいとしか思えない。
 見た目もおかしいし、状況もおかしいし、きっと他人から頭おかしいって思われてる‥とか、最悪だ。

 今日、(そういえば)初めてしみじみと確認したんだけど、ヒジリと聖の身長はそう変わらないようだ。ズボンの丈とかは問題はなかった。(ウエストはベルトでなんとかした)
 もともと「聖」は特別大きい方じゃなかったってのもある。‥ってか‥まあ、あれだ。外国人(ってか、外国どころか異界)みたいな感じだから「ヒジリ」が標準的な日本人女子より大きいんだ。
 胸は勿論、聖にはなかったものだけど‥急遽さらしが用意できるわけでもなく‥そもそもどこに売ってるか分からない。
 だから‥所謂スポーツブラって奴をコンビニで買ってなんか‥腰のサポーターみたいなやつを胸に巻いてみた。駅のトイレでやるわけにもいかないから、ミチルの部屋を貸してもらって‥だ。(ミチル、出勤前の忙しい時間に悪かった‥)
 まあ、あれだ。
 完全なる応急処置だ。
 ああ‥おかしいよ、分かってる。
 でも、それ以外にどういう工夫が出来る?! 母さんとかがいたら、なんか一緒に考えてくれたかもしれないが、いまここには、俺同様普通の男・ミチルしかいないわけだ。
 男装テクを知ってるコスプレーヤーはここにはいない。(まあ。普通そういないだろう)
 髪の毛は、流石に切るとまずい気がしたからそのまんま、後ろに一つにしばってスーツにほりこんだ。

 そんだけ。

 変装しているわけではない。いつもの俺も今の俺も、俺には変わりがないんだから、「俺が俺の恰好をしているだけ」
 だのに
 絶対、不自然百%だ。突っ込みどころ満載だろう。

 ‥そうだろ!? 寧ろ、大いに突っ込んでくれ!!

 スルーとか‥どんな仕打ちだ。テレビの「どっきり番組」だと思って「引っかからない」ようにしてるのか!?
 普段から吉川が俺に関心があるかと言われると、答えはNOだけど、この不自然さには、流石に気付くだろう。
 何を言われるか‥。
 ってさっきから、身構えてる俺の緊張感をどうしてくれよう。

 でも、‥相変わらず吉川は俺には興味の欠片もないらしく、こっちを見ることもない。

 奴は、俺が仕事をすればさえいいみたいだ。 むしろ、俺が(身構えたりなんかして)ちょっと書類を受け取ることを躊躇していることに、不機嫌な顔を向けた。
 ちらり、とほんの少し、その不機嫌な顔を向ける程度。
「何、さっさと、うけとってよ」
 俺の目の前で書類をぺらぺらと振り回す。
 吉川は、男には冷たい。
 特別に女子に優しいってわけではないけど、それでも、一応気を遣っている。
 男と女で、あからさまに態度が違うとかっていうのとは、違うんだ。
 多分、女性には優しくね。ってお母さんにしつけられてきたんだろうな~って思う。
 お行儀が良くって、育ちが良い。
 そんな、程度。
 この、今の俺に対する扱いは、いつもと同じ‥男に対する扱いだ。
 吉川は、七三分けに眼鏡、スーツの下のカッターも白の無地って、如何にも真面目って感じのする何の変哲もない格好だけど、何気にスーツは仕立ての(少なくとも、量販店の安ものなんかじゃない。専門店で、自分の名前とか入れてくれる程度には高級な奴だろう)いいの着てるし、眼鏡だって、見る人が見たら「しゃれたの使ってる」「あんないいの中々売ってない」って奴を使ってる。そういうの、探しに行ったりするんだから、そういうのが好きなんだろう。‥ホントのお洒落って奴だな。
 だけど、悲しいかな本人が地味過ぎて、眼鏡もスーツも「しゃれた奴」に見えていない。
 実年齢より老けて見えるんだけど、ちょっと色白すぎる肌は、年相応につるつるで、接待でホステスさんなんかが居るところに飲みに行ったら、
「あらこの子、若い~。肌つるつる~」
 って構い倒されてる。
 真面目な顔してるけど、そういう役割。
 俺は、そういうキャラじゃないらしい。
「案外面白みなさそう」
 ってベテランホステスに塩対応される。
 ‥いいけど。
 因みに、吉川を構い倒すのも、若い可愛いホステスさんじゃない。どちらかというと、年輩の‥ベテランホステスだ。話がうまくって、人の扱い方を分かってる、プロ。そんな女性たちに、吉川は必ずと言ってもいいほど構い倒される。
 吉川は、そこそこ損な役割しか回ってこないけど、誰も吉川に嫌な目にあわされていないし、吉川を嫌な目にあわせる奴もいない。
 吉川は、気の利いたことなんて言わない。無口で寡黙なタイプだ。だけど、「暗い」「空気読め」「つまらない」とか言われない。
 俺にとっての「理想のポジション」を自然に獲得してる羨ましい奴。
 彼女がいないのは、一緒。
 だから時々、駅前に飲みに行ったりする。
 焼き鳥屋でちょっとつまんで、一二杯飲んで。
 その間、特に話をするわけでもない。
 ただ、何となく一緒に行ったりする。
 多分、この会社で一番親しい奴。俺的には、親友。
 ‥だと思ってたのに、‥何も突っ込んでこない。
「何、今日なんか変じゃないか」
 位言ってくれてもよさそうなもんなのに‥。気付かないなんて、‥案外薄情だなあ‥。
 ちらっと恨みがましい目を吉川に向けて、書類に判を押して無言で突きつける。
 と、そこに 
「児嶋さん、これ、チェックお願いします」
 女子社員、中川さんがファイルを持ってくる。
 入社二年目。俺の一つ後輩で、俺が入社当時から色々教えている。
 入って来たときには短かった髪の毛は、今はちょっと長くなって、後ろに一つでくくれるほどになった。女子のショートとロングだったら、ロングが好きだな、って我がオフィス一のイケメンが飲み会で発言して以来、我がオフィスはにわかにロングが増えてきた。(まあ、同じ部署じゃない限りそう会わないんだけどね)
 オフィス一のイケメン‥勿論俺じゃない。
 営業部の小林さんだ。
 営業だけあって口もうまいし、愛想もいい。自分がイケメンだって自覚がある‥ってのは男にとっては鼻につくけど、まあ‥そんな「勘違い野郎め! 」って程でもない。普通に「モテそうな奴」。
 だけど、まあ、(そのイケメン様だって)ミチルに比べたらだいぶ落ちる。ラルシュとか、ミチルとか、「イケメンっているとこにはいるのね~」って思う。羨ましい限りだ。
 だけど、ああいうイケメンは、今朝の女の子じゃないけど現実味ない。
 現実味がないから「見る分にはいいけど‥」って「鑑賞ポジ」になりがち。高嶺の花って奴。
「一緒に歩いてたら恥ずかしい‥」
 って気後れしちゃう。
 だから、現実的には小林さん。だけど、女の子はどうか知らんけど‥俺は、「皆のイケメン小林さん」より、寧ろ俺は吉川をお勧めするよ? 
 顔は小林さん(勿論ミチルより‥だけど、それは言うまでもないことだから、言わない)より落ちるけど、浮気の心配ないし、‥めんどくさくない。ほら、ライバルいないってのがいいよ。
 
 ‥とか‥どうでもいい‥ほんと。

 女子は、俺も吉川もどうでもいい。この会社なら小林さんだけど‥何が何でもライバル蹴散らしても小林さんゲットしたい‥て程でもない。
 できれば、もっと条件いい人見つけたい。だけど、小林さんが告白してきたら‥まあ、OKしてもいいかな‥って程度。
 因みに中川さんは小林さんに興味ない勢らしい。
 そもそも、「顔なんて関係ないでしょ」って超塩対応なんだ。誰に対しても、ね。
 中川さんは、今日も普段同様、いや、普段以上に‥寧ろ、「わざとか? 」って位、俺の外見にふれない。
「あ、うん」
 俺は、苦笑交じりでファイルを受け取り、今度こそ席に着く。

 ‥自分が思う程、人は俺のこと見てない‥って話だろうけど‥。冷たいもんだなあ。

 いいや、‥気にした方が馬鹿みたいだ。気にしないでおこう。
 
 と、
「おや、児嶋君。その髪の毛ウイッグとかいうやつかい? 今日は、男の振り止めたの? 」
 いつも嫌味な上司佐藤が、いつも通り冷たい目で俺を見てきた。
 こいつは、「何か俺がお前にしたか? 」っていう位いつも俺に嫌な態度をとってくる。
 その度に、周りの誰かが「気にすんなよ」って俺に声をかけてくれる。
 ‥俺は仕事仲間に恵まれている。
 ‥にしても、
 さっき、佐藤は変なことを言わなかったか? 
 ‥『男の振り、止めたの』?
 まるで、俺が本当は女で、男の振りをしているみたいな言い草だな‥。
 いや、「女男」(ガキか!!)って言ってるんだろうな。女みたいな面して、男の格好してるって。
 俺は、‥別に女顔ってわけではないと思うが‥。
 しかし、
 嫌味な上司の佐藤だけが唯一俺の違いに気付いてくれたっていうのが、何とも‥。
「すみません。今日、ドライヤーで毛を焼いちゃって、恥ずかしかったから‥そこら辺にあった母のかつら借りてきました」
 ‥俺は、嘘が壊滅的に下手だ。
 ドライヤーで髪の毛焼くとかってなに。
 いや、それもそうだし、人のかつら借りるとかないだろ。
 まず、それ病院だろう‥。
 佐藤が、ぽかーんって顔している。
 しまった‥。でも、‥こんな顔見たことない
 ‥ちょっと気分いい。
「ああ‥そう。‥火傷しなかった? 気をつけてね‥」
 で、はっと我に返って、怒るかと思ったらそう言った。表情はいつも通り仏頂面だったんだけど、心配してくれたらしい。(佐藤は髪の毛が薄いから、‥凄いそういうの気になるのかもしれない‥)
 はっきりいって、びっくりしたし、嘘言ってすみませんって、良心が痛んだ。

 ‥寧ろいい奴だなこいつ。
「ありがとうございます」
 ちょっとジーンとしちゃった。
 

 今日、俺が分かったことは、親切だと思ってた職場の仲間は案外俺のことなんて見て無くって、親友がその最たるもので、粗探しばかりしてる佐藤が寧ろ俺のこと一番知ってる‥見てくれてるってこと。
 こっちの世界で、俺のことちゃんと見てる人って、俺のこと好意的に見てくれてる人とイコールとはかぎらないらしい。
 それと、案外佐藤はやな奴ばっかりじゃないらしい。
 ただ、単純に俺のこと「虫が好かない」って思ってるだけ。
 俺は、見た目が案外派手だから。(と、自分では思ってるんだけど、‥本当はどうなんだろう)
 髪の色が違うだけでも、年配の人は「髪の毛なんて染めて‥遊んでる子」って思うのかもしれないしね。きっと真面目に仕事しに来てない。って思ってたのかも。‥それも、偏見甚だしいが、そういう偏見ってやっぱりあるだろうね。
 それにしても、‥あんまり女の子バージョンの俺と、こっちの俺、変わんないのかな。それが、一番驚くね‥。

『自分だって自覚のある他人』

 聖は「俺って自覚してる「俺じゃない俺」」で、ヒジリとは違う‥って思ってたのに、だけど皆にとっては‥案外同じだったみたい。
 見た目じゃなくって、俺の本質‥俺の存在を見てくれてたってこと。
 それって、凄く‥凄いこと。でも、ってことは‥俺は、俺のこと探してるかもしれない『見つかっちゃダメな人たち』にも、見つかるってことなんだろうか‥。(それは‥まずいね)
 
 それと‥

 ナツミ
 ナツミは‥俺のこと見つけてて、俺のこと見てくれたりしてるのだろうか。
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