リバーシ!

文月

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六章 思えば‥フラグだったんだ。

5.ヒジリの新発見と決意

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(side ヒジリ)


「‥とにかく。俺は帰ります。特訓のスケジュールも組まないといけないですしね」
 ‥なんか疲れたし。

 帰る
 というからには、意識は元の世界に帰り、この身体はもう一度寝直すってことだろう。
 みんなは当然そう思っただろう、もっと真っ直ぐに座り直して布団をわきに寄せるとベットの上で胡坐をかいた俺に、一同ポカンとした顔をした。
 それには何も言わず、王族の方々に「改まった様子で」ペコリとお辞儀する。

 時々忘れそうになるけどこの人たち王族だからね。
 礼儀は、大事。

 ラルシュは‥俺がまた倒れないか心配してか、すぐ支えられるように俺の後ろに移動している。
 主にラルシュにお礼を言ってるのに、それじゃ意味がないじゃないか。
 って苦笑いする。
「特訓? なんの」
 目の前のミチルが首を傾げている。
 さっきのヤンデレ発言には驚いたけど‥こいつの今までの孤独‥っていうかほぼトラウマになっているであろう「幼少期の孤独」を思えば、一生分の暇つぶし(おもちゃ)をキープしておきたいって気持ちも‥わからんではない気も‥する。
 恋愛感情云々ではない。
 そう考えると‥こいつもなんか人間的な感情に欠如してるっていうか‥なんかかわいそうな気にもなって来る。

 いい奴だから幸せになってほしい。

 依存‥とか、手近なところで調達‥とかじゃなくって。
 ちらり、とミチルが腕時計を確認した。
 こっちではスマホが使えないから、ぜんまい式の腕時計を使っている。
 スマホの圏外ではあるけど、別にフルに充電をしてきたら時計代わりくらいには使えるだろうけど‥ミチルはこっちでは腕時計を使っている様だ。
「スマホから離れた世界を満喫したい」
 って言ってた。

 ‥わからないでもない。

 現在は俺がさっき確認したときには、午前の4時半くらいだったから、帰る予定の午前5時までは、あと半時もないだろう。
 俺が身体に力をいれて、黄色い魔力を纏い始めるのを見て
「お前、‥ここにいた方がいいぞ。ここに中身の入ってない抜け殻置いとくとかって、馬鹿か? いくらリバーシと言えど、精神が入っていない抜け殻は、殴っても蹴っても起きないんだぞ」
 サラージが焦って声をかけた。
 そう。
 俺とミチルの状況は違う。
 俺の本体はこっちにあって、ミチルの本体はあっちにある。
 ミチルには本体に(地球に)変える必要があって、俺にはない。
 だのに‥って思ったんだろう。
「知ってますし、‥てか、殴ったり蹴ったことでもあるんですか? 」
 サラージの方をちらりと見て、俺は更に身にまとう魔力の量をふやして、布団に隠した左手に持っていた例の「魔道具」にはめられていた魔石に魔力を貯め始めた。

 そう、俺は今地球に帰るために、魔力を纏って準備をしているわけではない。

 しかし、それに気付いているのは真後ろに立っているラルシュだけの様だ。
「え!? お前のことは‥そんなことあるわけないだろ!? 俺は、女を殴ったり蹴ったりなんてしない! 」
 サラージは俺の説得に全神経が向いてるみたいで、どうやらそれには気付いていないようだ。
「‥え。それって、男なら‥」
 俺は、サラージに悟られないように、引き続き魔石に魔力を貯め続けながらサラージの相手をしている。
 サラージのさして興味のない話に乗っかったのもそのせいだ。
 話しながら、バレない位の魔力を断続的に魔石に貯める。

 ‥よし、もうちょっとだ。

 そこでつい、油断した俺が放出する魔力の量が大きくなったらしく‥俺の身に纏った黄色い光が強くなり、ちょっと鈍いらしいサラージも流石に気付いて(多分)、俺の方を見た。
 訝し気に目を細める。
 その射るような鋭い視線に思わずひやり、とする。
 流石王子様だ。迫力が‥半端ない。威圧って奴だろうか?
 ミチルは、魔力が目に見えない質の様で、近くに居るが気付いた様子はない。
 つい最近気付いたのだが、ヒジリの母親やヒジリは、人の魔力の色が見えるのだが、父親は見えないようだ。そして、どうやらミチルも‥今の様子を見る限りでは見えてないみたい。
 そして、それらはもっている魔力の量に関係ないようだ。
 魔力の量でいったら、かあさんより父さんの方が多いし、両親よりミチルの方がずっと多い。
 ‥つまり、(魔力の属性や質、量にかかわらず)見える人には見え、見えない人には見えないってことなんだろう。

 サラージも見える‥ってことか。
 そして‥バレた‥んだよな‥?

 と、ヒジリがひやりとした瞬間
「‥もしかして、ナラフィスで実験しましたか? 」
 ふふ、と小さく笑って、ラルシュがサラージの気を逸らした。
「ナラフィス? 」
 俺はちょっと大げさに言って、サラージを見る。

 ‥ん‥? ラルシュ‥胡麻化して‥俺に助け舟を出してくれたってこと‥?

「バレたか」
 サラージが悪戯がバレたいたずらっ子の様な顔をして微笑む。(ほんとお兄ちゃん大好きって感じだわ~)
 ‥俺より5つも年上のはずなのに、なんとなく‥年下っぽい。
「え。誰‥ですかね」
 俺はラルシュに尋ねる。
 相変わらず魔石は握ったまま‥だ。
「ここ出身のリバーシですよ。現在、地球に留学しています。ヒジリの家族の様に移住してるわけでは無くて、ここに生活拠点を置いて、あちらには通っています。本当に学校に行くような感じですね」
 後ろに立ったままのラルシュが答える。
 つまり、今の俺と同じような状況ってことか。
 にしても‥
「え? ‥夜にですか? 」
 ‥夜に留学して何を学ぶんだろう。
 ミチルが首を傾げ、それに俺も同意して頷く。
 サラージに対して誤魔化す云々ではなく、普通に気になった。
 ラルシュとサラージが、ちょっと変なことを聞いたように一瞬きょとんとした顔をした。
「夜ではないですよ? 昼間に留学しています」
「‥そうか、別に‥出来ますよね。昼に地球に行くことも‥。そうですよね。かってにこっちの人は、こっちに昼間いるってことが当たり前だって思ってしまってました」
「ああ‥そういうことなんですね。ええ。いつでも可能かと。ナラフィスは、夜にこっちに戻ってきて、寝てるみたいですよ」
 ラルシュの説明に、ヒジリは目を見開いた。
 ‥なんか、さっき「意外なこと」言いましたよね?!
「え!」
「どうした。ヒジリ」
 つい叫んでしまった俺を、ミチルが驚いた顔をして見る。
「リバーシって寝るんですか?! 」
 俺は、目を見開いたまま聞いた。
 ミチルではなく、ラルシュに

 ‥なぜ、それをラルシュに聞く。俺に聞けばいいだろう?!

 彼女の反応に、ミチルはむっとした顔をして、それをみたサラージがにやりと意地の悪笑顔を見せる。
 そして
「普通は寝るぞ。ほんの短い時間。リバーシがいくら魔力量が多いといえども、無限ではない。魔力を回復するためには寝なくちゃいけないからな。‥もっと魔力を回復しなければいけない時は、けっこうがっつり寝たりもするみたいだし」
 説明をしたのは、サラージだ。
 そういえば‥こいつもリバーシだったと思い出す。
 王子はリバーシか魔法使いで、こいつはリバーシ。ラルシュが魔法使いなんだよな。たしか。

「俺、‥寝ないけど‥。ミチルも寝てないと思ってた」
 ‥リバーシって皆も、寝てないんだと思ってた‥。
 ミチルが、ちらりと腕時計を確認する。
 ヒジリもミチルも今は、そんなに魔力を使っていないから、魔力が減っているときはない。
 それに、ヒジリもミチルも驚くことに、ここに「いるだけ」で魔力が戻るようだ。それは、リバーシでも特殊な方らしい。
 
 俺とミチルが特殊‥。王子より‥ってなんか‥ちょっと変な感じ。

 だけど
「‥寝てないよ。俺も。
 俺も、リバーシが全員寝ないわけじゃないって気付いた時は驚いた。‥そろそろ時間だ。ヒジリ」
 ミチルは「そんなことよりむしろ時間の方が重要」って感じの態度で俺を見る。

 ‥あんたは‥マイペースだよね‥。

「で、結局、あっちに帰るの? 俺は勧めないけど‥」
 胸の前で腕を組んだサラージは、目を半眼にした呆れた様な表情で俺を見下ろす。
 俺は、心配してるわけじゃないって態度が‥フェイクってまるわかり。
 ‥こいつは、多分普通にいい奴だな。ツンデレって奴だ。(ヤンデレ気味のツンデレって‥あるんだろうか?? )なんにせよ‥子供っぽいなあ。
 俺はつい、くすりと笑ってしまった。
「大丈夫です。ここに抜け殻を置いて置くのは、確かに危険だと思いますから」
「だったら‥」

 ここにいるんだな?

 と確認するサラージの言葉に被せる様に、俺は口を開く
「この身体で、戻ります。そしたら、ここに意識のない抜け殻置いていかないでいいでしょ? 」
 ベットに座っているので視線がだいぶ低い。
 それでも俺はキチンと、サラージに視線を合わせ幾分優しい口調で言った。
「‥っ」

 おや。サラージさん顔が真っ赤ですよ?
 ああ、絶世の美女(俺(笑))の上目遣いにあてられましたか‥(笑)

 そして、一瞬言葉を詰まらせて視線を逸らすと
「その身体でって! ‥あっちにいったら、その身体は‥お前の周りのものからしたら、別人なんだろう? ‥どうするんだ」
 さっき同様のとげとげした口調で言った。
 俺は「あ~それなんですけど‥」と肩を寄せた。
「はあ。どうも、あっちの友人‥は、それに気付かないみたいで‥いや、っていうか、気にならないみたいで‥」
 ン? と、サラージが眉を寄せる。
「気付かない? 」
 確認するように俺を見て首を傾ける。
「‥はい」
 なんだよ~。
 そんな不思議なものを見るような顔するなよ~。なんか悲しくなるじゃん??
「それって、‥悲し過ぎない?! 」
 もう、普通に憐みがにじんだ目で俺を見るサラージ。

 へ、勝手に憐れんでろ! 俺は悲しくなんか‥ないんだからな!!

「やっぱりそうですよねえ。でも、それはこの際どうでもよくって‥。それより‥これが‥一番重要なんですけど。あっちだと、この身体でも、普通に動けるんですよ。9年引き籠りがチャラになるっていうか‥」
「そんな馬鹿な‥」
 唖然としているのは、ラルシュとサラージで
 ‥そういえば、そうだったな。
 と納得したのは、あっちで「スリーピングビューティーのヒジリ」と会ったことがあるミチルだ。
 俺はにこりと微笑むと

「だから、あっちで練習してきます。この身体で、動く感覚を取り戻すっていうか‥」

 俺は、魔石を持っている手を強く握りしめた。
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