リバーシ!

文月

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七章 ヒジリは自立したい。

5.勝者と敗者のいない戦い。

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(side ヒジリ)


 世界をつくるのは、天才ではない、秀才だと私は思う。天才なんて、そういないわ。そんな1%にも満たない奇跡的存在でないことを悔やむより、凡人であることを認めて、秀才になるべく努力をすることの尊さ‥。人生において最も素晴らしいことは、汗と涙と努力でしょ!
 ナツミの持論。
 もう、「口癖か」って位にそのセリフを言っていた。
 

 そして、彼女はそれを実行して来た。
 あの言葉を何度も口にしながら。‥自分に言い聞かせ、俺を諭すように。
 彼女が、座右の銘であるあの言葉を、俺にも言ってきた理由‥あれこそが、彼女の優しさだった。
 彼女から見て、俺は「天才(リバース)」だったことを、驕っていたように見えたのだろう。
 人間驕っている間は、更なる進化の為の努力をしない。『おごれるものは ひさしからず』っていうのは、不変の原理だ。
 ナツミは、俺が奢っている間に、努力する秀才に追い越されるよ、と忠告してくれていたのだろう。
 そして、‥自分こそがその秀才だって言っていたんだ。

 
 友としての忠告と、ライバルとしての宣戦布告。そして、‥純粋に『利用できる実験動物』。『純粋』はおかしいか。‥世の中に、『純粋』なんてものは、ない。

 好きなのに、嫌い。
 嫌い過ぎて‥離れられない。

 ナツミは‥俺が、嫌いで、憎くて、‥俺の愚かさ故に、ちょっとほだされたりして‥何故だか離れられなかった。‥愚かな俺が、愚かな『他の人間に』ぎゃふんといわされ(いずれ言わされていただろう)『他の人間によって』改心させられるのも悔しかったのかもしれない。
 好きだから、ではなく、それ位嫌いだったから。
 嫌い過ぎて、執着してしまう。その行動は、だけど、‥好きと似ている。
 好きと嫌いはそれ程紙一重なんだ。


 だけど、俺から見たら「本当の天才」は、ナツミだった。
 魔力量がでたらめで、思いついたスキルで出来なかったことは無かった俺は、あの時のナツミには天才って風に見えたのだろう。
 だけど、スキルと魔法は違う。
 スキルは、ショートカットで固定るすることが出来る、『状態異常』の進化版にしか過ぎない。
 子供の頃の俺は、普通よりちょっと発想が豊かで、普通よりずっと勉強していなかった。



「でたらめなチートと、分類できる能力」
 ミチルが教えてくれた、学校で学び損ねた「状態異常』理論。
 俺がさぼってたってのもあるんだけど、‥虐められてたとか色々あって、インテリ眼鏡が先生だった私たちは、普通の勉強をあんまりしてきていなかった。‥いや、認める。多分、理論みたいなものは、もっと前に勉強していた。俺が‥していなかっただけだ。
 ミチルは、ラルシュから教えてもらったらしい。魔法が当たり前にない世界に居たら、「何が何だかわからない」のも無理がない。むしろ、当たり前にある方が「まあ、使えればいいじゃない」に陥りやすい‥よね? そうだよね?? 俺が怠け者なんじゃないよね?? (‥いや、いいです。認めてますから‥)
 ミチルは、だけど、俺の不勉強を呆れたりなじったりせず、混成丁寧に説明してくれた。
 ‥学校もこれ位丁寧だったら、俺聞いたと思うよ? あっちの先生って「俺天才」「教えてやるから心して聞け」って感じな人多いんだ。
「俺の、スキルを、『ヒジリに具体例を説明するために』見せるね。


スキル:最上位 詮索
    中級隔離空間制作(状態異常)
上級、行動制御(状態異常)
状態異常:空間の状態異常
     意識の状態異常(昏睡)
属性: 風、水


 この、最上位 詮索が、でたらめなチート、他の中級、上級ってなってるのが、分類できる能力」
 『詮索』のスキルを持たない俺は、ミチルが『情報開示』をしてくれないと、自分のスキルすら分からない。情報開示っていうのは、ミチルオリジナルのスキルで、第三者のステータスをスキル使用者が認めた第三者に開示できるスキルだ。
 魔法に近いんだけど、魔法と違って、開示理由を明快にする等、制約がある。そして、誰にでも、誰の分でも開示できるわけではない。
「違いが分かる? 」
 聞かれて、『心当たり』があったので、頷いた。
 さっきのミチルの例をみて、その心当たりがあながち間違っていないと思ったのもあるし。
「俺の水は、‥でたらめなチートだよね? で、土属性の‥『金属で‥』は、分類される分。違う? 」
「正解。理解が早いね」
 ふわりとミチルが柔らかい微笑みを見せてくれた。
「心当たりがあったんだ」
 その微笑みの破壊力に、思わず赤面してしまい、俺は視線を外し、心なし俯く。
 性別関係なく、美形の微笑って身体に悪いね‥!
 国見や吉川だったらこうはならないぞ‥。
 あ、でも女の子が嬉しそうににぱ~って笑ったら、ついつられて笑っちゃうかも。嬉しそうな女の子って、最強だよね‥っ。
 よし、さっきまでの動悸が収まった。
「心当たり? 」
 俺の心の中の戦いを知らない呑気なミチルは、何の疑問も持たず話を続けて、ちょっと首を傾げた。
「うん」
 顔の熱が引いた俺は、顔をあげてミチルを見る。
「水を沸騰させたりするのは、本来水と火の力がいるって母さんから聞いて。俺は、そんな括りないなって。もっと、アバウトな感じで水なら何とでも出来るなって。だけど、金属で‥は、あの通り修行が遅々として進まない」
 若干ドヤ顔で話し始めたのだが、金属で‥の部分を話し始めると、自分で言ったのだが、ちょっと心がしぼんだ。
「前に見せてもらったけど、ヒジリの水は‥魔法に近いね。でも、魔法じゃない」
 俺が頷くのを確認してミチルが言葉を続けた。
「本来、リバーシっていうのは、魔法を持つ者が多いというけど、ヒジリは‥俺もだけど魔法が使えない。そして、‥敵は魔法使い。一番の問題はそこだね」
 俺は今度も黙って頷いた。
 ‥そうなんだ。まったく、その通りなんだ。
 リバーシが魔法使いであることが多い‥というか、逆に魔法が使えないヒジリの方が少数派だってことは、前に母さんに聞いた。ミチルも使えないが、それは魔法がない地球出身だからだろう。
 その代わり‥みたいなのが、俺とミチルにある魔法に近い「でたらめなチート」なんだろう。


 状態異常には、核がいる。水のないところに水を出すことは出来ない。水を何もないところから作ることは出来ない。元々水がある状態から、それを増やしたり、減らしたり、凍らせたり‥する。
 俺の場合は、「空気を水に変えて」その水を「状態異常」させてる‥って感じ。
 その「水の無いところから水を出すことが出来る」のが魔法使い。
 魔法使いは、正しい呪文だとかイメージだとかがあればさえ、スキルの様に「理論」が要らない。
 俺の様にスキルしか使えない者は、沢山の理論を先に作って置いてショートカットを作って、スキル化させて、使用の際わざわざ引き出してくる必要がある。
 機械みたいなものって思ってもらったらいい。
 水道を作っておいたら、「空気→水」って作業をいちいちしないでも、水が出せる。
 それしかできない機械。それがスキル。
 水を消そうと思ったら、魔法使い以外だったら、蒸発させなければいけない。
 水を蒸発させようとしたら、「沸騰させて(状態異常)」さらに「温度をあげていくことによって(状態異常)」「蒸発させる(状態異常)」
 これが、「蒸発」のスキルの理論だ。(機械で言ったら‥乾燥機かな? )
 魔法は、違う。
 水→消すと命令する。
 それだけ。


「ともあれ。自分がもっている力を最大限に利用して戦うしかないね。ヒジリの強みはどう考えても水だ。水を中心に『金属で‥』は補助的なものと考えておいた方がいい。水の攻撃魔法を極めよう」
 俺は黙って頷いた。
 もとよりそのつもりだ。
 攻撃魔法。
 魔法っていっても、実は所詮、状態異常の超進化版的なものだ。
 この前、俺がナツミとの戦い(?)でしたような奴。水を凍らせて攻撃させた奴ね。
 そういう攻撃のレベルにまでいつでも持っていけるかと言われると、そうではない。
 生命に危険が‥とかそういう非常時じゃないと、出せないし、出さない。
 状態異常を魔法に『近い』ランク迄無理矢理進化させた、非常時限定の『魔法』。
 精神的に追い込まれ、普段以上の力が働くことによってのみ、発動される『魔法』

 火事場の馬鹿力ってやつだね。


「魔法使い‥ナツミには‥、状態異常ごときでは勝てない」

 
 俺の強みと言ったら‥なんといっても魔力量だろう。
 その魔力を有効利用できるか、出来ないかってのが問題なんだ。
 現地点、‥俺は、この魔力の有効利用法が分からない。
 だけど、「世界の災厄」って呼ばれてるような量なんでしょ? 有効利用したら、きっとまずい。
 だから、力をセーブしながら、自衛する方法を考える。
 状態異常のマスターだからこそできる、防衛という戦い方。
 誰も傷つけない、俺なりの戦い方。
 俺の戦いに、ヒーローも勝者も要らない。
 敗者もない。
 俺も負けないけど、ナツミも負かさない。
 綺麗ごとだとでも、何とでも言えばいい。
 俺は、‥俺の理想理念を曲げる気はない。

 その為に強くなる。

 イニシアティブを俺が取らないと、勝者・敗者が出るのを避けられない。‥どちらかが死ぬことになる。
 殺さなければ、殺される。なんて、‥俺のリアルにはない。
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