リバーシ!

文月

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七章 ヒジリは自立したい。

8.ドン引きミチル

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「‥情が移るっていうより、独占欲っちゅうか‥なんか‥
 気持ち悪ぅ! 」
 ミチルがドン引きって顔している。

 それな!!

「俺も、‥そういうラルシュ様色してるってことですか?! その、見る人が見たら」
 それは‥恥ずかしい。
 もう‥凄いレベルで恥ずかしい。恥ずかしいっていうか‥あれだ。ミチルと同じ感じでドン引きだ。
 すみません、俺‥ロマンチックとかそういうの向いてないかも。
 いや、はっきり言おう。‥向いてない!!
「‥ヒジリは何色もしていないです。それが、ヒジリが唯一無二だっていう証明です」
 ラルシュが苦笑いして言った。
「いや! すみません! ラルシュ様が嫌だって言ってるんじゃなくって‥そういうのじゃなくって!! ただ、‥恥ずかしいなって思って‥っ! 」
 ヒジリ、大慌て。
 真っ赤になって必死に否定する仕草が、なんか小動物みたいで可愛い。
 つい、ミチルとラルシュの顔がほころぶ。
「ヒジリ。無色ってなんか‥それはそれで凄いな! 」
 つい揶揄ったミチルに
「‥俺自身が真っ黒だから、全部の色を吸収しちゃうぜ~的な感じ‥なんでしょうか? 」
 ヒジリの顔が心配そうに曇った。
 ラルシュが首を振り否定する。
「常によどみなく流れている水のような感じです。体に水がしみこむように、相手の魔力となり、だけど、相手から与えられた魔力はその場にとどまることなく流れて消える。
 自分以外の魔力は、どんな魔力であっても受け付けない。
 だから
 ヒジリは常に何色もしていないんです」

 誰にも染められないヒジリ。
 私にも、誰にも。

「‥自分が規格外だっていうのは、今更だからもう驚きません。
 それは
 俺の魔力がラルシュ様と敵対する‥反政府組織の力となるかもしれないってことですか? 」
 ヒジリの真剣な視線がラルシュを真っすぐ見つめる。
「‥俺は‥この世界にいない方がいい人間です。俺が敵にとっても有用である限り、俺は敵をひきつけ続ける。‥俺の存在はラルシュ様たちの邪魔になる。
 ラルシュ様たちの力になる以上に、だ」
「ヒジリ‥」
 ラルシュの表情が曇る。
 なんて言ったら慰められるか‥って考えてる顔。
 と
「ぷ‥っ」
 ミチルが急に笑い出した。
「それが、原因? 今日の事だけじゃなくって、自分がここにいることによってラルシュやら城の皆の迷惑になってるんじゃないか‥って悩んで‥
 それで出ていこうって思ってたわけ? 
 言っとくけど、ラルシュも‥きっとこの前あったサラージ様だっけ? ラルシュの弟君もヒジリよりずっと強いよ? 魔法とかだけじゃなくって、物理的にも。ラルシュの剣の腕前、ヒジリ見たことないだろ? 凄いぜ? 」
「だから何?! 俺に‥「お前は弱いんだから守られとけ」って言いたいの!? そんなの嫌だ! 男だから女だから‥じゃない。俺は、誰かに迷惑かけて、誰かの足手まといになるのが嫌なんだ!! 俺がいなかったら、それだけ厄介ごとが減るわけだろ!? 」
 あ、ヒジリ‥
 
 泣きそう。

 大きな瞳にじわっと涙が盛り上がり‥、堤が崩壊するように‥流れ落ちる。
 ぼたぼた、とかぽろぽろ‥って感じの上品な流れ方じゃなくって、もう、だ~!! って感じで流れ落ちる。
 子供か。
 ‥ちょっと引くわ~。
 ぶっさいくな泣き顔。
 千年の恋も冷めるってレベル。

 でも、それがヒジリって感じ。

「仲間だろ。仲間は、困難も一緒に乗り越えてくもんだ。
 人には得手不得手がある。それを生かすのは当たり前のこと。ラルシュは剣が得意。俺は‥そうだな咄嗟の判断力にはちょっと自信がある。
 絶対にどんなことがあっても、下手して逃げ遅れるとかない。反撃は出来ないけど、逃げる。それだけは自信がある。
 ヒジリは‥面白担当でイイじゃないか」
 ‥いや、本人はいつも一生懸命で真面目だ。‥それがなんか時々面白いだけで、本人は面白いこと言ってる気なんて全然ない‥。これ本人にとって全然誉め言葉じゃないんじゃ‥。
 ラルシュは懸念したが
「‥なんだよ‥俺、お笑い担当か? ‥かっこよかねぇなあ」
 ‥ヒジリはそう気にしていない様子。
 口では「かっこ悪い」って言ってても、表情が‥そう嫌そうでもない。
 満更でもない、って程でもないけど、嫌そうじゃない。

 ヒジリが分からない。

 守られるのはかっこ悪いから嫌だ。
 じゃないの?
 じゃあ、
 お笑い担当って言われても、かっこ悪いから嫌って思うんじゃないの?

 ヒジリが首を振る。
 まるでラルシュの疑問が伝わったかのように、だ。
「かっこ悪いのは‥仕方が無い。俺はカッコイイ人間になんてなれない。そもそも、全然かっこよくなれる要素なんてない。
 だけど、かっこ悪い‥人に守られて人に迷惑かけて‥人を危険に晒すような人間になりたくない。
 俺をみて‥誰か笑うなら‥笑顔になるなら、それはいいことだって思う。
 俺は、誰かを笑顔にしたい。‥俺のせいで誰かが傷ついて、そのせいでその誰かを大事に思う人間が悲しむのが嫌なんだ」
 ミチルの顔が
 また「もうドン引き」って顔になる。
「カッコイイ人間になれない? 仕方が無い? 人生捨ててるの? 人を危険に晒すのがかっこ悪いって思ってるの? 人に心配されるのはじゃあ、迷惑? 
 あのさ
 好きな子を心配するのも守りたいのも人間なら普通に持つ感情なの。
 守りたいから強くなろうって思えるし、危険から颯爽と好きな子を助け出す自分を想像してにやにやするの。
 好きな子だから笑ってくれたら嬉しい。
 俺が怪我したら、そりゃあ、母さんやら父さんは悲しむだろう。だけど、それを恐れてヒジリが俺から離れていくって言ったら‥俺は何を励みに頑張ればいいんだ? 」

 告白!

 好きな子って言った! 好きだから守りたいって言った! 

 ヒジリは言葉を失い、真っ赤になって、

「‥婚約者(ラルシュ)の前で、婚約者(ヒジリ)口説くのヤメテくてれないかな‥」
 ラルシュは、(暴走する親友に)ドン引きするのだった。
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