リバーシ!

文月

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七章 ヒジリは自立したい。

9.私なりに愛してる。

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(side ラルシュ)


「会ったことのない婚約者‥。いい人だったらいいですね」

 幼い頃の思い出だ。

 あの時、ファー将軍があんまり情けない顔して‥私を同情してるもんだから、‥私は‥つい意地悪したくなって、柄にもなくセンチメンタルなことを言ってみた。

 そしたら、思った通り、ファー将軍はもっと泣きそうな顔をした。

 ‥あの腹黒の王(いや、王ってのはそういうもんだ。情にもろい王がいたら、それこそマズイ)の友達なのに、この人は昔から‥ちょっといい人過ぎる。
 勿論「敵に甘い」とかではない。
 最強の兵士で戦に出たら敵なしなのに、‥子供や女性には優しい。
 単純なところがあって、感情が顔に出やすくって、涙もろい。真面目で愚直で、誠実。国の為に私もなく働いている。理想の上司で理想の父親。きっと、奥さんにも優しいだろう。
 ‥もっと幼い頃は私も「将軍がお父さんだったらよかったのに‥」ってこっそり思ったものだ。(私にも子供らしい頃があったんですね)

 部下に恵まれ、慕われている姿を見たら、将来はああやって慕われる大人に成ろうって思った。それは今も変わらない。

 ‥でも、友達には恵まれてないなあ、とも。

 あの大臣とか、王(私の父親だ)とか。

 きっと、あの二人は昔からああだっただろう。‥利用されたり、損な役回りをさせられたりは‥でも、しない。それほど、馬鹿ではない。それに、彼にとって「正しくない」ことには、真っ向から対立するし反対するしね。

 そういうのもなかったら、‥友達とは言えない。

 そういえば、幼馴染だっけ。

 上級の貴族には上級の貴族の友人。

 ‥貴族ってそういえば、友達も自分で選べないよね、って思う。

 私にも親に紹介された『家柄・能力申し分ない』ご学友っていうのも、いた。

 お互いに、中々‥忙しいから一緒に遊ぶことなんかは無かったけど、剣の指南は何度か一緒に受けた‥かな?

 だけど、それも子供の時の話だ。

 成長して、学園に通い始めたり、公務で出かけたり、リバーシの育成保護に携わったりすると、そこで友達が出来た。
 結局、今でも付き合いがあるのはミチルだけだけどね。ミチルは損得勘定で私と付き合っているわけでもないし、(多分異世界人だからだろうが)私のことを王子としてではなく、一人の人間として見てくれている。
 ダメならダメだって言ってくれるし、正直な意見を言ってくれる。
 年も近いし、付き合いも長い。(そういえば、幼馴染ってことになるのかな? )
 ‥ミチルは凄くいい奴なんだ。
 私はリバーシではなかったけれど、親から決められた婚約者もリバーシだったってこともあって、私はリバーシと関わることが多かったんだ。(その地点ではヒジリの顔も知らなかったんだけどね)
 リバーシ慣れる為ってことだったんだけど、弟もリバーシだったからリバーシの行動みたいなものには慣れてたし、不便に思っているだろうことも想像がついた。‥飛び級で大学に行っている親戚のリバーシの話で、異界(地球)出身のリバーシもいるって話を聞いて、「そういうのがホントにいるなら、保護しなければいけないのはなによりもその人たちじゃないか? 」って思ったのが、「異世界人のリバーシ保護育成事業」を始めたきっかけだった。

 リバーシは魔法使いにとって特別な存在だ。

 魔力がそう多くない魔法使いが魔法を使う際に、お世話になる「魔石」。その純度の高い魔力を空の魔石に注入することが出来る存在‥リバーシ。魔力が高いことが多く、そして、魔力の純度が高い。体内で魔力を作ることが出来るが、魔法は苦手で、使えてもそう大きな魔法はつかえない。

 より難しい魔法を使う「魔法使いこそが偉い」と思っている魔法使いたちにとってリバーシは単なる魔力源で‥だけど、何よりも「羨ましい・憎らしい」存在だった。
 羨ましく憎らしいが、いないと困る存在。

 時の属性を持つ危険分子。

 魔法に詳しい(魔力が少ない分魔法使いは自然と魔法研究に力をいれる傾向があるんだ)魔法使いの多くは、リバーシの使う「特別な魔法もどき(スキルや状態異常)」を見て、そのことに気付く。
 だけど、言いはしない。
 ‥それはあまりに危険なことだから。
 暗黙のルールでそれを内緒にしている。

 だから、‥普通のリバーシはそのことを知らない。
 知られるわけにはいかない。それは、国民に対しても同じだ。
 リバーシとは、「莫大な魔力を持った使い方を間違えると危険な存在」そう思い込まされている。
 だけど、そんな刷り込みが小さい頃からされているのも、こっちの世界で教育を受けているリバーシだけだ。

 リバーシは魔法使いにとって、羨ましく憎らしく、だけど必要で‥同じくらい驚異の存在だったんだ。


 そういえば‥
 初めてミチルに会った時は、まだ私は自分が何者か分かっていなかった。

 リバーシなのか‥魔法使いなのか。

 王族だから、普通はその二択なんだけど、私は生まれた時に皆が首を傾げた。

 ‥魔力が特別高くはないから、リバーシではない気がします。‥しかし、属性は4つ。非常に魔法の才能を感じます。ですが、魔法が使えるかどうかは‥まだわかりません。

 才能の片鱗はあるが、その開花の可能性は分からない。
 そんな、微妙な判断。

 兄上‥サイダール殿下は生まれた瞬間から違ったらしい。

 見るからに魔法の才能があったし、魔力の吸入も自発的に出来た。

 魔力の吸入というのは、魔法使いの能力の一つだ。これは、魔法使いだと認定された後に、他の魔法使いが教えてくれるものらしい。というか、魔法使いにしか、分からない感覚なのだという。‥すごくコツがいって、「実際に魔法使いじゃないと理解できない様な」ものらしいが、兄上は生まれた瞬間から自発的にしたらしい。

 枕元に置かれた魔石付きの玩具‥生まれた時に母親の魔力の込められた魔石のついたぬいぐるみと、父親の魔力の込められたませきのついたぬいぐるみを枕元に置くのだ‥から、魔力を吸入したというのだ。

 普通は、両親の魔力と親しむためにおいておくだけの‥単なる玩具だ。
 魔力が合わなかったら、子供がぐずる。
 (だから、母親の不貞があったらすぐばれるっていう‥怖い意味も持つ玩具だ)

 だけど、親子であれば確実に魔力は合う。子供にとってはこれ以上にない精神安定剤なのだ。

 魔力がない子供だったら、魔力酔いを起こしたり何かとダメなのだが、両親とも魔力があり、子供も確実に魔力があると分かっている王家では、当たり前のように枕元にこれは置かれていた。

 一般の家庭だったら、両親ともに魔力が無かったり、魔石に込める程なかったり、そもそも(金銭的理由なんかで)ぬいぐるみなんて用意できないから、こういう風習はないと思う。(ちょっと脱線しましたね)

 そして、兄上は寝ない子供だった。

 リバーシの特徴と魔法使いの特徴。

 それを我が子に確かにみた父王は、まだ物も言わない我が子の手に空の魔石を握らせてみた。
 彼は、自分の魔力を魔石に注入し、そして、(注入して減った魔力分)父親の手から魔力を吸収した。

 まるで、遊ぶように、だ。

 兄上は、生まれた瞬間から、「真ん中の人」‥王の跡を継ぐ者‥だった。
 それも、天才と言われる類の、だった。

 だけど、私はそうではなかった。
 魔法のセンスがある、ちょっと優秀な子供。

 その程度の印象。

 そんな私の能力が判明する前に、サラージが生まれた。

 彼は、生まれた瞬間からリバーシだって分かった。

 火の属性を持った、火のように真っ赤な意志の強い目をした子供だった。‥今は、随分落ち着いて私たちと変わらない紫寄りの瞳になっているが、生まれた時は本当に真っ赤で驚いたものだった。(今でも、怒ったりすると赤っぽく見えたりする。赤っぽく見えたり、反対に紫っぽく見えたり、サラージの目は本当に面白い)

 赤の色が出るのは、王族もしくは、王に近い血族だけだ。

 国民の瞳は、青だったり緑だったり黄色だったりが多い。緑が特に多い。それは、持っている属性の問題もある。水の属性持ち、風、土が多く、それらの属性持ちは、緑だとか黄色だとかの瞳の者が多い。火の属性を持つ者は、多少赤っぽい色が出ることもあるが、大概が他の風やら土やらの影響で茶色や、金茶色になる。

 尊い血族だから‥

 って、王族や王に近しい血族は言うけど、‥なんてことはない。ただ血が純粋で濃いだけだ。
 赤と青と黄色は三代勢力で、昔は三つの勢力が敵対していた。
 だけど、赤がその戦いに勝った。
 それだけだ。

 赤は、火の属性。

 強すぎる火は、何も生まない。
 辺りを焼け野原に変え、水を滾らせ‥
 やがては国を亡ぼす。
 ‥国を焼け野原に変えた後、残った一族は自らを戒め、水の一族の生き残りと手を組んで王となり新しい国を作った。

 それが、この国だ。

 だけど、‥それが最大勢力だっただけの話だ。

 沢山の反対勢力は、そのあともずっと戦を仕掛けて来た。その反対勢力に、王になれなかった王族が混じったこともあったと聞いている。

 ナツミという子は、‥その中の一つの生き残りだったのかもしれない。

 ナツミという‥魔法使いの卵の女の子を見た時驚いた。
 サラージより、赤が強い赤紫の瞳。

 王族にしか出ないと言われている、瞳の色。

 反対勢力に加担した王族の末裔‥。
 聞いてはいたが、‥今まで見たことはなかったから、驚いた。

 ナツミ‥赤紫の瞳をした魔法使いの子供。
 初めて会った私に、ナツミはヒジリを預けた。必死な顔で。

 ヒジリ‥世界の災厄と呼ばれる程の魔力を持ったリバーシの子供を。
 ぐったりと眠る彼女を腕に預けられた瞬間、私は目を見開いた。‥それ程、驚いたことを‥覚えている。

 手からじわじわと魔力がしみこんでくるような錯覚をした。

 ‥こんなことは初めてだった。

 よっぽど魔力の相性がいいと、魔石を通さなくても魔力の譲渡ができるらしい。たとえパートナー契約を結んでいなくても、だ。‥それは聞いたことはあったが、まさか本当にあるとは思っていなかった。
 ただただ、驚いた。

 そしてナツミから彼女の名前を聞いて、また驚いた。

 ヒジリ

 ‥この子が、私の婚約者。

 いい人かどうかは、分からない。
 だけど、それは‥問題じゃない。
 この子がいれば、私はきっと魔力切れを起こすことは無い。

 私は、そう魔力が高くない。
 魔力が少ない分、難しい魔法も沢山覚えた。
 私の使う高等魔法の、一つ一つの消費魔力は少ないものの、連続して使えば沢山の魔力がいる。‥つまり、沢山の魔石がいる。

 魔石がないと、大きな魔法を使うことは叶わなかった。

 だけど、この子がいれば‥。

 私は‥ラルシュという一人の人間である前に王族で、王のこと言えない位、腹黒なのかもしれない。

 私は‥
 私なりにヒジリを愛していける。
 そう思っている。
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